「俺は『破壊者』のヴォルフガング!この谷の番人だ!お前たちの再起ごっこは、ここで終わりにしてやる!」
ヴォルフガングの挑発的な言葉が、谷間に響き渡る。周囲を取り囲むランドブレイカーたちの下卑た笑い声が、それに続く。完全に包囲された絶望的な状況。しかし、管理人の表情に焦りの色はなかった。
むしろ、その瞳の奥には、どこか懐かしむような、そして獲物を前にした捕食者のような、冷たい光が宿っていた。
(ナイフ一本であの場所に放り込まれた時に比べれば、随分とマシな状況だが…どうするかね)
祖父によって叩き込まれた、壮絶な過去の記憶が脳裏をよぎる。硝煙の匂い、血の味、そして孤独な暗殺行。
その経験が、目の前の状況を「絶望」ではなく、単なる「障害」として認識させていた。
ゲーマーとして過ごした平和な日々が、この感覚を鈍らせていたが、本物の死線を前に、彼の本質が再び覚醒しようとしていた。
管理人は、アサルトライフルを静かに構え直し、冷静に戦況を分析する。敵の数は、ヴォルフガングを含めて13名。
全員がこちらに銃口を向けている。遮蔽物も少なく、下手に動けば蜂の巣にされるだろう。だが、それはあくまで「普通に戦えば」の話だ。
「ペリカ、敵の通信を再度ジャミング。こいつらが外部に助けを呼べないようにしろ。チェン、レヴィ、俺の合図で動け。フォーメーションは…いつものでいくぞ」
管理人が静かに告げた「いつもの」という言葉。それは、旧基地の戦いで彼らが即興で編み出し、成功させた連携陣形の名だった。
管理人が前衛で敵の注意を引きつけ、チェンとレーヴァテインが左右から挟撃する、単純だが効果的な戦術。
三人は、言葉を交わすまでもなく、それぞれの役割を瞬時に理解した。
「了解! 通信妨害を開始します!」
後方で待機していたペリカが、即座にタクトを振るい、ハッキングを開始する。彼女の周りに再び青白い電光が迸った。
「小賢しい真似を…! やれ、撃ち殺せ!」
ヴォルフガングが、巨大なアックスを振り上げ、号令を発した。ランドブレイカーたちが、一斉にライフルの引き金を引く。無数の銃弾が、管理人たちに殺到した。
だが、その瞬間、管理人は既に動いていた。
「――今だ!」
彼の合図と共に、まず動いたのはレーヴァテインだった。
「私の前に立つな、雑魚どもが!」
彼女が地面に片手剣を突き立てると、管理人たちの前方に、巨大な炎の壁が出現した。
殺到した銃弾は、その灼熱の壁に触れた瞬間に溶け、あるいは弾道を逸らされていく。それは、絶対的な防御であると同時に、敵の視界を完全に遮る煙幕でもあった。
「行くよっ!」
炎の壁が作り出した一瞬の隙を突き、チェンが動く。アーツで宙を舞い、炎の壁の上を飛び越えると、敵陣のど真ん中に軽やかに着地した。
突然、頭上から現れた少女剣士に、ランドブレイカーたちは完全に虚を突かれる。
「はぁっ!」
二刀の剣が、嵐のように吹き荒れる。銃を構える暇すら与えず、次々とランドブレイカーたちの急所を斬り裂いていく。
彼女の動きは、予測不能な軌道を描き、まるで重力を無視した舞踊のようだった。
敵の陣形が、チェンの奇襲によって完全に崩壊した。その隙を、管理人が見逃すはずがない。
「レヴィ、壁を解け!」
管理人は叫ぶと同時に、炎の壁が消え去るのを待たず、その中へと自ら突っ込んでいった。
常人ならば全身を焼かれるであろう灼熱の中を、彼はまるで意に介さないかのように駆け抜ける。
炎の中から現れた管理人は、既にコンバットナイフを逆手に構えていた。混乱するランドブレイカーの一人の懐に潜り込み、ナイフを振るう。
時にアサルトライフルによる牽制、防御、崩し、更には片手剣を振るい、まとめて薙ぎ払う。敵が一人、また一人と沈んでいく。
その戦闘を、ヴォルフガングは腕を組んだまま、冷ややかに見つめていた。
時にアサルトライフルによる牽制、ナイフや素手による防御、崩し、更には片手剣を振るい、まとめて薙ぎ払う。
敵が一人、また一人と沈んでいく。管理人の動きは、戦場を支配する嵐そのものだった。
その戦闘を、ヴォルフガングは腕を組んだまま、冷ややかに見つめていた。彼の部下たちが、赤子のように蹂躙されているというのに、その表情には一切の動揺が見られない。
むしろ、その兜の奥の瞳は、値踏みするように管理人、チェン、そしてレーヴァテインの三人の動きを観察している。
「なるほどな…噂に聞くエンドフィールドの連中というのは、これほどのものか。雑魚どもでは、足止めにもならんわけだ」
彼は、まるで他人事のように呟くと、肩に担いでいた巨大なバトルアックスを、ゆっくりと両手で握り直した。
周囲のランドブレイカーが最後の雄叫びを上げて絶命し、広場に静寂が戻ったのと、ほぼ同時だった。
残ったのは、管理人、チェン、レーヴァテイン、そして番人ヴォルフガング。四人の視線が、中央の篝火を挟んで激しく交錯する。
「フン、やっと大将のお出ましか。見ているだけとは、随分と余裕だな」
レーヴァテインが、片手剣の切っ先をヴォルフガングに向け、挑発するように言う。彼女の剣は、先ほどの戦いで浴びた敵の返り血で、ぬらぬらと濡れていた。
「余裕ではない。ただの『確認』だ。貴様らが、この俺と戦うに値するかどうかのな」
ヴォルフガングは、ずしり、と重い一歩を踏み出した。その一歩だけで、地面が微かに震える。
彼の巨体から放たれる威圧感が、先ほどとは比較にならないほど膨れ上がっていた。
「…その動き、その連携。そして、その殺気。合格だ。貴様らには、この俺が直々に『破壊』の鉄槌を下してやろう!」
咆哮と共に、ヴォルフガングが大地を蹴った。巨体に見合わぬ、爆発的な突進。彼が握るバトルアックスが、風を切り裂く轟音を立てて、管理人目掛けて横薙ぎに振るわれる。
それは、岩をも砕くであろう、凄まじい一撃だった。
「――来るぞ!」
管理人は叫びながら、瞬時に片手剣でその一撃を受け止める。キィィンッ!という甲高い金属音が、谷全体に響き渡った。
凄まじい衝撃が、管理人の腕を、そして全身を襲う。足元の地面がひび割れ、数歩後ずさるのがやっとだった。
(…重い! ただの力任せじゃない。重心の移動、アックスの遠心力、その全てが計算され尽くされている!)
一撃受けただけで、管理人はヴォルフガングの実力を正確に理解した。こいつは、ただの脳筋ではない。百戦錬磨の戦士だ。
「管理人!」
「させるか!」
管理人の危機を察し、チェンとレーヴァテインが左右から同時にヴォルフガングに襲いかかる。チェンは二刀の剣で死角である背後を狙い、レーヴァテインは炎を纏わせた剣で、アックスを握る彼の腕を狙った。だが、
「甘い!」
ヴォルフガングは、管理人を押し返したその勢いのまま、バトルアックスの柄で地面を強かに打つ。
すると、彼の足元から土と岩が盛り上がり、瞬時にして鋭い岩の槍となって、迫り来るチェンとレーヴァテインを阻んだ。
(土のアーツ!)
「きゃっ!」
「ちぃっ!」
二人は咄嗟に後方へ飛び退き、岩の槍を回避する。だが、その一瞬の隙に、ヴォルフガングは再び管理人へと向き直っていた。その兜の奥の目が、愉悦に満ちた光をたたえている。
「どうした、エンドフィールド!三人掛かりで、この程度か? お前たちの『再起』は、所詮この程度のものだったということか!」
嘲笑と共に、バトルアックスが再び振り上げられる。絶え間ない猛攻が、管理人達を襲い来る。
ヴォルフガングの猛攻は、嵐そのものだった。巨大なバトルアックスが振るわれるたびに、風が唸り、地面が抉れる。
土のアーツによって生み出される岩の槍が、チェンとレーヴァテインの動きを的確に阻害し、彼が管理人との一騎討ちに集中できる状況を作り出していた。
(こんな敵ゲームにはいなかった…強すぎるだろ!? 協約核心を置くだけなのに…これは中々重労働だな…)
剣でアックスの連撃を受け流しながら、管理人は内心で悪態をついた。ゲームの知識が通用しない、完全に規格外の敵。
ヴォルフガングの一撃一撃は、管理人の腕を痺れさせ、骨の芯まで響く。
単純なパワーだけでなく、その技量は管理人がこれまで対峙してきた誰よりも上だった。
「ガァッ!」
アックスが管理人の剣を弾き飛ばし、がら空きになった胴体へ、ヴォルフガングの重い蹴りが叩き込まれた。衝撃で数メートル吹き飛ばされ、管理人は地面を転がる。追撃を避けるため、すぐに地面から跳ね上がるが、膝を着いた。
「管理人!」
レーヴァテインが悲鳴に近い声を上げ、管理人を庇うように彼の前に立ちはだかった。
彼女は片手剣を構え、ヴォルフガングを睨みつける。その瞳には、焦りと怒りが燃え盛っていた。
「フン、女が庇うか。感心なことだ。だが、貴様から先に『破壊』してやろう」
ヴォルフガングは、ターゲットをレーヴァテインへと変更し、アックスを振りかぶる。
その時、彼の背後から、目にもとまらぬ速さでチェンが迫っていた。
「させないよっ!」
アーツで加速したチェンの二刀が、ヴォルフガングの鎧の隙間、首筋を狙って閃く。
しかし、ヴォルフガングは振り向きもせずに、アックスの柄頭を背後へ突き出した。
金属同士が激突する甲高い音。チェンの剣は、分厚い鎧に阻まれ、浅い傷しかつけられない。
「小蝿が…鬱陶しい!」
ヴォルフガングは、そのままチェンを柄で殴り飛ばした。チェンは小さな悲鳴を上げて吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられてその場に崩れ落ちる。
「うっ…くっ…」
三人の連携は、ヴォルフガングの圧倒的な個の力の前に、完全に分断されてしまった。
それぞれが必死に食い下がるが、決定的なダメージを与えることができない。じりじりと消耗し、追い詰められていく。
(…ダメだ。このままじゃ、全員やられる)
脇腹の痛みに耐えながら、管理人は立ち上がった。彼の脳が、高速で活路を探る。
ヴォルフガングの強さ、アーツの性質、そして今の状況。全ての情報を統合し、唯一の突破口を導き出す。
(奴のアーツは強力だが、発動には必ず予備動作がある。地面を叩く、あるいは手をかざす…
そして、奴は常に『破壊』を口にする。慢心と、自らの力への絶対的な自信。そこが、唯一の隙だ)
管理人は、意を決して叫んだ。
レヴィ! チェン! 聞け! 俺に全てを合わせろ!」
その声は、絶望的な状況にありながら、不思議なほどの力強さと確信に満ちていた。
その声に、レーヴァテインと、壁に寄りかかりながらも何とか立ち上がったチェンが、はっと顔を上げる。
「レヴィ!奴の足元を狙え!全力で、奴の動きを止めろ!チェンは俺が合図したら、上からだ!」
その指示の意味を、二人は完全には理解できなかった。だが、管理人の言葉を信じることに、迷いはなかった。
「…! わかった!任せろ、管理人!」
レーヴァテインは、管理人の意図を汲み、剣を地面に突き刺した。彼女の全てのアーツエネルギーが、その一点に注ぎ込まれていく。
「『煉獄』!」
彼女の叫びと共に、ヴォルフガングの足元の地面が、一瞬にしてマグマのように赤熱し、灼熱の炎が噴き出した。
それは、対象を焼き尽くすのではなく、足場そのものを溶かし、動きを封じるための炎だった。
「なっ!? この程度の熱…!」
ヴォルフガングは、足元の灼熱に一瞬たじろいだが、構わずアックスを振り上げ、管理人に止めを刺そうとする。だが、その一瞬の躊躇が、命取りとなった。
「――チェン、今だっ!」
長くなりそうなので、途中になりますがふたつに分けました
本文の長さアンケートです
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このままでちょうどいい!
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あのぉもうちょっと短くできませんかねぇ…
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たまには長くやってもいいのよ。