ゆるキャラ至上主義の教室   作:EXTERMINATION

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第5話 ぶっくまる現る

第一回・ゆるキャラ選手権の開催が発表されてから、二日目の朝を迎えた。

 

試験期間は四週間。

 

最終審査は学園祭当日。

 

それだけを考えれば、まだ十分な準備期間が残されているように思える。

 

しかし、実際にはそうではなかった。

 

着ぐるみの制作。

 

キャラクター設定の構築。

 

宣伝用の画像や動画の作成。

 

ステージ演技の練習。

 

グッズの企画。

 

一般来場者へ向けた告知。

 

それらを全て生徒たちの手で行う必要がある。

 

さらに、今回の試験が始まったからといって、

普段の授業や部活動が免除されるわけではない。

 

限られた時間の中で完成度を高めるためには、

出来るだけ早くキャラクターの基本案を決定しなければならなかった。

 

そのため各クラスでは、早朝から昨日の会議の続きが始まっていた。

 

だが、試験開始二日目にして。

 

すでに全校生徒の目的は、

単純に優れたゆるキャラを作ることから少しずつ外れ始めていた。

 

 

朝の教室へ入ると、オレの机の上に小さな紙袋が置かれていた。

 

持ち手の部分には白いリボンが結ばれ、

正面には丸い生き物の絵が描かれている。

 

眠そうな目。

 

短い手足。

 

頭にはヨーグルトの容器。

 

間違える余地はなかった。

 

きよぽんだ。

 

紙袋の横には、小さな札が添えられている。

 

『きよぽん応援セット・試作品第一号』

 

まだクラスの代表に決まってすらいない。

 

それどころか、正式なデザイン案も完成していない。

 

にもかかわらず、すでに応援セットが作られていた。

 

「おはよう、きよぽん」

 

背後から長谷部の声が聞こえた。

 

「綾小路だ」

 

振り返ると、長谷部は満足そうな笑顔を浮かべている。

 

手には同じ紙袋が複数個あった。

 

「どう?可愛いでしょ」

 

「行動が早すぎないか」

 

「昨日、部屋に帰ってから作ったんだよ」

 

「何が入っている」

 

「ヨーグルト用の小さいスプーンと、きよぽんの仮ステッカー。

それから応援メッセージを書けるカード」

 

「誰に応援メッセージを書くんだ」

 

「きよぽんに」

 

「まだ存在していない」

 

「ここにいるじゃん」

 

長谷部は当然のようにオレを指した。

 

「オレはキャラクターではない」

 

「それ、きよぽんの決め台詞にしようかな」

 

「するな」

 

「『オレはキャラクターではない』って言いながら、ゆるキャラ活動を続けるの」

 

「設定に矛盾がある」

 

「そこが魅力なんだよ」

 

どの部分に魅力を感じているのか理解できなかった。

 

長谷部は紙袋を机の上に置いたまま、自分の席へ向かった。

 

入れ替わるように軽井沢と佐藤が教室へ入ってくる。

 

二人はオレの机の紙袋を見つけると、すぐに近づいてきた。

 

「何これ、もうグッズできてるの?」

 

軽井沢が紙袋を持ち上げる。

 

「仮の応援セットらしい」

 

「長谷部さん、仕事早すぎでしょ」

 

佐藤は袋に描かれたきよぽんを見て笑った。

 

「昨日より顔が丸くなってる」

 

「可愛く修正したんじゃない?」

 

「オレには違いが分からない」

 

「本人には分からないんだよ」

 

「本人ではない」

 

また同じやり取りになった。

 

軽井沢は紙袋から仮ステッカーを取り出す。

 

丸いきよぽんの下に、小さな文字が書かれていた。

 

『違う。きよぽんが勝手に』

 

「もう公式の決め台詞みたいになってるじゃん」

 

「公式ではない」

 

「でも、これ絶対流行るよ」

 

軽井沢は自分の携帯ケースへ仮ステッカーを貼ろうとした。

 

「貼るのか」

 

「試作品の耐久性を確認するため」

 

「昨日まできよぽん陣営ではなかっただろう」

 

「陣営とか言い出してる時点で、清隆も結構本気になってない?」

 

「なっていない」

 

「じゃあ、ほりぽんとどっちが勝ってもいいんだ?」

 

「どちらも正式採用されないのが理想だ」

 

「まだ言ってる」

 

軽井沢は呆れたように笑った。

 

だが、そのすぐ後。

 

教室の前方から、堀北の声が聞こえた。

 

「無許可でグッズを配布するのはやめてもらえるかしら」

 

堀北は自分の席の横に、大きな白いボードを立てていた。

 

そこには昨日よりも細かく描き込まれた、白いフクロウのキャラクターが貼られている。

 

ほりぽん。

 

制服を思わせる紺色の衣装。

 

胸元には赤いリボン。

 

大きな丸い眼鏡を掛け、片方の翼には小さな教科書を抱えていた。

 

昨日の簡単な輪郭と比べれば、明らかに完成度が上がっている。

 

「無許可じゃないよ。きよぽん企画責任者の許可を取ってるから」

 

長谷部が答えた。

 

「企画責任者は誰なの?」

 

「私」

 

「クラスから任命されていないでしょう」

 

「自分で自分を任命した」

 

「それを無許可と言うのよ」

 

堀北は長谷部の紙袋を確認する。

 

その表情には、対抗案を警戒する真剣さがあった。

 

「それに、まだ代表キャラクターは決まっていない。

きよぽんだけを先行して宣伝するのは公平性を欠くわ」

 

「なら、ほりぽんもグッズを作ればいいじゃん」

 

「すでに用意してあるわ」

 

堀北は机の下から透明な箱を取り出した。

 

中には、白い羽根を模した栞が並べられていた。

 

栞には、眼鏡を掛けたほりぽんの姿と、短い言葉が印刷されている。

 

『今日の努力が、明日の翼になる』

 

教室へ入ってきたばかりの須藤が足を止めた。

 

「鈴音、何だそれ」

 

「ほりぽんの試作グッズよ」

 

「朝から何やってんだよ」

 

「試験の準備よ」

 

「昨日、放課後まで会議してただろ」

 

「帰宅後も時間はあったわ」

 

須藤は堀北と長谷部を交互に見る。

 

「お前ら、もう300ポイントより意地で戦ってないか?」

 

二人とも答えなかった。

 

否定できない部分があるらしい。

 

堀北は黒板の前へ移動し、ほりぽんの採点表を貼り出した。

 

前日までの項目に加え、新たな評価軸が増えている。

 

可愛さ。

 

親しみやすさ。

 

教育的価値。

 

記憶への残りやすさ。

 

着ぐるみの可動性。

 

グッズ展開の容易さ。

 

幅広い年齢層への訴求力。

 

「増えてる」

 

松下が教室へ入りながら呟く。

 

「昨日より評価項目が三つ増えてるよね」

 

「公平に判断するためには、多角的な評価が必要よ」

 

「ゆるキャラ一体を決めるのに、企業の商品企画みたいになってるけど」

 

「感覚だけで選べば、後悔することになるわ」

 

「でも、きよぽんの『謎の魅力』が十四点になってる」

 

松下が表の下を指した。

 

評価は十点満点のはずだった。

 

堀北が長谷部を見る。

 

長谷部は目を逸らした。

 

「また書き換えたのね」

 

「正当な再評価だよ」

 

「上限を四点も超えているわ」

 

「謎は測れないから」

 

「測れないものを採点表に書かないで」

 

「でも堀北さんだって、昨日九点付けてたじゃん」

 

「客観的に評価しただけよ」

 

「つまり認めてるんだ」

 

「九点と十四点では意味が違うわ」

 

堀北は十四を消し、八へ書き換えた。

 

「下がった!」

 

「妨害行為への減点よ」

 

「きよぽん本人には何の責任もない!」

 

「企画責任者の行動も評価に含めるべきでしょう」

 

「なら、ほりぽんは堀北の性格でマイナス二十点!」

 

「どういう意味かしら」

 

「怖い!」

 

「話し合いを放棄しないで」

 

二人の口論が始まった。

 

昨日までなら、特別試験の方針を巡って

堀北と他の生徒が対立した場合、教室には重い空気が流れただろう。

 

だが今回は、争点がフクロウとヨーグルトだった。

 

周囲の生徒たちは緊張するどころか、

どちらが先に意地を張るかを楽しそうに見守っている。

 

「なあ、綾小路」

 

須藤が小声で尋ねてきた。

 

「お前、どっちを応援してんだ?」

 

「どちらでもない」

 

「でもお前がきよぽんなんだろ」

 

「違う」

 

「もう認めた方が楽じゃねぇか?」

 

「認めた瞬間、着ぐるみへ入れられる」

 

「だったらオレと同じだな」

 

須藤は悲しそうな目をした。

 

「鈴音の奴、ほりぽんの中に俺を入れる気だ」

 

「体格的には向いている」

 

「他人事だと思いやがって」

 

「オレも候補にされている」

 

「じゃあ、どっちが先に逃げ切るか勝負だな」

 

「何の勝負だ」

 

「着ぐるみ回避戦」

 

今回の特別試験で、初めて須藤と明確な利害が一致した瞬間だった。

 

 

始業前の騒ぎは、茶柱先生が教室へ入ってきたことで一度中断された。

 

茶柱先生は教卓に立ち、黒板に貼られたほりぽんときよぽん、

机に並ぶ試作グッズを順番に見た。

 

何も言わない。

 

だが表情は、昨日よりさらに疲れている。

 

「先生、どっちがいいと思います?」

 

佐藤が笑いながら尋ねた。

 

「私は審査員ではない」

 

「でも、個人的な好みくらいあるでしょ」

 

「ない」

 

即答だった。

 

「ちゃんと見てから答えてください」

 

「見た上で、関わりたくないと判断した」

 

茶柱先生は出席簿を開く。

 

「ホームルームを始める。グッズは片づけろ」

 

長谷部がきよぽんの紙袋を抱える。

 

堀北もほりぽんの栞を箱へ戻した。

 

だが茶柱先生は、教卓の上へ一枚だけ置かれたきよぽんのステッカーに気づいた。

 

『違う。きよぽんが勝手に』

 

「これは何だ」

 

「きよぽんの決め台詞です」

 

長谷部が答える。

 

「誰が考えた」

 

長谷部はオレを指す。

 

「違う」

 

「今のです」

 

教室から笑いが起きた。

 

茶柱先生はオレを見る。

 

「お前まで楽しんでいるのか、綾小路」

 

「楽しんでいません」

 

「そうか」

 

「信じていませんね」

 

「日頃の行いだ」

 

納得できない部分はあったが、

これ以上話を広げれば新たなきよぽんの設定が生まれる可能性がある。

 

黙っておくことにした。

 

「本日から、各クラスが提出した暫定案は校内の試験専用ページで公開される」

 

茶柱先生の言葉に、教室内の空気が変わった。

 

「もう公開されるの?」

 

軽井沢が驚く。

 

「正式な投票はまだ行われない。

ただし、生徒は各案へ簡単な感想を送ることができる。

学園側は途中経過も評価対象に含める可能性があるため、

他クラスの反応は確認しておけ」

 

「暫定案って、うちは二つ出したんですよね?」

 

平田が尋ねる。

 

「ほりぽんときよぽん、両方が掲載される。

正式案を一体に絞る期限は、一週間後だ」

 

長谷部が拳を握る。

 

「直接対決だ」

 

堀北も表情を引き締めた。

 

「望むところよ」

 

「何で本人たちより、企画者の方が熱くなってるんだよ」

 

須藤の疑問に答える者はいなかった。

 

「また、各クラスが制作した宣伝物を共有スペースへ掲示することも許可された。

ただし、他クラスの掲示物を隠す、破損する、移動させる行為は禁止だ」

 

「龍園対策ですか?」

 

池が尋ねた。

 

「特定の生徒を想定したルールではない」

 

茶柱先生はそう答えた。

 

だが全員が龍園を想像していた。

 

「そしてもう一つ」

 

茶柱先生は一枚の資料を取り出した。

 

「本日、各クラスに着ぐるみ制作のための基本素材が配布される。

放課後、指定された作業室へ取りに行け」

 

教室内がざわつく。

 

「まだ代表も決まってないのに?」

 

「頭部の骨組みや胴体用の素材は共通だ。

各クラスでキャラクターに合わせて加工することになる」

 

「誰が取りに行くの?」

 

「制作責任者が決めろ」

 

堀北と長谷部が同時にオレを見た。

 

「なぜオレを見る」

 

「きよぽん本人だから」

 

「ほりぽんの競争相手として、素材を公平に確認してもらう必要があるわ」

 

理由は異なっているが、どちらもオレを働かせる結論に辿り着いていた。

 

「綾小路くんは放課後、私と長谷部さんと一緒に作業室へ来て」

 

「拒否権は?」

 

「クラスの一員として協力する義務があるわ」

 

「きよぽんとしての義務もあるよ」

 

「後半はない」

 

すでに逃げ道が狭くなっていた。

 

 

同じ頃。

 

龍園クラスでも、試験専用ページの公開を受けて激しい議論が始まっていた。

 

提出された暫定案は、丸くて小さな黒いドラゴン。

 

名前は、りゅうまる。

 

短い翼。

 

背中に三本の棘。

 

口元から一本だけ覗く牙。

 

目付きは悪いが、身体全体に丸みがあるため、威圧感よりも生意気な印象が強い。

 

ひよりを中心に描かれたデザインは、クラス内でも一定の支持を得ていた。

 

だが、一人だけ納得していない男がいた。

 

「牙が一本しかねぇ」

 

龍園はタブレットに表示されたりゅうまるを睨んでいた。

 

「一本で十分です」

 

ひよりが答える。

 

「ドラゴンだぞ。一本で何を噛むんだ」

 

「ゆるキャラは噛みません」

 

「敵が来たらどうする」

 

「お友達になります」

 

「そんなドラゴンがいるか」

 

「ゆるキャラですから」

 

昨日から、同じ議論が続いていた。

 

龍園はデザインをより凶悪にしたい。

 

ひよりは親しみやすさを守りたい。

 

伊吹は基本的にひより側だが、議論が長引いたため少し飽き始めている。

 

石崎はどちらにも逆らいたくないため、その場その場で意見を変えていた。

 

「俺は二本くらいならあってもいいと思うけど……」

 

石崎が慎重に口を挟む。

 

龍園が満足そうに見る。

 

「分かってんじゃねぇか」

 

「でも一本の方が可愛い気もするっす」

 

ひよりへ視線を移す。

 

「どっちだ」

 

伊吹が呆れる。

 

「間を取って一本半はどうだ?」

 

「牙を半分にする意味が分からない」

 

西野が即座に切り捨てた。

 

「なら、普段は一本ですが、怒った時だけ二本目が出る設定にしましょう」

 

ひよりが提案する。

 

龍園が眉を上げる。

 

「隠し牙か」

 

「乳歯です」

 

「弱くなったじゃねぇか」

 

ひよりは小さく頷いた。

 

「虫歯にもなって、歯医者さんが怖いんです」

 

龍園は思わず眉間を押さえる。

 

「設定が弱点だらけじゃねぇか」

 

「ですが、きちんと治療を受ければ強くなれます」

 

「歯の成長日記じゃねぇんだよ」

 

石崎が肩を震わせる。

 

「椎名、その設定いる?」

 

「親しみやすさは大切です」

 

「親しみやすすぎて心配になるわ」

 

伊吹が呆れたようにため息をついた。

 

教室の一部から笑いが起きた。

 

龍園は不満そうだったが、ひよりは平然としている。

 

「名前は、りゅうまるで正式に提出したんですよね?」

 

石崎が確認する。

 

「ああ」

 

龍園が答える。

 

「だったら、もうクラス代表で決まりじゃないっすか?」

 

「暫定案です」

 

ひよりが言う。

 

「一週間以内なら、別のキャラクターへ変更することもできます」

 

「別の案があるんか?」

 

「一応、あります」

 

ひよりは自分の鞄から、一冊のノートを取り出した。

 

昨日、りゅうまるのデザインを描いたものとは別のノートだった。

 

表紙には小さな熊のシールが貼られている。

 

「何だそれ」

 

龍園が尋ねる。

 

「個人的に考えたキャラクターです。

クラスの代表にするつもりはありませんでしたが、デザインの練習として描きました」

 

ひよりがノートを開く。

 

そこに描かれていたのは、茶色い熊だった。

 

身体はりゅうまると同じように丸く、両腕で一冊の大きな本を抱えている。

 

鼻の上には小さな丸眼鏡。

 

頭には本のページを思わせる白い帽子を載せ、耳の片方には栞が結ばれている。

 

足元には小さな鞄。

 

鞄からは、さらに数冊の本が飛び出していた。

 

熊の顔は穏やかで、口元には控えめな笑みがある。

 

一目見ただけで、読書が好きなキャラクターであることが伝わるデザインだった。

 

教室内が静かになる。

 

最初に口を開いたのは伊吹だった。

 

「……可愛い」

 

無意識に出た言葉だったらしい。

 

伊吹は自分で発言した後、少し気まずそうに顔を逸らした。

 

「今、可愛いって言ったか?」

 

龍園が笑う。

 

「言ってない」

 

「聞こえたぞ」

 

「空耳でしょ」

 

「伊吹でも可愛いって言うことあるんだな」

 

石崎が感心する。

 

「殺すわよ」

 

「怖い!」

 

西野もノートを覗き込む。

 

「こっちの方が普通にゆるキャラっぽい」

 

「だよな」

 

石崎も頷く。

 

「グッズにしたら売れそう」

 

「本を抱えているので、学校のキャラクターとしても使いやすいと思います」

 

ひよりはページの下に書かれた設定を説明する。

 

「名前は、ぶっくまるです」

 

「また『まる』かよ」

 

伊吹が言う。

 

「丸い熊なので」

 

「りゅうまると被ってるじゃない」

 

「だからクラスの代表にするつもりはありませんでした」

 

ひよりはノートを閉じようとした。

 

だが龍園が、その手を止める。

 

「待て」

 

「何でしょう」

 

「もう一度見せろ」

 

ひよりがノートを開き直す。

 

龍園はりゅうまるとぶっくまるを見比べた。

 

黒くて目付きの悪い小さなドラゴン。

 

本を抱えた穏やかな熊。

 

可愛さだけで比べれば、ぶっくまるが明らかに上だった。

 

「どっちの方が人気出ると思う」

 

龍園が教室全体へ尋ねた。

 

誰も答えない。

 

龍園の名字を取ったりゅうまるより、

ひよりの個人的な熊の方が人気を得そうだとは言いにくい。

 

「正直に言え」

 

西野がすぐに手を挙げた。

 

「ぶっくまる」

 

「即答か」

 

「人気投票でしょ。怖いドラゴンより、本を持った熊の方が子供は近づきやすい」

 

「りゅうまるは怖くありません」

 

ひよりが訂正する。

 

「少し目付きが悪いだけです」

 

「モデルの性格が出てる」

 

伊吹が言う。

 

龍園は伊吹を睨む。

 

「何か言ったか?」

 

「何も」

 

石崎は慎重に両方を見比べる。

 

「俺はりゅうまるも好きですけど、ぶっくまるは完成度が高すぎるというか……」

 

「つまり、ぶっくまるだな」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

「どっちだ」

 

「ぶっくまるっす!」

 

圧力に負けて正直に答えた。

 

アルベルトは無言でぶっくまるを指した。

 

「お前までか」

 

龍園クラスで、りゅうまる存続の危機が訪れた。

 

ひよりは困ったようにノートを見る。

 

「でも、ぶっくまるはクラスの特徴を表していません。私の趣味が強すぎます」

 

「お前もクラスの一員だろ」

 

龍園が言う。

 

「それに、設定は後から足せる。今のままでも、あの犬やフクロウよりは目立つ」

 

「犬?」

 

伊吹が反応する。

 

龍園の端末には、すでに他クラスの暫定案が表示されていた。

 

一之瀬クラスのほなわん。

 

坂柳クラスのありすぽーん。

 

堀北クラスのほりぽんときよぽん。

 

「何で全部見てるのよ」

 

「敵を知らずに勝てると思ってんのか」

 

「ゆるキャラを敵って呼ばないで」

 

龍園は各案の画像を順番に表示する。

 

「一之瀬の犬は分かりやすく可愛い。

坂柳の駒は設定で点を取りに来てる。

堀北のフクロウは優等生向けだ。

綾小路を丸くした奴は意味が分からねぇが、妙に印象に残る」

 

「きよぽん、ちょっと可愛いですね」

 

ひよりが言う。

 

龍園が画面とひよりを交互に見る。

 

「お前、こういうのが好きなのか」

 

「眠そうな表情がよいと思います」

 

「オレにはただのやる気がない生き物に見える」

 

「そこが魅力なのではないでしょうか」

 

「全員感覚がおかしくなってきてるわね」

 

伊吹が呟く。

 

それでも龍園は、きよぽんの決め台詞が表示された画像を数秒間見つめた。

 

『違う。きよぽんが勝手に』

 

「くだらねぇ」

 

そう言いながら、画像を保存した。

 

伊吹は見逃さなかった。

 

「今、保存したでしょ」

 

「敵の資料だ」

 

「気に入ったんじゃないの?」

 

「殺すぞ」

 

龍園は話を戻すように、ひよりのノートを机の中央へ置いた。

 

「りゅうまるとぶっくまる。どっちを代表にするか、クラス内で決める」

 

ひよりが驚く。

 

「本当に候補にするのですか?」

 

「勝てる方を使う。誰が考えたかは関係ねぇ」

 

「でも、りゅうまるは龍園くんを象徴しています」

 

「俺を象徴してるだけで勝てるなら苦労しねぇ」

 

伊吹が小さく笑う。

 

「少しは自覚あるのね」

 

「聞こえてんぞ」

 

石崎は黒板へ、二つの名前を書いた。

 

りゅうまる。

 

ぶっくまる。

 

その下へ長所と短所を並べる。

 

りゅうまる。

 

強い。

 

目立つ。

 

龍園クラスらしい。

 

少し怖い。

 

龍園が余計な改造をしたがる。

 

ぶっくまる。

 

可愛い。

 

親しみやすい。

 

学校らしい。

 

本が重そう。

 

ひよりが遠慮して意見を言わなくなる。

 

「最後の項目は何だ」

 

龍園が尋ねる。

 

「大事だと思って」

 

西野が書いたらしい。

 

ひよりは困ったように笑っていた。

 

「では、両方を暫定候補として試験ページへ追加するのはどうでしょう」

 

「二体同時に?」

 

石崎が尋ねる。

 

「堀北さんのクラスも、ほりぽんときよぽんの二案を公開しています。

一週間後までは候補を増やしても問題ありません」

 

「いいだろう」

 

龍園が頷く。

 

「公開して反応を見る」

 

「ただし、ぶっくまるを妨害するのは禁止です」

 

ひよりが先に釘を刺した。

 

「誰がするって言った」

 

「龍園くんです」

 

「迷いなく言うようになったな」

 

「りゅうまるの目から炎を出そうとした人なので」

 

「まだ諦めてねぇぞ」

 

「諦めてください」

 

りゅうまるに続き、ぶっくまるが正式な暫定候補として誕生した。

 

その数十分後。

 

ぶっくまるの画像が試験専用ページへ掲載される。

 

そして公開から五分もしないうちに。

 

全校生徒から寄せられる感想の数で、

ぶっくまるは他のキャラクターを急速に追い上げ始めた。

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