反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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第2章-疑われた正義
疑惑


中間試験が終わってから、数日が経った。

 

Dクラスの教室は、以前とは少しだけ変わっていた。

 

授業中に眠る者もいれば、休み時間にくだらない話で笑う者もいる。表面だけを見れば、以前と変わらず騒がしい。

 

それでも、誰もが自分のことだけを考えていた頃とは違った。

分からない問題を教える者。

 

困っている生徒へ声をかける者。

 

以前なら関わろうとしなかった相手と、普通に会話する者。

 

中間試験という一つの危機を越えたことで、クラスにはわずかな繋がりが生まれていた。

 

ルルーシュは、その変化を席から眺めていた。

 

「意外だった?」

 

スザクが声をかける。

 

「何がだ」

 

「このクラスが残ったこと」

 

ルルーシュは窓の外を見る。

 

「予想外ではあった」

 

赤点を取れば退学という状況でも、Dクラスは誰かを切り捨てなかった。

 

須藤。

 

池。

 

山内。

 

問題を抱えた生徒はいた。

 

それでも。

 

全員を残すという選択をした。

 

「君、少し嬉しそうだよ」

 

「気のせいだ」

 

即答だった。

 

スザクは苦笑する。

 

以前なら、その返答の裏にあるものまで追及していた。

 

だが。

 

今はしなかった。

 

「須藤君」

 

声が聞こえる。

 

櫛田だった。

 

「次の授業、提出物あるよ」

 

「分かってるって」

 

須藤は少し面倒そうに答える。

 

以前なら、そこで怒鳴っていた。

 

だが。

 

今は素直に机の中を確認している。

 

「ちゃんと変わってきてるね」

 

スザクが言う。

 

「本人の意思だ」

 

ルルーシュは答える。

 

「周囲が変えたわけではない」

 

その言葉に、スザクは少しだけ笑った。

 

「でも、周囲がいたから変われた部分もあるんじゃない?」

 

ルルーシュは返事をしなかった。

 

放課後。

 

事件は突然起きた。

 

教室の扉が開く。

 

そこにいたのは、Cクラスの生徒だった。

 

「須藤健はいるか」

 

空気が変わる。

 

須藤が顔を上げる。

 

「何だよ」

 

「教師から話がある」

 

短い言葉。

 

それだけだった。

 

数十分後。

 

教室には、重い空気が残っていた。

 

須藤がCクラスの生徒三人へ暴行した。

 

そういう報告だった。

 

「また須藤か」

 

誰かが呟く。

 

その言葉に、反論する者はいなかった。

 

過去の須藤を知っているから。

 

怒りやすい。

 

手が出る。

 

そういう印象が残っているから。

 

須藤は拳を握ったまま、黙っていた。

 

「違う」

 

スザクの声が響く。

 

全員が見る。

 

「まず、本人の話を聞こう」

 

「でも……」

 

誰かが口を開く。

 

「須藤だからって決めつけるのは違う」

 

スザクは須藤を見る。

 

「何があった?」

 

しばらく沈黙した後。

 

須藤が口を開いた。

 

「呼び出された」

 

「誰に?」

 

「Cクラスの奴らに」

 

「それで?」

 

須藤は目を伏せる。

 

「先に殴られた」

 

「……」

 

「俺も殴り返した」

 

その言葉で、教室の空気が少し変わった。

 

「そこは否定しねぇ」

 

須藤は続ける。

 

「でも、最初から俺が襲ったわけじゃない」

 

スザクは頷いた。

 

「分かった」

 

「信じるのか?」

 

須藤が聞く。

 

スザクは首を横に振る。

 

「まだ分からない」

 

意外な返答だった。

 

「だから、確認する」

 

その様子を見ながら、ルルーシュは生徒たちの反応、教師の対応、Cクラス側の動きへ視線を向けていた。

 

事件の真偽だけではない。

 

この学校が、何を根拠に判断するのか。見るべきものはそこにあった。

 

翌日。

 

Dクラスでは、事件について話し合いが行われていた。

 

「Cクラス側は、証言を一致させている」

 

堀北が資料を見る。

 

「須藤君が一方的に暴行した」

 

「映像は?」

 

ルルーシュが聞く。

 

「現場そのものは映っていない」

 

堀北は答える。

 

「周辺の映像だけ」

 

「なるほど」

 

ルルーシュは考える。

 

直接的な証拠はない。

 

証言だけで判断するなら。

 

人数の多い側が有利になる。

 

「簡単ではなさそうね」

 

櫛田が言った。

 

いつもの柔らかな声。

 

「でも、須藤君の話も聞かないと」

 

自然な言葉だった。

 

誰かを責めるわけでもない。

 

場の空気を戻す。

 

その能力は高い。

 

ルルーシュは一瞬だけ櫛田を見る。

 

誰にでも同じ距離感。

 

誰にでも同じ笑顔。

 

優秀な対人能力。

 

それだけなら問題はない。

 

だが。

 

完成度が高すぎる。

 

「どうしたの?」

 

櫛田が笑う。

 

「いや」

 

ルルーシュは視線を戻した。

 

「何でもない」

 

現時点では判断できない。

 

違和感だけを記憶する。

 

放課後。

 

ルルーシュは職員室前にいた。

 

放課後。

 

ルルーシュは職員室前にいた。

 

「茶柱先生」

 

教師が顔を上げる。

 

「何だ」

 

「この学校では、何を証拠として扱うのですか?」

 

茶柱はわずかに目を細めた。

 

「質問が曖昧だな」

 

「生徒同士の主張が食い違った場合、学校は何を基準に事実を認定しますか?」

 

「案件による。学校側が確認し、証拠として採用したものが判断材料になる」

 

「基準は公開されていないのですか」

 

「私から答えられるのはそこまでだ」

 

短い沈黙。

 

ルルーシュは校舎へ視線を向けた。

 

「なるほど」

 

証拠が存在するだけでは足りない。

 

学校に認めさせて、初めて証拠になる。

 

「判断基準を知らなければ、勝負にならない」

 

「なら、自分で確かめることだ。この学校は、疑問を放置した生徒に答えを与えるほど親切ではない」

 

ルルーシュは茶柱を見る。

 

「最初から、そのつもりです」

 

茶柱は何も言わなかった。

 

ただ。

 

少しだけ興味を持ったように見えた。

 

事件は始まった。

 

須藤が正しいのか。

 

Cクラスが嘘をついているのか。

 

まだ分からない。

 

だが。

 

この学校で重要なのは、真実だけではない。

 

何を証拠として認めるのか。

 

誰の言葉が採用されるのか。

 

その基準を知らなければ。

 

正しい答えへ辿り着くことはできない。

 

ルルーシュは静かに歩き出した。

 

須藤事件は、Dクラスだけでなく、ルルーシュにとっても、この学校の仕組みを知る最初の試験となる。

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