前回が今日最後と言いましたね?あれは嘘で( '-' )ノ)`-' )
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「…あなたの声紋と生体認証で、全ての権限がアンロックされます。管理人、私たちはあなたの帰りを、あなたの『声』を、待ち続けました。…どうか、我々に進むべき道を」
その言葉を聞き、管理人は頷く。
「分かった。全てを理解したわけじゃないが…まずは認証しよう。この状況を打開するためにも」
「分かった」という力強い返答に、ペリカの背筋がかすかに伸びる。
彼女は差し出したデータパッドを管理人の目の前に恭しく掲げた。その瞳には、管理人が1度目覚めてからの三週間分の停滞を打ち破る希望の光が宿っている。
管理人は覚悟を決め、データパッドに視線を落とした。
画面に表示された『管理人認証』の文字が、まるで心臓の鼓動に合わせるかのように、静かに明滅を繰り返している。
これから行うのは、単なるログイン作業ではない。この世界の、エンドフィールド工業の全責任をその身に引き受けるための、神聖な儀式にも等しい行為だった。
「この状況を打開するためにも」
その決意を声に乗せる。データパッドのマイクが、その音声を拾った。
『――声紋認証を開始します』
無機質な合成音声が執務室に響き、画面上の波形グラフが管理人の声に反応して揺れ動く。グラフは一瞬で複雑なパターンを描き、やがて緑色のチェックマークと共に『認証完了』の文字を表示した。
続いて、画面は『生体認証』のフェーズに移行する。
パッドの指定されたエリアに、管理人は右手の親指を押し当てた。ひんやりとしたガラスの感触。
指先から微かなスキャン光が走り、画面に指紋のデータが展開される。さらに、パッドの上部に埋め込まれた小型カメラが起動し、管理人の虹彩をスキャンし始めた。
『生体情報照合中…』
『……』
『……管理人ID:001 管理人。認証完了。全ての指揮権限をアンロックします』
合成音声の宣言と共に、データパッドの画面が切り替わり、先ほどペリカが説明した『基地運営』『人員配置』といった項目が並んだメニュー画面が表示された。
それと同時に、壁一面の巨大スクリーンや、執務机の上のモニター群が一斉に再起動し、膨大な情報が流れ始める。基地内の全システムの制御権が、名実ともに管理人の手に渡った瞬間だった。
「…おかえりなさい、管理人」
ペリカが、安堵と感動が入り混じった、微かに震える声で言った。彼女は深く、深く頭を下げる。
「これで、私たちは再び前進できます。
…早速ですが、管理人。現状を打開するための最初のステップとして、三週間前の作戦エリア周辺の再調査を提案します」
彼女はすぐさま補佐役としての職務に戻り、壁面のスクリーンに問題の山岳地帯の地図を拡大表示させた。
奇襲を受けたポイントが、赤い円で示されている。
「敵は撤退しましたが、何らかの痕跡を残している可能性が高い。また、我々が追っていた高エネルギー反応…『アンゲロス』の正体も未だ不明です。
これらを放置したままでは、防衛を固めていてもいずれジリ貧になります。小規模な偵察部隊を派遣し、情報を収集すべきです」
彼女はそこで一度言葉を切り、コンソールを操作して、人員配置の画面を呼び出す。
そこには、出撃可能なオペレーターのリストが並んでいた。
「偵察任務に適任なオペレーターを数名リストアップしました。ですが、最終的な人選は、あなたに決めていただかなくてはなりません。…誰を、この最初の任務に?」
リストの中には、当然のようにレーヴァテインの名前もあった。彼女の現在のステータスは『待機中』。
部屋に引きこもっていても、任務となれば話は別なのだろう。そして、ペリカ自身の名前もリストに挙がっている。彼女もまた、監察官であると同時に、優秀な戦士なのだ。
初めて下す、具体的な命令。その選択が、今後の全てを左右する。管理人は、スクリーンに並んだオペレーターたちの顔を、一人一人、じっと見つめた。
ゲームの記憶が脳裏をよぎる。
(確かゲームでの管理人は、直接現地に赴いていたな…普通組織の最高管理人が危険なとこにホイホイ行くかね…。
まぁ切羽詰まった状態だったし、管理人にしか出来ないことが多すぎたって言うのもあるよなぁ…ただ、今はゲームの世界じゃない。
まずは安全を確保…そして俺が必要な場合行くってのが安牌だよな…)
プレイヤーの分身であった「管理人」は、常に最前線にいた。バイクを駆り、オペレーターたちと共に危険な任務に赴いていた。しかし、ここはゲームではない。自分が死ねば、それで終わりだ。
この基地の機能が停止し、多くの命が失われる可能性がある。安易に前線に出るべきではない。それが、現実世界から来た管理人の合理的な判断だった。
しかし、一方で、この身体に宿る力と、ペリカたちが向ける絶対的な信頼が、その判断を鈍らせる。彼らが知る「管理人」は、ただ指令室で指示を出すだけの存在ではなかったはずだ。その期待に、どう応えるべきか。
管理人は、スクリーンに並ぶオペレーターたちのリストをじっと見つめながら、思考を巡らせる。そして、一つの決断を下した。
「…この偵察任務、俺も行く」
その言葉が執務室の静寂を破った瞬間、ペリカの表情が凍りついた。
彼女のライトブルーの瞳が、信じられないという色を浮かべて管理人を凝視する。
「…か、管理人!? 今、なんと…!? あなたが、自ら前線に…? いけません! 絶対にいけません!」
彼女は即座に、そして強く反対の意を唱えた。その声は、普段の冷静沈着な彼女からは想像もつかないほど、感情的で、切実だった。
「あなたの身に万が一のことがあれば、エンドフィールドは…! 三週間前の二の舞です! あの時、私たちがどれだけ…!」
彼女はそこまで言って、唇を強く噛みしめた。あの日の後悔と恐怖が、彼女の脳裏に鮮明に蘇っているのだ。
管理者を失うという、組織にとって最悪の事態。それを二度と繰り返してはならない。
それが、彼女の監察官としての、そして一人の部下としての偽らざる想いだった。
「偵察任務は、我々オペレーターだけで十分です。あなたは、この執務室で指揮を執ってください。
それが最も安全かつ効率的な選択です!」
彼女は必死に説得しようとする。その瞳には、懇願の色すら浮かんでいた。しかし、管理人は静かに首を横に振る。
「ペリカ、君の言うことは正しい。
最高責任者が無闇に危険に身を晒すべきじゃない。だが、今回は話が別だ」
管理人は執務机から離れ、壁のスクリーンに映し出された作戦エリアのマップの前に立つ。そして、奇襲を受けたポイントを指差した。
「三週間前、俺たちはここで未知の敵に敗れた。そして、俺は意識を失った。敵の正体も、『アンゲロス』の情報も、何一つ掴めていない。最も状況を理解しているはずの俺が、その肝心な記憶を失っているんだ」
管理人は、今度は自分自身を指さした。
「現場に行けば、何かを思い出せるかもしれない。失われた記憶の断片が、そこには残っている可能性がある。それに…」
管理人はそこで一度言葉を切り、自分の拳をぐっと握りしめた。身体の奥から、力が湧き上がってくるのを感じる。
「…この身体が、行けと言っている。ただ安全な場所にいるだけじゃ、この状況は打開できない。そうだろう?」
その言葉には、理屈を超えた確信がこもっていた。
それは、この世界の「管理人」が元々持っていた資質なのか、それとも管理人自身の本能か。
ペリカは、その気迫に押されるように、一歩後ずさった。彼女は反論しようと口を開きかけるが、管理人の真剣な瞳を見て、言葉を呑み込む。
彼の言うことにも、一理ある。記憶を取り戻すための最も有効な手段は、その場所へ行くことかもしれない。そして何より、彼の瞳に宿る光は、三週間前の、あの絶望的な状況に立ち向かっていた頃の「管理人」のそれと、全く同じだったのだ。
管理人は狼狽える彼女を見て、つい頭に手を置いてしまう。
「ペリカ、大丈夫だよ。前回のようなことは起きはしない…それに、エンドフィールドには優秀なオペレーター達がいるんだ。問題ないさ」
彼女は唐突に手を置かれた頭の感触に驚いたが、顔を赤らめ少し俯いて受け入れる。
長い沈黙の後、ペリカはついに折れた。彼女は深々と、そして諦めたようにため息をつくと、顔を上げる。
その表情は、覚悟を決めた戦士のものに変わっていた。
「……分かり、ました。あなたの意志が、そこまで固いのであれば。ですが、条件があります」
1呼吸置き、口を開く。
「私も同行します。そして、部隊の編成は、あなたの護衛を最優先としたものに。さらに、少しでも危険な兆候があれば、あなたの判断を待たず、私が強制的に任務を中断させ、撤退を指示します。…よろしいですね?」
それは、彼女なりの最大限の譲歩であり、最低限の安全策だった。
「そうだな、戦闘が考えられるし、戦闘能力が高いオペレーターが必要だ。レヴィは…来てくれると助かるんだが…」
その言葉を聞いたペリカは、一瞬だけ複雑な表情を浮かべた。レーヴァテイン。
基地内でも高い戦闘能力を持つオペレーターの一人であることは間違いない。
しかし、管理人が倒れてからの協調性の無さと、気性の激しさは、誰もが知るところだ。特に、今日の食堂での一件を思い返せば、彼女が素直に任務に参加するかは未知数だった。
「レヴィは…来てくれると助かるんだが…」
管理人が口にした名前に、ペリカは人員リストのレーヴァテインの項目に視線を落とす。彼女のステータスは『自室待機中』に変わっていた。おそらく、食堂から逃げ帰った後、ずっと部屋に閉じこもっているのだろう。
「…レーヴァテイン、ですか。彼女の戦闘能力は確かです。近接戦闘において、彼女の右に出る者はそういません。ですが、管理人。彼女を任務に加えるのは…」
ペリカは言い淀む。彼女を説得するのは困難だろう、と言おうとして、しかし管理人の真剣な眼差しを見て、その言葉を飲み込んだ。管理人が彼女を名指ししたのには、単に戦闘能力だけではない、何か別の理由があるのかもしれない。今日の食堂でのやり取りは、ペリカにとっても予想外のことだったのだから。
「…分かりました。私が彼女に任務への参加を要請してきます。ですが、期待はしないでください。彼女が拒否した場合、無理強いはできません」
彼女はそう言うと、手元の通信機に手を伸ばそうとする。だが、管理人はそれを手で制した。
「いや、俺が行く。直接話がしたい」
「管理人、自ら!? し、しかし…!」
ペリカは言い淀んだが、管理人の目を見、諦めたようにため息を吐いた。
「…彼女の部屋は、この先の居住区画にあります。…もし、何かあれば、すぐに私を呼んでください。すぐに駆けつけますから」
ペリカはそう言って、不安そうな、しかし管理人の意志を尊重するしかないといった表情で、執務室のドアを開ける。彼女は廊下の途中まで管理人を送り届けると、レーヴァテインの部屋の番号を伝え、何度も振り返りながら持ち場へと戻っていった。
一人、静かな居住区画の廊下に立つ。ペリカに教えられた番号のプレートが掲げられたドアの前に立つと、管理人は一つ深呼吸をした。ドアの向こうからは、何の物音も聞こえてこない。彼女が中にいるのかどうかすら定かではない。
意を決して、ドアの横にあるインターホンを押す。電子音が鳴り響き、静寂を破った。
『……』
応答はない。もう一度、押してみる。やはり、何の反応もなかった。留守なのだろうか。それとも、意図的に無視しているのか。
諦めて帰ろうかと思った、その時だった。
「…何の用だ。今、取り込み中なんだけど」
ドアの向こうから、くぐもった、そして不機嫌極まりない声が聞こえてきた。それは間違いなくレーヴァテインの声だった。どうやら居留守を使っていたらしい。
「…用がないなら帰れ。誰だろうと、今は会いたくない」
突き放すような冷たい声。食堂での一件を引きずっているのは明らかだった。この分厚い扉の向こうで、彼女は一人、混乱した感情を持て余しているのだろう。
この扉を開けさせ、彼女を任務に連れ出すことができるか。それは、管理人の交渉能力にかかっていた。
「レヴィ、俺だ。大事な話がある。少しだけ、いいか?」
管理人が自分の名を告げた瞬間、ドアの向こうの空気が凍りついたのが分かった。
息を呑むような、微かな音が聞こえた気がした。数秒間の、重い沈黙が流れる。やがて、ガチャリ、と内側からロックが外れる音が、小さく響いた。
もうちょっとだけ基地内の話は続くんじゃ。
本文の長さアンケートです
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このままでちょうどいい!
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あのぉもうちょっと短くできませんかねぇ…
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たまには長くやってもいいのよ。