鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略——   作:カノープス・ギア

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前話に引き続き、さっそくお読みいただきありがとうございます!
そして「さはら、」さん、評価と温かい応援の感想を本当にありがとうございます……!(^▽^)
「面白かった」と言っていただけて、作者としてもこれ以上ない励みになります。
めちゃくちゃ嬉しいです!

※今話より、セリフや心の声、情景描写の視認性を高めるため、「」や『』、ーー等の記号による区分を少し調整・明確化して読みやすくしております。

それでは、日常が少しずつ(そして強制的に)歪んでいく第2話、どうぞお楽しみください!


埃を被った真実

――深い、深い闇の底だった。

黒い霧が立ち込める海上で、光の巨人が『それ』と戦っていた。

 

アンモナイトとクトゥルフの怪物を掛け合わせたような、冒涜的なまでの巨大な殻と無数の触手。

巨人は必死に光線を放ち、打撃を打ち込むが、その圧倒的な絶望の前には傷一つとしてつかない。

やがて、怪物の放った黒い光線が巨人を貫く。

巨人の光は奪われ、無惨な石像へと変わり果てて、暗い海の底へと沈んでいった。

 

「――っ、はぁっ、はぁっ……!」

 

心臓が早鐘を打ち、全身が嫌な冷や汗で濡れていた。

ガバッとベッドから跳ね起き、荒い呼吸を整える。いつもの見慣れたワンルームの天井だ。

ただの悪夢だ、と自分に言い聞かせようとした直後、視界の右隅に、網膜へ直接焼き付けられたかのような淡い青白いホログラムウィンドウが浮かび上がっていることに気づいた。

 

『デイリークエスト:【超古代の痕跡を観測・調査せよ】』

 

「……夢じゃ、ないのかよ」

 

あのリアルすぎる石像の悪夢も、昨日の不気味な体験も、幻覚ではなかった。

目を閉じても消えない無機質な文字。

脳内に直接エラーコードを吐き出されているような不快感に耐えながら、

俺は重い体を起こし、大学へ向かう準備を始めた。

 

 

通学の満員電車に揺られている間も、視界の端には常に青白いUIが張り付いていた。

携帯電話の画面を見ようとしても、無機質な文字列がピントを狂わせる。

ひどい車酔いのような感覚に苛まれていると、ポケットの中で携帯電話が短く震えた。

ゼミの担当教授から届いたメールだった。

 

 

『昨日の調査について少し詳しく聞きたい。

 今日の講義終わりにでも、ゼミ室に寄ってくれないか』

 

 

昨日の今日で、正直どう顔を合わせればいいか分からなかったが、断る理由もない。

俺は『分かりました』とだけ短く返信を打った。

 

午前中の講義は、まるで頭に入ってこなかった。

黒板に書かれる方程式よりも、空間に浮かぶ『超古代の痕跡を観測・調査せよ』というテキストの方が鮮明に見えてしまう。

ノートを取ろうとしてもペンが止まり、周囲の学生たちが立てる衣擦れの音や、平和な私語が、ひどく遠いノイズのように感じられた。

 

 

昼休みの学食は、今日もやかましいほどの活気に満ちていた。

カレーの匂いと、無数の話し声が混ざり合う空間。

テーブルの向かいでは、同じ学部の友人たちが「次の必修落としたらヤバい」「週末の飲み会どうする?」と、絵に描いたような平和な日常を謳歌している。

 

「――おい、灯。聞いてるか?」

「えっ?」

 

唐突に顔の前で手を振られ、俺はハッと我に返った。

友人の一人が、訝しげな顔でこちらを覗き込んでいる。

 

「お前、今日の講義中からずっと上の空で、虚空ばっかり見てるぞ。大丈夫か?

 昨日、教授のパシリでなんかヤバい調査に行ってたんだろ?」

 

俺の視線が、空間に浮かぶウィンドウを無意識に追っていたことに気づかれたらしい。

心臓が嫌な音を立てたが、努めて自然な笑顔を取り繕う。

 

「ああ……いや、何でもない。昨日、教授から貰った資料の内容をちょっと考えててさ。

 あんまり寝てないから、ぼーっとしてただけだ」

「なんだよ、真面目か。まあ、あの教授の案件だしな。ほどほどにしとけよ」

 

友人はあっさりと引き下がり、再び単位の話へと戻っていった。

楽しそうに笑う彼らの顔を見ながら、俺は拭いようのない「温度差」を感じていた。

 

昨日まで、俺も間違いなくあの中にいた。

だが今は、彼らと俺の間に、決して越えられない分厚いガラスの壁があるような気がしてならない。

彼らが生きる陽だまりのような日常の裏側で、もし本当に、今朝の悪夢のような『世界の終わり』が来るなら、この穏やかな時間はどうなってしまうのだろう。

 

彼らの他愛ない笑い声を、絶対に失いたくないと、強く思った。

 

 

午後の講義を終え、俺は教授の研究室のドアを叩いた。

 

「おお、鈴木君! 待っていたよ」

 

研究室に入ると、散らかったデスクの奥から教授が淹れたてのお茶を差し出してくれた。

 

「あ、ありがとうございます」

「いやあ、昨日は悪かったね。それで、調査の方はどうだったんだい?

 何か面白いものを見つけられたかな?」

 

真摯に研究と向き合う教授に嘘をつくのはひどく心苦しかったが、システムのことを話したところで精神を病んだと思われるだけだ。俺はあらかじめ頭の中で組み立てていた言い訳を口にした。

 

「それが……実は、あの山で急に濃い霧に包まれてから、どうも記憶が曖昧でして。

 気がついたら山の入口に戻っていて、その間のことをあまりはっきりと思い出せないんです。

 すみません」

「ふむ……霧に包まれて、記憶が曖昧……?」

 

教授は顎に手を当て、少し考え込むような仕草を見せた後、一転して俺の体を心配するような、優しい声音で話し始めた。

 

「謝ることはない。むしろ、私の無茶な調査に付き合わせたせいで、

 怖い思いをさせてしまったね。……体は、もう大丈夫なのかい?」

 

「あ、はい。今はもう、全然大丈夫です。ちょっと疲れてただけだと思います」

 

「ならいいが……。あそこは磁場が乱れやすい場所だし、

 一時的な記憶障害や体調不良を起こすことも珍しくないからね。

 昨日は無理をさせてしまった。本当に申し訳なかった」

 

教授は本気で申し訳なさそうに眉を下げ、温かい湯呑みを俺の手に押しつけてきた。

疑う素振りすら見せず、親身になって俺を心配してくれる恩師に嘘をつくのは、胸が締め付けられるほど心苦しかった。

 

「レポートなんていつでもいい。今日はもう、帰りなさい」

 

「いえ、あの……実は少し体調も落ち着いたので、

 個人的にここで調べ物をさせてもらってもいいですか?

 教授の資料を参考にさせてもらいたくて」

 

「ふむ……探究心は素晴らしいが、無理は禁物だよ。疲れたらすぐに帰るんだぞ」

 

教授はそう言って、優しく俺の肩をぽんと叩くと、会議へと向かっていった。

 

研究室には俺一人だけが残された。

静寂の中、パソコンの電源を入れる。検索窓に「超古代」「巨大怪獣」といったキーワードを打ち込んでみるが、当然、ヒットするのはB級映画の情報や陳腐なネット怪談ばかりだ。

 

諦めかけて息を吐き出した時、ふと、ゼミでの教授の雑談が脳裏をよぎった。

 

『神話やオカルトはね、ただの作り話じゃない。

歴史の勝者が隠しきれなかった、過去のバグみたいなものなんだよ』

 

 

俺の視線は、パソコンのモニターから、デスクの横にあるスチール製の資料棚へと移った。

そこには、教授が個人的な趣味で収集している古いスクラップブックや手書きのファイルが、無造作に突っ込まれている。

 

立ち上がり、埃を被った分厚いファイルを一冊引き抜く。

ペラペラとページを捲ると、そこには世界各地の古代伝承や遺跡の調査データが、びっしりとスクラップされていた。

大半は荒唐無稽な都市伝説だったが、読み進めるうちに、いくつかの神話の写しや地質データの間に挟まれた、教授自身の几帳面な字で記された「考察」のページで手が止まった。

 

『――一般的に、我々の学界で「古代」と呼称される時代。例えばメソポタミアやエジプト、

我が国における古墳や縄文時代などは、せいぜい数千年から一万年程度を遡る歴史に過ぎない。

しかし、私が長年追っている痕跡は、その次元にはない。

 

各国の神話体系の最深部に共通して存在する「光と闇」の伝承。例えば、南米の深奥で口伝される「空から降り立った光の巨神と、地を割る剛獣の戦い」。あるいは、アジアの古文書のさらに原典とされる石版に記された「這い寄る黒い霧と、石にされた守護神たち」。これらは地理的にも文化圏も全く交わらないはずなのに、怪物の特徴や絶望の描写が、不気味なほど一致している。

 

加えて、矛盾だらけの地層データ群だ。

南太平洋の海底深く、約三千万年前の地層に限って、局地的に「超高温で融解した後に急冷された特殊なガラス質(テクタイト)」が異常な濃度で発見されている。隕石の衝突痕もない場所に残されたこれは、巨大な光線兵器――あるいはそれに匹敵する絶大な熱エネルギーが、地表を焼き払った証左としか思えない。

 

これらを総合すると、一つの可能性に行き着く。

すなわち――今から約「三千万年前」の地球に、現代の科学技術を遥かに凌駕するオーバーテクノロジーを有した、全く別の文明が存在していたという可能性だ。

私はこれを『超古代文明』と定義している

 

「……三千万年前、って……」

 

乾いた声が漏れた。人類の祖先である猿人すら、影も形もない時代だ。

だが、教授のノートに綴られたその荒唐無稽な仮説は、嫌になるほどの熱量と、

緻密なデータによって裏付けられていた。

 

機械の不具合なら、壊れたパーツを見つけ出せば直すことができる。

原因不明のエラーでも、コードを一行ずつ追いかければいつか必ず答えに辿り着く。

でも、もしこの「世界の歴史」そのものが、根底から致命的なバグを抱えていたとしたら。

 

不安に駆られながらさらにページを捲ると、その『超古代文明の滅亡理由』についての恐ろしい考察が記されていた。

 

『……仮説。極めて高度な技術を持っていたはずの超古代文明の滅亡要因は、気候変動でも巨大生物の襲来でもなく、ある種の「植物」であった可能性が捨てきれない。

発掘された一部の化石化した肺組織から、未知の黄色い花粉の痕跡が確認された。

伝承によれば、その花は嗅いだ者の脳神経に直接作用し、究極の快楽と永遠の夢を与え、

あらゆる苦痛を忘れさせるという。

 

人類は自らその花にすがり、現実の問題を放棄し、進化を止めた。

いわば、終わりのない夢に溺れたままの「緩やかな自死」だ。

なぜ彼らは滅んだのか? 違う、彼らは自ら滅びを「選んだ」のだ。もしこの花が存在するなら、それは知的生命体に対する最も完璧で、最も残酷な生物兵器である――』

 

背筋に冷たいものが走った。

痛みも苦しみもない、完璧な夢の世界。

一見すれば救済にも思えるその花の効能が、俺には酷くおぞましいものに思えた。

現実の痛みを直視せず、自ら考えることをやめてしまうなんて、それはもう生きているとは言えない。

 

震える指でさらにページを捲ると、びっしりと書き込まれた仮説の余白に、見慣れた教授の丸っこい字で小さなメモが残されていた。

 

『この未知の建築構造、鈴木君がゼミで発表していた最新の構造力学の理論を当てはめれば、

 解明の糸口が見えるかもしれない。彼が卒業するまでに、一度意見を聞いてみたいものだ』

 

「教授……」

 

自分の研究に没頭しながらも、いつも俺たち学生のことを気にかけてくれている、あの温かい笑顔が目に浮かぶ。

こんな突飛な説を研究しながらも、教授は本気で俺の知識や努力を買ってくれていたのだ。

 

震える指で最後のページを捲る。

そこには、海外の乾燥地帯にある地下深くの洞窟で発見されたという、古代遺跡の壁画の写真がクリップされていた。

 

「……なんだ、これ」

 

それは、単なる狩猟の記録などではなかった。

 

大地を割って現れた三体の巨大な獣と、空を覆い尽くす有翼の悪魔の群れ。

燃え盛る炎の中を、無数の人間たちが絶望に顔を歪めながら逃げ惑う地獄絵図が、生々しい顔料で描かれている。

だが、一番恐ろしいのはそれではない。

逃げ惑う人間たちのさらに後ろ、壁画の背景全体を塗りつぶすように描かれた「黒い霧」と、

そこから覗くアンモナイトのような巨大な殻のシルエット。

 

――今朝の悪夢で見た光景と、完全に一致している

 

これは絵じゃない。後世へ向けた『警告』だ。

『この絶望を忘れるな』と、『あの闇を二度と目覚めさせるな』と、

過去に滅びた人類が血を吐くような思いで岩肌に刻み込んだ、悲痛なメッセージ。

 

荒唐無稽な作り話の中に紛れ込んだ、わずかな真実。

教授の集めたアナログな資料が、システムが告げた『超古代の厄災』という言葉と、不気味なほど完璧にリンクしていく。

 

「ただの都市伝説じゃない……この世界は一度、大昔に滅んでるんだ……」

 

逃げ場のない真実に触れてしまった恐怖で、膝の震えが止まらない。

持っていたファイルが手から滑り、バサリと床へ落ちた。

 

その時だった。

 

『クエスト【超古代の痕跡を観測・調査せよ】をクリアしました』

 

視界を覆うように、青白いウィンドウが激しく明滅した。

無慈悲なシステム音が、俺の脳内に響き渡る。

 

『報酬:スキル【超古代言語理解 Lv.1】を取得しました』

 

「――っ、ガ、ぁ……っ!?」

 

直後、脳の奥底に直接、熱く焼けた鉄串を突き立てられたような激痛が走った。

見たこともない象形文字の羅列、未知の文法、失われた古代語の発音が、大容量のデータを無理やりダウンロードされるかのように、暴力的な速度で脳細胞へ刻み込まれていく。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

床に両手をつき、必死に荒い息を吐き出す。

激痛が引いた頭の中には、確かに、先ほどまで知る由もなかった「超古代の言語」の知識が深く根付いていた。

 

もう、疑いようがない。

これは幻覚でも夢でもない。

超古代の厄災も、俺の脳をハッキングしてくるこの不気味なシステムも、間違いなく現実に存在している。

 

俺が恐怖で青ざめながら息を整えていると、明滅を終えた青い光がさらに大きく広がり、視界全体を覆っていった。

 

 

=========================================

【SYSTEM BOOT】

▶ 観測対象:スズキ・トモル

▶ 所持ポイント(SP): 0

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[BASE STATUS]

┣ 演算処理能力: G

┣ 空間認識力 : G

┣ 反応速度 : G

┗ G耐性/肉体: G

 

[ACTIVE SKILL]

▼ 開発・知識ツリー

┣【超古代言語理解 Lv.1】(NEW)

┗ ------

▼ 操縦・戦闘ツリー

┣ ------

┗ ------

▼ 特殊・解析ツリー

┣ ------

┗ ------

=========================================

 

 

「……な、んだ……これ……」

 

冷たすぎる青い文字の羅列。

『スズキ・トモル』という俺の名前と、あまりにも無力な現実を示すオール『G』の評価。

俺という存在そのものが、すでにこの未知のシステムによって数値化され、管理下に置かれている。

 

逃げることなんて、最初からできなかったんだ。

 

薄暗い研究室の床に座り込んだまま、俺は目の前に広がる無機質なUIを静かに見つめた。

圧倒的な絶望感。けれど、不思議とパニックにはならなかった。

もし、このふざけたシステムが示す通り、本当にあの地獄絵図のような未来が来るのだとしたら。

学食で笑い合っていたあいつらの日常も、この優しくて真面目な教授の人生も、すべてあの悪夢のような怪物に理不尽に奪われてしまう。

 

「……やってやるよ」

 

震える拳を、ゆっくりと握りしめる。

まだ、俺に何ができるかは分からない。だけど、機械の修理と同じだ。絶望的なバグがあるなら、自分の手で一つずつ解き明かして、修正していくしかない。

 

俺は、ホログラムの放つ冷たい光を、まっすぐに睨み返した。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回はスマートフォンなどでも読みやすいよう、あえて長めの改行や空白(行間)を多めに取ってみたのですが、読み手側として「見づらい」「不自然」といった苦痛やストレスになっていないでしょうか……?
もし「こうした方がもっと読みやすいよ」といったご意見や改善点があれば、
ぜひお気軽に感想やコメントで教えていただけると嬉しいです!

また、今回が初めての小説投稿ということもあり、ハーメルンのサイトシステムの使い方や、こうした方がより良く読める等々、不慣れな部分がたくさんあります。
アドバイスやご指摘なども大歓迎ですので、ぜひよろしくお願いいたします!

次回(第3話)も、主人公の泥臭い足掻きをしっかり描いていきますので、お楽しみに!
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