反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
疑惑
中間試験が終わってから、数日が経った。
Dクラスの教室は、以前とは少しだけ変わっていた。
授業中に眠る者もいれば、休み時間にくだらない話で笑う者もいる。表面だけを見れば、以前と変わらず騒がしい。
それでも、誰もが自分のことだけを考えていた頃とは違った。
分からない問題を教える者。
困っている生徒へ声をかける者。
以前なら関わろうとしなかった相手と、普通に会話する者。
中間試験という一つの危機を越えたことで、クラスにはわずかな繋がりが生まれていた。
ルルーシュは、その変化を席から眺めていた。
「意外だった?」
スザクが声をかける。
「何がだ」
「このクラスが残ったこと」
ルルーシュは窓の外を見る。
「予想外ではあった」
赤点を取れば退学という状況でも、Dクラスは誰かを切り捨てなかった。
須藤。
池。
山内。
問題を抱えた生徒はいた。
それでも。
全員を残すという選択をした。
「君、少し嬉しそうだよ」
「気のせいだ」
即答だった。
スザクは苦笑する。
以前なら、その返答の裏にあるものまで追及していた。
だが。
今はしなかった。
「須藤君」
声が聞こえる。
櫛田だった。
「次の授業、提出物あるよ」
「分かってるって」
須藤は少し面倒そうに答える。
以前なら、そこで怒鳴っていた。
だが。
今は素直に机の中を確認している。
「ちゃんと変わってきてるね」
スザクが言う。
「本人の意思だ」
ルルーシュは答える。
「周囲が変えたわけではない」
その言葉に、スザクは少しだけ笑った。
「でも、周囲がいたから変われた部分もあるんじゃない?」
ルルーシュは返事をしなかった。
放課後。
事件は突然起きた。
教室の扉が開く。
そこにいたのは、Cクラスの生徒だった。
「須藤健はいるか」
空気が変わる。
須藤が顔を上げる。
「何だよ」
「教師から話がある」
短い言葉。
それだけだった。
数十分後。
教室には、重い空気が残っていた。
須藤がCクラスの生徒三人へ暴行した。
そういう報告だった。
「また須藤か」
誰かが呟く。
その言葉に、反論する者はいなかった。
過去の須藤を知っているから。
怒りやすい。
手が出る。
そういう印象が残っているから。
須藤は拳を握ったまま、黙っていた。
「違う」
スザクの声が響く。
全員が見る。
「まず、本人の話を聞こう」
「でも……」
誰かが口を開く。
「須藤だからって決めつけるのは違う」
スザクは須藤を見る。
「何があった?」
しばらく沈黙した後。
須藤が口を開いた。
「呼び出された」
「誰に?」
「Cクラスの奴らに」
「それで?」
須藤は目を伏せる。
「先に殴られた」
「……」
「俺も殴り返した」
その言葉で、教室の空気が少し変わった。
「そこは否定しねぇ」
須藤は続ける。
「でも、最初から俺が襲ったわけじゃない」
スザクは頷いた。
「分かった」
「信じるのか?」
須藤が聞く。
スザクは首を横に振る。
「まだ分からない」
意外な返答だった。
「だから、確認する」
その様子を見ながら、ルルーシュは生徒たちの反応、教師の対応、Cクラス側の動きへ視線を向けていた。
事件の真偽だけではない。
この学校が、何を根拠に判断するのか。見るべきものはそこにあった。
翌日。
Dクラスでは、事件について話し合いが行われていた。
「Cクラス側は、証言を一致させている」
堀北が資料を見る。
「須藤君が一方的に暴行した」
「映像は?」
ルルーシュが聞く。
「現場そのものは映っていない」
堀北は答える。
「周辺の映像だけ」
「なるほど」
ルルーシュは考える。
直接的な証拠はない。
証言だけで判断するなら。
人数の多い側が有利になる。
「簡単ではなさそうね」
櫛田が言った。
いつもの柔らかな声。
「でも、須藤君の話も聞かないと」
自然な言葉だった。
誰かを責めるわけでもない。
場の空気を戻す。
その能力は高い。
ルルーシュは一瞬だけ櫛田を見る。
誰にでも同じ距離感。
誰にでも同じ笑顔。
優秀な対人能力。
それだけなら問題はない。
だが。
完成度が高すぎる。
「どうしたの?」
櫛田が笑う。
「いや」
ルルーシュは視線を戻した。
「何でもない」
現時点では判断できない。
違和感だけを記憶する。
放課後。
ルルーシュは職員室前にいた。
放課後。
ルルーシュは職員室前にいた。
「茶柱先生」
教師が顔を上げる。
「何だ」
「この学校では、何を証拠として扱うのですか?」
茶柱はわずかに目を細めた。
「質問が曖昧だな」
「生徒同士の主張が食い違った場合、学校は何を基準に事実を認定しますか?」
「案件による。学校側が確認し、証拠として採用したものが判断材料になる」
「基準は公開されていないのですか」
「私から答えられるのはそこまでだ」
短い沈黙。
ルルーシュは校舎へ視線を向けた。
「なるほど」
証拠が存在するだけでは足りない。
学校に認めさせて、初めて証拠になる。
「判断基準を知らなければ、勝負にならない」
「なら、自分で確かめることだ。この学校は、疑問を放置した生徒に答えを与えるほど親切ではない」
ルルーシュは茶柱を見る。
「最初から、そのつもりです」
茶柱は何も言わなかった。
ただ。
少しだけ興味を持ったように見えた。
事件は始まった。
須藤が正しいのか。
Cクラスが嘘をついているのか。
まだ分からない。
だが。
この学校で重要なのは、真実だけではない。
何を証拠として認めるのか。
誰の言葉が採用されるのか。
その基準を知らなければ。
正しい答えへ辿り着くことはできない。
ルルーシュは静かに歩き出した。
須藤事件は、Dクラスだけでなく、ルルーシュにとっても、この学校の仕組みを知る最初の試験となる。