いきなり許嫁候補!? ~分家序列最下位からの成り上がり?!私、望んでませんから!ほっといてくださいよ!~ 作:天野建
「本日はお時間をお取りいただき、ありがとうございます」
そこで深々と頭を下げる。
今居るのは、恐れ多くも若君のお部屋である。
通常若君が私と話をする時には、晶露様の部屋を使用することが多いのであるが、今回は晶露様を抜きに話を進めたい為に、こちらに出向いた次第である。
若君の部屋。およそ7歳児の部屋とは思えない作りである。
扉を入った先にまずは中央に応接セットが。その先には子供用の机ではなく、まさしく執務をするぞというような重厚感があるものがある。両の壁際には本棚。
私の若君の部屋に入っての感想は、遊びがない部屋である。
よく見ると、入って左側の奥に扉がある。おそらく寝室へと続く扉かと思われる。
その奥のお部屋にはどうか、若君が安らげるものがあるものと思いたい。
私は招かれるままに、ソファに座る。
若君、働き過ぎである。
どうか、少しでも遊びを覚えて欲しい。
「なんだ?その憐れむような目は、やめろ」
「は、申し訳なく!」
いや、この部屋が7歳児の部屋と言われたら、悲しくなるのは、正常な反応であろう。
しかし、今は頭を切り替えるべきか。
「いい。それより要件をいえ」
「ははっ」
「……相変わらずな物言いだな」
すまない。切り替えると言いつつ、胸にこみ上げるものがあって、言葉にまで気を遣う余裕がない。
加え、いくら許嫁候補であるとはいえ、相手は一族の上澄み、それもほぼほぼ頂点におわす方である。翻って自分は底辺を地で行くものである。
個人序列を考えれば、直接話しかけるなど、できないお方なのである。
大げさなと思われるかもしれない。
しかし、常に弁えておかないと、大変なことになるのは、体験上身にしみているのである。
「おい。何を遠い目をしている。早く話せ」
はっ。また考えに集中してしまった。
「はっ。申し訳ございません!」
「お前との話し始めは、いつも手間取るな。俺は忍耐を試されているのか?」
「試そうなどとは!」
とんだ濡れ衣である!私は誠心誠意、序列を意識し対応しているだけである。
「はあ。早く話せ!」
「はい!」
私は若君の忍耐の糸が切れぬうちに話し出した。
「いかがでしょうか?」
「全面外出禁止の緩和を願うか」
私は待った。春先に初遠出をした私たち。その時に、プチ神隠しにあい、それが晶露様を危険にさらしたと見なされ、外出禁止を言い渡された。
私と晶露様はそれに耐えて、2ヶ月あまり大人しく過ごしていたのだ。
いつまでと言われれば、そこまで我慢すればと思えるのに。期限が区切られていないと、一層に堪えた期間であった。
そして夏休み寸前のこの時期。
頃合いであろう。
「外出先は、お前の自宅のみか」
そう、近くにある親戚の家に、ちょっと遊びに行くていである。
これならば、いいであろう?若君よ。
「はい。晶露様は隠しておられますが、外出を禁止されてからずっと心を落ち込ませておりまして。それを私に隠そうとしているのが、さらに痛々しく」
少し大げさに言ってもバチはあたるまい。気落ちしているのは本当であるからな!
「その原因は、お前がしくじったからだな」
「は。それは重々反省しております」
認めます。申し開きをしたところで事実は変わらない。私の考えの浅さが晶露様を危険、いや危険まではいかぬまでも、護衛もなしな無防備な状況においてしまったっことは、否定できない。
それイコール即外出禁止にまでなるとは思わなかったのもまた、私の人物を見る目の浅さである。
正直に言おう。ここまで若君が、厳しく対応するとは思わなかったのである。
若君を甘くみていた、私の不徳である。
それを重々反省する私である。
確かにまだ4歳とお小さい晶露様である。
ご家族以外との外出などあまりないのが普通かもしれぬ。
いやな言い方であるが、若君の御身に何かあった場合に、代わりに一族を率いていかねばならぬ大事な身体である。
用心をするならば、外出を制限するのは仕方がない。
ならば、ご家族が連れ出してくれたらいいのであるが、そんな暖かい家族関係ではない。
加えお役目があるご家族である。若君も含め、大変ご多忙なのだ。
だからこそ、若君が特別に許可を出してくれたであろう。
私はそれに応え、問題なく、遠出を終えなければならなかったのだ。
私はそのワンチャンスを、しくじってしまった。
くう。晶露様、申し訳ありません。
お前は大雑把なところがあるからな。
私がいないのだから、自分で抜けをカバーしなければなるまいよ。
私の前世の友の小言が聞こえる。
うむ。まさにその通り。ぐうの音もでない。
しかし過ぎてしまったことは、どうしようもない。
少しでも待遇を改善するように、尽力しなければなるまい。
「幸いにして、私の自宅は、ご本家宅から大変近い位置にございます」
晶露様の為に、本家が用意した家だから、当たり前である。
「加え、我が両親は、本家経営の会社にて勤めておりますれば、護衛もできまする」
護身術などの武術はともかく、マナーなどはまだまだらしいがな。
「ふむ」
「私が恥を忍び、こうしてご提案しているのは、晶露様の笑顔を取り戻したいと願えばこそでございます。晶露様は若君を大変慕っておられます。その為、それに背くことはしますまい」
「慕う慕わないの問題ではない。俺の命令には従わなればならぬのだ」
相変わらず、若君は固いのである。
私は知っている。そう言いつつも、若君は弟君である晶露様を、大変気にかけておられることを。
今回の遠出で、晶露様が若君にと買った土産を、大事にしていることも知っているのである。
それは晶露様が母君から愛情が与えられないことも、大いに影響しているだろう。
どうにも不器用な若君である。
しかし私は非情な女児。そこを突かせてもらう。
「しかり。ですが、それをぬいても、弟君から溢れる程の親愛の情を頂いておられるのはおわかりかと。そんな弟君に、今喜ぶお顔をさせられるのは、若君をおいてござりませぬ」
その言葉に、若君が眉間に皺を寄せる。
「お前は本当に口がうまい」
ふふふ。口がうまくなければ、前世の軍隊生活で、配給を多くぶんどることができなかったのだよ。
戦地において、食事は唯一の楽しみである。
それはお前だけだよ。周囲は、酒に、女に、楽しみを見いだしていただろう?
背中を預けた戦友の声が聞こえる。
酒は頭がぼうとするから、飲みたくない。女性はまあ、人それぞれである。
だから、お前はなんの未練もなく、潔く死んだんだぞ。そこを治せ。
うん。まったく私の脳内妄想である戦友は、どこまでも真をつく。
「……よかろう。お前も含め、晶露も十分反省しているようだ」
「はっ。深海に沈むがごとくに、猛省しております!!」
「ふん。最初は日帰り、頃合いもみて、泊まりも許す」
「誠にありがたきお言葉!晶露様もさぞお喜びになられるでありましょう!!」
なんと!日帰りだけでなく。お泊まりも許可いただけるとは!
「その代わり、本家の護衛も1人連れていけ。泊まる部屋はあるだろう?」
「はっ!問題ございません!」
「今の言葉通り、問題を起こすなよ?次はないぞ?」
私は知っている。それフラグを立てるというらしいと。
やめて欲しい、若君!
私はその突っ込みをぐっと飲み込み、はっきりと言い切る!
「かしこまりまして!必ずや無事に何事もなく!お過ごしいただけるように、勤めます!」
やったぞ!晶露様!外出許可をもぎ取ったのである!
あれ?私ももしかしてフラグを立てたのであるか?!
一区切りがあまりに短いので、連ねて投稿しました(カクヨムと小説家になろうとのマルチ投稿の関係で話数をあわせてます)