管理人の的確な指示が、静かな戦場に熱狂の火をつけた。
今まで息を潜めていた各員の闘志が、一斉に解き放たれる。
「レヴィ! 建屋の周りのアンゲロスを頼む! 焼き払え!」
管理人からの信頼に満ちた呼びかけに、レーヴァテインは歓喜ともとれる獰猛な笑みを浮かべた。
管理人に「レヴィ」と呼ばれること。それは、彼女にとって何よりの力の源泉となる。
「フン、やっと私の出番か! 待たせすぎだぞ、管理人!」
彼女はそう応じると、片手剣を天に掲げた。その刃に、周囲の空気を焦がすほどの灼熱の炎が渦を巻いて収束していく。
それはただの炎ではない、彼女の意志そのものが具現化した、破壊のアーツだった。
「――灰燼と化せ!」
振り下ろされた剣先から、巨大な炎の蛇が地を走り、建屋を取り囲むように徘徊していたアンゲロスたちに襲いかかった。鋼鉄の装甲が、まるで紙のように赤熱し、溶け落ちていく。
断末魔の代わりに、甲高い金属の軋む音と、内部機構がショートする耳障りな破裂音が連続して響き渡った。
無慈悲な炎は、瞬く間に5体の機械生命体を、ただの鉄屑へと変えてしまった。
その圧倒的な破壊を目の当たりにしながらも、管理人は冷静に自身の役割を遂行する。
彼は、アサルトライフルでの牽制射撃でコンテナ裏の二名を釘付けにしつつ、死角となるルートを瞬時に計算し、高速で接近していた。
ランドブレイカーの男たちが、レーヴァテインの炎に気を取られている、ほんの一瞬の隙を突いて…
「ぐあっ!」
「な、後ろか!?」
一人は銃床による強烈な一撃で意識を刈り取られ、もう一人は反応する間もなく、管理人のコンバットナイフによって喉を切り裂かれていた。鮮血が、乾いた砂に染みを作っていく。
一方、上空ではチェンの独壇場となっていた。
「それーっ! とぉっ!」
アーツによる浮遊能力を駆使し、重力を無視した三次元的な機動で宙を舞う。建屋の窓から慌てて飛び出してきたランドブレイカーたちは、彼女にとって格好の的だった。
二本の剣が、目にも留まらぬ速さで閃く。男たちの銃口がチェンに向けられるよりも早く、彼女の刃が彼らの武器を弾き飛ばし、急所を的確に斬りつけていく。
それは、舞い踊るような、しかし恐ろしく精密な剣技だった。
「管理人! 建屋の中は、これでぜーんぶ片付いたよ!」
地面に降り立った彼女は、剣を振るって血糊を払い、にこりと笑った。
その笑顔は、ついさっきまで命のやり取りをしていたとは思えないほど、無邪気で明るい。
こうして、検問所にいた敵部隊は、わずか数分のうちに完全に沈黙した。あまりにも一方的な、そして完璧な連携による奇襲だった。
銃声と爆音、そして炎の熱が引いていく中、辺りには焦げ付く匂いと、死の静寂だけが残された。
「…よし、第一関門は突破だ。ペリカ、周囲に増援の気配は?」
管理人はアサルトライフルを背中に戻し、警戒を解かずに周囲を見渡しながら、後方のペリカに問いかけた。
「ありません。我々の行動は、まだ敵の中枢には感知されていないようです。しかし…」
彼女は、何かをためらうように言葉を切った。
「先ほどの戦闘エネルギーを、谷の奥から何者かが監視している可能性があります。
微弱ですが、指向性のあるスキャン反応を複数検知しました」
その言葉に、三人の顔に緊張が走る。この静寂は、嵐の前の静けさに過ぎないのかもしれない。
検問所跡を抜けた先は、風が岩を削って作り上げた、天然の迷路のような通路が続いていた。
両側には切り立った崖がそびえ立ち、上空からの視界を遮っている。
ペリカが言っていた『監視』の主は、この複雑な地形のどこかに潜んでいるのだろう。
管理人たちは、武器を構えたまま、慎重に谷の奥へと足を進めていく。
目指すは、この通路を抜けた先にある、協約核心を設置するのに適した開けた場所――中枢エリアだ。
「管理人、前方200メートル、通路の曲がり角に敵影。ランドブレイカーが2名。巡回中のようです」
ペリカが、ドローンからの情報を元に、小声で報告する。
管理人は、手で制止のサインを出すと、近くの岩陰に全員を隠れさせた。
レーヴァテインとチェンは、管理人の指示を待って静かに息を潜めている。
管理人は音もなく岩壁に張り付くと、わずかな隙間から前方の様子を窺った。
報告通り、二人のランドブレイカーが、怠惰な様子でこちらへ向かって歩いてくる。
装備からして、ただの見張りのようだ。強行突破も可能だが、無用な銃撃戦は避けたい。
ペリカの言う「監視者」に、こちらの正確な位置を知らせることになりかねないからだ。
(…やるか)
管理人は静かに決断すると、背負っていたライフルをチェンに預け、腰のコンバットナイフに手をかけた。そして、レーヴァテインとチェンに目配せする。
「俺が片付ける。お前たちはここで待機し、不測の事態に備えろ」
その言葉に、レーヴァテインが不満げに眉をひそめた。
「フン、たかが雑魚二匹に、なぜお前自ら手を下す必要がある。私の炎で、一瞬で…」
「静かにやれ、と言ったはずだ、レヴィ。さっきはともかく、今回は炎は目立つ…今は音を立てるべきじゃない」
管理人は、彼女の言葉を冷静に遮った。その有無を言わせぬ口調に、レーヴァテインは一瞬怯んだように黙り込み、そして悔しそうに唇を噛んだ。
「……わかった。だが、手間取るなよ」
「管理人、気をつけてね!」
「あぁ」
二人の声を背に、管理人はしなやかな動きで岩陰から飛び出した。
彼は、敵の死角となる通路の壁際を、影と一体化するように進んでいく。
時折、源石を操るアーツを扱い壁に生成、そこに張り付くように移動する。
足音一つ立てないその動きは、もはや暗殺者の領域だった。
巡回兵二人が、ちょうど管理人の潜む壁の横を通り過ぎようとした、その瞬間…管理人が動いた。
一人が、何かの気配に気づいて振り返るよりも早く、その張り付いていた壁から飛び降り、鎖骨の間を狙って突き立て、内臓を破壊する。
空いた左手は敵の口を塞ぎ、声なき絶叫が、管理人の手のひらの中でくぐもって消えた。
「!?」
もう一人が、仲間の異変に気づき、慌てて銃を構えようとする。
だがその前に、管理人は敵を鞘と見立て、ナイフを抜刀する。
その際飛び出した血液が目に当たり、男が怯む。
管理人はその怯んだ隙にその懐へと潜り込んでいた。
空いた左手で、狼狽える相手のライフルの銃身を掴んで逸らす。
相手が体勢を崩したその一瞬を逃さず、ナイフを握った右手の肘を、がら空きになった相手の顎に叩き込んだ。
強烈な衝撃に、男の意識が飛びかける。
すかさず足払いをかけて男を転倒させると、その胸の上に乗り上げて膝で押さえつけた。
「がっ…はっ…」
男が何かを言おうとするが、次の瞬間、逆手持ちにされたナイフが、その心臓の位置に寸分の狂いもなく突き立てられ、絶命した。
一連の動作は、まるで流れる水のようだった。ナイフはただの刃物ではなく、管理人の体の一部として、拳や肘と同じ軌道を描いて敵を制圧していく。無駄な動きが一切ない、洗練され尽くした殺人術。
二つの死体を物陰に引きずり、管理人は何事もなかったかのように仲間たちの元へ戻った。彼の顔には、返り血一滴すらついていない。
「片付けた。先に進むぞ」
そのあまりにも手際の良い暗殺術を目の当たりにして、ペリカとチェンは息を呑み、レーヴァテインは複雑な表情で管理人を見つめていた。
彼の強さは知っているつもりだった。だが、今の動きは、彼女の知る『管理人』のそれとは、どこか異質だった。
まるで、幾多の戦場を渡り歩いてきた歴戦の兵士…いや、それ以上に冷徹で、機械的な何かを感じさせた。
記憶を失っているはずの彼の中に、これほどまでの戦闘技術が眠っているという事実に、彼女は改めて戦慄と、そして抗いがたい魅力を感じていた。
「……フン。いつまでも待たせるな」
彼女はそっぽを向きながらも、その横顔には隠しきれない動揺が浮かんでいる。一方、チェンは純粋な感嘆の声を上げた。
「すごい、管理人! まるで影みたいだった! どうやったらあんな動きができるの?」
キラキラとした瞳で問いかけるチェンに、管理人はナイフの血糊を拭いながら少し表情を暗くする。そしてその疑問に答えた。
「体術の延長だ。ナイフは腕や肘と同じ、ただの道具に過ぎないんだってさ」
(全部じいちゃんの言葉なんだがな…まさかここでも使うとは思わなかったが…)
そのまま歩きだそうとすると、ペリカと目が合う。
「管理人…」
心配そうな顔をしたペリカを見て、管理人は張り詰めた表情を崩す。
「…ペリカ、俺は大丈夫だ。行こう」
「ですが…」
1度彼女は口を開こうとするが、管理人はそれを首を振って断る。
「さぁ、先に進もう」
その普段とは少し違う後ろ姿を、ペリカは心配そうな顔で見守っていた。だが、立ち止まっては居られないと彼女は思い、彼の背中について行った。
一行は再び谷の奥へと進む。通路は徐々に広がり、やがて視界が開けた。
目の前に現れたのは、直径100メートルほどの円形の広場。ここが、ペリカが事前にマーキングしていた中枢エリア、メインの協約核心を設置すべき場所だった。
しかし、その広場は決して無人ではなかった。
中央には、篝火のように炎が焚かれ、それを囲むように十数名のランドブレイカーが陣取っている。
そして、彼らの背後には、ひときわ体格のいい、全身を重厚な鎧で固めた男が一人、腕を組んで立っていた。その男が纏う威圧感は、これまでの雑兵とは明らかに次元が違う。
「…! あの男、気をつけてください。スキャンした生体反応のレベルが、周囲の者たちとは比較になりません。あれが、このエリアの指揮官…!」
ペリカの警告と同時に、鎧の男がゆっくりとこちらに顔を向けた。まるで、最初から管理人たちがここに来ることを知っていたかのように。
その兜の隙間から覗く目が、嘲るように細められる。
「ようやく来たか!エンドフィールドの亡霊ども!ずいぶんと静かなご到着だったじゃないか!」
野太い声が、広場全体に響き渡った。男は組んでいた腕を解き、背中に背負っていた巨大なバトルアックスを、ゆっくりと肩に担ぐ。
「俺は『破壊者』のヴォルフガング!この谷の番人だ!
お前たちの再起ごっこは、ここで終わりにしてやる!」
ヴォルフガングと名乗った男がアックスを地面に突き立てると、その衝撃で地響きが起こった。
周囲のランドブレイカーたちが、一斉に武器を構え、下卑た笑みを浮かべる。完全に包囲されていた。
静かな潜入は、ここで終わりを告げた。これから始まるのは…正面からの総力戦だ。
今回も全力で忍殺を決めてまいります。
本文の長さアンケートです
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このままでちょうどいい!
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あのぉもうちょっと短くできませんかねぇ…
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たまには長くやってもいいのよ。