いきなり許嫁候補!? ~分家序列最下位からの成り上がり?!私、望んでませんから!ほっといてくださいよ!~ 作:天野建
興奮さめやらぬ私であったが、
「お帰りなさいませ」
との本家の子分である松也さんからの一言で、すっと冷静になった。
そしてその言葉で、松也さんたちもしばしの間私たちを見失っていたのがわかった。
であるよな。あの場には、私たちしかいなかったのであるから。
松也さんと他一名は、冷静に我らを待っていたようである。
異能力を使って妖を倒すという生業をしているからか、人払い、一種の結界には慣れているのかもしれない。
私としても不可抗力であったのである。
しかしここは一言詫《わ》びを入れておく。
それが人間関係をスムーズにする秘訣であろう。
私は軍人時代に
「ご心配をおかけしました」
そう言いつつ、頭を下げる。
「無事にお帰りなさいまして、ほっとしております」
松也さんも私に合わせ、頭を下げた。
まったくよく出来た子分である。序列低位の私にすっと頭を下げられる。
お役目と心得ているのであろう。
さて、松也さんに聞くところによると、危険は限りなく低そうであったため、様子を見ていたという。
さすがである。私が感心していると、松也さんではない子分、名乗りがなかったのでそのままである。
その子分その一としておこうか、が、少し低めた声で私を呼んだ。
「ところで、大海さま」
「はい?」
「ここに来るに際し、人払いをされる可能性について考えておられたのでしょうか?」
「ああ、ちらっと頭をよぎったけれど、未知なる場所であったからね。確信はなかったよ」
名乗りもしない者には私も敬語は使わない。
大人げない?子どもであるからな!
「それでも可能性は、あっということですね?」
「ああ、まあ、そうであるかな」
なんか圧がすごい。私が若君の筆頭許嫁候補であるから、すごい丁寧に接してくれてるけど、もしそうでなければ、もっと雑に扱われていたはずである。それが今少し垣間見えている。
「ならば、我らに一言口添えをしておいてくれないと困ります」
「はあ」
え、子分ズもただついてくるのではなく、その可能性も考慮にいれるべきだったのでは?
なにより本職なのであるから。
そう思ったけれど、口には出せない。
なにせ、私よりも序列は高い人たちである。
「申し訳ございませんでした」
私がとれるのは、謝罪の一択である。
「若様に報告させていただきます」
うっ。それはできればやめてもらいたい。
序列上位に要求するのは、大変はばかれるが、背に腹は代えられない。
それほど問題ではないかと思うが、少しでも次回の外出に影響があるものは伏せて欲しいのである。
私は松也さんむけて、お願いする。
「今回何事もなかったですし、人払いの件は、報告しないようにお願いできないでしょうか?お願いします!」
私はきっちり90度頭を下げた。松也さんに!
「おねがいします!」
私の横で、晶露様が私の本気を感じたのか、恐れ多くも、一緒に頭を下げてくれた。
「晶露様!頭をお上げください!」
子分その一が慌てたように晶露様の頭を急いで上げさせている。
ふふ、私だけではだめな願いでも、晶露様が絡めばこちらが有利である。
晶露様は本家のご子息!
個人の序列でもダントツに高かろう!
その晶露様の願いである!
望みは叶う可能性あり!
が、
「申し訳ありません。晶露様。私どももお役目がありますれば、それは出来かねます」
松也さんがすまなさそうに告げる。
ああ、無情。ばっさりである。
子分その一が私に向き直って、その理由を述べる。
「考えてもみてください。晶露様、大海様、お二人が結界内にいた時の状況報告が、我々にはできない。その理由を言わない訳にはいかないのです」
「ああ、そうですね」
私はがっくりと肩を落とした。
そうか。子分は護衛の他に、今日一日の出来事を詳細に報告が必要であるのか。
考えてみれば当たり前である。
ああ、一分前の私。
なぜ、人払いの可能性もあったと証言してしまったのか!
予想外であったと申し述べた方が、今後に影響しなかったのではないか。
く、しくじったのである。
願わくば、若様がさらっと人払いのことを流してくれることを祈るばかりである。