反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
須藤事件の判断日。
Dクラスの教室には、普段とは違う緊張があった。
誰も騒がない。
いつもなら聞こえる会話も、今日は少なかった。
視線は、教室前方に立つ生徒会役員と教師へ集まっていた。
「これより、須藤健の件について確認する」
前へ出た男子生徒が言う。
堀北学。
生徒会長。
その存在だけで、教室の空気が変わった。
「判断基準は感情ではない」
淡々とした声。
「提出された情報と証言。それを基に判断する」
ルルーシュは、その姿を見ていた。
堀北学は教師ではなく、ルルーシュたちと同じ生徒である。
それでも、生徒会長として校内問題の審査を担い、判断をまとめる立場にいる。この学校には、一般的な高校とは異なる権限が生徒会へ与えられていた。
「Cクラス側から」
堀北学が促す。
石崎が前へ出る。
「須藤が突然殴ってきました」
「理由は?」
「分かりません」
「その場にいた人数は?」
「三人です」
「証言は一致している」
堀北学は資料を見る。
三人の証言。
内容に大きな違いはない。
「Dクラス側」
視線が移る。
堀北が前へ出た。
「須藤君が暴力を振るったこと自体は認めます」
須藤の表情が変わる。
「ただし」
堀北は続ける。
「一方的な暴行だったという点については疑問があります」
「根拠は?」
短い問い。
その瞬間。
佐倉が立ち上がった。
「私が見ました」
小さな声。
しかし。
教室全体へ届いた。
「事件の日」
佐倉は手を握る。
震えている。
それでも。
逃げなかった。
「須藤君が呼び出されるところを」
Cクラス側の空気が変わる。
「先に声をかけたのは、Cクラスの人たちでした」
「証拠は?」
石崎が言う。
「見ただけだろ」
佐倉の表情が揺れる。
それでも。
「私は……見ました」
佐倉は続けた。
「須藤君が突然殴ったようには見えませんでした」
沈黙。
堀北学は、監視記録と双方の証言、事件前後の状況を一つずつ確認した。
確認を終えると、同席している教師へ視線を向ける。教師が小さく頷いた。
生徒会がまとめた審査結果を、学校側も正式な判断として承認した。
「判断する」
「須藤健」
須藤が顔を上げる。
「君は暴力行為を行った」
「……はい」
教室が少しざわつく。
「そこは否定しません」
以前の須藤なら、自分の非を認める前に声を荒らげていたかもしれない。
だが今は、暴力を振るった事実から目を逸らさなかった。
「だが」
堀北学は続ける。
「Cクラス側が主張する、一方的な暴行だったという点は証明できない」
暴力を振るった責任として、須藤への処分は残る。
ただし、一方的な暴行は証明されず、退学処分は免れた。
教室へ戻る途中。
須藤は黙っていた。
「助かったね」
スザクが言う。
須藤は少し顔をしかめる。
「……でもよ」
「俺、殴ったんだよな」
「うん」
スザクは否定しなかった。
「だから、そこは忘れちゃいけない」
須藤は黙る。
「でも」
スザクは続ける。
「間違えたことと、全部が間違っていることは違う」
須藤は少し目を伏せた。
「……変な奴だな」
「よく言われる」
その様子を、ルルーシュは見ていた。
須藤は救われた。
しかし。
無実になったわけではない。
自分の責任を認めた上で。
それでも前へ進もうとしている。
それは。
以前の須藤にはなかった変化だった。
放課後。
屋上。
ルルーシュとスザクは並んでいた。
「終わったね」
スザクが言う。
「ああ」
「でも」
スザクはルルーシュを見る。
「君はまだ考えている」
ルルーシュは校舎を見る。
「確認しただけだ」
「何を?」
「この学校が、何を正しいと判断するのか」
スザクは黙る。
「証拠」
「証言」
「そして」
ルルーシュは続ける。
「それを判断する仕組み」
「昔の君なら」
スザクが言う。
「もっと簡単な方法を選んでいた」
ルルーシュは否定しなかった。
「力で相手を黙らせる」
「そうだ」
「だが」
ルルーシュは空を見る。
「それでは、本当の意味で正しさは残らない」
しばらく沈黙が続く。
須藤の変化、佐倉の選択、堀北と生徒会の判断。
今回の事件を通して、この学校について見えたものは多かった。
だが。
まだ足りない。
この学校が求めているもの。
生徒を評価する基準。
その答えは、まだ見えていない。
ルルーシュは静かに言った。
「無力が悪だというのなら」
スザクが見る。
「力は正義なのか」
答えは出ない。
しかし。
一つだけ分かった。
この学校では。
正しいだけでは勝てない。
必要なのは。
「正しさを、証明する力だ」