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「…で、いつまでここにいるつもり? さっさと行くんでしょ?」
苛立ったような声が、車内に響く。彼女は早く戦いたくてうずうずしているのかもしれない。ペリカは管理人の準備が整ったのを確認すると、深く頷き、エンジンを始動させた。重低音のエンジン音が格納庫に響き渡る。
「管理人、準備はよろしいですか。…出撃します」
「ああ、問題ない。行こう」
管理人の短い、しかし決意に満ちた言葉が、作戦開始の合図となった。ペリカはそれに応えるようにアクセルを踏み込む。装甲バギーは力強いエンジン音を響かせ、格納庫から勢いよく飛び出した。
基地のゲートを通過し、赤茶けた荒野へと躍り出る。後方で、巨大なゲートがゆっくりと閉じていくのがバックミラーに映った。もう、後戻りはできない。
車体は、凹凸の激しい不整地をものともせず、猛然と突き進んでいく。強力なサスペンションが衝撃を吸収してくれるものの、時折突き上げるような激しい揺れが三人を襲う。
窓の外には、異様な形をした岩や、枯れた植物のようなものが点在する、見慣れない景色がどこまでも続いていた。空は鈍いオレンジ色に染まり、二つの太陽が不気味な光を投げかけている。
ここが地球ではない、異星であることを改めて実感させられる光景だった。
ペリカは前方の景色から目を離さず、ハンドルを握りながら冷静に状況を報告する。
「現在、予定ルートを順調に進行中。基地から15キロ地点。目的地まで、あと約40分です。今のところ、周辺に敵性反応はありません」
彼女の声は、車両の騒音の中でもはっきりと聞き取れた。一方、後部銃座のレーヴァテインは、周囲を警戒しながらも退屈そうに欠伸を一つした。
「…なぁ、本当にこんな場所に何かいるのか? 生き物の気配なんて、全然しないけど」
彼女は銃座から身を乗り出し、周囲の荒野を見渡しながら呟く。その手は、常に重機関銃のトリガーにかけられていた。
退屈だと言いながらも、警戒を怠らないあたりは、さすがに手練れの戦士だった。
「油断するな、レヴィ。三週間前、俺たちはここで奇襲されたんだ。敵は、気配を消すのが得意なのかもしれない」
管理人は、アサルトライフルを膝に置きながら、レーヴァテインに忠告する。その言葉は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。記憶はない。だが、この身体が、この荒野の危険性を覚えている。
肌をピリピリと刺すような、見えない脅威の存在を、本能が感じ取っていた。
バギーが岩場を抜け、比較的開けた平原に出た、その時だった。
『――警告。前方に高エネルギー反応を検知』
ダッシュボードのモニターから、無機質な合成音声が警告を発した。それと同時に、レーダーマップ上に、急速に接近してくる複数の光点が映し出される。数は、十…いや、それ以上。
「敵です! 管理人、レーヴァテイン、戦闘準備!」
ペリカが叫ぶと同時に、車体を急ハンドルで滑らせ、進行方向を変える。後部銃座のレーヴァテインが、即座に反応した。
「やっと来たか! 待ってたよ、鉄クズども!」
彼女の視線の先、砂塵の中から、異形の影が次々と姿を現す。それは、金属質の外殻を持つ、昆虫のような姿をした機械生命体だった。
大きさは人間ほどだが、鋭い爪や刃物のような前足を持ち、明らかに戦闘を目的とした姿をしている。
ゲーム内で見たアンゲロスとは少し見た目が違うと感じた。
奴らは統率の取れた動きでバギーを包囲しようと、高速で迫ってくる。そのうちの数体が、背中から何かを発射した。
「対戦車ミサイルです! 衝撃に備えて!」
ペリカの叫びと、ミサイルが着弾するのは、ほぼ同時だった。バギーのすぐ脇の地面で、凄まじい爆発が起こる。轟音と衝撃波が車体を激しく揺さぶり、管理人は思わず座席に身体を強く押し付けられた。
爆風で舞い上がった土砂が、装甲ガラスを激しく叩く。
なんとか体勢を立て直したペリカが、悲鳴に近い声で叫んだ。
「ダメです、囲まれる…! ここで迎撃します!」
彼女はバギーを急停止させると、すぐさま運転席のドアを開け、手にしたアサルトライフルを構えた。レーヴァテインは既に、後部銃座の重機関銃を敵の群れに向けて撃ち鳴らしている。
火花を散らしながらなぎ倒されていく敵。
しかし、その数は減る気配を見せず、次から次へと新たな個体が砂塵の中から現れる。
戦いの火蓋は、切って落とされた。
「ここで迎撃します!」
というペリカの決断は、包囲網が完成する寸前、唯一の選択肢だった。バギーを盾にするように急停車させ、三人はほぼ同時に車外へ飛び出す。
熱風と砂塵が肌を打ち、耳をつんざくような金属音と爆発音が戦場の狂騒曲を奏でていた。
後部銃座のレーヴァテインが撃ち鳴らす重機関銃の掃射が、アンゲロスの前衛を数体、金属片に変えて吹き飛ばす。
しかし、後続の群れは怯むことなく、その残骸を踏み越えて突進してくる。
「キリがない…一体何体出てくるんだ!」
彼女は悪態をつきながら、過熱し始めた銃身を冷却しつつ、次の射線を探る。その言葉通り、アンゲロスの数は減るどころか、むしろ増えているようにさえ感じられた。
遠くの砂塵の向こう、空から突き刺さるように屹立する異様な柱――『アンカー』が、元凶なのだろう。あれが活動を続ける限り、敵は無限に生み出される。
ペリカはバギーの車体を遮蔽物とし、冷静にライフルを構え、一体一体確実にアンゲロスの頭部と思しきコアを撃ち抜いていく。彼女の射撃は正確無比で、無駄弾一つない。だが、圧倒的な物量の前に、それは焼け石に水だった。
「管理人! 右翼から回り込んできます! 数が多い…!」
ペリカの警告が飛ぶ。管理人が視線を向けると、十数体のアンゲロスが砂煙を上げながら、巧みにこちらの死角を突くように回り込んできていた。統率された、知性を感じる動き。ただの獣ではない。
管理人は即座に判断を下す。手にしていたアサルトライフルのセレクターをフルオートに切り替え、回り込んでくる群れに向かって弾丸の雨を浴びせた。
ダダダダッ!と耳元で炸裂する発砲音。数体が体勢を崩し、動きを止める。
しかし、その弾幕をものともせず、数体が管理人との距離を詰めてきた。鋭い爪が、陽光を鈍く反射する。
ライフルでは間に合わない――! 本能がそう告げる。管理人は空になったマガジンを投げ捨てると同時に、腰に差していた片手剣を引き抜いた。そして、躊躇なく地面を蹴る。
「はっ!」
常人離れした身体能力が、管理人の体を加速させる。真っ先に飛びかかってきたアンゲロスの爪撃を、紙一重で身をかがめて回避。
そのまま滑り込むように敵の懐に入り込み、下から上へ、剣を閃かせた。ギィン!という硬い手応えと共に、アンゲロスの胴体が斜めに両断される。
火花を散らしながら崩れ落ちる敵を尻目に、管理人は休むことなく次の個体へと肉薄した。
その動きは、記憶を失っているとは思えないほど洗練され、体に染み付いていた。
斬る、避ける、蹴る。まるで舞うように、しかし一撃一撃は致命的に、管理人はアンゲロスの群れの中で暴れまわる。
その光景を見ていたレーヴァテインが、驚きと興奮が入り混じった声を上げた。
「へぇ…! やるじゃん、あんた! 記憶が無くても、身体は覚えてるってこと?」
彼女はそう言うと、不敵な笑みを浮かべる。そして、手にしていた剣を構え直し、その刀身に意識を集中させた。
「こっちも、いつまでもマシンガン遊びに付き合ってられないからね!――燃え尽きろ!」
彼女が叫ぶと、その刀身に、瞬く間に紅蓮の炎が燃え盛った。アーツの力だ。
炎を纏った剣は、周囲の空気を歪ませるほどの熱気を放つ。彼女は銃座から飛び降りると、ペリカの援護が手薄になっていた左翼のアンゲロスの群れへと、炎の剣を構えて一直線に突っ込んでいった。
度重なる戦闘を繰り返し、荒野を突破した3人は、旧基地にたどり着く。
三週間前に放棄された旧基地。その奪還に向けた敵情視察は、予想以上に困難を極めていた。
赤茶けた渓谷の岩肌にへばりつくように建設された施設は、入り組んだ構造をしており、まるで迷宮のようだった。
管理人たちは、アンゲロスの巡回を避けながら、慎重に内部へと侵入していく。
通路はひどく荒らされていた。壁は破壊され、天井からは配線がむき出しになって垂れ下がっている。
床には薬莢や、アンゲロスのものと思われる金属片が散乱し、三週間前の激しい戦闘の様子を物語っていた。
時折、不快な金属音や、アンゲロスの甲高い鳴き声が遠くから響いてくる。その度に三人は足を止め、息を殺して警戒した。
「…まだ、誰も足を踏み入れていない場所のようです」
ペリカが、瓦礫で半ば塞がれた通路の先を指して言った。彼女は手にしたデータパッドで周辺の構造データをスキャンしながら、安全なルートを割り出していく。
その額には、緊張からか、うっすらと汗が滲んでいた。
瓦礫の隙間を抜け、彼らが出たのは、かつて管制室だったと思われる広い空間だった。しかし、その面影はない。
壁一面に設置されていたであろう巨大なモニター群は粉々に破壊され、コンソールは無惨にひっくり返っている。
そして、部屋の中央には、数体のアンゲロスが蠢いていた。彼らは、床に転がる機材の残骸を貪るように漁っている。
「…奴らが見えたか?私がやってもいい」
レーヴァテインが、腰の剣に手をかけながら、獰猛な笑みを浮かべた。彼女の瞳は、獲物を見つけた肉食獣のように爛々と輝いている。しかし、管理人はそれを手で制した。
「待て、まだだ。まずは敵の配置と規模を完全に把握する。それからでも遅くない」
(俺1人なら少しずつ隠密で削って行けるが…焼け石に水ってやつだな、数が多すぎる)
管理人の冷静な指示に、レーヴァテインは不満げに舌打ちしたが、剣から手を離した。
今の管理人の言葉には、有無を言わさぬ重みがあった。三人は再び身を隠し、アンゲロスの動きを観察する。
奴らは知性なく徘徊しているように見えるが、その動きには一定のパターンがあるようだった。施設内の特定区画を巡回し、何かを探しているかのように。
しばらく観察を続けた後、ペリカが声を潜めて報告した。
「どうやら、彼らは主に旧動力炉区画と研究開発棟を中心に徘徊しているようです。
そして、施設の最深部…中央サーバー室に、最も多くの個体が集まっています。おそらく、そこに例の巨大アンカーが」
「外から見えたあれか…」
彼女のデータパッドが、施設の立体図と、そこに表示された無数の赤い光点…敵の位置情報を映し出す。その中心には、一際大きく、禍々しい反応があった。
「それに…アンゲロスだけではありません。ランドブレイカーたちも、同じくサーバー室周辺に集結しています。彼らは、アンゲロスを避けながら、何かを運び込んでいる…まるで、アンカーを使い、何かを企んでいるかのようです」
「協調…いや、利用か」
管理人は双眼鏡を構え、遠くに見えるサーバー室の入り口を注視する。そこでは、ランドブレイカーたちがアンゲロスを巧みに誘導し、自分たちの作業スペースを確保している様子が見て取れた。彼らはアンゲロスの習性を熟知しているようだった。
「奴らの目的が何であれ、あのアンカーが全ての元凶だ。あれを叩く。サーバー室へ向かうぞ」
管理人の決断に、二人は無言で頷いた。
彼らは再び物陰に身を隠し、敵の巡回ルートの隙間を縫って、施設のさらに奥深く、アンゲロスの巣の中心部へと慎重に進んでいく。廊下の角を曲がるたび、破壊されたドアを抜けるたび、敵の気配は色濃くなっていく。
肌を刺すような緊張感が、三人を支配していた。この先に待つであろう激戦を、誰もが予感していた。
原作と違ってやたらとアンゲロスの数が増えているのは3週間のズレですね。
アンカーが刺さったままなら大量に出てくるでしょうし…
本文の長さアンケートです
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このままでちょうどいい!
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あのぉもうちょっと短くできませんかねぇ…
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たまには長くやってもいいのよ。