反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
『生徒会室』
中間試験を目前に控えた、ある日の放課後。
ルルーシュは申請書を手に、生徒会室の前で足を止めた。
生徒会室。
その文字が目に入った瞬間、遠い記憶が一瞬だけ脳裏をかすめる。
夕暮れ。
誰かの笑い声。
――ルル。
振り返る少女の笑顔。
ルルーシュは小さく息を吐いた。
扉を叩く。
「失礼します。」
「入れ。」
室内には、一人の男子生徒だけがいた。
書類から目を上げたその視線が、ルルーシュを捉える。
「用件は。」
「空き教室の使用申請です。中間試験へ向けて、クラスで自主学習を行いたい。」
申請書を受け取った男子生徒は、目を通しながら尋ねる。
「クラス全体で。」
「その予定です。」
短い沈黙。
そのとき、生徒会室の扉が開いた。
「失礼します。」
橘茜が戻ってくる。
「会長、お待たせしました。」
男子生徒は申請書を橘へ渡した。
「処理を。」
「承知しました。」
橘は受領印を押し、控えを差し出す。
「教室が決まりましたら、担任の先生を通してご連絡します。」
「承知しました。」
ルルーシュは控えを受け取り、軽く一礼する。
「失礼します。」
静かに扉が閉まる。
生徒会室には、再び紙をめくる音だけが残った。
『放課後』
放課後。
昇降口へ向かう途中、廊下に一冊のノートが落ちているのを見つけた。
拾い上げる。
「あっ……!」
前方を歩いていた女子生徒が振り返り、慌てて駆け寄ってきた。
「それ、私のです!」
「落としてたよ。」
スザクが差し出すと、女子生徒はほっとしたように胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます!」
スザクは穏やかに笑う。
「ううん。」
女子生徒はもう一度礼を言うと、友人の待つ方へ駆けていった。
二人は何かを話しながら笑い合い、そのまま廊下の角を曲がって見えなくなる。
廊下には、部活動へ向かう生徒たちの足音が行き交っていた。窓から吹き込む風が掲示物をかすかに揺らし、どこかの教室からは楽しげな笑い声が聞こえてくる。
誰も立ち止まらない。
誰も特別な出来事だとは思っていない。
ただ、当たり前の放課後が流れている。
立ち止まり、その光景を静かに見つめた。
――こんなことで礼を言われるのは、いつ以来だっただろう。
思い返そうとして、小さく笑う。
思い出せなかった。
それでいい、とスザクは思う。
笑い声は、まだ廊下の向こうで続いていた。
スザクは、その音の中をゆっくりと歩き出した。
その足取りは、さっきより少しだけ軽かった。
何気ない日常が、続くことを願った。
今日もまた、穏やかな1日が過ぎていく。