鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略—— 作:カノープス・ギア
2
005年12月23日。
その夜、俺はほとんど眠れなかった。
目を閉じるたび、海底観測ユニットの最後の記録が浮かんだ。
水温計の急上昇。
振り切れた磁力計。
深度の異常変化。
そして、途切れた通信。
俺たちが作った観測点は、異常が起きれば海底の錘を切り離し、自力で浮上するよう設計していた。電源が落ちても解除できる機械式の仕組みまで入れた。
それでも、第1観測点の海底ユニットは帰ってこなかった。
(……帰る暇さえ、なかったのか)
布団の中で天井を見つめながら、何度も同じ問いを繰り返した。
何が壊した。
なぜ今だった。
俺たちが近づいたから、反応したのか。
答えは出ない。
夜明け前、俺は布団を出た。
眠っていない身体は鉛のように重かったが、いつもの距離だけは走った。冬の空気を肺へ入れ、白い息を吐きながら、足を前へ運ぶ。
考えがまとまったわけではない。
ただ、止まったまま朝を待つよりはましだった。
◇◇◇
始発でTPCへ向かうと、技術評価室の会議室には、すでに久保田さんと海洋調査班の技官たちが揃っていた。
全員、徹夜明けの顔をしている。
壁のスクリーンには、伊豆諸島東方に配置した3組の観測点が表示されていた。
海面の中継ブイは3基とも生きている。
失われたのは、そのうち第1中継ブイの直下、水深約1,000メートルに設置した海底観測ユニットだった。
「状況を整理する」
久保田さんの声は掠れていた。
「昨夜23時40分、第1観測点で第1段階警報が発生。地磁気、微振動、水温の3項目が平常範囲を外れた。その7秒後に第2段階へ移行した」
表示が切り替わる。
水温計は、平常時の値から一気に上昇し、80℃を超えたところで計測上限に達していた。
「この80℃は、周辺海水全体の温度を意味しない」
海洋調査班の技官が補足した。
「センサーへ高温の流体が直接当たった可能性もある。局所的な噴出か、構造物表面との接触か。現時点では分からない」
「緊急浮上は」
俺が尋ねると、久保田さんは別のグラフを開いた。
「開始信号は出ている。錘の切り離し回路にも通電した。だが、浮上を示すデータはない」
最後の0.3秒だけを拡大したグラフが映る。
深度値が急激に変化し、支持フレームのひずみセンサーは校正範囲を振り切っていた。直後、すべての通信が切れている。
「正確な力は算出できない」
俺は画面を睨んだ。
「センサーが上限を超えてる。少なくとも、設計時に想定した海流やケーブル張力では説明できません」
「海底地滑りは」
「候補には残ります。ただ、継続時間が短すぎる。高温流体の噴出で弾かれた可能性もあります」
頭の中で、複数の条件を組み直す。
【技能適用:『上級・次世代エネルギー/流体力学』】
【技能適用:『中級・航空力学/制御アルゴリズム』】
海底地滑り。
熱水の噴出。
局所的な圧力変動。
磁場異常による制御系の停止。
構造物そのものの変形。
どれも完全には否定できない。
「……何かに狙って壊されたようにも見えます」
口にした瞬間、久保田さんが首を横に振った。
「そこから先は推測だ」
「はい」
「相手に意思があると決めれば、すべての異常が攻撃に見える。意思がないと決めれば、警告を見落とす。どちらにも寄るな」
その言葉に、俺は息を吐いた。
「分かりました。現時点で確認できるのは、高熱と大きな外力がほぼ同時に発生し、緊急浮上が完了する前に海底ユニットが失われたことだけです」
「ああ。それでいい」
怖いからこそ、言葉を正確にしなければならない。
鳴瀬で覚えたはずのことを、俺はもう一度、胸の中で繰り返した。
◇◇◇
「鈴木君。もう一つ聞きたい」
久保田さんが、俺の前へ資料を置いた。
「黒岩、樽内、鳴瀬で得た記録に、今回と似た反応はないか」
「確認します」
すでに何度も見た波形を、もう一度開く。
黒岩では酸素濃度が落ちた。
樽内では青白い発光と磁場の揺れがあった。
鳴瀬では地下水と温度が連動していた。
だが、短時間で80℃を超える熱も、観測装置を失うほどの外力も記録されていない。
「……ありません」
「超古代の記録には」
「7基の炉と、大地の脈に関する記述はあります。ただ、この海底構造が炉なのか、炉を支える設備なのか、それとも別のものなのかは分かりません」
「君の仮説でも、か」
久保田さんは、しばらく俺を見ていた。
「君は時々、まだ観測されていないことを知っているように話す」
心臓が強く打った。
「説明できない根拠を抱えていることも、分かっている。だが、これまでは結果が伴っていた。だから、私は無理に聞かなかった」
逃げ道を探すより先に、久保田さんは視線をスクリーンへ戻した。
「その君が分からないと言う。正直、それが一番怖い」
「……俺もです」
嘘ではなかった。
俺の前世の記憶に、この海底構造は存在しない。
俺が知っているのは、数年後にゴルザとメルバが現れ、光の巨人が目覚めること。その先に、いくつもの怪獣と侵略者が待っていること。
けれど、あの物語で映されたのは、起きた事件の一部だけだ。
画面に映らなかった海の底。
語られなかった研究。
事件になる前に消えた異常。
現実になったこの世界には、前世で観た物語の外側がある。
俺が地図だと思っていたものは、全体図ではなかった。
通った道にだけ線が引かれ、その周囲には、広い余白が残っていたのだ。
(……俺は、全部を知っていたわけじゃない)
当たり前の事実が、今になって骨の内側へ沈んでいく。
だからといって、立ち止まる理由にはならない。
地図にないなら、観測して線を引く。
俺の目だけで足りないなら、他の誰かの目を借りる。
それが、この1年半で俺が覚えた方法だった。
◇◇◇
午後、大学へ戻る前に保健管理センターへ寄った。
奏は休養室にいた。
ベッドへ半身を起こし、真壁先生から渡された記録用紙へ何かを書き込んでいる。
顔色は悪い。それでも、俺が入るとペンを置いた。
「鈴木さん」
「体調はどうですか」
「昨日よりは落ち着きました。でも、昨夜はひどかったです」
真壁先生も室内にいた。
「本人の同意を得て、昨夜の症状についてはTPCへ時刻だけ共有してあるわ」
彼女が示した記録には、23時40分の前後に、頭痛と吐き気が急激に強くなったことが書かれていた。
第1観測点が異常を記録した時刻と重なる。
相関はある。
だが、これだけで原因を決めることはできない。
「白石さん」
問いかけてから、俺は一度言葉を選び直した。
「話したくないことは、話さなくて大丈夫です。昨夜、いつもと違う感覚があったなら、教えてもらえますか」
奏は小さく頷いた。
「音が急に大きくなりました。音というより、頭の奥を押される感じです」
「痛み以外には」
「……感情に例えるなら、苛立ちに近かったです」
奏は、自分の言葉を確かめるようにゆっくり続けた。
「でも、人の感情を感じたときとは違います。もっと輪郭が粗くて、大きい。眠っているところへ触れられて、反射的に振り払ったような……」
「ブイを狙って壊した、という意味ですか」
「そこまでは分かりません」
奏はすぐに否定した。
「私が勝手に、そういう形へ置き換えているだけかもしれないです。数字でも、言葉でもないものを、人間の感情に例えているだけなので」
その慎重さに、少し救われた。
奏は自分の感覚を絶対視していない。
感じたものを伝えながら、どこからが解釈なのかを分けようとしている。
「もう一つだけ」
奏の指が、記録用紙の端を押さえた。
「昨夜、あれが大きくなった瞬間に、見られた気がしました」
「見られた?」
「はい。私が向こうを感じているのと同じように、向こうも一瞬だけ、こちらへ触れたような」
休養室の空気が冷えた気がした。
「気がしただけです」
奏は念を押した。
「場所も、誰を見たのかも分かりません。だから、事実みたいに扱わないでください」
「分かりました」
俺はそう答えたが、胸の奥には別の恐怖が残った。
一方通行ではない可能性。
奏が海底の何かを感じ取れるなら、海底の何かも、奏を経由してこちらを知るかもしれない。
それはまだ仮説にさえ届かない、不安の形をした想像だ。
だからこそ、奏本人へ背負わせてはいけない。
「鈴木さん」
「はい」
「私の記録、役に立ちますか」
声は弱かったが、目は逸らさなかった。
役に立ちたい。
自分の感覚を欠陥ではなく、人を守る力として扱いたい。
その思いを、俺は否定したくなかった。
「役に立つ可能性はあります」
正直に答えた。
「でも、役に立つことと、無理をすることは別です。何を記録するか、どこまで共有するかは、白石さんが決めてください。俺たちが集中するよう頼んだり、反応を確かめるために近づけたりはしません」
「……はい」
「数値にできない日は、『分からない』でいいです。感じない日があっても、それは失敗じゃありません」
奏はしばらく俺を見ていた。
「鈴木さん、前より言うことがまともになりましたね」
「前がひどすぎたんです」
「否定はしません」
かすかな笑みが浮かんだ。
その笑顔を見て、少しだけ呼吸が楽になった。
「それと」
俺は続けた。
「役に立つかどうかより、白石さんが無事でいるほうが大事です」
奏の目がわずかに見開かれる。
俺も言ってから、自分の声が思った以上にまっすぐだったことに気づいた。
けれど、撤回する気はなかった。
奏は目を伏せ、それから小さく頷いた。
「……分かりました。無理をしそうになったら、真壁先生に止めてもらいます」
「自分でも止まって」
「鈴木さんもです」
「努力します」
「そこは約束してください」
真壁先生が横から口を挟んだ。
「2人とも、似たような顔をして何を譲り合ってるの」
返す言葉がなく、俺と奏は同時に黙った。
◇◇◇
大学へ戻る電車の中で、俺はノートを開いた。
今までなら、頭に浮かんだことを一列に並べていた。
今回は、ページを3つに分けた。
【観測された事実】
・伊豆諸島東方の海底下に、現在の探査範囲では端を確認できない反射面がある
・海底構造へ接近した探査機に対し、地磁気、水温、微振動の変化が生じた
・活性試料は切り離された後も脈動を続けている
・第1観測点では、高温と大きな外力がほぼ同時に記録された
・同時刻、奏の症状が悪化した
【仮説】
・海底構造と活性試料は、何らかの相関を保っている
・調査や試料採取が、構造の活動を強めた
・海底構造は、既知の3地点と同じ超古代技術体系に属する
・奏の感覚は、海底側の変化と連動している
【分からないこと】
・構造の全体規模
・7基の炉との関係
・用途
・意思の有無
・活動が始まった本当の原因
・前世で知る出来事とのつながり
俺は、最初に書きかけていた一文を消した。
『海底構造は、日本列島規模である』
そんな証拠はない。
探査した範囲で端が見えなかったことと、日本列島ほど大きいことは同じではない。
次に、
『7基の炉を載せている』
という一文も、仮説へ移した。
怖いと、人は空白を答えで埋めたくなる。
けれど、分からないところを分からないまま残すことも、観測の一部だ。
(……なんで、今なんだ)
最後に残った疑問だけは、どの欄にも収まらなかった。
3000万年もの間、海底にあったかもしれないものが、なぜ今になって反応を強めたのか。
俺たちが試料を持ち帰ったからか。
観測装置を置いたからか。
それとも、もともと活動期が近づいていたのか。
俺が知る災厄まで、もう2年を切っている。
調査によって期限を早めた可能性を考えると、胃の奥が冷えた。
だが、まだ因果は証明されていない。
罪悪感を結論にしてはいけない。
もし俺たちが原因なら、止める方法を探す。
違うなら、迫っている変化を見逃さない。
どちらでも、やるべきことは同じだった。
◇◇◇
その夜、大学の研究室へ主要なメンバーが集まった。
俺、ゴウ、澄人、教授。
TPCからは久保田さんが来ている。
机の中央には、海域図と観測ログ。壁のホワイトボードには、俺が電車で分けた3つの欄を、そのまま書き写した。
「俺たちの調査が引き金になった可能性はあります」
俺は全員へ向き直った。
「でも、現時点で断定はできません。海底構造に意思があるとも、移動を始めたとも言えない」
ゴウが腕を組む。
「もし俺らが起こしたなら、俺らが責任を取らなきゃ駄目だろ」
「責任を取ることと、自分たちだけで片づけようとすることは違うよ」
教授が静かに答えた。
「相手の正体も分からんのに、罪悪感だけで近づけば、また刺激するかもしれない」
「じゃあ、何もしないのか」
「逆だ。余計な刺激を止めて、見るんだ」
久保田さんが海域図を指した。
「TPCは当面、海底構造への能動的な探査を停止する。試料採取、接触、強い音響照射は行わない。残る2地点では、受動観測だけを続ける」
「失った第1観測点の代わりは置かないんですか」
俺が尋ねると、久保田さんは首を横に振った。
「同じ場所へすぐ置けば、同じ結果を繰り返す可能性がある。まずは既存の海底地震計、海洋観測データ、船舶の記録を集める」
澄人がノートパソコンを開いた。
「観測点を増やすより、別々の機関がすでに持っている目をつなぐほうが早い」
画面に、必要な情報の一覧が現れる。
「地磁気、海底地震、水温、海流、音響、海面高度。それぞれ単独では意味が薄い。2種類以上が同じ時刻と場所で変化した場合だけ、詳細確認へ回す」
「白石さんの記録は?」
久保田さんが確認した。
「監視網の判定条件には入れない」
澄人は即答した。
「本人が共有を望んだ範囲だけ、医療記録として別管理する。機械の警報を、白石さんの体調で補正するような仕組みにはしない」
俺は小さく息を吐いた。
それでいい。
奏の感覚を無視はしない。
だが、彼女が苦しまなければ警報が出ない仕組みにもしてはいけない。
「警報が出たら、どうする」
ゴウが訊く。
「段階を分ける」
俺はホワイトボードへ書き加えた。
「第1段階は観測強化。第2段階は周辺海域の船舶へ注意喚起。熱源や海底活動として説明できる範囲で、漁船や調査船を遠ざける」
「その先は」
「島や沿岸への影響が予測されるなら、防災計画へ移す」
久保田さんが続けた。
「すぐに住民へ超古代構造の話をするわけにはいかない。だが、海底火山活動や地震性の異常として避難準備を進めることはできる。根拠のある範囲から、先に動かす」
「倒せなくても、逃がす時間は作れる」
ゴウが呟いた。
「ああ」
鳴瀬で学んだことは、相手の規模が変わっても消えない。
観測する。
記録する。
知らせる。
人を逃がす。
それは敗北ではない。
守るための、最初の仕事だ。
◇◇◇
「私は30年以上、一人で超古代の痕跡を追ってきた」
議論が一段落したところで、教授が口を開いた。
「一人で見られる範囲など、たかが知れている。自分の説に都合のよいものばかり拾った時期もあった。見落としたものも、きっと多い」
教授は、ホワイトボードの「分からないこと」を見つめた。
「だが、君たちが来てから、私の資料は他人の目にさらされた。間違いを指摘され、測り直され、別の分野の言葉へ置き換えられた」
ゴウが少し笑う。
「俺、難しいことは分かんねぇけどな」
「分からないと言ってくれる人間も必要なんだよ、相沢君。伝わらない説明は、説明したことにならんからね」
教授も笑い、それから久保田さんへ視線を向けた。
「私は昔、たった一人で世界を説得しようとして失敗した。今は違う。海を見る人、地面を見る人、機械を作る人、身体を診る人がいる」
湯呑みを両手で包みながら、静かに続ける。
「分からないものが大きいなら、こちらの目を増やせばいい。一人の確信より、何百の記録のほうが強い」
久保田さんが頷いた。
「海洋、地質、防災、医療。必要な部署と協力機関をつなぐ。情報は制限するが、観測まで囲い込むつもりはない」
そして、俺を見た。
「鈴木君。君が進めている操縦者保護と統合制御の案は、どこまで地上の技術へ落とせている」
システムの技術名称を、この人は知らない。
TPCへ示しているのは、既存の航空工学や制御理論から説明できる部分だけだ。
「警告と制御介入を分けるところまでは整理できています。操縦者の意識が保たれている間は警告を優先する。反応が失われた場合だけ、機体側が安全な姿勢へ移る」
「航空機がなくても試せるか」
「シミュレーターと無人の小型実験機なら」
「計画書を出してくれ」
久保田さんの返答は速かった。
「今回失った観測ユニットも、異常を検知するところまでは成功した。だが、帰還する判断と、実際に帰る機構の間に時間が足りなかった」
失敗を責める口調ではなかった。
「次は、異常を知ってからではなく、壊れる前に退く制御が要る。君の考えは、探査機にも航空機にも使えるはずだ」
胸の奥で、ばらばらだった技術が一本につながった。
外骨格。
操縦者の警告。
機体の状態監視。
異常時の自律帰還。
どれも、強く攻めるためだけの技術ではない。
人と機械を、生きて帰すための技術だ。
「……作ります」
俺は答えた。
「飛ぶ前に、帰る方法を決めた機体を」
「頼む」
時間がどれだけ残されているかは分からない。
だからこそ、急ぐ。
ただし、手順を飛ばして壊れるような急ぎ方はしない。
ようやく、その違いが分かり始めていた。
◇◇◇
会議が終わり、全員が帰った後も、俺は研究室に残った。
窓の外には、冬の夜が広がっている。
青い画面を呼び出す。
=========================================
▶ 所持ポイント: 17,825 SP
▶ 残機数: 3 / 3
▼ [BASE STATUS]
┣ 演算処理能力: D
┣ 空間認識力 : D
┣ 反応速度 : D
┗ G耐性/肉体: F
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足りないものなら、いくらでもある。
飛ぶ機体はない。
地上へ移せていない知識がある。
俺の身体も、まだ装具なしでは高Gへ耐えられない。
そして海底には、前世の記憶にもない構造が眠っている。
以前の俺なら、画面の数字を見て、何を買えば全部を解決できるか考えていた。
けれど、この世界に、そんな項目はない。
30,000 SPで得た知識さえ、一人では形にできなかった。
まして、正体も規模も分からないものを、ポイントだけでどうにかできるはずがない。
俺はノートの新しいページを開いた。
観測は、澄人たちとTPCがつなぐ。
医療は、真壁先生が守る。
製造は、健三さんたちが現実へ落とす。
教授は、過去の記録と現在を結ぶ。
俺は、設計し、翻訳し、いつか操縦する。
役割を書き並べてから、最後に一行だけ記した。
『間に合わせる。今度は、全員で』
前世で、俺は一人だった。
崩れた建物の前で、爪が割れるまで瓦礫を掻いた。
助けを呼んでも、道が途切れていて、重機は来なかった。
一人の手では、間に合わなかった。
今は違う。
俺の周りには、俺が知らないことを知っている人がいる。
俺に見えない場所を見る人がいる。
無理をすれば止める人がいる。
地図に余白があるなら、一人で埋める必要はない。
ペンを置いた、そのときだった。
机の上の携帯が鳴った。
「鈴木君」
久保田さんの声には、先ほどとは別の緊張があった。
「残る2つの観測点が、同じ低周波振動を捉えた」
「同時ですか」
「いや。南側が先だ。その後、北側で、ほぼ同じ波形が出た」
俺は立ち上がり、壁の海域図へ目を向けた。
「活動域が移動した?」
「まだ断定できない。だが、点が動いているというより——」
久保田さんが一度、息を呑む。
「海底下の何かを通って、反応が順番に伝わっているように見える」
電話を握る手に、力が入った。
失われた第1観測点。
南側。
北側。
離れた場所が、同じ波形で応答している。
巨大な構造が海底を移動しているのではない。
泥の下に広がる何かの内部を、信号のようなものが走っている。
俺は、窓の外の闇を見つめた。
地図の余白は、空白ではなかった。
俺たちがまだ線を見つけていなかっただけで、その下では、ずっと前から何かがつながっていたのだ。
=========================================
【現在のステータス・スキル情報】
[BASE STATUS]
┣ 演算処理能力: D
┣ 空間認識力 : D
┣ 反応速度 : D
┗ G耐性/肉体: F(装具装着時:D相当)
[ACQUIRED SKILLS & KNOWLEDGE]
┣【超古代言語理解 Lv.2】
┣【初級・機械工学/プログラム言語】
┣【中級・航空力学/制御アルゴリズム】
┣【上級・次世代エネルギー/流体力学】
┣【マクロス初代・統合技術パック】(翻訳作業:進行中)
┣【インファイト Lv.1】
┗【SPアップ Lv.1】
[SYSTEM DATA]
┣ 所持ポイント: 17,825 SP
┣ 残機数: 3 / 3
┣ 海底観測網:第1観測点ロスト/第2・第3観測継続
┣ 活性試料:沿岸隔離施設に収容
┗ 警戒情報:熱・磁気・微振動の連動上昇
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