先のプロットの影響で、前話を少し編集しました。
チェンの突拍子もない報告は、作戦会議の緊張感を霧散させるには十分すぎた。
ペリカは呆れたように深いため息をつき、チェンは「お願いッ!」とでも言いたげな顔で管理人を見つめている。
日常と非日常が、この執務室の中で奇妙に同居していた。
「分かった。チェン、パンの件は後で何とかしよう。ペリカ、作戦会議を続けよう」
管理人は、その混沌とした状況を、落ち着いた一言で収拾した。再びホログラムへと視線を戻す。
その手慣れた対応に、チェンは満足そうに笑って
「うん!」
と頷き、部屋の隅でおとなしく(?)会議の様子を見守ることにしたようだ。
ペリカは、一つ咳払いをして気を取り直すと、再び監察官としての厳しい表情に戻った。
「…失礼いたしました。話を戻します。私が考えた作戦は、二段階で進めることを提案します」
彼女はデータパッドを操作し、ホログラムの表示を切り替える。谷の地図上に、二つのフェーズを示すマーカーと矢印が表示された。
「第一段階は、谷への進攻ルート確保と、周辺のランドブレイカーおよびアンゲロスの掃討。これにより、安全な前線基地を設営し、協約核心設置のための準備を整えます」
彼女は、谷の最深部、強力なエネルギー反応が観測されている地点を指し示した。そのマーカーは、他のどのマーカーよりも大きく、不吉な赤色で点滅している。
「第二段階は、協約核心の設置です。周囲の探索をしつつ、協約核心の設置が可能な場所を見つけ次第、設置します」
彼女の視線が、管理人、そして部屋の隅にいるチェンへと向けられる。旧基地奪還作戦で中心的な役割を果たしたメンバーが、この任務にも必要不可欠であると、彼女は考えていた。
その時、今まで黙って話を聞いていたチェンが、ぱっと顔を上げた。
焦げたパンのことは、もう頭から消え去っているらしい。
「面白そう! あたしも行く! 谷の奥に何かすごいヤツがいるんでしょ? あたしがやっつけてあげるよ!」
彼女は拳を握りしめ、目を輝かせている。彼女にとって、強敵の存在は恐怖ではなく、胸躍る冒険のようだ。
その言葉に、執務室のドアに寄りかかっていた人影が、ふっと鼻を鳴らした。
「フン。威勢のいいことだ。だが、犬ころのように喚くだけでは、何の役にも立たないぞ」
いつの間にか、レーヴァテインが部屋の入り口に立っていた。彼女もまた、作戦会議の気配を察してやってきたのだろう。
腕を組み、壁に寄りかかるその姿は、相変わらず不遜だが、その瞳には確かな闘志が宿っている。
「…その谷の奥にいるのが何者かは知らんが、私の炎で焼き尽くせない敵ではない。
管理人、私もその作戦に加えろ。あんたの剣となるのは、この私だ」
彼女は管理人を真っ直ぐに見据え、言い放った。その言葉には、疑いようのない忠誠と、自らの力に対する絶対的な自信が満ちていた。
旧基地での共闘を経て、彼女の中で何かが明確に変わったのだ。
ペリカ、チェン、そしてレーヴァテイン。旧基地奪還を成し遂げた、最強のチームが再びここに集結した。
管理人は、頼もしい仲間たちの顔を順に見回し、静かに頷いた。
風蝕の谷に待ち受けるものが何であれ、このメンバーとなら乗り越えられる。そんな確信が、彼の中に芽生えていた。
チェンとレーヴァテインが作戦への参加を表明し、風蝕の谷へ挑むチームの顔ぶれが固まった。
管理人は、彼女たちの頼もしい言葉に静かに頷くと、再びホログラムへと意識を集中させた。
彼の頭の中では、ペリカから提示された情報と、彼自身の持つ「ゲームの知識」が高速で照合され、再構築されていく。
(風蝕の谷… ゲームで言えば、ここは最初の『中枢工業エリア』に相当する場所か。
チュートリアルでは、少数のアンゲロスを排除して、すぐに協約核心を設置できたはずだ。
だが、この世界の状況は明らかに違う…ペリカの報告では、敵の数も施設の種類も大違いだ)
中継タワーや送電スタンドを経由して周囲の工業設備へ電力を供給し、その稼働状況は「協約管理」メニューから一元的に管理できる。
さらに、内部の倉庫はライン全体の資源を貯蔵・管理し、自動化された生産体制を支える。
この核心を設置しない限り、本格的な復興は始まらない。
管理人は、ホログラムに映し出された谷の地図を指でなぞりながら、思考を整理する。
「作戦計画はペリカの提案通り、二段階で進める。第一段階として、谷の入り口から中腹にかけてのエリアを制圧し、前線基地を設営する。ここを足掛かりに、協約核心設置のための資材を運び込む」
彼の声は、執務室の空気を再び引き締めた。その声には、もはや迷いはない。
管理人 「第二段階目は専門の探索チームと共に向かう。協約核心の設置に敵した場所をみつけ、設置する。
その間護衛のためにもオペレーターをつける必要があるが…これは1段階目から継続して俺たちで問題ないはずだ」
その編成は、現状考えうる最高の布陣だった。ペリカが眉をひそめる。
「管理人、しかし、あなたが自ら最前線に立つのは危険すぎます。指揮は帝江号からでも…」
彼女の懸念は当然だった。管理人は、エンドフィールド工業にとって唯一無二の頭脳であり、失うわけにはいかない存在だ。だが、管理人は彼女の言葉を遮るように、静かに首を振った。
「いや、俺も行く…旧基地のアンカーのように、現場で直接状況を判断し、即座に対応する必要がある。それに…」
1呼吸置き、意を決して口を開く。
「この源石《オリジニウム》を操るアーツ…これが必要なるかもしれない…共に行った方が良いと考えたんだ」
その言葉を聞いたチェンが声を上げた。
「そーだそーだ! 管理人がいなくっちゃ、始まんないよ! ね!」
「…フン。あんたが足を引っ張らない限りはな。
だが、管理人の判断は正しい。未知の敵を相手にするなら、小細工よりも、圧倒的な力でねじ伏せるのが最善だ」
チェンとレーヴァテインは、管理人が前線に出ることに何の異論もないようだった。
むしろ、それを歓迎している。ペリカは、なおも不安そうな顔をしていたが、三人の決意が固いことを悟ると、深いため息と共についに折れた。
「…分かりました。管理人の決定に従います。ただし、無茶は絶対にしないでください。
あなたの身に何かあれば、エンドフィールドは今度こそ…」
彼女は、それ以上言葉を続けなかった。三週間前の悪夢が、再び彼女の脳裏をよぎったのかもしれない。
管理人は、そんな彼女の肩を安心させるように軽く叩いた。
「心配するな。今度は、もうあんなヘマはしない。…よし、作戦は明朝決行する。各員、準備を怠るんじゃないぞ?」
チェンのパン騒動が一段落し、作戦会議は最終段階へと移行した。管理人の口から、具体的な作戦計画と行動開始日時が告げられる。
その言葉に、三人の顔が引き締まった。明朝、エンドフィールド工業の未来を賭けた、新たな戦いが始まる。
「心配するな。今度は、もうあんなヘマはしない。
…よし、作戦は明朝決行する。各員、準備を怠るな。チェン」
「はーい!」
「パンの件だが、施設管理部に連絡して、予備のオーブンを食堂に回すよう伝えろ。それでもダメなら、俺が後で見てやる」
「ほんと!? やったー! さすが管理人!」
チェンは満面の笑みで敬礼すると、弾むような足取りで執務室を駆け出していった。きっと今頃、食堂に朗報を伝えに行っているのだろう。
その背中を見送りながら、管理人は再びホログラムに視線を戻した。
そこに映し出されているのは、「風蝕の谷」という名で呼ばれている、広大なエリアの俯瞰図だ。
管理人は、彼の「知識」にあるマップ――『四号谷地』の構造を、目の前のホログラムと重ね合わせる。地名や細かな地形に差異はあれど、大まかな区画構成は酷似していた。
(このマップは…『四号谷地』だよな。北西の『谷地通路』、南東の『アブリー採石場』、東の『源石研究パーク』、北東の『鉱山エリア』、そして北の『エネルギー高地』…。ゲームでは、通路、パーク、高地の三か所にサブの協約核心を設置して、エリア全体の機能を掌握していく流れだった。この世界でも、おそらくそれは同じだろう)
管理人は、ホログラム上の各エリアを指し示しながら、思考を口に出す。それは、情報を共有し、作戦の解像度を上げるための行為だった。
「ペリカ、この『風蝕の谷』のエリア区分について確認したい。この地図を見る限り、谷はいくつかの区画に分かれているようだが」
彼の問いかけに、ペリカは即座に反応し、データパッドを操作して各エリアに名称と情報を付与していく。
「はい。我々が便宜上呼んでいる名称ですが…北西の狭い通路が『谷地通路』。ここは谷への主要なアクセスルートになります。南東は『アブリー採石場』、良質な建材が採れる場所です。東には、『源石研究パーク』。そして、北東には大規模な『鉱山エリア』が広がっています」
ペリカの説明は、管理人の知識とほぼ一致していた。彼女は最後に、谷の最も奥、ひときわ標高の高いエリアを指し示す。
「そして、ここは北に位置する『エネルギー高地』です。
ここは地形が複雑で、天然の要害となっています。敵が本拠地を構えるには最適な場所でしょう」
「フン、隠れることしか能がないネズミの巣窟か。まとめて焼き払ってやればいい」
レーヴァテインが、忌々しげに吐き捨てる。彼女の言う通り、力で押し通すことも可能かもしれない。だが、それでは味方の損耗が激しくなりすぎる。
「いや、力押しは最後の手段だ。我々の目的は、あくまで谷の復興と協約核心の設置。そのためには、各エリアの機能を段階的に回復させ、敵を孤立させていくのが定石だ」
管理人は、谷地通路、源石研究パーク、そしてエネルギー高地の三か所をホログラム上でマークした。
「おそらく、この三か所にサブの協約核心を設置することで、谷全体の電力網と生産ラインを掌握できるはずだ。まずは、最も侵入しやすい『風蝕の谷』を確保し、一つ目の核心を設置する。これを前線基地として、残りのエリアを攻略していく。これが、今回の作戦の骨子だ」
それは、彼の「知識」に基づいた、最も効率的で、最も安全な攻略プランだった。ペリカは、彼の示した作戦計画に、感嘆の声を漏らした。
「…素晴らしい。まるで、最初からこの谷の構造を全て知っていたかのようですね、管理人。 その計画であれば、リスクを最小限に抑えつつ、確実に谷を制圧できます」
彼女の言葉に、管理人は何も答えなかった。ただ、ホログラムに映る、赤いマーカーが点滅する『エネルギー高地』を、静かに見つめていた。
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このままでちょうどいい!
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あのぉもうちょっと短くできませんかねぇ…
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たまには長くやってもいいのよ。