反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
夏への招待
期末試験が終わった。
Dクラスから、退学者は出なかった。
須藤は机に突っ伏している。
眠っているようにも見えた。
だが、右手にはシャープペンシル。
机の上には途中まで解かれた問題集が広がっている。
「そこ、違う」
スザクが問題集を指差した。
「式を飛ばしてる。このままだと次も間違える」
「答え合ってんだからいいだろ」
「よくない」
「細けぇな」
文句を言いながらも、須藤は消しゴムを手に取った。
「珍しいものを見たわ」
堀北が二人へ視線を向ける。
「須藤が勉強しているなんて」
「勉強はしていた」
ルルーシュが答えた。
「続かなかっただけだ」
「一度退学を免れた程度で、人間が簡単に変わるとは思えないわ」
「変わる人間もいる」
ルルーシュは須藤を見る。
「変わらない人間もいる」
わずかな間を置く。
「須藤がどちらかは、まだ分からない」
堀北は須藤へ目を向けた。
「そうね」
それ以上は何も言わなかった。
教室の前では平田が池たちと話している。
「まだ夏休みじゃないんだから、浮かれるのは早いよ」
笑い声が上がる。
平田も苦笑していた。
以前より、教室の空気は少しだけ柔らかい。
教室の扉が開いた。
茶柱佐枝だった。
「静かにしろ」
生徒たちは席へ戻る。
茶柱はすぐには話さない。
教室を一度ゆっくり見渡し、静かになったことを確認してから口を開いた。
「終業式の前に、学校行事について説明する」
池が身を乗り出す。
「補習とかじゃないよな?」
「一年生は夏休み開始後、学校行事として船上旅行へ参加する」
教室が静まり返る。
次の瞬間。
「豪華客船!?」
「二週間も?」
「最高じゃん!」
歓声が教室を埋めた。
茶柱は淡々と説明を続ける。
南方への航行。
費用は学校負担。
船内施設も自由に利用できる。
説明が進むほど、生徒たちの期待は膨らんでいった。
「プールあるかな!」
「絶対あるだろ!」
「旅行用の服も買わないとな!」
須藤も問題集を閉じる。
「枢木、体育館とかあると思うか?」
「あるかもしれない。でも船で無茶はしない方がいい」
「だからしねぇって」
教室に笑いが広がる。
茶柱は何も言わない。
歓声が自然に収まるまで、ただ教壇に立っていた。
「先生」
堀北が手を挙げる。
「何だ」
「この行事は、生徒評価に関係しますか」
教室が少し静かになる。
茶柱は堀北を見た。
「現時点で説明することはない」
それだけだった。
すぐに教室は旅行の話題へ戻る。
海。
料理。
娯楽施設。
誰もが、それぞれの夏を思い描いていた。
「否定はしなかったね」
スザクが小さく言う。
「ああ」
「少し気になる」
ルルーシュはわずかに口元を緩めた。
「珍しいな。お前が私と同じことを気にするとは」
「たまにはあるよ」
「その調子なら、寝坊もしなくなるかもしれないな」
「まだ根に持ってるの?」
「忘れる理由がない」
スザクは肩をすくめた。
少し離れた席。
綾小路は歓声に加わることなく、静かに座っていた。
ルルーシュは一瞥する。
それ以上は見ない。
教室には、夏休みを待つ空気が満ちていた。
窓の外には、どこまでも青い空が広がっている。
楽しげな笑い声。
期待に満ちた会話。
そのすべてを、茶柱は静かに見ていた。
ルルーシュは、その視線だけを記憶する。
まだ情報が足りない。