鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略—— 作:カノープス・ギア
灯たちは、この日のために鉄を削り、失敗し、何度も帰る方法を作ってきました。
そしてついに――前世で知っていた物語が、現実へ追いつきます。
どうぞ、最後までお付き合いください。
第40話 光が目覚めるまで
2007年7月7日、午前3時26分。
モンゴル南部へ落下した隕石の映像が、白鷺班の詰所へ届いた。
砂漠へ穿たれた巨大なクレーター。
その中央から、黒煙と砂を押し分けて立ち上がる影。
推定体高60m。
左右へ広がる大きな角。
赤紫色の背。
地面を這うように低く構えた巨体。
画面越しでも、腹の底へ響く咆哮が聞こえた気がした。
「……ゴルザ」
口から名前がこぼれた。
3年半。
デイリークエストを達成できなかったたび、俺はシステムのペナルティゾーンへ放り込まれた。
与えられるのは、ガッツウイング1機。
目の前にいるのは、ゴルザ。
生存目標は3分。
最初のころは、10秒も保たなかった。
超音波のような攻撃で機体を揺らされ、操縦を失い、最後は巨大な手に握り潰された。
地面へ潜ったと思った次の瞬間、真下から現れたこともある。
何度避けても、少しずつ機動を変えて追ってきた。
数えることをやめるほど死んだ。
それでも、青い箱庭の中だった。
痛みも恐怖も本物だったが、解放されれば元の部屋へ戻れた。
いま。
あの怪獣は現実の砂漠に立っている。
逃げ遅れれば、人が死ぬ。
壊れた建物も、焼けた町も、元には戻らない。
「灯」
澄人が俺を見る。
「知っているんだな」
「ああ」
喉が乾いていた。
「超古代に、光の巨人と戦った怪獣だ」
詰所が静まり返る。
モニターでは、現地の航空部隊が攻撃を始めていた。
複数のミサイルが、ゴルザの背と胸へ命中する。
爆炎が巨体を包む。
一瞬だけ。
人類の兵器が通じたように見えた。
煙が晴れる。
ゴルザは、ほとんど同じ場所に立っていた。
外皮の一部が焦げている。
それだけだった。
『直撃を確認。対象、活動を継続』
TPCの通信担当者の声が震えている。
ゴルザが顔を上げる。
額へ光が集まった。
「全機、散開しろ……!」
俺の声が届くはずはない。
紫色の光が空を薙いだ。
戦闘機が1機、翼から千切れる。
別の1機は制御を失い、砂漠へ落ちた。
画面が砂嵐に変わる。
ゴウが拳を握った。
「……あれと、戦うのか」
「倒す必要はない」
自分へ言い聞かせるように答える。
「人を逃がす。光が目覚めるまで、時間を稼ぐ」
「光の巨人は、本当に現れるのか」
教授の問いだった。
30年以上、超古代の痕跡を追い続けた人。
嘘で安心させることはできない。
「前世で知っていた物語では、現れます」
「この世界でも?」
「分かりません」
モニターの砂嵐を見た。
「母炉も、白鷺班も、俺の知っていた物語にはありませんでした。変わった部分がある以上、光だけが同じ時刻に目覚める保証はない」
だから、俺たちがいる。
筋書きがずれても。
光が遅れても。
その空白を、人間の鉄でつなぐために。
午前4時02分。
ゴルザは、モンゴルの監視網から消えた。
撃退したわけではない。
巨大な身体を地中へ沈め、そのまま地震計からも姿を消した。
進行方向は特定できなかった。
ただし、白鷺班は知っている。
日本には、母炉と七基の炉がある。
怪獣が超古代の遺構へ引き寄せられるなら、この国は目的地になり得る。
「出撃準備だけ進める」
黒木さんが指示を出した。
「まだ飛ばすな。機体を待機状態へ。弾薬、救難装備、医療、全部確認しろ」
10人が動き始める。
ゴウと健三さんは、機関砲とミサイルポッドを点検する。
美園さんは、弾薬と交換部品の数量を照合する。
澄人と遠野さんは、国内の地震計、気象衛星、TPC観測網を1つの画面へ集める。
教授は、七基の炉の推定位置と、過去の地殻変動を重ねる。
真壁先生と奏は、EX-ギアと俺の医療記録を確認していた。
俺も、操縦席へ座る準備をする。
怖かった。
青い箱庭の中で、何度も殺された相手。
それでも、あのころとは違う。
1人ではない。
俺が見落としたものを、9人が見る。
俺が無茶をすれば、9人が止める。
俺が落ちかければ、帰る道を9人が残してくれる。
7月9日、午後1時17分。
最初の異常は、関東北部の山岳地帯で観測された。
震源の深さは、12km。
10分後には、9km。
その後も震源は浅くなりながら、一定の方向へ移動した。
地震ではない。
何かが、地中を進んでいる。
午後1時41分。
山間部の複数地域へ避難指示が出された。
午後1時48分。
地表が割れた。
地下から土砂と岩盤を噴き上げ、ゴルザが現れた。
同時に、TPC本部から出撃命令が届いた。
「特殊災害救助およびGUTS支援。《白鷺》の出動を承認する」
久保田さんの声。
『最優先は住民避難。怪獣撃破ではない』
「了解」
EX-ギアと座席を接続する。
胸部センサーが、奏の管制画面へつながった。
『生体監視、全チャンネル正常』
「白石さん」
『はい』
「行ってきます」
一瞬の沈黙。
『……行ってらっしゃい。4人ではなく、今日は全員で帰ります』
救助する人数は、まだ分からない。
だからこそ、その中へ俺自身も入れる。
「了解」
キャノピーが閉じる。
熱核タービンが咆哮した。
《白鷺》は、初めて怪獣のいる空へ飛び立った。
◇◇◇
現地へ近づく前から、黒煙が見えた。
ゴルザが出現したのは、山々に囲まれた小さな盆地だった。
山腹には、超古代遺跡を覆う金色の光。
その周囲へ、避難中の車列が伸びている。
避難開始は間に合っていた。
だが、地殻変動で道路の一部が崩れ、2台の大型バスと複数の乗用車が谷側へ取り残されている。
合計63名。
徒歩で山を越えるには、子どもと高齢者が多すぎた。
GUTSの地上隊が、崩れた道路へ仮設路を作ろうとしている。
その奥。
ゴルザが、遺跡の方向へ歩いていた。
「《白鷺》、現地到着」
『状況を確認した』
黒木さんの声。
『第1任務。避難車列からゴルザを引き離せ』
「了解」
ガッツウイング1号と2号が、すでに上空へ入っている。
機首レーザーがゴルザの背へ連続して当たった。
怪獣は一度だけ振り返った。
だが、痛がる様子はない。
俺の記憶と同じ。
GUTSの攻撃だけでは、止められない。
「機関砲、使用許可を」
『短射のみ許可。避難車列と射線を分けろ』
《白鷺》をゴルザの正面斜め上へ入れる。
引き金を引いた。
20mm弾を、3発。
ゴルザの顔面へ命中。
硬い外皮で弾け、火花が散る。
傷にはならない。
だが、ゴルザの赤い目がこちらを向いた。
「もう一度」
5発。
今度は口元。
ゴルザが吠えた。
「効いてはいません。でも、怒らせました」
『それでいい。川沿いへ誘導しろ』
避難車列とは反対側。
人のいない河川敷へ、低空で抜ける。
ゴルザが歩みを変えた。
大きな足が地面へ落ちるたび、衝撃で木々が倒れる。
「目標、追尾」
澄人が位置を読む。
『避難車列との距離、増加中。あと2分で仮設路が開通する』
2分。
それだけ稼げば、63人を谷の外へ出せる。
ゴルザの額が光った。
来る。
ペナルティゾーンで、何百回も見た予備動作。
「右へ散開!」
機体を捻る。
紫色の光が、左翼のすぐそばを通過した。
空気が熱で歪む。
警報。
左翼外板温度、急上昇。
直撃していない。
それでも、これだ。
「被害は?」
『左翼外板に熱変形。飛行継続可能』
美園さんの声が通信へ入る。
『交換部材はあります。いまは飛んでください』
「了解」
ミサイルを1発。
ゴルザの足元へ撃ち込む。
爆発と土煙。
怪獣が足を止める。
攻撃が通じたわけではない。
ただ、俺を見失った一瞬だけ、歩みが遅れた。
「避難車列、移動開始!」
遠野さんの報告。
バスが、仮設路を越える。
1台。
2台。
乗用車が続く。
最後尾の車両が動き始めた瞬間。
地面が再び割れた。
崩れた斜面から、巨大な岩塊が道路へ落ちてくる。
このままでは、最後尾のバスを押し潰す。
「局所力場、前方集中!」
ピンポイントバリアの試作核へ電力を送る。
機首前方に、青白い力場が開いた。
《白鷺》を、落下する岩とバスの間へ滑り込ませる。
『灯、直撃コースだ!』
「分かってる!」
岩塊が、局所力場へ衝突した。
機体全体が揺れる。
視界が白く弾けた。
力場は、岩を止めなかった。
軌道を、わずかに逸らした。
数百tの塊がバスの後方へ落ち、道路を半分削り取る。
最後尾のバスが、その横を通過した。
「避難車列、全車通過!」
歓声が通信へ混じる。
こちらは、喜んでいる余裕がなかった。
「力場発生核、温度上限!」
『再使用禁止。冷却が必要です』
局所力場は、もう張れない。
それでも、63人は谷の外へ出た。
ゴルザが、再び遺跡へ向きを変える。
目的は人間ではない。
山腹の金色の光。
その中に眠る、3体の石像。
「GUTSへ伝えてください」
俺は機体を上昇させながら言う。
「ゴルザは遺跡を狙っています。石像を壊させないでください」
『既にGUTS地上班が内部へ向かっている』
「間に合いますか」
返事はなかった。
俺にも分からない。
知っている物語では、3体のうち2体が壊される。
最後の1体だけが、光を取り戻す。
それを変えられるのか。
変えた結果、光まで失うことはないのか。
前世の知識は、正しい答えではない。
ただの地図だ。
地図にない分岐へ踏み込めば、その先は誰にも分からない。
空の色が変わった。
「上空、未確認飛行体!」
澄人の声。
雲を突き破り、赤い翼を持つ巨大な怪鳥が降下してくる。
鋭い嘴。
折れ曲がった首。
空を裂く鳴き声。
「メルバ……!」
ゴルザだけではない。
2体目が来た。
メルバは、《白鷺》より遥かに速い。
一度旋回しただけで、ガッツウイング2号の背後へ回り込んだ。
嘴から放たれた光弾が、右翼を掠める。
GUTS機が煙を引きながら高度を落とした。
「2号機、操縦系統に障害!」
『救難信号を確認。山間の平地へ緊急着陸する』
メルバが、追撃態勢へ入る。
ここで2号機を落とさせれば、搭乗員は助からない。
「小型誘導弾、2発」
発射。
1発目がメルバの腹部へ当たる。
爆煙。
2発目は翼の根元。
外皮の一部が弾けた。
初めて、目に見える傷がついた。
それでも浅い。
メルバが首を巡らせ、こちらを見る。
「注意を引きました」
『2号機は着陸態勢へ。白鷺、メルバを離せ』
「了解」
推力を上げる。
メルバが追ってくる。
通常状態の《白鷺》でも、旋回半径なら食らいつける。
だが、速度が違う。
直線へ入った瞬間、距離が縮まる。
「後方300m!」
メルバの嘴が光る。
左へ急旋回。
光弾が右主翼の下を通る。
もう一度。
今度は、尾部を掠めた。
警報が増える。
「尾部推力偏向、応答低下!」
『右系統が遅れています。通常機動を制限してください』
制限すれば、追いつかれる。
制限を無視すれば、尾部が壊れる。
メルバが翼を翻し、《白鷺》の横へ並んだ。
巨大な翼が、視界を覆う。
嘴がこちらへ向く。
「緊急高出力モード、起動申請!」
通信が一瞬、静かになった。
『現場指揮、条件を確認する』
黒木さんの声。
『目的は?』
「メルバをGUTS機と避難区域から引き離す。可能なら、片翼を損傷させ、遺跡到達を遅らせます」
『最大使用時間は?』
「60秒。180秒は使いません」
『医療』
奏の声が入る。
『現在の生体情報は起動基準内。ただし、4.5Gを超えた時点から継続監視。脳表酸素化または心拍が停止基準へ達した場合、強制停止を要求します』
『現場指揮、承認。灯』
「はい」
『止めろと言ったら、止めろ』
「了解」
メルバの光弾が放たれる。
その直前。
青い画面を開いた。
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【OVER DRIVE】
▶ 起動費用:1,000 SP
▶ 最大稼働時間:180秒
▶ 設定上限:60秒
※機体寿命の前借りを開始します
=========================================
「起動」
【1,000 SPを消費しました】
世界が、遅くなった。
◇◇◇
タービンの咆哮が、甲高い音へ変わった。
機体が赤熱する。
推力。
翼の応答。
推力偏向。
すべてが、操縦桿へ触れるより先に動き始めたように感じる。
メルバの光弾が、目前へ迫っている。
さっきまでなら、避け切れなかった距離。
操縦桿を倒す。
《白鷺》が、横へ消えた。
光弾が残像だけを貫く。
「1秒。推力146%!」
澄人の声。
身体が座席へ叩きつけられる。
EX-ギアが脚と腹を締める。
視野の端が暗くなる前に、奏の声が入った。
『5.2G。脳表酸素化、維持』
メルバが首を巡らせる。
その動きが、遅い。
俺の機体が速くなったのだ。
正面からメルバへ突っ込む。
20mm機関砲。
3発。
3発。
3発。
翼の根元へ、同じ場所を狙う。
弾が外皮を削る。
穴にはならない。
だが、傷を重ねる。
「10秒。左翼温度上昇!」
メルバが翼を振る。
空気の壁が《白鷺》を叩く。
機体を縦へ捻り、翼端のすぐそばを抜けた。
近い。
巨大な羽毛のような表面まで見える。
ミサイルは残り2発。
1発を傷へ撃ち込む。
爆発。
メルバの身体が傾いた。
翼膜の一部が裂ける。
それでも、飛行を止めない。
「20秒!」
『心拍148。呼吸を整えてください』
息を吐く。
血液を頭へ戻す。
もう一度、後方へ回り込む。
メルバは、俺を追うのをやめた。
山腹の遺跡へ向きを変える。
「目的地を優先した……!」
俺を倒すより、石像を壊すことを選んだ。
その先では、ゴルザが金色の光へ腕を振り下ろしている。
石像を覆っていた光の一部が砕けた。
内部へGUTS隊員が走っていくのが見えた。
あと少し。
光が目覚めるまで。
「メルバを止める!」
《白鷺》を加速させる。
「30秒。冷却A、B、C、上昇継続!」
『尾部右系統、許容温度まで12℃』
メルバの背へ追いつく。
機関砲の残弾は少ない。
ミサイルは1発。
局所力場は、岩を逸らしたことで再使用できない。
残っているのは。
交換式の耐荷重ブロック。
そして、機首へ力場を集めるための、最低限の予備電力。
「局所力場、0.2秒だけ再展開できますか」
『試作核は冷却不足です』
澄人の声が硬い。
『展開できても、次はありません』
「1回でいい」
『失敗したら、機首が保たない』
ゴウの声。
『灯。翼じゃなくて、耐荷重ブロックを使え。先に壊すために付けた』
「分かってる」
メルバの左翼根元。
機関砲とミサイルで傷つけた場所。
そこへ、力場の先端だけを当てる。
機体本体は接触させない。
「近接突破、実行」
『灯!』
黒木さんの声。
『接触は一瞬だ。欲張るな』
「了解」
機首前方へ、青白い光が灯る。
《白鷺》がメルバの翼下へ潜り込む。
巨大な翼が、頭上を覆う。
0.2秒。
力場の楔が、傷ついた翼膜へ触れた。
裂ける音は聞こえなかった。
だが、メルバの左翼が大きく跳ね上がる。
翼膜に、縦の亀裂が走った。
怪鳥の身体が、空中で傾く。
遺跡へ向かっていた進路が逸れ、山腹の横を大きく旋回する。
「損傷を確認!」
遠野さんの声。
『メルバ、飛行速度低下!』
届いた。
倒してはいない。
片翼を失わせてもいない。
それでも、進行を止めた。
光が目覚めるまでの時間を作った。
「43秒!」
奏の声が鋭くなる。
『脳表酸素化、停止基準へ接近。心拍155。灯、切ってください』
まだメルバは飛んでいる。
ゴルザも石像へ攻撃を続けている。
あと数秒。
もう一度追えば、さらに翼を壊せるかもしれない。
胸の奥から、続けろという声が上がる。
間に合わせろ。
今止めたら、遅れる。
だが。
俺は約束した。
「OVER DRIVE、停止!」
迷うより先に、スロットル横の遮断スイッチを叩いた。
【OVER DRIVE:強制終了】
【稼働時間:44.3秒】
推力が落ちた。
世界が、一気に元の速さへ戻る。
その反動で、身体が前へ投げ出される。
警報が重なった。
「尾部右系統、停止!」
「左翼可変機構、固定!」
「冷却B、圧力低下!」
《白鷺》が、姿勢を崩す。
操縦桿が重い。
右へ傾く機体を、副制御が必死に戻そうとしている。
『灯、帰還制御へ移れ!』
「まだです」
眼下。
ゴルザの腕が、1体目の石像へ振り下ろされる。
石像が砕けた。
続いて、メルバの光弾が2体目へ当たる。
巨人の胸が崩れ落ちる。
2体。
守れなかった。
残るのは、1体だけ。
その足元へ、GUTS隊員が走っている。
間に合え。
もう、俺にできることは少ない。
機体は壊れかけている。
ミサイルは1発。
機関砲は残り7発。
局所力場は使えない。
それでも。
「最後のミサイル、ゴルザの顔面へ」
『射撃後、即時離脱しろ』
「了解」
発射。
ミサイルが、ゴルザの左目近くへ命中した。
爆炎。
怪獣が顔を逸らす。
腕が、残る石像から外れた。
数秒。
ただの数秒。
その数秒のために。
翼を焼き。
機体寿命を削り。
武器を使い切った。
山腹の遺跡から、光が溢れた。
金色ではない。
白く。
青く。
朝日のように、暗い谷を満たす光。
「何が——」
ゴウの声が、通信の向こうで止まる。
石だった巨人の胸へ、光が集まる。
額。
胸。
両目。
3,000万年の眠りから、光が輪郭を取り戻していく。
ゴルザが吠えた。
メルバが、裂けた翼で旋回する。
2体の怪獣が、同じ方向を見る。
《白鷺》の尾部が、完全に止まった。
機首が下がる。
高度警報。
「操縦不能……!」
『独立帰還制御へ!』
「応答しない!」
焼けた制御線が、帰還系統まで巻き込んでいる。
地面が近づく。
操縦桿を引いても、機首が上がらない。
これが、44秒の代償。
分かっていた。
分かっていて、使った。
『鈴木さん!』
奏の声。
恐怖が、隠し切れずに滲んでいる。
「まだ生きてます」
『脱出を!』
キャノピーを開く高度はある。
EX-ギアで射出すれば、俺だけは助かるかもしれない。
だが、《白鷺》は人のいる山側へ落ちる。
「機体を、無人地域へ向けます」
『操縦不能なんでしょう!』
「推力が少しだけ残ってる」
左の補助推力を最大。
機体が、ゆっくりと川側へ向きを変える。
これで、墜落しても人は巻き込まない。
「脱出準備——」
目の前が、白く染まった。
墜落の衝撃ではない。
巨大な光が、谷を照らしている。
下から。
人間の何倍も大きな手が伸びてきた。
《白鷺》の機体を、壊さないように。
翼ではなく、中央のフレームを支えるように。
そっと。
巨大な手が、落下する白い機体を受け止めた。
操縦席の正面。
銀と紫の巨人が、こちらを見ていた。
額の結晶。
胸の光。
目覚めたばかりの光の瞳。
前世で、画面の向こうから何度も見た存在。
この世界で。
人間の鉄が稼いだ時間の先に。
光の巨人が、目を開いた。
「……間に合った」
声が震えた。
巨人の名を、初めて現実の空で呼ぶ。
「ウルトラマン……ティガ」
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【現在のステータス・スキル情報】
[BASE STATUS]
┣ 演算処理能力:C
┣ 空間認識力:C
┣ 反応速度:C
┗ G耐性/肉体:D(EX-ギア装着時:B相当)
[ACQUIRED SKILLS & KNOWLEDGE]
┣【超古代言語理解 Lv.2】
┣【マクロス初代・統合技術パック】(翻訳作業:進行中)
┣【可変荷重フレーム設計(基礎)】
┣【高出力推進・熱管理統合(基礎)】
┣【ピンポイントバリア(基礎)】
┣【EX-ギア(操縦統合型)】
┣【OVER DRIVE】(初使用)
┣【インファイト Lv.1】
┗【SPアップ Lv.2】
[SYSTEM DATA]
┣ 所持ポイント:10,675 SP
┣ 残機数:3 / 3
┣ 《白鷺》:大破/飛行継続不能
┣ 救助:避難車両63名の退避を支援
┣ 戦果:メルバ左翼を損傷/ゴルザの攻撃を一時阻止
┣ OVER DRIVE:44.3秒使用/翼・推進器・可動部に重大損傷
┣ 操縦者:生存/ティガの手で機体を保持
┗ 状況:光の巨人、覚醒
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