ゆるキャラ至上主義の教室   作:EXTERMINATION

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第9話 お友達になりたい

第一回高度育成高等学校ゆるキャラ合同説明会。

 

各クラスが制作しているキャラクターの進捗を報告し、

今後の審査に関する追加ルールを確認するために設けられた集まりである。

 

説明会という名称だけを聞けば、内容は事務的なものに思える。

 

制作状況。

 

使用予算。

 

今後の予定。

 

各キャラクターの基本設定。

 

それらを順番に発表し、担当教師から注意事項を聞く。

 

本来なら、それだけで終わるはずだった。

 

しかし、会議室へ足を踏み入れる前から、すでに複数の問題が発生していた。

 

きよぽんのマネージャーを自称する長谷部波瑠加。

 

きよぽん研究家になろうとしている森下藍。

 

二人はオレを挟んだまま、互いに一歩も譲ろうとしない。

 

「森下さん、近いよ」

 

「一メートルほど離れています」

 

「きよぽんの安全圏は二メートルだから」

 

「初めて聞きました。どこに記載されていますか」

 

「私の頭の中」

 

「共有されていない規則に従うことは困難です」

 

「今共有したから」

 

「即時適用には反対します」

 

「何でそんなにきよぽんへ近づきたいの?」

 

「観察対象は近くで確認した方がいいからです」

 

「観察対象って言わないで」

 

「では研究対象と呼びます」

 

「もっと駄目!」

 

会議室へ入る生徒たちが、二人のやり取りを横目で見ていた。

 

龍園は愉快そうに笑い、伊吹は露骨に呆れている。

 

橋本は面白いものを見つけたように足を止め、

神室は坂柳クラスの一員として森下を連れ戻すべきか迷っている様子だった。

 

白石は変わらず穏やかな笑顔を浮かべている。

 

山村だけは、自分まで騒動へ巻き込まれないよう、

廊下の壁に近い位置を歩いていた。

 

「二人とも」

 

オレは長谷部と森下へ声をかけた。

 

二人が同時にこちらを見る。

 

「説明会が始まる。席へ行ってくれ」

 

「分かった」

 

長谷部は素直に頷いた。

 

「承知しました」

 

森下も丁寧に頭を下げる。

 

ようやく話が通じたと思った。

 

だが二人は、その場から動かなかった。

 

「なぜ行かない」

 

「きよぽんが先に行って」

 

長谷部が答える。

 

「観察対象の後方を確保します」

 

森下も続けた。

 

「何から確保するんだ」

 

「不測の事態です」

 

「具体的には?」

 

「まだ発生していないので分かりません」

 

発生していないことまで警戒されても困る。

 

「清隆」

 

三宅が少し離れた場所から呼ぶ。

 

「もう二人とも放っておけ。俺たちの席、あっちみたいだぞ」

 

三宅の指す方向には、クラスごとにまとめられた机と椅子が並んでいる。

 

会議室は一般的な教室より広く、正面には大型スクリーンと演台が設けられていた。

 

机は緩やかな半円を描くように配置され、

どの席からも発表者が見えるようになっている。

 

各クラスには専用の展示台も用意されていた。

 

一之瀬クラスの台には、ほなわんの大型パネル。

 

龍園クラスの台には、りゅうまるのイラストとぶっくまるのぬいぐるみ。

 

坂柳クラスには、王冠を被ったありすぽーんの頭部模型。

 

そしてオレたちの展示台には、

ほりぽんときよぽんのデザイン画が並べられることになる。

 

まだ正式な代表を一体に絞れていないのは、オレたちと龍園クラスだけだった。

 

「ほりぽんは左側。きよぽんは右側に置くわ」

 

堀北が資料の位置を細かく調整している。

 

「中央に置かないの?」

 

長谷部が尋ねる。

 

「どちらか一方を中央に置けば、公平ではなくなるでしょう」

 

「きよぽんの方が人気あるんだから、少し大きくてもよくない?」

 

「途中段階の閲覧数は、正式な評価ではないわ」

 

「でも事実だよ」

 

「だからといって展示面積を変える理由にはならない」

 

二人の対立は今日も続いていた。

 

堀北は青を基調としたほりぽんの資料を左へ並べる。

 

キャラクターの正面図。

 

側面図。

 

背面図。

 

表情の差分。

 

基本プロフィール。

 

教育的な理念。

 

学校の制服を思わせる衣装の詳細。

 

資料は整然としており、必要な情報が一目で分かるよう構成されていた。

 

一方、長谷部たちが用意したきよぽんの資料は、

統一感という点ではほりぽんに劣る。

 

眠そうな通常形態。

 

ヨーグルトを二つ持った第二形態。

 

一人では大きな丸を作れず、友達と協力する場面。

 

ヨーグルトの発酵時間を真剣に確認する姿。

 

さらに『違う。きよぽんが勝手に』と大きく書かれた宣伝カード。

 

真面目な設定資料の中へ、突然意味の分からない画像が混ざっている。

 

それにもかかわらず、視線を引くのはきよぽんの方だった。

 

「配置が雑ね」

 

堀北が言う。

 

「自由って言って」

 

長谷部が答える。

 

「資料の高さが揃っていないわ」

 

「ゆるキャラだから、少しくらいゆるくていいんだよ」

 

「展示までゆるくする必要はないでしょう」

 

「堀北さんは固すぎ」

 

「あなたが雑すぎるのよ」

 

長谷部と堀北が資料を動かし合う。

 

長谷部がきよぽんを中央へ寄せる。

 

堀北が元へ戻す。

 

再び長谷部が数センチだけ動かす。

 

堀北が定規を使って元の位置を測り直す。

 

「定規まで持ってきてるのか」

 

三宅が呆れた。

 

「公平な展示には必要よ」

 

「そこまでやるか?」

 

「左右の条件を同じにしなければ、比較にならないでしょう」

 

幸村が堀北の資料を確認する。

 

「堀北の考えは正しい。展示位置によって視線の集まり方は変わる。

中央や目線の高さに近いものほど見られやすい傾向がある」

 

「ゆきむーはどっちの味方なの?」

 

長谷部が尋ねる。

 

「公平性の味方だ」

 

「つまんない答え」

 

「試験で面白い答えを出す必要はない」

 

「でも、ゆきむーはきよぽん設定班でしょ」

 

「設定の整理を担当しているだけだ。無条件にきよぽんを支持した覚えはない」

 

「じゃあ、ほりぽんときよぽん、どっちに投票するの?」

 

幸村の動きが止まった。

 

一週間後には、堀北クラス内で正式な代表を決める投票が行われる。

 

クラス内の全生徒が一票を持ち、ほりぽんときよぽんのどちらかへ投票する。

 

自分たちのクラスが作るキャラクターを決めるだけの投票。

 

だが長谷部と堀北にとっては、

300クラスポイントの行方を左右するほど重要な戦いになっている。

 

「現段階では決めていない」

 

幸村が答えた。

 

「設定と教育的価値ならほりぽん。

認知度と話題性ならきよぽんが優れている。

完成したデザインと今後の戦略を比較して判断する」

 

「真面目だなあ」

 

「当然だ」

 

長谷部は次に三宅を見る。

 

「みやっちは?」

 

「俺もまだ決めてない」

 

「昨日、きよぽん可愛いって言ってたよね」

 

「少しな」

 

「じゃあ一票」

 

「勝手に数えるな」

 

「愛里は?」

 

長谷部が佐倉へ顔を向ける。

 

佐倉はきよぽんの表情を描いた張本人でもある。

 

長谷部としては、当然きよぽん側だと考えているはずだ。

 

「わ、私は……」

 

佐倉はほりぽんときよぽんの資料を見比べる。

 

「どっちも可愛いと思う」

 

「愛里まで公平派?」

 

「ほりぽんは、頑張ってる人を応援してくれそうだし……

きよぽんは、一緒にいると落ち着きそうだから」

 

「きよぽんは何も喋らないぞ」

 

三宅が言う。

 

「何も喋らなくても、隣にいてくれそう」

 

佐倉らしい評価だった。

 

オレを見ているような気がしたが、気のせいだろう。

 

「清隆くんは?」

 

佐倉が尋ねる。

 

「オレか」

 

「どっちに投票するの?」

 

全員の視線が集まった。

 

長谷部。

 

三宅。

 

幸村。

 

佐倉。

 

さらに資料を並べていた堀北まで、手を止めてこちらを見ている。

 

「まだ決めていない」

 

無難に答えた。

 

「きよぽん本人なのに?」

 

長谷部が不満そうに言う。

 

「本人ではない」

 

「自分に投票するのが恥ずかしい?」

 

「そういう問題ではない」

 

「なら、ほりぽんに入れるの?」

 

「まだ決めていないと言った」

 

実際、現時点では判断が難しい。

 

ほりぽんはキャラクターとして安定している。

 

学校側が求める理念にも合致し、専門審査では高得点を狙えるだろう。

 

きよぽんは話題性で大きく上回るが、

人気の大半がオレとの関係や決め台詞によって生まれている。

 

学園祭の一般来場者が同じように面白がるとは限らない。

 

そして何より。

 

きよぽんが正式な代表になれば、

オレが着ぐるみの中へ入るよう求められる可能性が極めて高い。

 

個人的な都合だけを考えれば、ほりぽんへ投票するべきだ。

 

しかしクラスの勝利を優先するなら、現在の人気を無視することもできない。

 

「綾小路くん」

 

堀北が静かに声をかける。

 

「個人的な感情で決めないことね」

 

「分かっている」

 

「自分が着ぐるみに入りたくないという理由だけで、

ほりぽんへ投票するのは公平ではないわ」

 

考えていることを読まれていた。

 

「なら、須藤が着ぐるみに入りたくないという理由で

きよぽんへ投票するのも認めないのか」

 

「もちろんよ」

 

少し離れた席で、須藤が反応した。

 

「何で俺の話になってんだよ!」

 

須藤と池は正式な代表者ではないが、

演技担当候補として見学を許可されていた。

 

須藤はほりぽん。

 

オレはきよぽん。

 

そのように勝手に着ぐるみ担当を割り振られている。

 

「俺はきよぽんに入れるぞ!」

 

須藤が宣言した。

 

「今の発言は無効よ」

 

堀北が即座に答える。

 

「何でだよ!」

 

「動機が不純だから」

 

「自分が着ぐるみに入りたくないのは普通だろ!」

 

「クラスの勝利を考えて投票しなさい」

 

「きよぽんの方が人気あるじゃねぇか!」

 

「今、理由を変えたわね」

 

「どっちも本当だ!」

 

池は須藤の横で笑っている。

 

「俺もきよぽんかな」

 

「池くんは何で?」

 

堀北が尋ねる。

 

「面白いから」

 

「もう少し具体的に」

 

「ヨーグルト被ってるから」

 

「理由になっていないわ」

 

「じゃあ、ほりぽん」

 

「なぜ変えたの?」

 

「堀北が怖いから」

 

「投票の意味を理解している?」

 

前途は多難だった。

 

「そろそろ席についてください」

 

担当教師が演台から呼びかけた。

 

会議室の入口が閉じられる。

 

各クラスの生徒が指定された席へ移動し、展示台の周囲から離れていく。

 

オレたちも堀北クラスの席へ座った。

 

前列に堀北と平田。

 

その後ろにオレ、長谷部、三宅、幸村、佐倉。

 

須藤と池はさらに後方。

 

右側には龍園クラス。

 

左側には一之瀬クラス。

 

斜め前には坂柳クラスがいる。

 

森下は座ってからも、こちらを振り返っていた。

 

目が合う。

 

森下は小さく頭を下げる。

 

オレも最低限の礼として少しだけ頷いた。

 

すると森下は端末へ何かを入力し始める。

 

嫌な予感がした。

 

数秒後。

 

長谷部の端末へ通知が届いた。

 

「何これ」

 

画面を見た長谷部の眉が寄る。

 

「どうした」

 

「森下さんから」

 

長谷部はメッセージを読み上げる。

 

『きよぽんは目が合うと小さく頷きます。新たな生態として記録しました』

 

「生態ではない」

 

「やっぱり観察してる!」

 

長谷部が森下を睨む。

 

森下は何も気づいていないような顔で、前を向いていた。

 

「返信する」

 

「やめておけ」

 

「でも」

 

「説明会中だ」

 

「分かった」

 

長谷部は端末を伏せる。

 

その直後。

 

オレの端末へ通知が届いた。

 

森下からではない。

 

一之瀬だった。

 

『ほなわんから、きよぽんへお友達カードを渡したいんだけど、

名前は「きよぽん」で大丈夫?』

 

オレが返事を考えていると、長谷部が画面を覗き込んだ。

 

「もちろん、きよぽんだよ」

 

「覗くな」

 

「返信していい?」

 

「オレの端末だ」

 

「じゃあ早く送って」

 

「なぜ急かす」

 

「ほなわんと友達になれば、きよぽんの友達第一号になるかもしれない」

 

「綾小路グループは友達に含まれないのか」

 

三宅が横から言う。

 

長谷部が止まる。

 

「みやっち、良いこと言うね」

 

「普通の疑問だ」

 

「きよぽんの友達第一号は、私たちだよ」

 

「いつ決まった」

 

「今」

 

幸村が眼鏡を直す。

 

「キャラクター設定上、最初の友達はクラスメイトである方が自然だ。

ほなわんは他クラスで最初にできた友達と位置づければいい」

 

「ゆきむー、採用」

 

「俺には決定権がない」

 

「設定班の意見だから強いよ」

 

オレの知らないところで、きよぽんの交友関係まで整理されていく。

 

仕方なく一之瀬へ返事を送る。

 

『名前はきよぽんで構わない』

 

送信した直後、長谷部が笑った。

 

「認めた」

 

「カードへ書く名前の話だ」

 

「自分できよぽんって入力した」

 

「便宜上だ」

 

「スクリーンショットした」

 

「消せ」

 

「記念」

 

「何の記念だ」

 

「本人が初めて自分をきよぽんと名乗った記念」

 

名乗ってはいない。

 

だが説明会が始まろうとしているため、これ以上争うことはできなかった。

 

担当教師がマイクを手に取る。

 

「それでは、第一回ゆるキャラ合同説明会を開始します」

 

会議室の照明が少し落とされる。

 

正面の大型スクリーンに、試験名と本日の進行表が表示された。

 

一、追加ルールの説明。

 

二、各クラスによる暫定キャラクターの紹介。

 

三、質疑応答。

 

四、交流および宣伝時間。

 

五、今後の制作スケジュール確認。

 

「最初に、追加ルールについて説明します」

 

スクリーンが切り替わる。

 

「正式な代表キャラクターを決定する期限は、

試験開始から七日目の午後五時です。

それ以降、名称と基本モチーフの大幅な変更は認められません」

 

堀北と長谷部の表情が引き締まる。

 

残り三日。

 

それまでに、ほりぽんときよぽんの決着をつけなければならない。

 

龍園クラスも同様だ。

 

りゅうまるとぶっくまる。

 

二体のうち、どちらか一体を正式な代表として選ぶ必要がある。

 

「正式決定後も、細かなデザインや設定の修正は認めます。

ただし、投票や宣伝で得た知名度を別キャラクターへ引き継ぐことはできません」

 

「当然だな」

 

神崎が小さく呟いた。

 

例えば、ぶっくまるの人気を利用した後に、

名前だけりゅうまるへ変更するような方法は認められない。

 

「また、各クラスは学園祭までに最低三種類の公式グッズを制作してください」

 

会議室がざわつく。

 

「グッズ制作も必須なの?」

 

一之瀬クラスの生徒が尋ねる。

 

「はい。販売する必要はありませんが、

展示または来場者への配布を行ってください。

グッズの完成度とキャラクターとの一貫性も、専門審査へ含まれます」

 

長谷部の目が輝く。

 

すでにきよぽんの缶バッジ、ステッカー、応援カードを試作している。

 

グッズ数だけなら条件を満たしていた。

 

堀北は少し悔しそうに、長谷部の資料へ視線を向ける。

 

ほりぽんのグッズは、白い羽根を模した栞が一種類あるだけだ。

 

「さらに、学園祭一週間前に『ゆるキャラ交流会』を実施します」

 

スクリーンに、新しいイベント名が表示される。

 

「各クラスの着ぐるみが一堂に会し、

来場予定者へ向けた事前公開を行います。

交流会での反応は本審査の点数へ直接加算されませんが、

宣伝活動として重要な機会となります」

 

「全員完成させて来いってことか」

 

橋本が言う。

 

「交流会までに着ぐるみが完成していない場合、

パネルや映像での参加も認めます。

ただし、他クラスと比べて宣伝効果が下がる可能性はあります」

 

着ぐるみ制作を急ぐ必要が出てきた。

 

まだ頭部しかないきよぽん。

 

基本骨格すら完成していないほりぽん。

 

現在の進捗では、余裕があるとは言えない。

 

「なお、交流会ではキャラクター同士の接触が発生します。

他クラスの着ぐるみを故意に破損させる、

転倒させる、視界を妨害する行為は禁止です」

 

会議室の視線が龍園へ集まった。

 

龍園は椅子へ深く座り、面倒そうに全員を見返す。

 

「何で俺を見る」

 

伊吹が答える。

 

「やりそうだから」

 

「まだ何もしてねぇ」

 

「今後もしないで」

 

ひよりも穏やかに続ける。

 

「りゅうまるが他のキャラクターへ噛みつく演技も禁止です」

 

「噛みつかせるとは言ってねぇ」

 

「牙を増やそうとしていました」

 

「一本増やすだけだ」

 

「その一本が何のためなのか疑問です」

 

「格好いいからだ」

 

「噛みつかないのであれば、必要ありません」

 

龍園とひよりの牙を巡る争いは、説明会中も続いていた。

 

担当教師が咳払いをする。

 

「質問は、全ての説明が終了してから受け付けます」

 

二人は一度口を閉じた。

 

「それでは、各クラスのキャラクター紹介へ移ります。発表順は抽選で決定しています」

 

スクリーンへ順番が映し出される。

 

一番、一之瀬クラス。

 

二番、坂柳クラス。

 

三番、龍園クラス。

 

四番、堀北クラス。

 

オレたちは最後だった。

 

長谷部が小さく拳を握る。

 

「トリだ」

 

「抽選だ」

 

幸村が訂正する。

 

「最後に一番盛り上げられるってことだよ」

 

「失敗すれば、悪い印象のまま終わる」

 

「ゆきむーはいつも現実的すぎ」

 

「必要なことだ」

 

壇上へ一之瀬が向かう。

 

その隣には神崎。

 

さらに、ほなわんの大型パネルを持つ生徒が二人。

 

一之瀬は演台へ立つと、会議室全体へ笑顔を向けた。

 

「私たちのクラスが作るキャラクターは、ほなわんです」

 

スクリーンに、ほなわんの姿が映し出される。

 

オレンジ色を基調とした丸い犬。

 

大きく垂れた耳。

 

感情が一目で伝わる笑顔。

 

胸元にはハート。

 

首には複数の色を組み合わせたスカーフを巻いている。

 

「ほなわんは、誰とでも友達になれる犬です。

初めて会った人にも自分から挨拶して、

困っている人がいたら仲間を呼んで助けます」

 

一之瀬の説明に合わせ、スライドが切り替わる。

 

一人で泣いている小鳥へ、ほなわんが近づいている場面。

 

次の絵では、ほなわんが他の動物たちを連れて戻ってくる。

 

全員で小鳥を囲み、笑顔になっている。

 

「ほなわんは、何でも一人で解決できるわけではありません。

でも、友達を作ることが得意です。

自分にできないことは、できる誰かへ助けを求めます」

 

神崎が補足する。

 

「この設定には、クラス全員がそれぞれの能力を持ち寄るという意味を込めています。

一人の突出した能力に頼らず、互いの不足を補う。

私たちのクラスが大切にしてきた価値観です」

 

一之瀬の親しみやすさ。

 

神崎の論理的な説明。

 

二つが上手く組み合わされている。

 

単に一之瀬を犬へ変えただけではない。

 

クラス全体の特徴へ結びつけていた。

 

「そして、ほなわんには特別な道具があります」

 

一之瀬が、小さなカードを掲げる。

 

ほなわんのお友達カード。

 

「出会った人やキャラクターへ、このカードを渡します。

裏面に名前を書けば、その日からほなわんのお友達です」

 

会議室から好意的な声が上がる。

 

見た目が可愛い。

 

設定が分かりやすい。

 

カードを受け取ることで、キャラクターとの関係が形として残る。

 

一般来場者、とりわけ子供に対しては強力だろう。

 

「今日は、ここにいる皆さんのキャラクターにもカードを持ってきました」

 

一之瀬はカードを数枚取り出す。

 

「ほりぽん、きよぽん、りゅうまる、ぶっくまる、ありすぽーん。

みんなと友達になりたいです」

 

「候補段階の奴まで全員か」

 

龍園が言う。

 

「もちろんだよ」

 

一之瀬は笑顔だった。

 

「正式な代表になれなかったとしても、ここで生まれたことは変わらないから」

 

その言葉に、会議室の空気が少し柔らかくなる。

 

ほりぽんか、きよぽん。

 

りゅうまるか、ぶっくまる。

 

どちらかは正式な代表になれない。

 

だが、作られたキャラクター自体が消えるわけではない。

 

オレは長谷部を見る。

 

長谷部も同じことを考えたのか、きよぽんの資料を見ていた。

 

堀北も、ほりぽんの青いケースへ視線を落としている。

 

「発表は以上です」

 

一之瀬と神崎が頭を下げる。

 

会議室から拍手が起こった。

 

一番手としては非常に安定した発表だった。

 

質疑応答は全クラスの発表後に行う予定だったが、森下が手を挙げた。

 

担当教師が困ったように見る。

 

「質問は後ほどです」

 

「質問ではありません」

 

森下が答える。

 

「何でしょう」

 

「ほなわんと宇宙人が友達になった場合、

お友達カードの名前欄は宇宙文字でも構いませんか」

 

一之瀬は少し考えた。

 

「読めなくても、本人が名前だと思って書いてくれたなら大丈夫だよ」

 

「素晴らしいです」

 

森下は満足そうに頷いた。

 

神崎は目を閉じ、何も聞かなかったことにしたようだった。

 

一之瀬たちが席へ戻る。

 

途中で、一之瀬は本当に各クラスへカードを配り始めた。

 

オレたちの席にも来る。

 

「まずは、ほりぽん」

 

堀北へカードを渡す。

 

名前欄には、すでに『ほりぽん』と書かれていた。

 

「ありがとう」

 

堀北は丁寧に受け取った。

 

「友達として、正々堂々競いましょう」

 

「うん」

 

続いて長谷部へ。

 

「きよぽんのカード」

 

「ありがとう!」

 

長谷部は自分が受け取って当然という顔をしている。

 

「オレではなく、長谷部へ渡すのか」

 

思わず尋ねた。

 

一之瀬が止まる。

 

「きよぽん本人に渡した方がいい?」

 

「オレは本人ではない」

 

「じゃあ長谷部さんで合ってるね」

 

「それでいいよ」

 

長谷部がカードを大切そうにファイルへ入れた。

 

「きよぽん、他クラスで最初のお友達だよ」

 

「カードを受け取っただけだ」

 

「友達を否定しないで」

 

「キャラクター同士の話だろう」

 

「きよぽんは照れ屋だから」

 

また設定が増えた。

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