鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略—— 作:カノープス・ギア
現実の重力を前に、灯自身の限界と、仲間たちが作り上げた装具の力が試されます。
果たして、試作0号はどこまで灯を支えられるのか。
どうぞお楽しみください!
2005年5月20日。
俺たちは、埼玉県内にある防衛庁の研究施設へ来ていた。
正門で身分証を預け、持ち込んだ機材の一覧と封印番号を確認される。携帯電話やカメラは受付の保管箱へ入れ、施設内で撮影できるのは、許可を受けたTPCの記録担当だけだった。
案内された建屋は、体育館ほどの大きさがあった。
防音扉を抜けた瞬間、まず音が来た。
低く、腹の底まで響く唸り。
そして、その正体が視界に入った。
遠心加速度装置。
床の中心から伸びた巨大なアームが、直径10数メートルの円を描いて回っている。先端には白いカプセル状のゴンドラがあり、その中へ人間を乗せ、旋回によって頭から足へ向かう加速度を再現する。
「……でけぇ」
ゴウが、口を開けたまま見上げていた。
「これ、人間を乗せたまま振り回すんだよな」
「そうだ」
答えたのは、俺たちを案内してきた男だった。
「黒木だ。昔は飛んでいた。今は、こいつの管理と被験者の訓練を担当している。今日はよろしく頼む」
元パイロットらしい。
黒木さんは俺たちではなく、ゴウと健三さんが運んできたケースへ目を向けた。
「それが例の試作装具か。君たちが作ったものだな」
「……はい」
「見せてもらえるか」
俺は留め具を外し、加速度支持外骨格・試作0号を取り出した。
重量8キロ。人体に沿わせた半拘束フレーム、脚部と腹部の加圧袋、12系統の電磁弁、腰部の圧力源。制御基板と無数のチューブが、金属の骨格に絡みついている。
黒木さんはしゃがみ込み、しばらく無言で調べた。
加圧袋を指で押し、チューブの取り回しを確認する。首部フレームを動かし、手動解除レバーを引き、最後に電源喪失時の開放弁を指で弾いた。
「……悪くない」
「ありがとうございます」
「ただし、性能を褒めたわけじゃない」
黒木さんは、開放弁をもう一度叩いた。
「こいつがどこで壊れ、壊れたときに何が起きるかを先に考えてある。その点が悪くないと言った」
ゴウが、なぜか自分のことのように胸を張った。
「それ、うちの親父の考えです」
「なら、親父さんは分かっている」
黒木さんは健三さんを見た。
「機械は壊れる。安全ってのは、壊れないことじゃない。壊れても人間を道連れにしないことだ」
健三さんは、照れたように鼻を鳴らした。
「町工場じゃ、当たり前の話ですよ」
そのやり取りを、TPC技術評価担当の久保田さんが黙って記録していた。
今日ここにいるのは、俺、ゴウ、澄人、教授、健三さん、真壁先生。そしてTPCから久保田さんと技官2名。
試作0号は、もう俺たちだけの工作物ではなかった。
初めて、外部の設備と専門家によって試される。
その事実が、遠心機の唸りよりも重く胸に響いていた。
◇◇◇
試験前の説明は、30分以上続いた。
黒木さんがホワイトボードに、人間を横から見た図を描く。
「今日かけるのは、頭から足へ向かう正のGだ。血液が下半身へ引かれ、脳へ届く圧が足りなくなる。視野が狭まり、判断が鈍り、最後は意識を失う」
黒木さんは、図の頭部を指した。
「ただし、何Gで症状が出るかは人によって違う。加速度の立ち上がり方、継続時間、座席角度、呼吸、疲労、脱水でも変わる。数字だけを競うな」
「はい」
「まず、装具なしで基準値を取る」
「……何も着けずに、ですか」
「装具の効果を語るなら、お前さん自身の基準が要る。比較対象なしの最高値なんざ、宣伝にはなっても試験データにはならん」
黒木さんは、俺を真っ直ぐ見た。
「もう1つ。遠心機は我慢大会じゃない」
「分かっています」
「分かってない顔だな」
言い返せなかった。
遠巻きに見ているTPCの技官たちからは、学生の工作に国家設備を使うことへの疑念が伝わってくる。
ここで数字を出さなければならない。
そう考えた瞬間だった。
「今、意地でも結果を出してやろうと思っただろ」
黒木さんが、俺の顔を覗き込んだ。
「……少し」
「捨てろ。遠心機は、意地を張った奴から落ちる」
彼はゴンドラのハッチを開いた。
「怖がれ。怖がっているうちは、自分の異常を正しく報告できる。視界が暗い、耳鳴りがする、返事が遅れた。どんな小さなことでも言え」
「はい」
真壁先生も、俺の前に立った。
「中止の判断は私と黒木さんが行います。あなたが続けると言っても止めます。異議は認めません」
「……はい」
「それから、今日の試験は成功させるためではありません。危険な条件を見つけるためです。そこを忘れないでください」
俺は、もう一度だけ遠心機を見上げた。
4月30日、所持SPは3万を超えていた。
視界の隅には、ずっと表示が出ている。
【マクロス初代・統合技術パック:購入可能】
けれど、まだ購入していない。
今日検証するのは、これまでの知識と、俺たちが現実に作った試作0号だ。試験直前に巨大な知識パックを流し込み、設計思想や俺自身の状態を変えれば、ここまで積んだ比較条件が崩れる。
それに、中級知識を得たときの激痛を思えば、人体試験の直前に買う気にもなれなかった。
まず、今の俺たちがどこまで届いたのかを測る。
新しい知識を得るのは、そのあとだ。
◇◇◇
ゴンドラの中は、想像以上に狭かった。
後ろへ傾けられた座席に身体を固定され、胸に心電計、腕に血圧測定用のカフ、指先に脈波センサーを付けられる。正面には複数のランプと、点灯した色に応じてボタンを押す反応課題が設置されていた。
右手には緊急停止レバーがある。
だが、高G下で本当に腕を動かせるかは分からない。
「聞こえるか」
ヘッドセットから黒木さんの声がした。
「聞こえます」
「最初はゆっくり上げる。視覚、聴覚、呼吸、手足の感覚を報告しろ。返事が遅れた時点で、こちらから止める」
「了解です」
低い唸りが大きくなった。
身体が座席へ沈み込む。
回っている。
2G。
自分の身体が、もう1人分上へ積み重なったように重い。腕を動かすにも、普段の倍の力が要る。
「2G、異常ありません」
3G。
頬が下へ引かれる。胸郭が重く、息が浅くなった。
「3G、呼吸が少し重いです」
3.6G。
視界の外側から、色が薄くなり始めた。
「周辺視野、色が落ちています」
「そのまま報告を続けろ」
4G。
視界が細い筒になった。
正面のランプは見える。だが、その周囲が灰色に沈んでいる。点灯した色へ反応しようとしても、指が重い。
「4G……視野、かなり狭いです」
4.2G。
ランプが点いた。
押したつもりだった。
だが、指は動いていなかった。
黒木さんの声が遠くなる。
「鈴木、色を言え」
「……あ……」
言葉が出ない。
「中止」
真壁先生の声が聞こえた直後、身体を押さえつけていた重さがゆっくり抜けていった。
◇◇◇
ハッチが開いたとき、俺は自分の足で立てなかった。
「座ってろ。急に立つな」
黒木さんが肩を支え、床へ座らせる。
10秒ほどで視界は戻ったが、頭の奥がずきずきした。指先には、細い電流が流れているようなしびれが残っている。
「……何Gまで」
「4.2G」
久保田さんが記録を読み上げた。
「反応課題の未実施と発語遅延を確認。意識消失前に中止しています」
「……4.2」
黒木さんが隣へしゃがんだ。
「訓練を受けていない人間なら、珍しい数字じゃない。恥じるな」
慰められていると分かるからこそ、苦しかった。
ペナルティゾーンでは、ゴルザの攻撃を避けながら、何度も機体を旋回させてきた。
その経験から、俺は自分が飛べるつもりになっていた。
だが、システムが与えた環境の体感が、現実の人体負荷と同じだった保証はどこにもない。
操縦の判断や計器の読み方は身体に残っている。
けれど、俺の血管も心臓も、あの場所では鍛えられていなかった。
現実の俺は、4.2Gで反応できなくなる。
「灯」
ゴウが水のボトルを差し出した。
「……悪い」
「なんで謝るんだよ。基準が分かったんだろ」
俺はボトルを受け取り、試作0号へ目を向けた。
「次だ」
ゴウが言った。
「お前だけの試験じゃねぇ。俺ら全員で作ったんだからな」
◇◇◇
装着前には、もう一度安全確認が行われた。
空気漏れ。弁の応答。電源遮断時の自動開放。手動解除。フレームの固定部。チューブが座席やハーネスに挟まれないこと。
澄人が確認項目を読み上げ、健三さんが現物へ触れ、久保田さんとTPC技官が二重に記録する。
試作0号は俺の身体に合わせて作ってある。体格の違うゴウが代わりに試すことはできない。
だからこそ、俺が着る前に、人間を使わず確認できることは全部やった。
「灯くん」
健三さんが首部フレームの固定具を締めながら言った。
「これ、俺が削った部品だからな」
「はい」
「壊れたら俺の責任だ」
「壊れませんよ」
「違う」
健三さんは手を止めた。
「壊れることはある。だから、壊れてもお前が外せるように作った。そこを間違えるな」
「……はい」
「よし」
最後に真壁先生が、脚部と腹部へ指を入れ、初期圧と皮膚の状態を確認した。
「しびれ、痛み、呼吸苦。どれか1つでも出たらすぐ言うこと」
「分かっています」
「今日は、その言葉を信用しません。返事と反応課題をこちらで見ます」
俺は苦笑して、ゴンドラへ乗り込んだ。
「装具試験、1回目。呼吸法の訓練前だ」
黒木さんの声が響く。
2G。3G。
センサーが反応し、腰部の弁が連続して開いた。
脚が締まる。腹が締まる。
圧迫は強いが、試作段階で起きたようなしびれはない。
4G。
視界が消えない。
「4G、視野正常です」
「反応課題も正常。上げる」
4.5G。
正面だけではなく、ランプ盤の縁まで見えている。
胸の奥が震えた。
俺が条件を出し、健三さんが削り、澄人が制御を書き、ゴウが材料と人をつなぎ、真壁先生が何度も止めた。
その積み重ねが、今、俺の血液を下半身へ落とさないよう支えている。
5G。
腹部の加圧で呼吸が苦しい。
俺は反射的に口を開き、大きく息を吸った。
5.5G。
視界が急に灰色へ沈んだ。
「視界——」
そこまでしか言えなかった。
「中止!」
真壁先生の声が飛んだ。
◇◇◇
「呼吸だ」
負荷が抜けたあと、黒木さんは開口一番そう言った。
「お前、苦しくなって普通に息を吸っただろ」
「……はい」
「装具だけじゃ足りない。高G下では、脚、尻、腹の筋肉を強く締めて、胸腹部の圧を保つ。息は2.5秒から3秒ごとに、短く交換する」
黒木さんは、自分の腹と太腿へ力を入れて見せた。
「全部吐くな。力を抜く時間を作るな。短く吐いて、すぐ吸う。それ以外の間は、下半身と腹を締め続ける」
「息を止め続けるんじゃないんですか」
「止め続けたら、心臓へ戻る血まで減る。呼吸交換は要る。だが、そこで身体の力を抜けば、一瞬で頭から血が落ちる」
俺は、言葉を失った。
上級の流体力学を持っている。
加圧応答を0.06秒まで縮め、血液の移動を計算し、装具を作った。
それでも、実際に高Gを浴びる人間がどう身体を使うのかを、俺は知らなかった。
知識として説明できることと、身体で実行できることは違う。
「……教えてください」
俺は、頭を下げた。
「頼む前に立て。休憩したら、床で練習だ」
黒木さんは、そう言って笑った。
それから1時間、俺は対G動作を叩き込まれた。
脚、臀部、腹部を同時に締める。2.5秒から3秒。短く息を交換し、すぐにまた踏ん張る。
数回繰り返しただけで顔が熱くなり、5分も続ければ全身から汗が噴き出した。
「喉だけでいきむな。腹と下半身を使え」
黒木さんの平手が、力の抜けた腹部を軽く叩いた。
「肩が上がってる。上半身に余計な力を入れるな」
「はい」
「返事のときに抜くな!」
「っ、はい!」
「そうだ。その圧を残せ」
黒木さんは、初めて少しだけ頷いた。
「体幹は悪くない。何かやっていたか」
「毎朝走っています。体幹の訓練も」
「何のために」
俺は、少し迷ってから答えた。
「……いつか、乗るためです」
黒木さんは俺をしばらく見ていた。
そして、それ以上は訊かなかった。
「この動作が身につくまで、普通はどれくらいかかりますか」
「反射でできるようになるまでなら、何百回だ」
事もなげに言われた。
「俺たちは新人の頃、身体に覚えさせるだけで長い時間を使う。今日1日で形にしようって考えが、そもそも無茶なんだ」
「……はい」
「それでも、今日は試験だ。形だけでも再現できるかを見る。英雄になる必要はない」
その言葉を、俺は何度も頭の中で繰り返した。
◇◇◇
午後3時。
装具を再点検し、3回目の試験が始まった。
2G。3G。4G。
加圧は正常。
5G。
脚、臀部、腹部へ力を入れる。
2.5秒。
短く吐く。すぐ吸う。また締める。
視界は保たれている。
「5G、視野・反応とも正常」
6G。
身体の重さが異常だった。
頭が鉛の塊になり、腕は座席へ縫い付けられたように動かない。呼吸動作を1回行うだけで、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
それでも、正面のランプは見えていた。
点灯した色を答え、右手のボタンを押す。
「6G、反応正常!」
「よし。無理に喋るな。動作を優先しろ」
6.5G。
短く吐く。吸う。締める。
7G。
身体が座席の一部になった。
どこまでが自分の重さで、どこからが機械の圧力なのか分からない。
それでも見えている。
7.2G。
ランプが青く点いた。
俺は青だと認識した。
指を動かそうとした。
その瞬間。
ぷつり、と糸が切れた。
◇◇◇
「鈴木さん。聞こえますか」
真壁先生の声で目を開けた。
ゴンドラはすでに停止し、ハッチが開いていた。外の照明が、異様に眩しい。
「……あれ」
「短い意識消失がありました。こちらで負荷を落としています」
「意識、が」
飛んだ自覚はなかった。
青いランプを見た次の瞬間には、真壁先生の顔があった。
「視野は、狭くなっていませんでした」
「最後の報告でも、視覚症状はありません」
真壁先生は記録モニターを指した。
「ただし、7Gを超えたところから反応時間が遅れ、発語が途切れています。視界の異常を自覚するより先に、認知と運動反応が落ちた可能性があります」
黒木さんが腕を組んだ。
「急にGが立ち上がると、いつも都合よくグレーアウトが先に来るとは限らん。装具で下半身への血液移動を抑えられたぶん、本人が危険を自覚するまでの形も変わった」
「つまり」
「自分の感覚だけでは、中止の判断が間に合わない」
背筋が冷たくなった。
装具は、俺を守った。
4.2Gで反応できなくなった俺を、7Gを超えるところまで運んだ。
だが同時に、危険の現れ方も変えていた。
守る機能を強くしたことで、今まで頼っていた警告を見失った。
鳴瀬の谷に置いた観測箱が頭に浮かんだ。
地磁気、温度、振動。
町を直接守ることはできない。だから、危険を先に知らせる機能を付けた。
守ることと、知らせることは別だ。
自分で設計したはずの原則を、自分が着る装具には入れていなかった。
「……作り直します」
俺は、まだ震える声で言った。
「装具に警告機構を入れます。加速度の履歴、反応時間、脈波、心拍を組み合わせる。危険域へ入ったら、本人と外部の監視側へ同時に通知する」
久保田さんが、記録から顔を上げた。
「本人へは、どう知らせるつもりですか。高G下では表示を見る余裕がありません」
「振動です。腰か肩へ、通常の加圧と区別できるパターンで」
「警告を認識できない段階なら」
「機体側にも出力します。将来的には、操縦入力から予測されるGと組み合わせて、上限を超える操作へ警告を出す。必要なら、管制にも送る」
黒木さんが片眉を上げた。
「勝手に操縦を奪う装置にするなよ」
「はい。まずは知らせるだけです。介入させるとしても、操縦者が解除できる段階を残します」
「なら、試す価値はある」
久保田さんは、そう言って新しいページを開いた。
◇◇◇
集計が終わったのは、夕方だった。
白板に、3つの結果が並んだ。
素の状態 :4.2G(反応遅延により中止)
装具・対G動作なし :5.5G(視覚症状により中止)
装具・対G動作あり :7.2G(短時間の意識消失)
久保田さんは、チョークを置いた。
「未訓練の被験者1名、試験日1日の結果です。再現性も個人差も、まだ評価できません」
最初に釘を刺してから、試作0号へ目を向ける。
「それでも、装具と対G動作を組み合わせた際に、基準値から大きく耐性が伸びたことは確認できました」
TPCの技官2人が、今度は疑う目ではなく、図面と試験記録を見比べていた。
「訓練されたパイロットは、標準装備と対G動作を組み合わせ、より高い負荷へ耐えます。今日の結果だけで、それに並んだとは言えません」
黒木さんも頷いた。
「7.2Gへ届いたことより、そこで意識が落ちたことを忘れるな。実戦なら3秒でも機体は墜ちる」
「はい」
「ただし」
久保田さんは、試験報告書へ一行を書き込んだ。
「訓練をほとんど受けていない被験者に対し、装具が対G動作の効果を大きく補助した可能性はある。継続開発を推奨します」
俺は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼は、欠陥を潰してからにしてください」
事務的な声だった。
けれど、初めて会ったときより、ほんの少しだけ柔らかかった。
◇◇◇
帰りの車内で、ゴウはずっと喋っていた。
「7Gだぞ、7G! 俺なら2Gで吐く!」
「お前は乗る前に吐く」
澄人は、ノートパソコンへ試験データを入力しながら答えた。
「うるせぇ! でもすげぇだろ! 親父のフレーム、7Gで壊れなかったんだぞ!」
「壊れなかったことより、電源断試験で開いたことを喜べ」
健三さんが窓の外を見たまま言った。
「壊れなかっただけじゃ、次も壊れない保証にはならねぇ」
「……はいはい」
後部座席では、教授が腕を組んで眠っていた。真壁先生は別の車で施設を出ている。
俺は膝の上に置いた試作0号のケースへ手を添えた。
初めて、結果が数字になった。
4.2Gから、7.2Gへ。
俺自身の肉体が強化されたわけではない。
それでも、俺たちが作ったものを身につけたぶんだけ、現実の俺は先へ進めた。
視界の隅に、青いウィンドウを開く。
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▶ BASE STATUS
G耐性/肉体:F
※外部装具および対G動作による実効補正を確認。
現在の実効耐性は【D相当】と推定されます。
※本補正はステータス値へ反映されません。
※継続時間・負荷方向・装着状態により変動します。
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俺は、その表示を見て笑った。
このシステムは、SPを払わなければ何も寄越さない。
だが今日、俺たちはSPを1ポイントも使わず、実効耐性を2段階引き上げた。
買えないものは、作ればいい。
「……なんだよ、その顔」
ゴウが覗き込んでくる。
「別に」
「数字が伸びたからって、にやつくなよ」
「お前が一番喜んでただろ」
「俺は親父の部品が壊れなかったことを喜んでんだよ!」
「さっき健三さんに怒られただろ」
車内に笑い声が広がった。
夕暮れの高速道路を、車は東京へ向かって走っていた。
その夜。
アパートへ戻った俺は、ノートを開いた。
『加速度支持外骨格・試作1号 要求仕様』
最初の項目へ、太い線を引く。
『警告機構を最優先で実装すること』
その下へ、さらに書き足した。
『本人の感覚だけに依存しない』
『故障時は安全側へ移行する』
『装具単体ではなく、訓練・機体制御・外部監視を含めて設計する』
そして最後に、1行だけ残した。
『守るだけでは、足りない』
ペンを置き、天井を見上げる。
7.2G。
3年後、俺が乗ろうとしているものが、どれほどの負荷を生むかはまだ分からない。
遠い。
だが今日、初めてその距離を、現実の単位で測ることができた。
机の横では、青いウィンドウが静かに浮かんでいた。
【マクロス初代・統合技術パック:購入可能】
今度は、手が届いている。
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【現在のステータス・スキル情報】
[BASE STATUS]
┣ 演算処理能力:D
┣ 空間認識力 :D
┣ 反応速度 :D
┗ G耐性/肉体:F(装具+対G動作時:D相当)
[ACQUIRED SKILLS & KNOWLEDGE]
┣【超古代言語理解 Lv.2】
┣【初級・機械工学/プログラム言語】
┣【中級・航空力学/制御アルゴリズム】
┣【上級・次世代エネルギー/流体力学】
┣【インファイト Lv.1】
┗【SPアップ Lv.1】
[SYSTEM DATA]
┣ 所持ポイント:31,550 SP
┣ 残機数 :3 / 3
┣ 実測値 :素 4.2G / 装具+対G動作 7.2G
┣ 開発中 :加速度支持外骨格 試作1号(警告機構の実装へ)
┗ OT領域 :【マクロス初代・統合技術パック】購入可能
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第21話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、試作0号が初めて実際の高G環境へ挑むお話でした。
装具は灯を守り、これまで届かなかった場所まで運びました。
しかし、守る力が強くなれば、新たな危険も生まれます。
限界を知った灯たちは、試作1号の開発へ進みます。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。