いきなり許嫁候補!? ~分家序列最下位からの成り上がり?!私、望んでませんから!ほっといてくださいよ!~ 作:天野建
第41話 私、姿勢を崩さず
明けの明星の館の大広間。
ここはまさしく四面楚歌と言っても過言ではない空間であった。
私は目を伏せ、静々と退場する。
どこまでも追いかけてくる視線。
どれもこれも好意的ではない。
ふふん。問題ないのである。
こんな圧、前世の戦場に比べれば、他愛もないものである。
命を取られる心配がないのであるからな!
ないよな?
部屋を出ると私はメイドさんに連れられて、控え室に戻る。
この控え室というのは、最初に通された控えの部屋ではない。
借り物の着物を着せられた部屋である。
それにしてもである。
着物というものは、窮屈である。
着慣れれば、それと感じないのであろうが、初めて着た身としては動きを制限されるのが、落ち着かない。背筋が自然ピンと伸びるのはよい点ではあるがな。
メイドさんに従い歩きながら、内心で顔をしかめる。
くう。気を張り続けるのは辛い。
しかしまだだ。まだ我慢しろ、私。ここで気を抜いてはならないのである。
儀式前に来た控えの部屋に到着すると、メイドさんズが寄ってきて、着物を脱ぐ手伝いをしてくれる。
ありがたいことである。
高そうな着物の処理の仕方など、異世界知識の中にはない。
そして今は私は幼女である。今世の知識の中にもないのである。
我が母でさえも正確な知識を持ち合わせているかどうかも疑問である。
いや、それは母を侮りすぎてあろうか。
いけない。つい神経がすり減りすぎて、考えが辛辣になってしまったのである。
この日本において、母は20数年生きてきている、いわば先輩である。
着物の知識も持ち合わせているかもしれない。
脳筋だから知識がないとは思ってはいけない。
はっ。また考えがネガティブな方向に向かっている。
まだ気を抜く時ではない。ましてや隙をみせてよい時でもない。
後もう少し、頑張れ私。
無だ。我が父の無心になる姿を見習うのである。
我が父は瞬時に無になる。私もそうならねばなるまい。
今だけでもな。
私は努めて思考を走らせることを停止した。
無だ、無だ、無である!
本家のメイドさんズは手際がよく、程なく着物から私を解放してくれた。
ふいー。
これだけでも肩の力が抜ける。
それから私は素早く我が分家の家色、灰色の一張羅を身につけた。
そしてお手伝いをしてくれたメイドさんズにお礼を言う。
「お手数をおかけ致しました。助かりました」
お礼は大事である。そして笑顔も添える。
たとえその笑顔が多少萎びていたとしても、プロのメイドさんズは見逃してくれるであろう。
「礼は不要でございます。当然のことでございます」
メイド長が厳かに告げる。
そうだ。仕事である。
たとえその仕事が分家序列最下位の家の娘の着付けにたいしても、手を抜くことはないのだろう。
プロの心意気である。ありがたいことである。
一分の隙もない
ありがとう。メイドさんズ。この恩は忘れないのである。
「では、私は父の待つ部屋に戻ります」
最後に一礼して、メイドさんの1人について、部屋を後にする。
私が部屋を出る寸前、
「筆頭婚約者候補、大海様、以後お見知りおきを」
ぐはっ!メイド長であれば、定型の挨拶なのかもしれない。
しかし、今の私には刺さる一言である。
よろしくしたくない。
できれば、このまま家に帰って、二度と本家と拘わりなど持ちたくはないのである。
それを声の限り叫びたいのである。
しかし、しかしである。
私の前世の記憶がそれを押しとどめた。
後の事を考えると、それは失策である。
頑張れ私、後一息。
私はメイドさんズを振り返り、軽く頭を下げ、すっと部屋を出た。
それが正解の対応だったかわからない。
しかし、しかしである。
よろしくおねがいしますとの言葉を絞り出すことは、私にはどうしても出来なかったのである!
そこまで求めれても困るのである!
私は、子どもだ、幼児だ。
それを理由に見逃して欲しいのである。メイド長!
私はメイドさんの1人に続いて、廊下を歩く。
そしてこの明けの明星の館にて、父と私の控えの部屋まで戻って来た。
「案内ありがとうございました」
私はなんとかメイドさんにそう礼を告げると、すっと部屋へと入り、静かにドアを閉める。
途端出る、
「はああああああ」
大きなため息。
頑張った私!頑張った!
誰も褒めてくれないので、自画自賛する!
この部屋では緊張の糸をゆるめても、誰の咎を受けるものでもあるまい!
今日一日私は頑張ったのである!
反論は認めない!!
本日から毎日4話ずつ、更新していきたいと思います!
どうぞお付き合いの程、よろしくお願い致します!