鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略——   作:カノープス・ギア

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第14話です!
2月、灯は手元のポイントと今後の遺構クエストで得られる報酬の計算を行っていました。
弾き出された数字は、残り5基の遺構を巡れば、ちょうど【マクロス初代パック】の3万SPに届くという奇跡的な符合。

確かな道筋を見出し、それぞれの日常を過ごしながら春を迎えた灯たち。
しかし、神宮寺教授がサワイ宛てに出した手紙の返事は、1ヶ月が過ぎても一向に届かず……。
連休明けの5月、静まり返った研究室に届いた「1通の上質な封筒」が、物語を大きく動かします!


算段の成立と、一通の手紙

 

2月中旬の研究室は、やたらと明るかった。

 

窓の外はまだ寒いが、日差しの角度が変わっている。冬が終わろうとしていた。

 

俺は机の上にノートを広げ、ひたすら数字を書き出していた。

 

現在所持          : 7,900 SP

【マクロス初代・統合技術パック】: 30,000 SP

差額            : 22,100 SP

 

デイリー     : 75 SP/日

遺構クエスト平均 : 4,425 SP/回(実績2回)

残る遺構     : 5基

 

ペンを置いて、俺は椅子の背にもたれた。

 

実績2回の平均は4,425 SP。これを残る5基に当てはめれば、2万2,125 SP。

デイリーの分を除いても、残る5基をすべて回れば届く。

 

「……嘘だろ」

 

思わず声が出た。

 

7つの炉。すべて回れ。そうすれば手が届く。

まるで、誰かが最初からそう設計したみたいに、数字が揃っていた。

 

(……いや、逆か)

 

システムは、俺が何をすればいくら払うかを最初から知っていたのだ。

デイリー75 SPという小遣いは、あくまで俺を動かし続けるための最低保証。

本命の報酬は、最初からあの穴の奥に置かれていた。

 

俺は、2回の探索を思い出した。

 

酸素を吸われながら這って逃げた坑道。

40年以上ぶりに水面へ姿を現した村と、岩に彫られた2つの名前。

 

あれを、あと5回。

 

「……はは」

 

乾いた笑いが漏れた。

 

道が見えた。見えてしまった。

そして見えた道は、真っ暗な穴が5つ並んでいるだけだった。

 

 

◇◇◇

 

 

問題は、その5つがどこにあるのか分からないことだった。

 

「無理だな」

 

3月下旬、澄人が両手を挙げた。

 

「教授の資料3241点、すべて一次目録と索引を付け終わった。条件を変えて何十通りも検索した。……これ以上、確度の高い候補は出てこない」

 

「1件も?」

 

「ゼロじゃない。資料の質が違うんだ」

 

澄人はモニタを指した。

 

「黒岩鉱山と樽内村は、どちらも複数人の証言、行方不明者、公的記録が揃っていた。残りの候補は、そのどれかが欠けている。伝承だけ、出典不明の噂だけ、という資料もある」

 

「じゃあ、当たってみれば」

 

「灯」

 

澄人は眼鏡を押し上げた。

 

「9件だぞ。全部行くのか。北海道から九州まで散らばっている。交通費と最低限の装備だけでも、1件あたり5万円はかかる」

 

「…………」

 

「そのうち何件が当たりだ? 1件か、2件か。0件かもしれない」

 

正論だった。

 

俺には金がない。時間もない。空振りを9回繰り返す余裕は、どこにもなかった。

 

「探し方を、変えるしかないな」

 

教授が、湯呑みを置いてそう言った。

 

「変える、と言っても」

 

「そもそも、私は民俗伝承から入った。30年、ずっとそうだった」

 

教授は資料棚を見上げた。

 

「だが考えてみれば、伝承というのは人が住んでいた場所にしか残らん。人里離れた山奥や、海の底や、無人島に炉があったとしても、語り継ぐ者がおらん」

 

俺は、はっとした。

 

「……そうか。伝承がある場所しか、探してなかったってことですか」

 

「そうだ。私の30年は、最初から穴だらけだったのだよ」

 

自嘲するように言って、教授は笑った。

 

「では、どうやって探すか。何か手はあるかね」

 

俺は、しばらく黙っていた。

 

そして、机の引き出しから、油紙とは別の包みを取り出した。

 

古い布に包まれた、巻物。

 

 

◇◇◇

 

 

「そういえば、まだ読んでませんでした」

 

「……読んでない?」

 

「樽内の壁を読めるようになってから、まだ開いていなかったんです」

 

湖底から帰ってから1か月、俺は写真の解析と、教授の資料の照合に追われていた。

そして正直に言えば——怖かった。

 

読めなかった頃は、これはただの不気味な絵だった。

読めるようになった今、これは文章(・・)になる。

 

「開けます」

 

俺は、机の上に巻物を広げた。

 

業火。逃げ惑う人々。空を覆う怪鳥の群れ。黒い霧と、そこから覗く冒涜的な殻。

そして、闇と対峙する一筋の光の巨人。

 

4人が、机を囲んだ。

 

【技能適用:『超古代言語理解 Lv.2』】

 

絵の縁を走る「装飾模様」が——ほどけた。

 

文字になった。

 

 

『——(わざわい)は、(めぐ)る。』

 

 

俺は、声に出して読み上げていた。

 

『大いなる闇は、地の底に眠り、時満ちて還る。

 我らはこれを3度退(しりぞ)け、4度目に呑まれた。』

 

「……3度」

 

ゴウが呻いた。

 

「3回勝ってんのか、この人たち」

 

「そして4回目で負けている」

 

澄人が短く言った。

 

俺は読み続けた。

 

『光の器は3つ。

 されど、光は選ばれし者にのみ宿る。』

 

「石像のことだな」

 

教授が呟いた。

 

そして、次の行を読んだとき——俺の指が、止まった。

 

 

『——(えら)ばれざる者は、(くろがね)(もっ)(あがな)え。』

 

 

「…………」

 

部屋が、静かになった。

 

「灯?」

 

ゴウが顔を覗き込んでくる。

 

「おい、どうした。顔真っ白だぞ」

 

俺は、答えられなかった。

 

3000万年前。

光の巨人がいた時代。

 

その時代にも——光が宿らなかった者たちがいた。

 

そして彼らは、鉄で戦った。

 

「……教授」

 

「うん」

 

「ここ、読めますか」

 

教授は身を乗り出したが、当然、彼には読めない。

俺は震える声で、もう一度読み上げた。

 

「『選ばれざる者は、鉄を以て贖え』」

 

教授の目が、大きく見開かれた。

 

「……それは」

 

「俺と、同じことを考えたやつが」

 

喉が、詰まった。

 

「3000万年前にも、いたということです」

 

誰も、何も言わなかった。

 

しばらくして、教授が静かに言った。

 

「……では、その者たちは」

 

「負けました」

 

俺は、絵を指した。

 

業火。逃げ惑う人々。滅んだ文明。

 

「4度目に、呑まれています」

 

俺は、拳を握りしめた。

 

前世の記憶を持ち込み、システムまで背負っている。

それでも、俺がやろうとしていることは——1度、試されて失敗している。

 

「……くそっ」

 

俺は机を叩いた。

 

「灯」

 

「3000万年前だぞ! ピラミッド建てて、あんな炉を作って、それで負けてるんだ! 俺がガッツウィングもどきを1機作って、何になるっていうんだ!」

 

自分でも驚くほど、声が荒れていた。

 

ゴウが立ち上がりかけたのを、澄人が手で止めた。

 

そして、教授が口を開いた。

 

「鈴木君」

 

「……はい」

 

「その者たちは、記録を残した

 

俺は、顔を上げた。

 

「3000万年、7つの炉と、この巻物と、あの壁の観測記録を残した。……なぜだと思うね」

 

「…………」

 

「負けると分かっていて、記録など残さんよ」

 

教授は、皺だらけの指で巻物の端をなぞった。

 

「次があると信じたからだ。次に選ばれざる者が現れたとき、同じところで躓かんようにな」

 

俺は、その言葉をゆっくり飲み込んだ。

 

「……俺のために、ですか」

 

「君のためかどうかは知らん」

 

教授は苦笑した。

 

「だが、3000万年経って、それを読める人間が現れた。……それだけで十分ではないかね」

 

ゴウが、鼻をすすった。

 

「そういうことだろ。バトンだよバトン」

 

「……お前が言うと軽いな」

 

「うるせぇ」

 

 

◇◇◇

 

 

巻物には、まだ続きがあった。

 

そして、最後の1行が、俺たちの探し方を根本から変えた。

 

 

『7つの()は、()(みゃく)沿()いて()す。』

 

 

「地の、脈」

 

俺は顔を上げた。

 

「教授。黒岩鉱山でも樽内でも、コンパスが狂いましたよね」

 

「……ああ」

 

「あのピラミッドを見つけたときも、教授の観測データは地磁気の異常でした」

 

俺は立ち上がって、資料棚に走った。

 

「教授が30年集めてきたのは、伝承だけじゃない。地磁気の観測記録があります」

 

「……あるが、あれは断片的だぞ。私が個人で測ったものだ」

 

「それでいい。というより、それが要るんです」

 

俺は、棚から観測ノートの束を引っ張り出して、机の上にぶちまけた。

 

【技能適用:『上級・次世代エネルギー/流体力学』】

【技能適用:『中級・航空力学/制御アルゴリズム』】

 

頭の中で、条件が組み上がっていく。

 

「澄人。国土地理院の地磁気測量と、気象庁の地磁気観測所が公開しているデータは使えるか」

 

「使える。出典も観測地点も明示されている。ただし、全国を一様な細かさで覆っているわけじゃない」

 

「粗くていい。全国の地磁気分布を重ねて、通常の地質構造や既知の人工ノイズで説明できる成分を1つずつ除外する

 

「引いた残りが」

 

「説明のつかない異常だ」

 

澄人の指が、キーボードの上で止まった。

 

「……お前、それ」

 

「教授の30年分のデータは、答え合わせに使う。黒岩と樽内で、異常のパターンがどう出るか。そのパターンと同じものを、全国から拾う」

 

俺は、机の上の観測ノートを見下ろした。

 

30年。誰にも読まれず、笑われて、それでも取られ続けた数字の山。

 

「教授」

 

「うん?」

 

「これ、宝の地図でした」

 

教授は、しばらく口を開けたまま俺を見て——それから、くしゃりと顔を歪めた。

 

「……ふん。30年かけて、ようやく使い道が見つかったか」

 

 

◇◇◇

 

 

その夜、ゴウと澄人が帰った後。

 

俺は、もう1つの話を切り出した。

 

「教授。もう1つ、お願いがあります」

 

「なんだね」

 

「サワイさんに、手紙を書いてもらえませんか」

 

教授の手が、湯呑みの途中で止まった。

 

「……気が早いな。まだ何も形になっとらんぞ」

 

「形になってからじゃ、遅いんです」

 

俺は、ノートを開いた。

 

「地磁気で炉を探し、残る5基を回って、必要な技術を揃えたとしても、そこからが本番です。設計し、材料を集め、実際に作らなければならない」

 

「……うむ」

 

「その頃には、TPCも設立準備を終え、組織として動き始めています。

俺が入りたいのは、できあがった後の組織じゃない

 

教授が顔を上げた。

 

「作っている途中の組織です。人も設備も足りてなくて、外の人間を拾う余裕がある時期。

……そこに滑り込むには、いきなり行っても駄目です」

 

俺は、教授の目を見た。

 

「先に、名前だけでも置いておきたい。『そういえば、あの人からそんな話が来ていたな』と思い出してもらえる程度でいいんです」

 

長い沈黙があった。

 

教授は湯呑みを置き、机の引き出しを開けた。

 

出てきたのは、便箋と、古い万年筆だった。

 

「……30年ぶりだな」

 

「え?」

 

「毎年、年賀状は出しとる。だが、中身のある手紙を書くのは、30年ぶりだ」

 

教授はキャップを外し、しばらくペン先を見つめていた。

 

「何を書けばいいと思うかね」

 

「……30年前の続きを、でしょうか」

 

教授の手が、震えた。

 

「そうか」

 

そして、書き始めた。

 

万年筆がざらついた便箋を擦る音が、静かな部屋にゆっくりと響いていた。

 

俺は、その背中を見ていた。

 

30年前、この人は学会で笑われた。会場でただ1人、笑わずに質問をした男がいた。

 

『あなたの説が正しかった場合、人類は何をすべきですか』

 

その質問に、この人はあの日、答えられなかったはずだ。

 

(……今度は、答えられる)

 

俺は、そう思った。

 

 

◇◇◇

 

 

4月。

 

俺は大学2年生になった。

 

新入生が構内に溢れ、部活の勧誘が騒がしく、桜が散った。

ゴウは案の定、必修を2つ落としていた。澄人は情報系のゼミに早々に目をつけられていた。

 

俺は相変わらず、朝走って、講義に出て、研究室で数字を並べて、夜は工場で鉄を削っていた。

 

デイリーは、毎日75 SP。

所持ポイントは、1万SPを超えていた。

 

地磁気の解析は、澄人が組んだプログラムが夜通し回っている。全国のデータを潰していくのに、数か月はかかる見込みだった。

 

そして、手紙の返事は——来なかった。

 

1週間。2週間。1か月。

 

「まあ、そんなものだ」

 

教授は湯呑みを傾けながら、平然としていた。

 

「相手はいま、国連の事務総長だぞ。地方の私大の変人教授からの手紙など、秘書の段階で止まるに決まっとる」

 

「……そうですね」

 

そう言いながら、俺は少しだけ落ち込んでいた。

 

道は見えた。だが、その道はあまりに長い。

 

 

◇◇◇

 

 

5月の連休明け。

 

研究室のドアを開けると、教授が机の前で固まっていた。

 

「……教授?」

 

返事がない。

 

俺が近づくと、教授の手には1通の封筒があった。

 

見慣れない、上質な紙。日本語と英語が並んだ差出人の欄。

 

「——国連から?」

 

「うむ」

 

教授の声は、妙に乾いていた。

 

「開けたんですか」

 

「開けた」

 

そう言って、教授は便箋を差し出した。

 

俺は受け取って、読んだ。

 

内容は、拍子抜けするほど短かった。

 

要約すれば「お手紙を拝受しました」「現在、新組織の設立準備で多忙を極めております」「時機を見てご連絡いたします」——ただそれだけの、明らかに秘書が定型で書いた文面だった。

 

「……まあ、こうなりますよね」

 

俺がそう言いかけたとき、教授が首を振った。

 

「下だ」

 

「え?」

 

「一番下を見なさい」

 

俺は便箋の下部に目を落とした。

 

そこに——印字ではなく、手書きで、1行だけ書き加えられていた。

 

万年筆の、癖のある字だった。

 

 

『——30年前、私はあなたに質問をしました。

 その答えを、まだ待っています。』

 

 

俺は、その1行を3度読んだ。

 

顔を上げると、教授が両手で顔を覆っていた。

声は出していなかった。ただ、肩が震えていた。

 

「……覚えてたんですね」

 

「…………」

 

「30年、覚えていたんだ。あの人」

 

俺は、便箋を胸の高さで持ったまま、しばらく動けなかった。

 

窓の外では、5月の風が新緑を揺らしていた。

 

(……答えを、持っていこう)

 

30年待たせた質問の答えを。

 

鉄で。

 

 

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【現在のステータス・スキル情報】

[BASE STATUS]

┣ 演算処理能力: G

┣ 空間認識力 : G

┣ 反応速度 : G

┗ G耐性/肉体: F

 

[ACQUIRED SKILLS & KNOWLEDGE]

┣【超古代言語理解 Lv.2】

┣【初級・機械工学/プログラム言語】

┣【中級・航空力学/制御アルゴリズム】

┣【上級・次世代エネルギー/流体力学】

┣【インファイト Lv.1】

┗【SPアップ Lv.1】

 

[SYSTEM DATA]

┣ 所持ポイント: 14,275 SP

┣ 残機数 : 3 / 3

┣ 保有サンプル : 未知の有機金属片 ×3(解析:31%)

┣ 判明した事実 : 前周期にも「選ばれざる者」が存在/敗北

┗ 探索方針 : 地磁気異常による全国スクリーニング(解析中)

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第14話をお読みいただきありがとうございました!

「残り5基の遺構を巡れば、ちょうど3万SP(マクロス初代パック)に届く」という計算結果。システムが灯に何をさせようとしているのか、その意図が透けて見えるようなゾクゾク感を描いてみました。

そして何より、ついに届いた国連(のちのTPC)からの返信!
教授の「秘書で止まる」という諦めからの、最高の逆転劇でした。

手持ちのポイントは1万SPを超え、知識も技術も仲間も揃った。
次回、いよいよサワイ・ソウイチロウとの面会・プレゼン編へと突入していきます!
ぜひご期待ください!感想や評価などもいただけますと大変励みになります!
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