反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
三日目の朝。
波打ち際では、須藤が勢いよく海へ飛び込んだ。
「冷てぇ!」
「自分から入ったんだろ!」
池が笑いながら水を掛け返す。
「山内! 来い!」
「嫌だって!」
逃げようとした山内の腕を掴み、須藤がそのまま海へ引きずり込む。
大きな水しぶきが上がった。
「お前ふざけんな!」
「ははっ!」
拠点まで笑い声が響く。
「朝から元気だね」
水汲みの準備を終えたスザクが笑う。
「試験中とは思えないよ」
「それだけ余裕があるということだ」
ルルーシュは短く返した。
「ルルーシュも来る?」
「遠慮しておく」
「即答か」
スザクは肩を竦めると、須藤たちの方へ歩いていった。
◇
「おはよう」
平田が鍋を抱えて姿を見せる。
「おはよう」
堀北は手帳を閉じ、小さく頷いた。
「朝食を始めよう」
「お願い」
二人はそれぞれの持ち場へ向かる。
平田は火を起こし始め、堀北は食材を並べていく。
誰に促されるでもなく、生徒たちも少しずつ集まり始めた。
◇
朝食を終え、片付けも一段落した頃。
「今日の見回りって誰だった?」
幸村が周囲を見回す。
一瞬、静かになった。
「決めてたっけ?」
池が首を傾げる。
「聞いてない」
「俺も覚えてねぇ」
互いに顔を見合わせる。
「じゃあ僕が行くよ」
平田が立ち上がる。
「悪いな」
「気にしなくていいよ」
笑顔のまま歩き出した、その時だった。
「平田君」
軽井沢が駆け寄る。
「悪いんだけど、水も補充してきてもらっていい?」
「あ、うん。分かった」
平田は水筒を抱え、そのまま森へ向かっていった。
その背中を見送り、堀北が静かに手帳を開く。
「明日から当番を決めましょう」
幸村が頷く。
「その方がいいな」
反対する者はいない。
堀北は新しい頁を開き、当番表を書き始めた。
◇
昼が近づく。
薪を割る音が響く。
水場では食器を洗う音が聞こえる。
木陰で休む者。
森へ入る者。
それぞれが持ち場へ散っていく。
見回りを終えた平田が戻ってくる。
水筒を下ろすと、そのまま食材を運び始めた。
「平田君」
堀北が顔を上げる。
「その箱もお願い」
「うん」
平田は笑って箱を抱えた。
少し離れた場所で、その様子を一瞥すると、ルルーシュは静かに踵を返した。
潮風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが森へ広がっていた。
夕暮れ。
作業を終えた生徒たちが、少しずつ拠点へ戻ってくる。
「疲れたぁ……」
池がその場へ腰を下ろす。
「今日は歩きっぱなしだったな」
須藤が肩を回した。
「だったら休む前に運んで」
軽井沢が鍋を指差す。
「はいはい」
須藤は苦笑しながら鍋を持ち上げた。
◇
「食事の準備を始めるわ」
堀北の一言で、拠点が再び動き出す。
火を起こす者。
野菜を切る者。
皿を並べる者。
誰に言われるでもなく、それぞれが持ち場へ散っていく。
「山内君」
平田が声を掛ける。
「悪いけど皿お願い」
「あ、分かった」
山内は慌てて皿を運び始めた。
平田は食材を並べ、そのまま鍋へ手を伸ばす。
「平田君」
堀北が振り向く。
「そっちもお願い」
「うん」
平田は笑顔で頷いた。
堀北は手帳を開く。
食材の残量。
使用ポイント。
明日の当番。
一つ書き留めるたび、頁を指で押さえる。
「堀北さん」
幸村が一枚の紙を差し出した。
「この割り振りでいいか?」
「見せて」
堀北は手帳を閉じることなく、その紙へ目を落とした。
◇
夕食が終わる。
「ごちそうさま」
食器を持って立ち上がる者。
焚き火の前へ座る者。
思い思いに夜を過ごし始める。
「洗い物、持っていくよ」
スザクが食器を重ねる。
「ありがとう」
平田も残った皿をまとめ、水場へ向かった。
二人の姿が暗がりへ消える。
堀北は鍋の中を確認し、残った食材を袋へ戻す。
紐を結び終えると、もう一度手帳を開いた。
◇
焚き火が静かに燃えていた。
池たちの笑い声が夜へ溶けていく。
少し離れた場所では、平田が洗い終えた食器を拭いている。
「平田君」
堀北が呼び止める。
「悪いけど、明日の当番表を配ってもらえる?」
「うん」
平田は濡れた手を軽く払うと、紙を受け取った。
一人、また一人。
順番に手渡していく。
受け取った生徒たちは、そのまま話を続ける。
平田は配り終えると、空箱を脇へ寄せた。
◇
ルルーシュは焚き火から少し離れた木陰に立っていた。
堀北はようやく手帳を閉じ、小さく肩を回す。
焚き火へ一本の薪が落ちる。
積まれていた薪が、僅かに形を崩した。
炎は揺れながらも、静かに燃え続ける。
ルルーシュはその火を見つめたまま、小さく呟いた。
「……崩壊は、一日では起きない」
焚き火の爆ぜる音だけが、静かな夜に響いていた。