鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略——   作:カノープス・ギア

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いつもお読みいただきありがとうございます!
第3話となります。

今回は、主人公・灯が受けるスパルタなペナルティと、
ポイントを使ったスキルビルド(成長)を描いた回となります。
場面展開のテンポやスマホでの読みやすさを重視した構成にしておりますので、
ぜひお楽しみください!


泥と鉄の投資

「……ふぅっ、はっ……くそっ……!」

 

早朝、まだ薄暗い街並みを、俺は息を弾ませながらひたすら走り続けていた。

アスファルトを叩く足音が、静まり返った住宅街に虚しく響く。

足首に巻いた重りと、背中のリュックに詰めた鉄板が容赦なく膝と腰を締め付け、

呼吸のたびに喉の奥が焼きつくような熱を帯びていた。

 

あの大学の研究室で、恩師である教授の埃を被った資料棚から

「三千万年前の超古代文明」と「暗黒の支配者ガタノゾーア」の真実を知ってから、

早いもので数週間が経過していた。

 

最初はパニックになりかけ、夢であってくれと祈りもした。

だが、この脳内に直接根を張ったような青いシステムは、

驚くほどスパルタで、一切の猶予を与えてくれない。

 

それを身をもって、骨の髄まで思い知らされたのは、

システムが起動した翌々日のことだった。

 

大学のレポート提出とゼミの課題に追われ、

疲労のあまり「一日くらいいいだろう」と軽い気持ちで、

デイリークエストのランニングを無視し、そのままベッドに倒れ込んだ、あの最悪の朝。

 

目が覚めた瞬間、俺の視界は部屋の天井ではなく、血のように赤く染まった不気味な警報色に覆われていた。

 

【警告】デイリークエスト未達成を検知。ペナルティゾーンへ強制転移します

 

意識が力任せに引きずり降ろされた先は、どことも知れない荒野だった。

地響きと焦熱の炎が、赤黒く染まった空の下で吹き荒れている。

俺が叩きつけられたのは、冷たく固いパイロットシート。

耳を裂くアラート音と、目まぐるしく点滅する計器類。

——それも、前世の記憶でしか見たことがなかった『ガッツウィング』の

狭いコックピットの中だった。

 

そして、キャノピーの向こう側にそびえ立っていたのは、超古代の闇の先兵——

大地を割り、火山弾を撒き散らしながら歩く巨獣、ゴルザ。

 

【クリア条件:ゴルザの攻撃下で3分間生存せよ】

【失敗条件:搭乗機の撃墜 ※撃墜時、規定時間を初期状態から再開する】

 

当然、現代のしがない一般大学生にすぎない俺に、戦闘機の操縦などできるはずもない。

操縦桿の握り方すら分からず、あまりの巨体と圧迫感に金縛りになっていたその瞬間、

脳の奥底へ直接、鈍い衝撃と共に大容量のデータが暴力的な速度で流し込まれた。

 

【応急措置:操縦プロトコル(基礎)および機体OSデータを脳内へ直接アタッチします】

 

「ガッ……ぁ、あぁッ!?」

 

頭蓋骨を内側から重砲で殴られたような激痛。

スロットルレバーの役割、フットペダルによるラダー操作、計器の読み方、

機体特性の数値——「人生で一度も学んだことのない操縦知識」が、

無理やり脳細胞へ焼き付けられていく。

 

だが、知識が頭に入ったからといって、素人の身体がすぐに追いつくわけがない。

レバーを握る手は、恐怖と緊張でガタガタと震える。

頭では操作手順を理解していても、強張った身体はまるで追いつかない。

 

『グガァァァァッ!!』

 

鼓膜を突き破るようなゴルザの咆哮。

直後、額の装甲から放たれた漆黒の超音波光線が、空気を焼き焦がしながら迫る。

 

「あ、上がれ……上がれッ!!」

 

頭の中にインストールされた急造の操縦データを必死に手繰り寄せ、半狂乱でスロットルレバーを押し込み、操縦桿を引いた。

機体が急浮上した瞬間、強烈なGが全身をシートへ叩きつけ、

視界がぐにゃりと歪んだ。

知識としては知っていた「Gフォース」の圧迫感。胸骨が軋み、肺の空気が力任せに吐き出される。

 

操縦のイロハを脳に直接突っ込まれた程度では、怪獣の圧倒的な暴力の前には無力だった。

必死にペダルを踏み込み、不格好な旋回で光線を紙一重でかわすのが精一杯。

わずか3分間という短いはずの時間が、永遠のように長く感じられた。

残り数十秒というところで、不慣れな操作から体勢を崩した。ゴルザが振り下ろした巨大な尻尾の衝撃波を一発食らっただけで機体は制御を失い、地上へ叩きつけられて灼熱の炎に包まれた。

 

【ペナルティ未完了。規定時間を初期化し、再試行します(残機:3 ➔ 3)】

 

視界が暗転し、次の瞬間には、再びアラートの鳴り響くコックピットへ放り出される。

機体が撃墜されるたびに死の衝撃と恐怖を疑似体験させられ、たった3分間を耐え抜くまで脱出を許されない地獄のループ。

 

死の恐怖で胃の中身を吐き、涙と汗でドロドロになりながら、ガタガタ震える手で操縦桿にしがみついた。

Gで意識が飛びそうになるたび、自傷するように唇を噛んで耐えた。泥臭く、不格好な緊急回避を繰り返し、どうにか「たった3分間」を逃げ延びたとき、俺の精神は擦り切れかかっていた。

 

(……あの地獄は、二度と御免だ)

 

◇◇◇

 

朝の公園のベンチに倒れ込み、蘇ったトラウマに背筋を伝う冷や汗を拭った。

あの強制戦闘で痛感したのは、システムから急造の操縦知識を叩き込まれたところで、それを受け止める「生身の身体スペック(G耐性や体幹)」と「実務的な技能」がなければ、本物の戦闘では一瞬で失神して死ぬという残酷な現実だった。

 

しかも、システムからの無機質なヘルプ通知によれば、今後サボりを重ねたり、俺自身の成長レベルが上がれば、ペナルティでの目標生存時間は「5分」「10分」と跳ね上がっていくらしい。

おまけに、本番の実戦や特殊クエストで「失敗」した場合は、残機(命のストック)が物理的に削られるという無慈悲な仕様だ。

 

だからこそ、俺は死に物狂いでトレーニングを日課にした。

筋肉の繊維が壊れてしまわない極限を見極め、筋肥大と体幹の強化を最優先に身体を追い込む。

あの急造の操縦データを乗りこなすための泥臭い土台作りだ。

 

前世で動画配信サイトなどを見て特撮熱が再燃した頃、画面越しに胸を熱くさせた「鉄の塊に乗り込んで巨大な怪獣に立ち向かう人間たち」の姿が、記憶の奥底から蘇る。

あのロマンに憧れた気持ちは本物だ。だが、現実は甘くない。あのコックピットのGに耐えうる肉体と技術を作らなければ、憧れを果たす前に命が散る。

 

「……ふぅ、よし。今日のデイリーはこれで終わりか」

 

荒い息を整えながら胸を叩くと、視界の隅に淡い青色のウィンドウが静かにログを刻んだ。

通知音も派手なエフェクトもない。相変わらず、どこまでも機械的なUIだ。

 

=========================================

【SYSTEM LOG】

▶ デイリークエスト:【基礎肉体練成(筋肥大・体幹強化)】クリア

▶ 獲得報酬: +50 SP

▶ 現在所持ポイント: 350 SP

 

【BASE STATUS】

┣ 演算処理能力: G

┣ 空間認識力 : G

┣ 反応速度 : G

┗ G耐性/肉体: G ➔ F (順応完了)

=========================================

 

「……よし、日々の鍛錬でG耐性が『F』まで上がったな」

 

初期評価のオール『G』から、地道なトレーニングの継続によってシステムが肉体の「器」を少しずつ順応させてくれていた。

 

このシステムの成長構造は、実にシンプルで合理的にできている。

ステータス(G耐性や反応速度など)は、訓練実績とポイントの消費に応じて、システムが神経伝達や筋肉の耐久力を直接順応させ、強化してくれる仕組みだ。

Bランクまでは、訓練実績を積み、必要なポイントを支払えば段階的に解放されていく。

だが、その先の『Aランク』や『Sランク』といった領域へ踏み込むには、単なるポイント購入ではロックが解除されず、『限界突破試験(極限状態での実戦踏破や専用ペナルティのクリア)』という実績解除が必須になるらしい。

 

(ポイントで基礎を作って、土壇場の試練で限界を突破する……本当、泥臭いシステムだよ)

 

そして、獲得したSPポイントをどう使うかが、このサバイバルにおける最大の鍵となる。

俺は視界の操作パネルをタップし、お目当ての【システムショップ】画面を開いた。

 

目の前に、ホログラムで構成された『商品カタログ』のような一覧表が展開される。

 

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【SYSTEM SHOP / 技能・ツリーカタログ】

所持ポイント: 350 SP

 

▼ [BASE STATUS 強化]

┣ G耐性/肉体(F ➔ E) : 200 SP

┣ 空間認識力 (G ➔ F) : 100 SP

┗ 反応速度 (G ➔ F) : 100 SP

 

▼ [技術・開発ツリー]

┣【初級・機械工学/プログラム言語】 : 100 SP

┣【中級・航空力学/制御アルゴリズム】 : 200 SP (要:初級)

┗【上級・次世代エネルギー/流体力学】 : 500 SP (要:中級)

【オーバーテクノロジー領域】:[LOCKED・要上級マスター]

 

▼ [操縦・戦闘ツリー(パイロット技能)]

┣【インファイト Lv.1】 (格闘・緊急回避補正): 100 SP

┣【ガンファイト Lv.1】 (射撃精度・偏差予測): 100 SP

┣【予知・空間把握 Lv.1】 (感覚補正・軌道予測): 150 SP

┣【精神耐性 Lv.1】 (G耐性補助・パニック防止): 100 SP

┗【底力 Lv.1】 (ピンチ時の機体性能補正): 200 SP

 

▼ [特殊・システム機能]

┗【SPアップ Lv.1】 (同調効率上昇/獲得SP 1.5倍化): 300 SP

 

カタログ形式でズラリと並んだ魅力的なスキルの数々。

ゲーマー心とメカニックオタクとしての血が、ドクドクと湧き立つのが分かった。

 

「……たまらなくなってきたな」

 

溜め込んだ350SP。

これをどう割り振り、自分というパイロット兼エンジニアを「ビルド」していくか。

技術ツリーの【初級】(100 SP)は、誰でも勉強を重ねれば追いつける大学レベルだが、これを修得しておけば既存のメカの構造解析やプログラム解読が圧倒的に速くなる。

【中級】(200 SP)は専門資格レベル、【上級】(500 SP)は教授クラスの先端知識だ。

そして、その先にある暗転した項目——『オーバーテクノロジー領域』。

いつか上級を極めれば、前世で憧れたあの可変戦闘機や、人類の叡智を集めた

『対怪獣二足歩行兵器』の設計図すら手に入るのかもしれない。

だが、それには数千、数万という途方角もないポイントが必要になるはずだ。

 

(膨大なポイントを稼ぐなら……長期的な『投資』が必要になる)

 

俺の視線は、特殊項目にある【SPアップ Lv.1】で止まった。

取得すれば、日々のデイリーで得られるポイントが50 SPから75 SP(1.5倍)へと跳ね上がる、長期的なシステム投資だ。

さらに説明の末尾には、不気味な注記が添えられていた。

 

『※本機能はシステムと同調率を深める。将来的にパイロットの精神力および

 脳波出力(念力波等)へのエネルギー変換リソースとして兼用可能』

 

「精神力……念動力への変換、だと……?」

 

今はまだ意味が分からない。だが、将来的に異質で強力な敵や超常の脅威と戦う上で、この『SP』という概念が単なるゲームの通貨以上の意味を持つ予感がした。

 

しかし、今ここで300SPを叩き込んで【SPアップ】を買えば、手持ちはわずか50SPになり、直接的な戦闘スキルや技術は何も買えなくなる。目先の生存能力を取るか、将来のための効率化(投資)を取るか。

 

「……いや、甘えるな。土台がなきゃ投資もクソもない。まずは目の前の生存と、知識の基盤だ」

 

俺は覚悟を決め、ホログラムの項目を2つタップした。

 

【購入処理:『初級・機械工学/プログラム言語(100 SP)』を獲得しました】

【購入処理:『インファイト Lv.1(100 SP)』を獲得しました】

【残り所持ポイント: 150 SP】

 

直後、脳の奥底へ心地よい刺激と共に、機体の構造図面を瞬時に読み解くプログラム知識と、コックピット内での体幹の置き方・緊急回避の感覚が「自分の手足の技術」としてじわじわと染み渡っていく。

 

「……すげぇ。頭と体に、明確な軸が通った感じがする……!」

 

ポイントを払ってスキルを買い、自分の能力が着実にアップデートされていくこの感覚。

圧倒的な絶望の未来に対する恐怖が、ほんの少しだけ「自分の手で書き換えられる手応え」へと上書きされていく感覚があった。

 

残りの150SPは、万が一のステータス強化に備えつつ、いずれ300SPへ届いた時点で【SPアップ】を購入するための元手として温存する。

 

◇◇◇

 

自分の成長を噛み締め、ニヤリと口角を上げた——その時だった。

 

ツン、と脳裏を刺すような、冷たく不快な警戒音が響いた。

 

ダッシュボードの片隅に、これまで見たこともない真っ赤な点滅ウィンドウが割り込んでくる。

 

=========================================

【緊急・ウィークリークエスト発生】

概要:東北山脈に眠る「光のピラミッド(超古代遺跡)」の座標および詳細情報を特定・観測せよ

制限時間:72時間以内

失敗ペナルティ:残機数を「1」削減(現在の残機:3➔2)

=========================================

 

「——ッ!?」

 

背筋に氷を叩きつけられたような衝撃が走った。

残機ペナルティ。

失敗すれば、あの地獄のゴルザ戦での「命のストック」が本気で削られるという無慈悲な警告。

 

「光のピラミッド……! ウルトラマンティガの石像が眠っている、あの始まりの場所か……!」

 

前世の特撮知識が即座に答えを叩き出す。

だが、知識として「東北の山奥にある」と知っていても、現実の広大な日本列島からそのピンポイントな座標を自力で探し出すことなど不可能だ。

 

「クソっ……買い物を楽しんでる場合じゃねぇな!」

 

俺はベンチから跳び起きると、汗を拭うのも忘れて走り出した。

ペナルティのトラウマが足を前へ押し出す。72時間。たったの3日だ。

 

手がかりはどこにある?

インターネットのオカルト掲示板か? 地元の都市伝説か?

いや——一番確実で、核心に繋がっているルートがある。

 

(教授だ……! 教授の持っている独自のデータベースと、あのオカルト人脈なら……!)

 

あの優しく、探求心の塊のような恩師。

彼の研究室にあった、あの埃を被った資料棚のどこかに、必ずこの「ピラミッド」へ繋がる地質データのバグが隠されているはずだ。

今さっき買い取った『初級・機械工学』の知識があれば、教授の高度な観測データや複雑な構造図面も、これまで以上に速く読み解ける!

 

「待ってろよ……絶対に特定してみせる!」

 

朝靄が晴れゆく街の中を、俺は大学へ向かって全速力で駆け抜けていった。

絶望の未来を書き換えるための、最初のタイムリミットが刻一刻と迫っていた。

 




最後までお読みいただきありがとうございました!

【システムと主人公の選択に関する補足】
・今回、灯が強制転移させられた「サボりペナルティ(ゴルザ戦)」は、システム側の「矯正・チュートリアル領域」という扱いのため、撃墜されても残機数(3/3)は減らない仕様になっています。(ただし、撃墜の激痛や死の恐怖は100%本物です……!)
今後発生する本番の緊急クエストや実戦で失敗した場合は、容赦なく残機(命のストック)が削られていきます。

・最初のスキル購入で『SPアップ(ポイント効率化)』ではなく『初級・機械工学』と『インファイト』を優先したのは、目前の生存能力と、教授の資料(地質データ等)を解読するための基盤を優先した、灯らしいエンジニア気質な判断によるものです。

次回、72時間のタイムリミットが迫る【緊急クエスト:光のピラミッド調査編】へと突入します!

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