反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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序章-ゼロレクイエムのその先で
ゼロレクイエムのその先で


第一話 ゼロレクイエムのその先で

 

歓声が響いていた。

 

世界を恐怖で支配した皇帝が討たれたことを喜ぶ声。

 

悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの死によって、新たな時代が始まると信じる人々の声。

 

そのすべてを遠くに聞きながら、ルルーシュは崩れ落ちていった。

 

胸を貫いた剣から、熱が広がっていく。

 

剣を握っているのは、黒い仮面を被ったゼロ。

 

その正体は枢木スザクだった。

 

ルルーシュを殺し、代わりにゼロとして生き続ける男。

 

世界中の憎しみをルルーシュ一人へ集め、その命をゼロが奪う。

 

ゼロレクイエム。

 

それが、二人で選んだ結末だった。

 

ルルーシュの身体が壇上を滑り落ちる。

 

その先に、ナナリーがいた。

 

彼女の手がルルーシュの手をつかむ。

 

触れた瞬間、ナナリーはすべてを悟ったのだろう。

 

「お兄様……」

 

声が震えていた。

 

ルルーシュは最後の力で、わずかに微笑む。

 

これでいい。

 

ナナリーは生きる。

 

自分のいない世界で、彼女が望んだ優しい世界を作っていく。

 

――幸せになれ、ナナリー。

 

意識が闇へ沈んだ。

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、そこで確かに死んだ。

 

◆

 

次に感じたのは、痛みではなかった。

 

柔らかな布の感触。

 

静かな空気。

 

遠くから聞こえる、自動車の走行音。

 

ルルーシュは目を開けた。

 

白い天井が見える。

 

装飾のない、平凡な部屋だった。

 

処刑台でもなければ、宮殿でもない。

 

病院ですらなかった。

 

数秒間、ルルーシュは動かなかった。

 

自分の意識が残っていることを確認する。

 

次に、右手を持ち上げた。

 

指は動く。

 

腕も上がる。

 

胸へ手を当てる。

 

傷がない。

 

剣に貫かれたはずの場所には、傷痕すら残っていなかった。

 

「……生きている?」

 

口から出た声は、自分のものだった。

 

だが、違和感がある。

 

声がわずかに若い。

 

ルルーシュはベッドから起き上がった。

 

身体が軽い。

 

長期間の疲労も、戦争の中で蓄積した不調も消えている。

 

視線を巡らせる。

 

十畳ほどの部屋。

 

机。

 

本棚。

 

クローゼット。

 

壁際には姿見が置かれていた。

 

ルルーシュは鏡の前へ立つ。

 

映っていたのは、自分だった。

 

だが、ゼロレクイエムを迎えた時の姿ではない。

 

顔つきがわずかに幼い。

 

身長も少し低い。

 

肉体だけが、十六歳前後まで戻っている。

 

「若返った……いや」

 

単純な若返りとは思えなかった。

 

古傷や疲労まで完全に消えている。

 

服も身体に合わせたものへ変わっていた。

 

治癒したというより、この場所で生きるために肉体そのものを作り直された。

 

そう考える方が自然だった。

 

ルルーシュは左目を閉じる。

 

意識を集中する。

 

これまでなら、呼びかけるだけで力の存在を感じ取れた。

 

絶対遵守の力。

 

ギアス。

 

しかし、何も起きなかった。

 

左目に熱はない。

 

力が満ちる感覚もない。

 

鏡を見ても、紋章は浮かばなかった。

 

「使えないのか」

 

もう一度試す。

 

結果は同じだった。

 

力そのものが消失したのか。

 

あるいは、この世界にはギアスを成立させていた何らかの基盤が存在しないのか。

 

現時点では判断できない。

 

確かなのは、今の自分にはギアスを使えないという事実だけだった。

 

「厄介だな」

 

呟きながら、ルルーシュは室内を調べ始める。

 

机の上には、見覚えのない黒いスマートフォンが置かれていた。

 

画面には日付と時刻。

 

表記は日本語。

 

端末はロックされていない。

 

検索機能を開き、いくつかの単語を入力する。

 

神聖ブリタニア帝国。

 

黒の騎士団。

 

ゼロ。

 

超合集国。

 

サクラダイト。

 

結果は出なかった。

 

少なくとも、ルルーシュが知る形では。

 

歴史上の類似語や創作物らしき情報は表示される。

 

だが、自分の世界に存在していた国家も人物も、どこにも記録されていない。

 

世界地図は似ている。

 

国名にも共通点はある。

 

しかし、歴史が違う。

 

技術体系も異なっている。

 

何より、サクラダイトが存在しない。

 

ナイトメアフレームもない。

 

ブリタニアによる日本占領の歴史もなかった。

 

「時間移動ではないな」

 

単なる未来なら、過去の記録が残る。

 

歴史改変だとしても、ここまで世界の構造そのものが違う説明にはならない。

 

並行世界。

 

あるいは、それに近い何か。

 

今はそう仮定するしかなかった。

 

机の引き出しには財布が入っていた。

 

中には現金、銀行のキャッシュカード、健康保険証。

 

保険証には、ルルーシュ・ランペルージという名前が記されている。

 

生年月日は、現在の肉体年齢に合うよう調整されていた。

 

住所もある。

 

今いる住居と同じ場所だった。

 

さらに調べると、住民票の写しや戸籍関係の書類まで見つかった。

 

いずれも不自然な点がない。

 

偽造された書類というより、この世界の正式な記録として存在している。

 

ルルーシュ・ランペルージという少年は、この世界で生まれ、育ち、義務教育を終えたことになっていた。

 

だが、ルルーシュ本人にはその記憶がない。

 

クローゼットの中には、現在の身体に合う私服。

 

本棚には教科書。

 

引き出しには中学校の卒業証書。

 

すべてが、彼をこの世界の住人として成立させるために整えられている。

 

「世界が帳尻を合わせたのか」

 

誰かが意図的に用意した可能性はある。

 

だが、これほど大量の公的記録を過去に遡って成立させるのは容易ではない。

 

戸籍だけではない。

 

銀行口座。

 

医療記録。

 

学籍。

 

成績。

 

写真。

 

すべてが一つの経歴として繋がっている。

 

まるで、ルルーシュが最初からこの世界に存在していたかのように。

 

その時、隣室から大きな物音がした。

 

何かが床へ落ちる音。

 

続いて、勢いよく扉が開く。

 

ルルーシュは反射的に身構えた。

 

ギアスは使えない。

 

武器もない。

 

それでも、何もせず相手を迎えるつもりはなかった。

 

廊下へ出ようとした瞬間、向こう側から声が聞こえた。

 

「ルルーシュ?」

 

ルルーシュは足を止める。

 

聞き間違えるはずのない声だった。

 

扉を開く。

 

廊下に立っていたのは、枢木スザクだった。

 

ゼロの衣装ではない。

 

白いシャツと黒いズボン。

 

顔立ちも、ルルーシュと同じように若返っている。

 

スザクは自分の手を見つめていた。

 

そのまま顔を上げ、ルルーシュを見る。

 

二人の間に沈黙が落ちた。

 

先に口を開いたのはスザクだった。

 

「生きてる……?」

 

「ああ」

 

「僕は、君を刺した」

 

「覚えている」

 

「君は死んだはずだ」

 

「俺もそう思っていた」

 

スザクは自分の胸元へ手を当てる。

 

「僕も、若くなってる」

 

「十六歳前後だろうな」

 

「どうして?」

 

「それを調べている」

 

ルルーシュはスザクの立ち方を観察した。

 

身体が若返っていても、周囲を警戒する視線や重心の置き方は変わっていない。

 

戦場で身についた癖。

 

相手との距離を無意識に測る動き。

 

肉体は若返っているが、経験まで消えているわけではなかった。

 

「身体に違和感は?」

 

ルルーシュが聞く。

 

スザクは狭い廊下で数歩踏み込み、急停止する。

 

動きに一切のぶれがない。

 

続いて片足を上げ、姿勢を保ったまま身体を捻る。

 

「動ける」

 

スザクは自分の手を見る。

 

「筋力は少し違う。でも、身体の使い方は覚えてる」

 

「肉体年齢に合わせて出力は調整されている可能性がある。反射神経や技術は残っているようだな」

 

元の世界のスザクは、人間離れした身体能力を持っていた。

 

若返った現在も、一般的な高校生を大きく上回っているのは間違いない。

 

ただし、どこまで以前の力を再現できるかは、今後確かめる必要がある。

 

「君のギアスは?」

 

スザクが聞く。

 

「使えない」

 

「消えたのか」

 

「断定はできない」

 

ルルーシュは左目へ触れる。

 

「力そのものが失われたのか、この世界では発動条件が成立しないのか。今のところは分からない」

 

スザクは少しだけ安堵したような表情を見せた。

 

「何だ、その顔は」

 

「別に」

 

「言っておくが、ギアスがなくても俺は俺だ」

 

「それは分かってるよ」

 

スザクは疲れたように答えた。

 

二人は居間へ移動した。

 

そこは、二人が共同生活をしていたことになっている部屋だった。

 

食卓には二人分の椅子。

 

冷蔵庫には食料。

 

洗面所には歯ブラシが二本。

 

壁には写真が飾られている。

 

見覚えのない中学校の制服を着たルルーシュとスザク。

 

二人の周囲には、知らない生徒たちが並んでいた。

 

スザクが写真を手に取る。

 

「僕たちだ」

 

「ああ」

 

「でも、この場所に行った記憶はない」

 

「俺もだ」

 

写真の裏には、学校名と撮影日が書かれている。

 

二人は同じ中学校を卒業したことになっていた。

 

記録上は。

 

ルルーシュはテレビをつける。

 

ニュース番組が流れる。

 

日本政府。

 

国際情勢。

 

経済。

 

どれも、元の世界とは異なる。

 

ブリタニアは存在しない。

 

超合集国もない。

 

ナナリーの名前も、カレンの名前も、黒の騎士団もない。

 

スザクはテレビ画面を見つめていた。

 

「本当に、違う世界なんだな」

 

「その可能性が高い」

 

「戻れると思う?」

 

ルルーシュはすぐには答えなかった。

 

端末を操作し、歴史や科学技術に関する情報を確認する。

 

宇宙論。

 

並行世界。

 

次元移動。

 

意識に関する研究。

 

オカルトとして扱われる資料まで目を通した。

 

当然ながら、異世界への移動を実証した技術は存在しない。

 

元の世界にあったCの世界への接触手段も見つからない。

 

アーカーシャの剣。

 

思考エレベーター。

 

ギアス教団。

 

それらに該当するものは、少なくとも公開情報には存在しなかった。

 

ルルーシュは端末を置いた。

 

「現時点で、帰還手段は存在しない」

 

スザクの表情が固まる。

 

「戻れないってこと?」

 

「可能性そのものを完全に否定することはできない」

 

ルルーシュは慎重に答えた。

 

「この世界のすべてを調べたわけではないからな」

 

「なら――」

 

「だが、帰還を前提に行動するつもりもない」

 

スザクが言葉を止める。

 

「俺たちの知る帰還手段は、ギアスやCの世界に関わるものだ。だが、この世界にはその痕跡がない」

 

「まだ、どこかにあるかもしれない」

 

「あるかもしれない、という可能性だけなら永遠に残る」

 

ルルーシュはスザクを見る。

 

「存在するかも分からない道を待ち続け、この世界で何も選ばない。それは判断ではなく、停止だ」

 

スザクは黙り込んだ。

 

戻れる可能性を前提にすれば、二人の行動はすべて仮のものになる。

 

この世界で築く関係も、果たす責任も、いつか捨てることを想定したものになる。

 

ルルーシュは、それを選ばなかった。

 

「少なくとも今後は、帰還できないものとして行動する」

 

「諦めるのか」

 

「違う」

 

即答だった。

 

「確かな手掛かりが見つかれば調べる。だが、帰還の可能性に縋って時間を浪費はしない」

 

スザクはしばらくルルーシュを見つめる。

 

やがて、小さく息を吐いた。

 

「ナナリーは」

 

ルルーシュの指が、わずかに動いた。

 

ナナリー。

 

ゼロレクイエム後の世界。

 

彼女がどう生きたのか。

 

平和を築くことができたのか。

 

もう知る術はないかもしれない。

 

スザクはゼロとして残るはずだった。

 

ルルーシュが作った平和を守り、ナナリーを支えるはずだった。

 

その役目から、突然切り離された。

 

「僕は、あの世界に残らなきゃいけなかった」

 

スザクの声には後悔が滲んでいる。

 

「君を殺して、ゼロとして生きる。それが僕の役目だった」

 

「ああ」

 

「それなのに、ここにいる」

 

「お前の意志で来たわけじゃない」

 

「でも、結果は同じだ」

 

ルルーシュは黙ってスザクを見た。

 

責める言葉はなかった。

 

自分も同じだった。

 

死ぬことで責任を果たしたはずだった。

 

しかし、生き返った。

 

それも、自分が守ろうとした人々のいない世界で。

 

ゼロレクイエムが正しく完遂されたのか。

 

その後、何が起きたのか。

 

確かめることはできない。

 

残されたのは、記憶だけだった。

 

長い沈黙の後、ルルーシュが口を開いた。

 

「今すぐ、この世界で何かを変えるつもりはない」

 

スザクが顔を上げる。

 

「まずは知る必要がある」

 

ルルーシュは窓の外を見る。

 

住宅街を歩く人々。

 

自転車で帰る学生。

 

子どもの手を引く親。

 

少なくとも、今見える景色は平穏だった。

 

「この世界がどのように成り立っているのか。誰が力を持ち、誰が切り捨てられているのか」

 

「何も問題がなかったら?」

 

「それなら、余計なことはしない」

 

「問題があったら?」

 

ルルーシュはすぐには答えなかった。

 

ナナリーが望んだ世界。

 

誰もが明日を望める、優しい世界。

 

その願いを、この世界へ勝手に押しつけるつもりはない。

 

この世界には、この世界の歴史と人々がいる。

 

まず知る。

 

判断はその後だ。

 

「必要なら、その時に考える」

 

スザクの目が少し細くなる。

 

「また君一人で?」

 

「何が言いたい」

 

「ゼロレクイエムは終わった」

 

スザクはルルーシュを正面から見た。

 

「君は自分を犠牲にして、全部を終わらせた」

 

「その通りだ」

 

「だから、もう同じことはさせない」

 

ルルーシュは黙る。

 

「この世界でも、自分だけが悪役になればいいとか、自分一人が消えれば全部丸く収まるとか、そういうことを考えるなら僕が止める」

 

「随分と偉そうになったな」

 

「君を殺したんだ。それくらい言う権利はある」

 

「開き直るな」

 

「君が言わせてるんだよ」

 

ルルーシュは小さく息を吐いた。

 

以前のスザクとは違う。

 

正しい手段だけに固執していた少年ではない。

 

ゼロレクイエムを受け入れ、自分の手で剣を突き立てた男。

 

必要な悪を知ったうえで、それでも同じ犠牲を繰り返すことを拒んでいる。

 

「安心しろ」

 

ルルーシュは答えた。

 

「今の俺に、死んで世界を変えるつもりはない」

 

「本当に?」

 

「少なくとも、最初からその結末を選ぶほど愚かではない」

 

「最初から、ね」

 

「細かい男だな」

 

「君が信用できないだけだよ」

 

ルルーシュは反論しなかった。

 

二人は改めて住居内を調べた。

 

戸籍。

 

住民票。

 

銀行口座。

 

医療記録。

 

学歴。

 

中学校時代の成績表。

 

すべてが揃っている。

 

ルルーシュの成績は高い。

 

だが、異常なほどではない。

 

体育は平均以下。

 

協調性についても、特に目立たない評価。

 

スザクの学業成績は平均より少し上。

 

体育は非常に高い。

 

ただし、軍人としての経験を示す記録はない。

 

「経歴は、今の僕たちに合わせて作られてる」

 

スザクが言う。

 

「表面的にはな」

 

ルルーシュは成績表を見ながら答える。

 

「俺の軍事、政治、統治に関する経験は反映されていない。お前の能力も、単なる運動能力として処理されている」

 

「僕たちを知ってる誰かが作ったわけじゃない?」

 

「断定はできない」

 

ルルーシュは書類を机へ置く。

 

「だが、俺たちの人格や記憶を完全に把握した者が作ったにしては粗い」

 

「じゃあ、世界が自動で?」

 

「その可能性が高い」

 

転移によって生じた矛盾を埋める。

 

現在の肉体に合う年齢。

 

社会生活に必要な戸籍。

 

過去の学歴。

 

住居。

 

資産。

 

この世界で生きるために必要な最低限の条件だけが、最初から存在していたことになっている。

 

誰かの意志なのか。

 

現象そのものの性質なのか。

 

今は分からない。

 

そして、分からないことを無理に答えへ変える必要もなかった。

 

その時、固定電話の留守番機能が点滅していることにスザクが気づいた。

 

再生する。

 

不動産管理会社からの連絡。

 

銀行からの案内。

 

そして最後に、女性の声が流れた。

 

『入学手続きに関する書類をご自宅へ郵送しております。期日までに内容をご確認ください』

 

「入学?」

 

スザクが振り返る。

 

ルルーシュは玄関へ向かう。

 

郵便受けには、数通の封筒が入っていた。

 

公共料金の通知。

 

銀行からの書類。

 

その中に、上質な白い封筒が二通ある。

 

一通は、ルルーシュ・ランペルージ宛て。

 

もう一通は、枢木スザク宛て。

 

差出人は同じだった。

 

東京都高度育成高等学校。

 

ルルーシュは封を開ける。

 

入学許可証。

 

入学式の日程。

 

学生寮への入居案内。

 

学校生活に関する冊子。

 

スザクも自分宛ての封筒を開く。

 

「全寮制の高校みたいだ」

 

「読めば分かる」

 

「学費も生活費も学校側が負担。校内には商業施設まである。卒業後は進学や就職もほぼ保証……」

 

スザクの声に、疑いが混じる。

 

「そんな都合のいい学校、あるのか?」

 

「表向きはな」

 

ルルーシュは冊子を読み進める。

 

生徒の自主性を尊重。

 

実力に応じた評価。

 

充実した設備。

 

将来を保証する教育制度。

 

美しい言葉が並んでいる。

 

だが、条件の良い制度には必ず理由がある。

 

なぜ、政府がこれほどの費用を負担するのか。

 

実力とは何を意味するのか。

 

評価の基準は何か。

 

生徒へ何を競わせるのか。

 

学校案内には、肝心な部分が意図的に書かれていない。

 

「外部との接触は制限される」

 

ルルーシュは注意事項へ目を通す。

 

「原則として、在学中は敷地外へ自由に出られない」

 

「学校というより、隔離施設みたいだな」

 

「閉鎖された環境。独自の経済圏。生徒への過剰な待遇」

 

ルルーシュは冊子の校舎写真を見る。

 

「教育施設であると同時に、一種の実験場である可能性はある」

 

「行くつもり?」

 

スザクが聞いた。

 

ルルーシュは入学許可証へ視線を落とす。

 

元の世界へ戻る確かな手掛かりはない。

 

ならば、当面はこの世界で生きるしかない。

 

その最初の進路として、学校が用意されている。

 

誰かに誘導されている可能性はある。

 

ただし、それを断定する材料もない。

 

「行く」

 

ルルーシュは答えた。

 

「理由は?」

 

「生活基盤と身分が用意され、その延長にこの学校がある。無視する方が不自然だ」

 

「罠かもしれない」

 

「その可能性も含めて調べる」

 

ルルーシュは冊子を閉じた。

 

「それに、この世界を知るにはちょうどいい」

 

「学校が?」

 

「閉鎖された環境には、社会の構造が凝縮される」

 

生徒。

 

教師。

 

規則。

 

評価。

 

競争。

 

報酬。

 

罰。

 

そこを観察すれば、この世界が何を価値としているのかも見えてくる。

 

「まだ、何かを変えるつもりはない」

 

ルルーシュは言った。

 

「まずは見る。知る。そして判断する」

 

スザクはしばらくルルーシュを見つめる。

 

「その言葉、忘れないでよ」

 

「何のことだ」

 

「まず見る。すぐ世界を相手にしない」

 

「俺を何だと思っている」

 

「世界を相手に反逆した人」

 

ルルーシュは答えなかった。

 

否定できないのが腹立たしい。

 

机の上に、二通の入学許可証が並ぶ。

 

ゼロレクイエムを終えた皇帝と騎士。

 

一人は死ぬはずだった。

 

一人は仮面を被り、生き続けるはずだった。

 

だが二人は、どちらの役目からも切り離された。

 

肉体は高校生へ戻り、過去はこの世界に合わせて補完されている。

 

ギアスは使えない。

 

元の世界へ戻る確かな道もない。

 

ナナリーがその後どうなったのか、知ることもできない。

 

それでも、彼女が願ったものは残っている。

 

誰もが明日を望める、優しい世界。

 

この世界がすでにそうであるなら、何も変える必要はない。

 

もし、そうでないのなら。

 

その答えを出すのは、まだ先でいい。

 

ルルーシュは高度育成高等学校の入学案内を手に取った。

 

「行くぞ、スザク」

 

「どこへ?」

 

「まずは、新しい世界を見に行く」

 

入学式まで、あと数日。

 

ルルーシュ・ランペルージと枢木スザクの、二度目の人生が始まろうとしていた。

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