反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

12 / 53
証言

須藤事件から、一日が経った。

 

Dクラスの教室には、普段とは違う空気が残っていた。

 

誰も口には出さない。

 

それでも、視線だけは須藤へ向いていた。

 

中間試験を越えたことで少しずつ変わり始めていたが、短気で粗暴な問題児という過去の印象は、簡単には消えない。

 

短気。

 

粗暴。

 

問題を起こす生徒。

 

その記憶が、今回の事件によって再び呼び起こされていた。

 

須藤は机に座ったまま、周囲を見ていた。

 

いつものように、不機嫌そうな表情。

 

だが。

 

以前のように怒鳴ることはなかった。

 

ルルーシュは、その変化を見ていた。

 

「状況を整理するわ」

 

堀北が黒板の前へ立つ。

 

「Cクラス側の主張」

 

黒板へ文字を書く。

 

『須藤健による一方的な暴行』

 

「そして、須藤君の主張」

 

視線が須藤へ向く。

 

「先に相手から接触された」

 

須藤は頷いた。

 

「呼び出されたんだ」

 

「誰に?」

 

「Cクラスの奴ら」

 

「理由は?」

 

「知らねぇ」

 

堀北は少し黙る。

 

「知らない?」

 

「急に来て、ついてこいって言われた」

 

「その後は?」

 

須藤は視線を落とした。

 

「挑発された」

 

「内容は?」

 

「……覚えてない」

 

その返答に、堀北は小さく息を吐く。

 

「そこが問題ね」

 

須藤が顔を上げる。

 

「俺が嘘ついてるって言いたいのか?」

 

「違う」

 

堀北は淡々と答えた。

 

「あなたが本当のことを言っていたとしても、それを証明できなければ意味がない」

 

須藤は黙った。

 

「証拠は?」

 

ルルーシュが聞く。

 

堀北は資料を見る。

 

「監視記録」

 

「内容は」

 

「現場周辺の映像だけ」

 

「直接的な場面はない?」

 

「ない」

 

「音声は」

 

「残っていない」

 

残っているのは、Cクラス三人と須藤、それぞれの証言だけだった。

 

人数だけで比べれば、須藤が不利になる。

 

「目撃者が必要だね」

 

スザクが言った。

 

ルルーシュは頷く。

 

「可能性はある」

 

「でも」

 

スザクは続ける。

 

「その人が話してくれるとは限らない」

 

ルルーシュは黙った。

 

その通りだった。

 

事件を見た。

 

それだけでは足りない。

 

証言する覚悟が必要になる。

 

相手がCクラスなら、なおさらだ。

 

「私も聞いてみる」

 

櫛田が言った。

 

「周りに確認してみるね」

 

「危険じゃない?」

 

スザクが尋ねる。

 

櫛田はいつものように笑った。

 

「ただ話を聞くだけだから」

 

相手を警戒させず、自然に距離を縮める。こうした聞き込みでは、櫛田の対人能力は大きな武器になる。

 

ルルーシュは、その笑顔よりも、相手に応じて距離を調整する精度を見ていた。

 

本来の性格なのか、意識して作っているものなのかは、まだ判断できない。

 

放課後。

 

ルルーシュは事件現場へ向かった。

 

教室。

 

廊下。

 

階段。

 

須藤とCクラスが接触した場所。

 

頭の中で配置を組み直す。

 

監視カメラ。

 

移動経路。

 

時間。

 

関係者。

 

直接的な証拠はない。

 

だからこそ。

 

残された情報を見る。

 

「ここか」

 

背後から声がした。

 

振り返る。

 

綾小路清隆だった。

 

「君も調べているのか」

 

「少し気になっただけ」

 

「何が」

 

「証言」

 

綾小路は現場を見る。

 

「三人とも同じことを言っている」

 

「それが?」

 

「少し気になる」

 

短い言葉。

 

それ以上は続かない。

 

ルルーシュは綾小路を見る。

 

必要以上に関わらない。

 

だが。

 

必要な情報は拾っている。

 

「何か分かったのか」

 

「まだ」

 

綾小路は答えた。

 

「ランペルージも?」

 

一瞬。

 

ルルーシュは黙る。

 

「まだだ」

 

綾小路はそれ以上聞かなかった。

 

翌日。

 

櫛田が教室へ戻ってきた。

 

「少し気になる話があった」

 

全員の視線が集まる。

 

「事件の日」

 

櫛田は続ける。

 

「Cクラスの三人は、偶然あの場所にいたって言ってるよね」

 

「そうね」

 

堀北が答える。

 

「でも」

 

櫛田は続けた。

 

「何人かの生徒は、須藤君が呼び出されているところを見たみたい」

 

空気が変わる。

 

「本当に?」

 

スザクが聞く。

 

「うん。でも、詳しいことまでは分からなかった」

 

重要なのは。

 

須藤が自分から問題を起こしに行ったわけではない可能性。

 

その一点だった。

 

ルルーシュは考える。

 

証言。

 

時間。

 

場所。

 

人物。

 

まだ決定的なものはない。

 

しかし。

 

Cクラス側の説明には穴がある。

 

偶然。

 

その言葉だけでは説明できない部分が存在する。

 

三人が同じ場所にいた。

 

同じ内容を証言している。

 

そして。

 

須藤だけが責任を負う形になっている。

 

整いすぎていた。

 

放課後、ルルーシュは一人で資料を見直した。

 

現在の情報だけでは、須藤とCクラスのどちらが正しいかを決められない。必要なのは、双方と利害関係のない第三者の証言だった。

 

「証言者が必要だ」

 

須藤を救うためだけではない。

 

正しい判断をするために。

 

第三者の視点が必要になる。

 

「問題は」

 

ルルーシュは窓の外を見る。

 

「その人間が、存在するかだ」

 

翌日。

 

Dクラスの教室。

 

いつも通りの時間。

 

笑う者。

 

話す者。

 

帰る準備をする者。

 

表面だけを見れば、普段と変わらない。

 

だが。

 

一つだけ違うものがあった。

 

須藤へ向けられる視線。

 

疑い。

 

不安。

 

関わりたくないという空気。

 

その中で。

 

誰かが何かを知っている可能性がある。

 

ルルーシュは教室を見渡す。

 

証言は、まだ出ていない。

 

しかし。

 

事件そのものを見ていなくても、須藤が呼び出された場面や、その前後の動線を見た人間がいる可能性は残っている。

 

問題は、その人物を見つけ、口を開いてもらえるかどうかだった。

 

情報が足りないなら、集めるしかない。

 

須藤事件。

 

その鍵は。

 

まだ誰も語っていない証言の中にある。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。