鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略—— 作:カノープス・ギア
第36話 初号機
2006年10月20日。
海底構造から4度目の記録を持ち帰って、6日が過ぎた。
TPC都内技術棟の会議室には、航空開発班、構造班、推進班、医療担当、大学と相沢製作所の関係者が集められていた。
スクリーンへ映されているのは、翼幅2mの縮小実証機が3機で飛ぶ映像だった。
先頭の1機を、2機が追う。
通信が切れた瞬間、随伴機は編隊を解き、それぞれ異なる経路から帰還する。
「縮小実証機による編隊飛行、ロストリンク時の分離、自律帰還。予定していた項目は成立した」
久保田さんが資料を閉じた。
「海底構造から得た第1層設計記録についても、閲覧可能な範囲の検証を始めている」
次の資料がスクリーンへ表示される。
『次期高機動航空実証計画——コード《白鷺》』
細長い機首。
後退角を持つ主翼。
機体後部に置かれた推進器。
翼と尾部の一部には、飛行状態に応じて角度を変える可動機構が描かれている。
人型ではない。
変形もしない。
武器も積んでいない。
それでも、縮小実証機の延長ではなかった。
実物大の航空機だった。
「《白鷺》の最終構想は、有人中核機と無人随伴機による混成編隊だ」
久保田さんが説明を続ける。
「ただし、最初から人を乗せることは認めない」
俺の胸が、わずかに沈む。
「まず作るのは、《白鷺》技術実証初号機。推力偏向、分散制御、通信断時の独立帰還、可動部の荷重変化を、実機規模で確認する」
概念図が切り替わる。
初号機の全長は約6.4m。
翼幅は約5.2m。
目標重量は1.8t以下。
機首部分は交換式になっている。
初期試験では、操縦装置と記録機器を収める無人モジュール。
十分な飛行記録を得た後に、同じ重量と接続規格で有人操縦区画へ置き換える。
「つまり、人が乗れる機体を目指す。でも、飛べるかどうかも分からない段階で人は乗せない」
久保田さんが、俺を見る。
「異論は?」
「ありません」
すぐに答えられた。
以前の俺なら、最初から自分が乗ると言ったかもしれない。
けれど、翼幅2mの機体でさえ、最初の試験では墜落した。
落ちる理由を知らない機体へ、人を乗せてはいけない。
「もう1つ、鈴木君」
「はい」
「君の卒業後の身分について、正式な手続きへ入る」
一瞬、話の意味が分からなかった。
「卒業見込みを条件に、TPC技術職として採用内定を出す。配属予定は、航空開発部門。主担当ではなく、制御・操縦者保護・外部記録の技術翻訳を担当する設計補佐だ」
就職。
同期たちが、説明会と面接を重ねて手に入れようとしていた進路。
俺は一般の就職活動をしていない。
それでも、何もせずに与えられたわけではなかった。
黒岩へ行った。
樽内へ潜った。
鳴瀬で失敗した。
工場で削り、遠心加速度装置で意識を失い、海底から記録を持ち帰った。
その一つ一つを見た人たちが、ここで働けと言ってくれている。
「……ありがとうございます」
「礼は、飛ばしてからにしろ」
久保田さんは、ほんの少しだけ笑った。
「その前に、卒業もしろ。TPCへ来る人間が留年した、では困る」
「そこは教授にも言われています」
後方に座っていた教授が、大きく頷いた。
「私は何度も言っているよ」
「聞いてはいます」
「実行しなさい」
◇◇◇
その夜。
アパートへ戻った俺は、青い画面を開いた。
=========================================
▶ 所持ポイント:37,900 SP
▼[AVAILABLE KNOWLEDGE]
┣【可変荷重フレーム設計(基礎)】6,000 SP
┣【高出力推進・熱管理統合(基礎)】8,000 SP
┗【熱核タービン(小型)】8,000 SP
※【熱核タービン(小型)】の実装には、対応する動力源、耐熱材料、製造設備が必要です
※現時点の地球技術による再現成功率を算出できません
※取得されるものは知識であり、完成部品ではありません
=========================================
熱核タービン。
名前を見ただけで、指が止まった。
マクロスの機体を支える心臓。
俺が子どもの頃から夢見てきた、常識外れの推力を生む動力。
8,000 SPを払えば、理論へ触れられる。
けれど、表示されている警告は明確だった。
知識を得ても、この星には対応する動力源も、材料も、工場もない。
超古代の記録にも書かれていた。
『我らの鉄を、写すな』
完成形だけを見て、足元を飛ばしてはいけない。
今、必要なのは、存在しない心臓ではない。
TPCが用意できる推進器を、機体へ安全に載せる方法。
飛行状態で荷重が変わっても、折れず、壊れ方を予測できる骨格。
熱を一か所へ集めず、異常な部分を切り離せる仕組み。
俺は、2つを選んだ。
「【可変荷重フレーム設計(基礎)】と、【高出力推進・熱管理統合(基礎)】を取得する」
【6,000 SPを消費しました】
【『可変荷重フレーム設計(基礎)』を取得しました】
【8,000 SPを消費しました】
【『高出力推進・熱管理統合(基礎)』を取得しました】
【所持ポイント:23,900 SP】
頭の中へ、設計の考え方が流れ込む。
翼の角度が変わったとき、荷重がどこを通るのか。
推進器、電力変換器、可動部、制御基板から生まれる熱を、どの順番で運び、どこで捨てるのか。
異常が起きた系統を切り離し、残りを生かすには、どこへ弁を置くのか。
マクロス初代・統合技術パックを得たときのような、知識の洪水ではなかった。
今の俺が理解できる大きさへ整理されている。
それでも、図面が自動的に完成するわけではない。
理想的な熱交換器の材料は、地球で製造できない。
可変骨格の一部は、現在の加工精度では寿命が足りない。
知識は、答えではなかった。
今の技術で、どこまでなら近づけるかを判断するための地図だった。
「……ここからは、俺たちの仕事だ」
ノートを開き、最初の荷重経路を描き始めた。
◇◇◇
《白鷺》の設計は、1人の机では進まなかった。
航空開発班が、全体構成と飛行試験計画を決める。
構造班は、主翼と胴体の荷重を計算する。
推進班は、TPCが試作していた小型高出力タービンを、航空機用へ改修する。
俺は、可動部を動かしたときの荷重変化、推力偏向制御、操縦者保護を設計へ落とす。
澄人は、縮小実証機で使った分散制御を実機用へ組み直した。
遠野さんは、要求仕様と試験項目をつなぎ、「何を確認できれば次へ進めるのか」を文書へする。
真壁先生と奏は、将来搭載する操縦区画の生体監視、警告、操作負荷を担当した。
ゴウと健三さんは、可動部の試作品と、組み立てに使う治具を作る。
美園さんは、部品番号、設計変更、材料証明、交換時期を一つの記録へまとめた。
教授は、海底記録の中から、整備や帰還に関する記述を探し、現代の設計へ使える部分と、意味が確定していない部分を分ける。
誰か1人が、全部を理解しているわけではない。
それでいい。
むしろ、1人しか理解できない機体にはしない。
「この主翼、角度を変える必要が本当にあるのか?」
11月上旬の設計審査で、航空開発班の技官が訊いた。
「固定翼なら、構造は軽くできる。故障箇所も減る」
「初号機では、飛行中に大きく変える必要はありません」
俺は図面を切り替えた。
「離着陸と高速飛行で、2段階だけ角度を変えます。将来の変形機構を試すためではなく、低速時の揚力と、高速時の抵抗を両立させるためです」
「動かなかった場合は?」
「安全側の角度で機械的に固定します。可動部の制御が失われても、翼そのものが外れる構造にはしない」
「推力偏向が止まったら?」
「通常の舵だけで帰還できる範囲に、使用条件を制限します」
高い機動性は欲しい。
けれど、新しい機構が止まった瞬間に墜落する設計にはしない。
超古代の記録から得たものは、性能の上限だけではなかった。
故障しても帰るための考え方こそ、最初に入れる。
◇◇◇
相沢製作所が担当したのは、主翼可動部の治具、配管支持具、整備用の点検口だった。
「こんな小さい部品を、TPCで作れないんですか」
ゴウが、手のひらほどの金具を持ち上げる。
「作れる」
健三さんが答えた。
「だが、作れることと、使いやすいことは別だ」
金具は、機体内部の冷却配管を固定するためのものだった。
図面どおりに作れば、取り付けられる。
けれど、工具を入れる角度が悪く、整備員が手探りで作業することになる。
「ここを2cmずらす」
健三さんが図面へ線を引く。
「そうすれば、点検口からボルトが見える。外す時間が半分になる」
「荷重への影響は?」
「構造班に確認する。勝手には動かさん」
経験だけで図面を変えるのではない。
現場で気づいた問題を、計算する人へ返す。
構造班が確認し、遠野さんが変更理由を記録し、美園さんが旧部品を使用禁止へ切り替える。
地味な往復を重ねるたび、《白鷺》は、壊れたときに直せる機体へ近づいていった。
◇◇◇
操縦区画は、初号機へすぐ搭載しない。
それでも、機首と同じ大きさの地上試験用モックアップが作られた。
将来、人を乗せるなら、機体が完成してから席を押し込むわけにはいかない。
脱出経路。
視界。
操作レバーまでの距離。
警告表示。
呼吸。
高Gで腕が重くなった状態でも操作できるか。
人間を中心に、最初から空間を決める必要がある。
「座ってください」
奏に言われ、俺はモックアップの操縦席へ身体を収めた。
背中と腰が、座席に固定される。
目の前には、まだ映像しか出ない計器盤。
左右へ操縦桿と緊急停止レバー。
子どもの頃、プラモデルの小さな操縦席へ想像の自分を座らせた。
前世では、結局、作る側にも乗る側にもなれなかった。
今、俺の身体に合わせて作られた席がある。
視界が熱で滲みかけた。
「鈴木さん」
「はい」
「右手を、緊急停止レバーへ」
感傷へ浸る時間はなかった。
腕を伸ばす。
「届きます」
「通常姿勢では、です」
奏が、座席の傾斜を変える。
外骨格の訓練用負荷が腕へかかり、右手が急に重くなる。
「もう一度」
指先はレバーへ届いたが、握り切れない。
「この位置では駄目です」
奏は迷わず言った。
「レバーを4cm手前へ。握る方式ではなく、掌で押せる形にしてください」
「4cm動かすと、計器盤と干渉します」
澄人が図面を確認する。
「なら、計器を動かします」
「表示の優先順位を変える必要がある」
遠野さんが、変更項目を追加した。
俺が操縦席へ座った感動は、4cmの修正へ変わった。
でも、それでいい。
ここは夢を見るための箱ではない。
異常が起きたとき、俺を帰す場所だ。
◇◇◇
11月27日。
基本設計が凍結された。
すべてが完成したという意味ではない。
初号機を製造し、地上試験へ進めるだけの条件が揃ったということだ。
機体内部の制御系は、3つに分けられた。
通常飛行を担当する主制御。
主制御を監視し、異常時に最低限の姿勢を保つ副制御。
2つの判断が一致しない場合、戦闘や試験を継続せず、帰還経路へ移る独立帰還制御。
電源も、主系統と帰還系統を分離した。
推進器が止まっても、帰還用の制御と位置発信器だけは一定時間動く。
1つの故障で、すべてを失わない。
海底の壁に刻まれていた言葉が、配線と遮断器の配置へ変わっていく。
◇◇◇
2007年1月8日。
《白鷺》技術実証初号機は、TPC試験格納庫から姿を現した。
塗装は、まだ下地の白だけ。
全長6.4m。
翼幅5.2m。
機首には無人試験用の制御モジュール。
後部には、TPC製の小型高出力タービン。
排気口の周囲には、上下左右へ角度を変えられる推力偏向機構。
人型でも、巨大ロボットでもない。
細身の、白い航空機だった。
それでも、翼幅2mの実証機を見たときとは、まるで違う。
機体の下へ立つと、翼の影が身体を覆う。
「……でかくなったな」
ゴウが見上げる。
「3倍くらいです」
美園さんが即座に訂正した。
「感想に数字で返すなよ」
「全長は約4.6倍です」
「増やすな」
健三さんが、主翼可動部の点検口を開く。
「見とけ。外からじゃ分からんが、中はまだ試作品だらけだ」
配管。
配線。
仮の計測器。
交換しやすいよう、色と番号で分けられた接続部。
完成したように見えても、これは飛ぶための答えではない。
どこで壊れるかを確かめる、最初の問いだった。
有人用モックアップと同じ形の機首区画へ、試験のために乗り込む。
エンジンへは接続されていない。
操縦桿を動かすと、格納庫の外に置かれた主翼と推力偏向板が、わずかに動いた。
機械が、俺の手へ応える。
実際の飛行ではない。
それでも、胸の奥が震えた。
「灯」
通信機からゴウの声が届く。
『泣いてないだろうな』
「まだ泣いてない」
『まだ、かよ』
笑い声が通信へ混じる。
俺は操縦席から、機体の白い機首越しに格納庫の外を見た。
ここから先は、空へ続いている。
◇◇◇
1月15日。
初号機の高出力地上試験が行われた。
人は乗せない。
機体は試験台へ固定され、周囲には耐熱壁と消火設備が置かれている。
俺たちは、離れた管制室から機体を監視した。
推進器の初始動そのものは、前日までに低出力で確認している。
今日は、出力を段階的に上げ、推力偏向機構と熱管理系が設計どおり働くかを試す。
「主電源、投入」
「主制御、副制御、帰還制御。相互監視、正常」
「冷却系統A、B、C。流量、基準内」
「消火設備、待機」
遠野さんが、試験項目を1つずつ読み上げる。
美園さんは、交換可能な部品と使用時間を記録していた。
奏と真壁先生は、今回は人間の生体情報ではなく、将来の操縦区画へ伝える警告の順序を確認する。
「推進器、始動」
管制室の厚い窓の向こうで、《白鷺》の後部が震えた。
低い音が地面を伝わる。
20%。
異常なし。
40%。
主翼の可動部と推力偏向板を小さく動かす。
応答は正常。
60%。
推進器後部の温度が上がる。
冷却系統A、B、Cが、熱をそれぞれの熱交換器へ運ぶ。
「70%へ」
推力が増す。
機体を固定する試験台が、低く唸った。
俺の設計した機体が、飛ぼうとしている。
まだ空へ出していないだけで、その力は確かにそこにあった。
「冷却系統B、流量低下」
澄人の声が変わった。
「何%?」
「基準から8%低下。温度は——上がってる」
画面上で、中央系統の温度だけが、AとCから離れ始めた。
「出力維持。原因確認に10秒」
推進班の技官が言う。
「中止基準まで、あと——」
「系統B、圧力変動」
遠野さんが警報を読み上げる。
「自動中止条件に到達」
副制御が先に判断した。
推進器の出力指令が切れる。
主燃料弁が閉じ、推力が落ち始める。
その直後。
ドンッ——!
試験場へ、鈍い音が響いた。
機体後部の圧力逃がし板が開き、白い蒸気と油煙が噴き出す。
「消火設備、作動!」
泡ではなく、不活性ガスが機体後部を覆う。
炎は見えない。
それでも、温度警報は続いている。
「系統B、切り離し」
「A、Cは維持。帰還制御の電源、正常」
主推進器は停止した。
機体の制御系と記録装置は、生きている。
「全員、現場へ近づくな」
久保田さんが命じた。
「温度が下がるまで待つ。消火班も、遠隔確認を優先」
目の前で、自分たちの機体から煙が出ている。
駆け寄りたい。
何が壊れたのか、今すぐ見たい。
だが、決めた手順を破れば、二次事故を起こす。
俺たちは、画面の数値が下がるまで、管制室に残った。
◇◇◇
2時間後。
安全確認を終えた初号機の後部が開かれた。
壊れていたのは、推進器そのものではなかった。
3つの冷却系統へ流体を分ける共通の分配器。
内部の弁が熱で変形し、中央のB系統だけ流量が減った。
流れが少なくなった部分で冷却液が気化し、圧力が急上昇。
圧力逃がし板が開き、配管の一部を守った。
「定常状態の計算では、流量は揃っていました」
俺は、ログを見つめた。
「でも、60%から70%へ上げた瞬間だけ、3系統の圧力差が大きくなっている」
「過渡状態を甘く見た」
推進班の技官が言った。
「弁の開き方が同じでも、配管の長さと曲がりが違う。温度で粘度が変わった瞬間、Bへ流れなくなった」
健三さんが、焼けた分配器を裏返す。
「入口は1本。途中で3つに分けてる」
「はい」
「これじゃ、入口の具合が悪けりゃ、3つとも死ぬ」
「今回はBだけでした」
「今回は、だ」
健三さんは、機体内部の配管へ視線を移した。
「最初から3本に分けろ。ポンプも弁も別にする。1本が詰まっても、残りへ熱を押しつけるな。壊れた系統は、閉じて捨てられるようにしろ」
海底で得た設計原則と同じだった。
分ける。
切る。
残りを生かす。
「ただ、3系統を完全に独立させれば、重量が増えます」
構造班が言う。
「約30kg」
「軽くする場所は、ほかで探します」
俺は答えた。
「冷却が1つ死んだだけで、全推進を失う機体にはできません」
美園さんが、使用した弁の製造記録を確認する。
「同じロットの弁が、予備を含めて6個あります。すべて使用停止にします」
「原因が設計なら、ロットは関係ない可能性もある」
「それでも、確認が終わるまで戻しません」
遠野さんは、試験結果へ「失敗」とだけ書かなかった。
自動停止が作動した。
帰還制御の電源は維持された。
圧力逃がし板が、推進器本体の損傷を防いだ。
人を乗せない段階で、冷却系の弱点を発見した。
成立した項目と、成立しなかった項目を分けて残す。
壊れたから、すべてが無駄になったわけではない。
◇◇◇
夜。
静かになった格納庫で、俺は初号機を見上げていた。
白い機体の後部は開かれ、冷却配管がむき出しになっている。
飛ばなかった。
初めての高出力試験で、停止した。
それでも、黒く焼け落ちた機体ではない。
異常を検知し、自分で出力を止め、壊れる場所を限定した。
「まだいたのか」
健三さんが、後ろから声をかける。
「少しだけ」
「落ち込んでるか」
「……少し」
「飛ばなかったから?」
「それもあります。でも、知識を買って、TPCの技術者もいて、何度も計算したのに。それでも、こんな基本的なところで止まった」
健三さんは、むき出しの配管を見上げた。
「基本的なところだから止まるんだよ」
「え?」
「すげぇ理屈が間違ってりゃ、最初から動かねぇ。動くところまで来たから、配管の曲がりや弁の膨らみが問題になる」
焼けた分配器を軽く叩く。
「それに、こいつは仕事をした」
「仕事?」
「圧力を外へ逃がした。推進器を守った。お前を乗せる前に、弱い場所を見せた」
健三さんは、初号機の白い翼へ目を向ける。
「地上で止まったのは、運がよかった。飛んでから同じことが起きれば、帰還制御が生きていても推力が足りなかったかもしれん」
壊れてよかった、とは言わなかった。
失敗は失敗だ。
でも、人を乗せる前に失敗できたことには意味がある。
「直します」
「ああ」
「入口から3系統に分ける。独立したポンプ。異常系統は遮断して、残りへ影響させない。地上試験では、飛行中の空気がない状態専用の補助冷却も入れる」
「点検口も広げろ。今のままだと、中央の弁を外すのに半日かかる」
「構造班に確認します」
「それでいい」
俺はノートを開いた。
『《白鷺》初号機・冷却系改修』
その下へ、最初の線を引く。
力を手に入れれば、すぐに空を飛べると思っていた時期がある。
けれど、大きな力を支えるのは、細い配管、弁、ボルト、センサー、点検口。
誰かが図面を描き。
誰かが削り。
誰かが記録し。
誰かが危険を見つけ。
誰かが停止を命じる。
チートじみた知識があっても、それだけでは飛ばない。
だからこそ、俺たちが作る意味がある。
初号機は、まだ飛べなかった。
だが、実機規模の推進器を動かし、可動部を制御し、自分の異常を検知して停止した。
翼幅2mの1機目から、ここまで来た。
次は冷却系を直す。
その次は地上滑走。
そして、無人での初飛行。
段階を飛ばさない。
ただし、歩みは止めない。
2007年。
前世の記憶どおりなら、今年、この空へゴルザとメルバが現れる。
まだ、ティガとは出会っていない。
それでも、光の巨人と並ぶための最初の機体は、すでに俺たちの格納庫に立っていた。
=========================================
【現在のステータス・スキル情報】
[BASE STATUS]
┣ 演算処理能力:D
┣ 空間認識力:D
┣ 反応速度:D
┗ G耐性/肉体:D(装具装着時:C相当)
[ACQUIRED SKILLS & KNOWLEDGE]
┣【超古代言語理解 Lv.2】
┣【初級・機械工学/プログラム言語】
┣【中級・航空力学/制御アルゴリズム】
┣【上級・次世代エネルギー/流体力学】
┣【マクロス初代・統合技術パック】(翻訳作業:進行中)
┣【鉄の揺籃・第1層設計記録】(外部資料/解析率0.9%)
┣【可変荷重フレーム設計(基礎)】(NEW)
┣【高出力推進・熱管理統合(基礎)】(NEW)
┣【インファイト Lv.1】
┗【SPアップ Lv.2】
[SYSTEM DATA]
┣ 所持ポイント:30,425 SP
┣ 残機数:3 / 3
┣ 進路:TPC技術職・採用内定(卒業見込み)
┣ 開発機:《白鷺》技術実証初号機
┣ 地上高出力試験:自動停止/推進器本体を保全
┣ 課題:冷却3系統の完全分離・過渡状態の再検証
┗ 次段階:改修後の地上滑走/無人初飛行
=========================================