反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
須藤事件から、一日が経った。
Dクラスの教室には、普段とは違う空気が残っていた。
誰も口には出さない。
それでも、視線だけは須藤へ向いていた。
中間試験を越えたことで少しずつ変わり始めていたが、短気で粗暴な問題児という過去の印象は、簡単には消えない。
短気。
粗暴。
問題を起こす生徒。
その記憶が、今回の事件によって再び呼び起こされていた。
須藤は机に座ったまま、周囲を見ていた。
いつものように、不機嫌そうな表情。
だが。
以前のように怒鳴ることはなかった。
ルルーシュは、その変化を見ていた。
「状況を整理するわ」
堀北が黒板の前へ立つ。
「Cクラス側の主張」
黒板へ文字を書く。
『須藤健による一方的な暴行』
「そして、須藤君の主張」
視線が須藤へ向く。
「先に相手から接触された」
須藤は頷いた。
「呼び出されたんだ」
「誰に?」
「Cクラスの奴ら」
「理由は?」
「知らねぇ」
堀北は少し黙る。
「知らない?」
「急に来て、ついてこいって言われた」
「その後は?」
須藤は視線を落とした。
「挑発された」
「内容は?」
「……覚えてない」
その返答に、堀北は小さく息を吐く。
「そこが問題ね」
須藤が顔を上げる。
「俺が嘘ついてるって言いたいのか?」
「違う」
堀北は淡々と答えた。
「あなたが本当のことを言っていたとしても、それを証明できなければ意味がない」
須藤は黙った。
「証拠は?」
ルルーシュが聞く。
堀北は資料を見る。
「監視記録」
「内容は」
「現場周辺の映像だけ」
「直接的な場面はない?」
「ない」
「音声は」
「残っていない」
残っているのは、Cクラス三人と須藤、それぞれの証言だけだった。
人数だけで比べれば、須藤が不利になる。
「目撃者が必要だね」
スザクが言った。
ルルーシュは頷く。
「可能性はある」
「でも」
スザクは続ける。
「その人が話してくれるとは限らない」
ルルーシュは黙った。
その通りだった。
事件を見た。
それだけでは足りない。
証言する覚悟が必要になる。
相手がCクラスなら、なおさらだ。
「私も聞いてみる」
櫛田が言った。
「周りに確認してみるね」
「危険じゃない?」
スザクが尋ねる。
櫛田はいつものように笑った。
「ただ話を聞くだけだから」
相手を警戒させず、自然に距離を縮める。こうした聞き込みでは、櫛田の対人能力は大きな武器になる。
ルルーシュは、その笑顔よりも、相手に応じて距離を調整する精度を見ていた。
本来の性格なのか、意識して作っているものなのかは、まだ判断できない。
放課後。
ルルーシュは事件現場へ向かった。
教室。
廊下。
階段。
須藤とCクラスが接触した場所。
頭の中で配置を組み直す。
監視カメラ。
移動経路。
時間。
関係者。
直接的な証拠はない。
だからこそ。
残された情報を見る。
「ここか」
背後から声がした。
振り返る。
綾小路清隆だった。
「君も調べているのか」
「少し気になっただけ」
「何が」
「証言」
綾小路は現場を見る。
「三人とも同じことを言っている」
「それが?」
「少し気になる」
短い言葉。
それ以上は続かない。
ルルーシュは綾小路を見る。
必要以上に関わらない。
だが。
必要な情報は拾っている。
「何か分かったのか」
「まだ」
綾小路は答えた。
「ランペルージも?」
一瞬。
ルルーシュは黙る。
「まだだ」
綾小路はそれ以上聞かなかった。
翌日。
櫛田が教室へ戻ってきた。
「少し気になる話があった」
全員の視線が集まる。
「事件の日」
櫛田は続ける。
「Cクラスの三人は、偶然あの場所にいたって言ってるよね」
「そうね」
堀北が答える。
「でも」
櫛田は続けた。
「何人かの生徒は、須藤君が呼び出されているところを見たみたい」
空気が変わる。
「本当に?」
スザクが聞く。
「うん。でも、詳しいことまでは分からなかった」
重要なのは。
須藤が自分から問題を起こしに行ったわけではない可能性。
その一点だった。
ルルーシュは考える。
証言。
時間。
場所。
人物。
まだ決定的なものはない。
しかし。
Cクラス側の説明には穴がある。
偶然。
その言葉だけでは説明できない部分が存在する。
三人が同じ場所にいた。
同じ内容を証言している。
そして。
須藤だけが責任を負う形になっている。
整いすぎていた。
放課後、ルルーシュは一人で資料を見直した。
現在の情報だけでは、須藤とCクラスのどちらが正しいかを決められない。必要なのは、双方と利害関係のない第三者の証言だった。
「証言者が必要だ」
須藤を救うためだけではない。
正しい判断をするために。
第三者の視点が必要になる。
「問題は」
ルルーシュは窓の外を見る。
「その人間が、存在するかだ」
翌日。
Dクラスの教室。
いつも通りの時間。
笑う者。
話す者。
帰る準備をする者。
表面だけを見れば、普段と変わらない。
だが。
一つだけ違うものがあった。
須藤へ向けられる視線。
疑い。
不安。
関わりたくないという空気。
その中で。
誰かが何かを知っている可能性がある。
ルルーシュは教室を見渡す。
証言は、まだ出ていない。
しかし。
事件そのものを見ていなくても、須藤が呼び出された場面や、その前後の動線を見た人間がいる可能性は残っている。
問題は、その人物を見つけ、口を開いてもらえるかどうかだった。
情報が足りないなら、集めるしかない。
須藤事件。
その鍵は。
まだ誰も語っていない証言の中にある。