私はにわかなのでGGOのアニメ辺りまでしか見ていませんが、これを機に一通り見直してみてもいいかもしれません。
眩い光の奔流が視界を埋め尽くし、やがて潮が引くように去っていった。
次に目の前に広がっていたのは、見上げるほど高い青空と、どこまでも広がる壮大な街並みだった。
中世ヨーロッパを思わせるクラシカルな石造りの建物、どこか異国情緒の漂う路上、そして頬を優しく撫でていく、爽やかな風の感触。
「……あ」
少年——プレイヤー名『ルカ』は、ゆっくりと自分の両手を見つめた。
透き通るように華奢な指先。指を折り曲げると、脳からの命令に一切の遅延なく、その通りに素直に拳が作られる。
地面を蹴ってみる。トントン、と跳ねるような軽い衝撃が足の裏から全身へと突き抜けた。
「すごい……! 本当に、思い通りに動くんだ!」
ルカの瞳が、一瞬で爛々と輝いた。
透き通るような色素の薄い金髪に、吸い込まれそうなほど澄んだ藍色の瞳。華奢で繊細な美少年といった風貌の彼は、まるで籠から解き放たれた一羽の鳥のように、その場でくるりと一回転してみせた。
「走れる……! 跳べる……! 僕の足で、僕の意志で!」
ルカは抑えきれない歓喜の声を出かすと、そのまま前方に向かって全力で走り出した。
広場を抜け、石畳の小路を駆け抜け、階段を一段飛ばしで一気に駆け上がる。風を切る音、足がしっかりと地面を蹴り上げる心地よい手応え。呼吸が少しずつ上がり、胸が高鳴るその感覚のすべてが、彼にとってはたまらなく新鮮で、愛おしく感じられた。
(楽しい……! 楽しいなぁっ!)
ルカの心には、溢れんばかりのワクワクと情熱が満ち満ちていた。
どこまでも広がるこの壮大な世界は、自分がずっと夢にまで見て、心から楽しみにしていた新しい自由のキャンバスなのだ。
走り疲れて軽く息を整えながら、ルカは広場の中央にある大きな噴水へと戻ってきた。
水面に映る自分の顔を覗き込む。そこには、現実の自分によく似た、けれど活力と生命力に満ち溢れた一人の少年の姿が映っていた。
「よしっ! せっかくこの世界に来られたんだから、思いっきり楽しまなきゃ損だよね!」
自分の頬を両手でパンと叩き、とびきりの笑顔を浮かべたルカは、これから始まる「ソードアート・オンライン」という究極の世界での生活に、胸を大きく躍らせていた。
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「よっ!お前さん、随分と楽しそうにはしゃいでプレイしてんなぁ!」
噴水の縁に腰掛けて景色を眺めていたルカに、気さくな声がかけられた。
振り向くと、そこには赤いバンダナを頭に巻いた侍風の男と、黒髪で静かな雰囲気を纏った少年が立っていた。
「あハハ! あんまりにもこの世界が凄くて綺麗だから、嬉しくてついつい、ね!」
ルカが一切の警戒心なく、太陽のような屈託のない笑みを向けると、バンダナの男——クラインは毒気を抜かれたように苦笑いを浮かべた。
「ハハッ!いやぁ、気持ちはわかるぜ。俺も最初にここへログインした時は、あまりのリアリティに感動したからなぁ。……俺はクライン。で、こっちのクールそうな奴はキリトだ」
「僕はルカ! よろしくね、クライン、キリト!」
ルカは迷うことなく二人に歩み寄り、元気いっぱいに手を差し出して順番に握手を交わした。
隣に立つキリトは、ルカのあまりにも無邪気で人懐っこい雰囲気に圧倒されつつも、引きつり気味の笑みを浮かべて握り返した。
「ルカは……もしかして、フルダイブ型のゲームはこれが初めて?」
キリトが尋ねると、ルカは目を輝かせて大きく頷いた。
「うん! 完全に初めてなんだ! だから見るもの触るもの、何もかもが新鮮で……! ねえキリト、もしよかったら剣の使い方とか、モンスターとの戦い方とか、教えてくれたりしないかな?」
ルカが期待に満ちた上目遣いでお願いすると、クラインが「おお、いいじゃねえか!」とキリトの背中をバシバシと叩いた。
「ちょうど俺もキリト先生にSAOの基本をレクチャーしてもらってるところだったんだよ。ルカも一緒にどうだ? 大人数の方が楽しいしな!」
「本当!? やったぁ! ありがとう、クライン、キリト!」
跳び上がって喜ぶルカの姿を見て、キリトは「仕方ないな」と肩をすくめつつも、決して嫌そうな素振りは見せなかった。
それから三人は賑やかに雑談を交わしながら「始まりの街」の広大な西門を抜け、外フィールドへと足を踏み出した。
見渡す限り青々とした草波が揺れる西の広原には、リスポーンした巨大な青虫型のモンスター『フレンジー・ボア』が何匹もうろついている。
「いいか、ルカ、クライン。SAOの戦闘ってのは、現実の運動神経の良し悪しじゃなく、システムが動きを補助してくれる『ソードスキル』をいかに発動させるかが一番の肝なんだ」
キリトが二人の前で手本を見せるべく、背中の片手剣を抜き放った。
「基本はこうだ。まず構えをとる。正しいフォームに入ると、システムがそれを感知して剣身が光り出す。そこから一定のモーションを意識すると——」
キリトの掲げた片手剣が、かすかな銀色の光を帯びる。その瞬間、彼の身体はシステムのアシストによって一気に前方へ加速し、眼前のフレンジー・ボアを瞬く間に切り裂いた。
「うわぁ……! すごい! カッコいいなぁ!」
目をキラキラと輝かせて拍手をするルカ。
次にクラインが自信満々に挑戦したものの、大振りな剣の扱いに現実の体のクセが抜けきらず、どこかぎこちない動きでなんとかボアを撃破した。
「ふぅ……なかなか難しいな。どうしても現実の感覚で振り回そうとしちまう」
「まあ、最初はみんなそんなもんさ。現実の筋肉の動かし方と、システムへのコマンド入力の感覚をすり合わせていかないといけないからな。……よし、次はルカがやってみろよ」
キリトに促され、ルカは「うん、やってみる!」と元気よく返事をした。
彼は腰のホルダーから初期装備である細身の『細剣(レイピア)』を静かに抜き放つ。
そして、数メートル先を蠢くボアに向かって、スッと滑らかに踏み込んだ。
その直後、指導していたキリトの目がわずかに見開かれた。
ルカの足運び、そして体幹の軸のブレのなさに、通常のプレイヤーにあるはずの「違和感」が一切存在しなかったからだ。
VRの世界に降り立ったプレイヤーのほぼ100%は、現実の身体感覚と仮想アバターとの微妙な「ズレ」に無意識の引っ掛かりを覚える。どれほど運動神経が良い人間であっても、最初は重力感覚や筋肉のフィードバックの違いに戸惑い、動きにミリ単位の躊躇や遅れが生じるものなのだ。
だが、ルカの動作にはその「抵抗」や「迷い」が一切なかった。
まるで最初から、この軽やかでしなやかなアバターこそが自分の本物の身体であるかのように、恐ろしいほど滑らかに、自然体で空間を滑っていく。
ピキーン!
ルカの細剣が淡いエメラルドグリーンの光を纏う。
単発突きスキル《リニアー》。
しかし、システムアシストの力に強引に引っ張られているような違和感は皆無だった。ルカの意思そのものがシステムのアシスト速度を凌駕し、完全に一新された身体を乗りこなしているかのごとき、圧倒的なスピードの突撃。
ズドンッ!
一瞬の閃光。
ルカの繰り出した細剣は、ボアの弱点である眉間のクリティカルポイントを寸分違わず一撃で穿っていた。
ボアは苦痛の声すらあげる間もなく、一瞬でポリゴンの細かい破片となって爆散した。
「えへへ! 倒せたよ、キリト!」
振り返ったルカは、先ほどまでの鋭利な居合いのような動きが嘘だったかのように、可憐な花が咲くような無邪気な笑顔を見せた。
「……ま、まじかよ。おいキリト、あいつ本当にゲーム初心者か……? 動きが俺とダンチだぞ」
クラインが頬をひきつらせながら、キリトの横顔を見込む。
「……間違いない、初心者だと思う。でも……すごいな。アバターの操作精度が、俺の知ってるどのプレイヤーよりも高い」
キリトはルカの楽しそうな姿を見つめながら、内心で深い驚愕を覚えていた。
卓越した直感、一切の迷いのない反応速度。そして何より「アバターを意のままに動かすことに対する障害」が微塵も存在しない。現実世界の肉体のクセや制限に引っ張られる様子が、彼からは全く感じられなかったのだ。
「ルカ……君、現実で何か激しいスポーツとか、武道でもやってたのか?」
気になったキリトが思わず尋ねると、ルカは少しだけ藍色の瞳を丸くしたあと、悪戯っぽくクスッと笑った。
「うーん、昔はちょっとやってたけど、最近は全然かな?でもね……今、すっごく楽しいんだ。自分が思った通りに体が動いて、風を感じて駆け回れるのって、最高に幸せだね!」
その一切の裏表がない純粋な言葉に、キリトもクラインもそれ以上の追及をやめ、「生まれついての才能か」と素直に納得することにしたのだった。
それから三人は時間を忘れて狩りを続け、気づけば街へ戻る頃には、空は息をのむほど綺麗な茜色に染まっていた。
「あー楽しかった! キリト、クライン、色々と教えてくれて本当にありがとう!」
「へへ、お互い様だろ。ルカのおかげで俺もやる気が出たぜ。よし、じゃあそろそろ腹も減ってきたし、今日はこの辺でログア——」
クラインが慣れた手つきで右手の指先を上から下へとスワイプし、システムウィンドウを開いた。しかし、そのまま彼の動きがピタリと固まる。
「……あれ? ログアウトボタンが……ない?」
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「……何言ってるんだよ、クライン。もっとよく確認して…」
キリトも自身のシステムウィンドウを開いた。だが、本来なら最下段に存在するはずの鮮やかな『LOGOUT』のアイコンが、綺麗さっぱり消え去っていた。
「おかしいな……サーバーの不具合かな? 運営のミスにしてはちょっとお粗末だけど……」
ルカも自分のシステムウィンドウを出現させて確認してみる。確かにログアウトの項目は見当たらない。
だが、周囲の二人が見せ始めた戸惑いや不穏な空気をよそに、ルカは特に慌てる様子もなく「あれれ? 不思議だね」と可愛らしく首をかしげているだけだった。
その直後——。
街全体に、重々しく不気味な鐘の音がゴーン、ゴーンと響き渡った。
次の瞬間、三人の視界が眩い紫色の光に包まれ、強制的に「始まりの街」の広大中央広場へと転送された。
「な、なんだ!? 転移か!?」
「全員集められてるのか……!?」
広場は、何千人ものプレイヤーたちでぎゅうぎゅう詰めに埋め尽くされていた。誰もが突然の強制転送に困惑し、ざわめきが波のように広がっていく。
やがて、見上げる空がドロリとした血のような赤色に染まり、空の隙間から粘着質な液体が滴り落ちて巨大な人型を形作った。赤いフード付きのローブを纏った、見上げるような巨人の姿。
この仮想世界の創造主、開発者・茅場晶彦であった。
そして、彼の口から淡々と語られた真相はあまりにも過酷で、狂気に満ちた悪夢そのものだった。
自発的なログアウトの手段は一切存在しないこと。
現実世界の第三者が外部から無理にナーヴギアを外そうとすれば、高出力マイクロ波によって装着者の脳が焼き切られること。
HPがゼロになり、ゲーム内で死を迎えた場合、現実世界の肉体もまた同時に死亡すること。
そして、この死の檻から抜け出す唯一の方法は、遥か上空に聳え立つ100層に及ぶ巨大浮遊城『アインクラッド』を完全に攻略し、最上階のボスを倒すこと。
「——以上でソードアート・オンラインのチュートリアルを終了する。では、健闘を祈る」
茅場の影が空へと溶けて消えた直後、広場は惨劇のような混乱に包まれた。
「嘘だろ……死ぬって……ゲームで死んだら本当に死ぬって……そんなのアリかよ!?」
クラインが頭を強く抱え、その場にへたり込んだ。キリトもまた顔を蒼白にし、絶望に唇をかみ締めながら拳を打ち震わせている。
広場全体がパニックを起こしていた。
「出せ! ここから出せよ!」「助けてくれ! 誰か助けてくれーっ!」「嫌だ、死にたくない!」
プレイヤーたちの悲痛な叫び、怒号、そしてむせび泣く声が地鳴りのように響き渡る。
けれど——。
その惨状の渦中にあっても、ルカの藍色の瞳には、動揺や恐怖の影は一切差し込んでいなかった。
「……デスゲーム、かぁ」
ルカはポンと自分の小さな手と手を打ち合わせた。
もちろん驚きはしたものの、彼の表情には暗さや恐怖の混濁はない。むしろ、恐ろしいほどのポジティブな切り替えの早さで、突きつけられた現状を丸ごと受け入れていた。
立ち止まって泣いていたって、何も始まらない。
こんなにも広大で、美しい風が吹き抜け、自分が自分の思い通りにどこまでも走っていける奇跡の世界が、今まさに目の前に広がっているのだから。
ルカはギュッと小さな拳を固く握りしめた。
そして、隣で恐怖に震えるクラインと、青ざめた顔で激しく思考を巡らせているキリトの顔を交互に見つめた。
「キリト、クライン」
鈴を転がすような、透き通った明るい声。
絶望と混乱が渦巻く広場の中で、ルカの声だけがやけに真っ直ぐで、暖かな光を帯びて響いた。
二人が弾かれたようにハッと顔を上げ、ルカを見つめる。
ルカはいつもの、太陽のようにあたたかく、とびきりの笑顔を浮かべていた。
「怖がって泣いてたって、何も変わらないよね。……だったら僕、最後まで精一杯足掻いてみるよ!」
「ルカ……お前……」
「だってさ、こんなにすごい世界なんだよ? ただ恐怖に怯えてバッドエンドを待つなんて、絶対に勿体ないじゃん! 僕は、この世界をどこまでも全力で駆け抜ける。絶対に生き残って、100層まで攻略してみせるよ!」
その瞳には、現実を呪う陰りも、死を恐れる弱気も微塵もなかった。
あるのは、一瞬一瞬を全力で楽しんで生きようとする、純粋で圧倒的な「希望」だった。
絶望の底に呑まれかけていたキリトは、目の前の少年の力強い前向きさにハッと息をのんだ。
自分よりも遥かに華奢で頼りなく見えるはずの少年が、誰よりも強く、誰よりも高く前を見据えている。
「……そうだな」
キリトの瞳にも、絶望を跳ね返すような静かな闘志の火が灯った。
「ああ……ルカの言う通りだ。立ち止まって待ってるわけにはいかない」
茅場の影が消え去り、パニックが極限に達する中、キリトはルカとクラインの手を強く引いて路地裏へと滑り込んだ。
「クライン、ルカ。今すぐ隣の村へ向かおう。この街に残された有限の資源はすぐに奪い合いになる。強くなって生き残るためには、今すぐ動き出すしかないんだ!」
しかし、クラインは現実で一緒にログインした元のギルドの仲間たちを放っておくことはできないと、苦渋の決断で残ることを選んだ。
「必ず生きて再会しよう」と固い約束を交わし、クラインと別れたキリトとルカ。
「行くよ、ルカ!」
「うんっ! 行こう、キリト!」
夜の闇を切り裂くようにして、二人の少年は「始まりの街」の巨大な門を飛び出した。
月の静かな光を全身に浴びながら、漆黒の草原をどこまでも、どこまでも疾走していく。
夜風にルカの金髪がなびき、その可憐な口元には、少しも揺らぐことのない明るい笑みが浮かんでいた。
たとえここが命を懸けたデスゲームの世界であろうと関係ない。
この自分の足でどこまでも駆け抜けて、仲間と共に100層の果てまで突き進んでやるのだと、ルカは満面の笑顔で星空に誓うのだった。
SAOEoAを買いました。
色々言われている作品ですが、自分は結構楽しめました。
(あのストーリーの終わり方はどうかと思いますが…)
続編に期待したいですが、現状の評価だと厳しいかもしれないのが残念です。