2章のテーマは、過去と今…そして未来へ
です!
過去と今…そして未来へ
旧基地奪還の興奮と、それに続く短い休息。その全てが、まるで嵐のように過ぎ去っていった。
休日が明け、管理人は再び「管理人」としての日常に戻っていた。執務室の窓から見えるタロIIの荒野は、以前と何も変わらない。
しかし、エンドフィールド工業を取り巻く状況は、あの一戦を境に、確実に変化していく。
旧基地という物理的な足掛かりを得たことで、彼らの活動は新たなフェーズへと移行しようとしていた。
管理人は、自らの執務机に置かれたデータパッドを眺めながら、これからの道筋を頭の中で組み立てていた。
旧基地奪還は、あくまで第一歩に過ぎない。この荒れ果てた大地でエンドフィールド工業が再びその輝きを取り戻すためには、やるべきことが山積している。
(奪還後は確か…谷地復興だったっけか… そして
彼の脳裏には、断片的な「知識」が浮かび上がっていた。それは、この世界に来る前に彼が知っていた、「ゲーム」としての情報。
谷地の復興、協約核心の設置、そして、それに伴って発生するであろう数々の問題や、出会うはずの新たな協力者たち。
その知識は、今の彼にとって唯一無二の羅針盤であり、同時に、得体の知れない不安の種でもあった。
この世界は、本当に、彼の知る「ゲーム」と同じように進むのだろうか。時折脳裏をよぎる、あの生々しい記憶の断片。全てが、予定されたシナリオからの逸脱を示唆しているようにも思えた。
コンコン、と執務室のドアがノックされる。
「管理人、ペリカです。入ってもよろしいでしょうか」
「ああ、大丈夫だ。入ってくれ」
管理人が短く応じると、ドアが静かに開き、制服姿のペリカが入ってきた。休日のラフな格好とは打って変わり、きりりとした表情の彼女は、いつもの有能な監察官そのものである。
彼女の手には、複数のデータパッドが抱えられていた。
「おはようございます、管理人。昨日はよくお休みになれましたか?」
その問いかけは、部下としての上司への儀礼的な挨拶だ。
しかし、その瞳の奥に、ほんのわずかな、個人的な気遣いが滲んでいるのを管理人は見逃さなかった。
休日の、あの散歩と頭を撫でた一件が、彼女の中にまだ小さな波紋を残しているのかもしれない。
「早速ですが、本日の報告と、今後のスケジュールについてご説明を。まず、旧基地のセキュリティシステムは、昨夜のうちに完全に我々の管理下に入りました。
基地内の無人ドローンによる定期パトロールを開始し、防衛体制を再構築済みです。現在、残敵の兆候はありません」
彼女は流れるように報告を続ける。その手際の良さは、やはり頼もしいの一言に尽きた。
「次に、今後の活動方針ですが…。旧基地を奪還した今、我々が最優先で取り組むべきは、周辺地域の安定化と、生産ラインの復旧です。具体的には、旧基地の北西に位置する『風蝕の谷』の調査と復興が急務かと。
あの一帯は、かつて我々の重要な資源採掘地でしたが、三週間前の混乱以降、完全に放棄されています」
風蝕の谷――。管理人の「知識」と、ペリカの提案が、差異を感じさせた。
(風蝕の谷…?そんな場所あったか?)
「…その谷には、何がある?」
「はい。谷一帯には、高純度のクリスタル鉱石が豊富に埋蔵されています。これは、エンドフィールドの各種設備を稼働させるための、主要なエネルギー源です。
また、谷の環境を安定化させ、協約核心を設置することができれば、この一帯を恒久的な工業地帯として開発することが可能になります。
それは、エンドフィールド工業の完全復活に向けた、大きな一歩となるはずです」
協約核心。その単語に、管理人は内心で頷いた。やはり、流れは彼の知る通りに進んでいる。だが、他にも管理人の知らない地名や、施設などがあるかも知れない。
そして、彼女の口ぶりには、単なる報告以上の、強い意志が感じられた。それは、失われたものを取り戻そうとする、彼女自身の渇望のようにも聞こえた。
ペリカが口にした「風蝕の谷」という地名。それは、管理人の持つ「ゲームの知識」には存在しないものだった。
彼の記憶にある名前は、もっと別のものだったはずだ。その小さな、しかし明確な差異は、管理人に改めてこの世界の「現実」を突きつけた。
ここは、彼が知っているゲームの世界と似て非なる場所なのだ。安易な知識に頼れば、足元を掬われかねない。
(風蝕の谷…?ゲームの中にあった地名じゃないよな…。
そこも差があるのか… ともかく、協約核心の設置が最優先になるな)
管理人は内心の動揺を悟られぬよう、ポーカーフェイスを保ちながら、思考を巡らせる。
地名が違えど、やるべきことの本質は変わらない。
エネルギー資源の確保と、活動領域の拡大。
そのために「協約核心」の設置が不可欠であるという事実は、彼の知識とも一致している。
管理人は椅子に深く座り直し、指を組むと、真っ直ぐにペリカを見据えた。
「分かった。次の目標は、その『風蝕の谷』の調査と復興、そして協約核心の設置とする。
だが、敵も黙って見ているとは思えない…。
谷の現状はどうなっている? ランドブレイカーの残党や、野生化したアンゲロスが巣食っている可能性は?」
彼の問いは、管理人のそれとして当然のものだった。しかし、その言葉の裏には、この世界の「ズレ」に対する警戒心が色濃く滲んでいた。
ペリカは、彼の迅速な判断に僅かに目を見張った後、手元のデータパッドを操作して、一枚の衛星写真と分析データをホログラムで投影した。
そこには、赤茶けた岩肌が続く、広大な渓谷地帯が映し出されている。
「はい。こちらが風蝕の谷の最新の衛星データです。ご覧の通り、谷の各所に熱源反応が確認できます。
三週間前の混乱以降、この一帯は完全に無法地帯と化しており、逃げ延びたランドブレイカーの一部や、制御を失ったアンゲロスが縄張りを形成している可能性が極めて高いです」
ホログラム上には、危険度を示す赤いマーカーがいくつも点滅している。それは、谷の復興が一筋縄ではいかないことを示していた。
「さらに…厄介な報告が一つ。谷の最深部、かつて採掘施設の中枢があった場所に、非常に強力なエネルギー反応が観測されています。
これがアンゲロスによるものか、ランドブレイカーが何かを持ち込んでいるのかは不明ですが…この反応を放置したまま、協約核心を設置するのは危険かと」
彼女の言葉は、淡々としていながらも、その内容の深刻さを物語っていた。谷の復興は、単なる建設作業ではない。
危険な敵が潜む領域を、力ずくで奪い返す「制圧作戦」となるだろう。
その時、執務室のドアが、ノックもなしに勢いよく開かれた。
「管理人ー! 大変だよ! 食堂のオーブンが壊れて、今日のパンが全部焦げちゃったんだ!」
息を切らしながら飛び込んできたのは、チェンだった。
彼女は、世界の終わりでも告げるかのような悲痛な表情で、パンの惨状を訴えている。
その緊迫感のない報告に、部屋の張り詰めた空気が一瞬で緩んだ。
「チェン!今は大事な作戦会議中です! 食堂の機材トラブルは、施設管理部へ報告してください!」
ペリカが、こめかみを押さえながら厳しく咎める。しかしチェンは、悪びれる様子もなく、管理人に詰め寄った。
「だって、管理人なら何とかしてくれるかなって! ね、お願い! このままじゃ、お昼ご飯が悲しいことになっちゃうよ!」
純粋な信頼(あるいは期待)を一身に受けて、管理人は思わず苦笑した。
この天真爛漫さも、今のエンドフィールドには必要なものなのかもしれない。
シリアスな作戦会議と、焦げたパンの悲劇。そのアンバランスさこそが、今の彼らの日常だった。
短めですが、キリがいいのでこの辺で。
最後にひとつ。
作者は二度と使わないと思っていた技術や力を、誰かを守るために使うキャラが大好物です。
本文の長さアンケートです
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このままでちょうどいい!
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あのぉもうちょっと短くできませんかねぇ…
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たまには長くやってもいいのよ。