君たちの時代にいたい   作:たかゆき宗也

45 / 49
7章 プロス襲撃事件
第31話:桜雷


「折角の休日なのに付き合ってもらってごめんね」

「いえ、私も一度リラさんと手合わせしてみたかったので」

 

 首都(プロス)の木々が色鮮やかになったある日。

 リラさんにお誘い頂き軍の演習場に訪れていました。

 

「レイチェルにそう言ってもらえるなら、嬉しいな」

 

 呼ばれた理由は、リラさんのリハビリ。

 早々に模擬刀での手合わせが始まりました。

 

 リラさんは低姿勢のまま抜刀、私も剣を抜き、数回打ち合う。

 

「流されてばかりで不思議な感覚です」

「真正面からレイチェルの攻撃を受けるのは分が悪いからね」

 

 リラさんは軽やかに剣を扱う方でした。

 その剣は首都(プロス)で広く使われている物より刀身が細く、切りつける動作に優れているようです。

 

「冷戦になってからは何の仕事をしているの? 各地を飛び回ってたりするのかな」

「そうですね、最近は短期の依頼をこなしています。何時でも前線に向かえるように遠方に行くことは殆どありませんね」

 

 リラさんは身を翻して剣を避けました。

 

 剣技自体はとても型にはまっているのですが。

 戦場の様な足場の悪い場所で無ければ、もっと自由に戦う方なのでしょう。

 

「へぇー! じゃあいつか何処かですれ違うかもね!」

「休日でしたら、私から声をかけますね」

「ありがとう!」

 

 お互いが1本取った所で休憩に入りました。

 

「休日といえば、収穫祭の最終日は空いてる? レイチェルさえ良ければ、一緒に収穫祭を周らない?」

 

「そうですね。その日でしたら、特に用事はありませんが」

 

 ちらりと、演習場の入口を見る。

 そこには、じっとこちらの様子を伺っている数人の女性隊員が居ました。

 

「リラさん程ご友人が多い方でしたら、他にお誘いしたい方が居るのでは?」

「えっ?」

「……いえ、嫌という訳では無いのですが」

 

 慌てて訂正をしましたが、お誘いが嫌だという様に思われてしまわないでしょうか。

 

 お誘い自体はとても嬉しいです。

 ですが、どうも怨みを買ってしまう気がします。

 

「私は一日目に会場の見回りで、友達は皆最終日に見回りが入っててフリーなんだ」

「そうでしたか。……では、私で良ければご一緒させてください」

「ありがとう! 楽しみにしてる」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 

 リラさんは嫌な顔ひとつせず、笑顔を見せてくれました。

 

 

「そろそろ再開しようか」

「分かりました。……ですが一つ、気になっていることがあるのですが。あちらの物陰からチラチラと顔を覗かせている隊員方は一体なんですか?」

 

「あぁ、他部隊の後輩達だね」

 

 リラさんは軽く手を振り、それだけで黄色い歓声が沸き上がりました。

 

「…………いつもなら一言声をかけに来るんだけど、レイチェルの事が気になってるのかな」

「恐らく過去に講習で手合わせをした事があるのでしょう。鬼教官だと軍の教官の方にも褒めて頂きました」

「成程、納得したよ」

 

 確かに広い演習場ですが、私とリラさんの周りには誰も居ない、少し異様な空間が出来上がっていました。

 

「眺めてる時間があれば、各々体力作りに勤しんで欲しいと伝えているんだけどね」

 

 リラさんは困った顔をしながら模擬刀で手をポンポン叩いていました。

 

「私は、憧れの人がいるのは良いことだと思う。だけど、それが目的になっちゃいけないとも思ってる」

 

 お互い距離を取り、剣を構えました。

 小さな合図とともに手合わせは再開し、リラさんは抜刀のような形で斬りかかってしました。

 

「目標の人を決めて頑張るのは良いよ。でもあの人なら……とか。あの人ならもっと……とか。そういった自分の判断じゃなくなった時が凄く危ない」

「えぇ、自身の行動に責任を持って頂きたいですね」

 

 刀を剣で受け止めながら返事をする。

 

「うん。あの子達には戦場で、自分の判断で動ける人になって欲しい」

「そうですね。私も手合わせの時そう伝えるようにしています。ですが、以外です…………軍人は命令が絶対という印象が強かったのですが」

 

 一度距離を取り、一気に攻める。

 リラさんはしっかり反応し刀を交えてきました。

 

「勿論それも大切だし、それが当たり前。でも、規則に縛られて命を落とす人達を何人も見て来てさ。後から来る罰則に怯えて死ぬのは、優先順位が違うんじゃないかなって、私は思う」

 

「自由に動くことの出来ない集団はやはり大変ですね、私のような傭兵であれば全て自分の責任ですから」

 

 リラさんは殆ど呼吸を乱さず手合わせを続けていました。

 とても病み上がりには見えません。

 

「あ、これはあくまで私の意見で、義務論が駄目とかじゃなくてね。そういう考えの人達もいるよねってだけで。私も人間だし、逆に規則を破って死んじゃった子もいるから」

 

 手合わせは私が一本取り一区切り着きました。

 

「ごめん、私こういった話をするのが好きで、後輩達には何も関係なかったね」

 

 リラさんは誤魔化すように笑いました。

 

「……その様ですね。私は自分がどの主義に当てはまるかを考えたことはありませんが、どちらにせよ、自分の心のままに行動したのであれば、それは恥じる死ではないと思います」

 

 正直、自分の返答が的を得ていたのかは不明です。

 私は手合わせに集中していたので、きちんとリラさんの話を聞けていた自信がありません。

 

「………………そうだね、私も、悲しいけど……本人の意志を尊重してあげたい」

 

 その後リラさんは刀を納め、静かに礼をしました。

 それに習い、私も礼をする。

 

 私はリラさんの礼節を重んじる所をとても尊敬しています。

 

「さてと、私も気が緩まないようにしないと、何時、あの戦場に戻るか分からないからね」

 

 リラさんは、ぱんっと頬を叩き伸びをしました。

 

 水筒を持ち、日陰に誘う。

 空いた窓からは涼しい風が吹き込んで来ます。

 

「夏の雨も辛かったけど、冬はもっと大変だからなぁ……」

 

 リラさんは一足先に次の季節へ思いを馳せていました。

 

「リラさんも冬の前線を経験しているんですね、いつ頃入隊したのですか?」

 

 冬の前線は雪で視界も悪く、体力は奪われ、血と泥と雪のアンバランスさに気分が悪くなります。

 

「士官学校に行ってその後入隊だから……そうだ、今の戦線で戦争が始まる前の年だよ」

「奇遇ですね。私もその頃、傭兵になりました」

「それじゃあ私達、実質同期みたいなものだね」

 

 リラさんは嬉しそうにハイタッチを求めてきました。

 無下にする訳にもいかず、答えると二度、三度とハイタッチをしました。

 

「今年の冬は是非、暖炉のある部屋で過ごしたいものです」

「良いね、私はココアが飲みたいな」

 

 北西の第一防衛ラインが化学兵器により崩壊。

 ガスは今でも戦地に残り続け、両軍進軍出来ずに冷戦状態が続いています。

 

 このまま停戦、果ては終戦に向かってくれることを願うばかりです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。