反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
高度育成高等学校への入学案内を見つけた翌日。
ルルーシュとスザクは、自分たちに与えられた経歴を確認していた。
戸籍上、二人の両親はすでに亡くなっている。
その後は、海外に住む遠縁の親族から生活費の援助を受けながら、同じ住居で暮らしていたことになっていた。
入学手続きに必要な保護者の署名も、すでに提出済みだった。
「都合が良すぎるな」
ルルーシュは書類を机へ置いた。
「僕たちが何もしなくても、入学できる状態になってる」
「学校側が用意したとは限らない。だが、偶然と考えるには出来すぎている」
二人は、記録に残っている中学校へ電話をかけた。
応対した教師は、二人の名前を知っていた。
成績や卒業年度も確認できた。
しかし、当時の様子を尋ねると返答が曖昧になった。
『大人しい生徒だったと思います』
『確か、二人でいることが多かったような……』
誰も、具体的な出来事を覚えていない。
卒業写真には写っている。
名簿にも載っている。
それでも、二人を明確に記憶する人間はいなかった。
「記録だけがある」
スザクが電話を切る。
「人間の記憶までは、完全に作られていないみたいだな」
「ああ。俺たちはこの世界に存在していたことになっている。だが、生きてはいなかった」
ルルーシュは卒業写真を見る。
そこに写る自分は、見覚えのない表情で笑っていた。
不快だった。
だが、今さら写真一枚に感情を乱されるつもりもない。
次に、二人は高度育成高等学校について調べた。
東京都が設立した全寮制の学校。
卒業率、進学率、就職率はいずれも極めて高い。
一方で、校内の詳しい制度や在校生の生活については、ほとんど情報が出ていなかった。
「外部への情報が少なすぎる」
ルルーシュが画面を閉じる。
「秘密主義なのか?」
「閉鎖環境を維持するためだろう。生徒を外部から隔離し、独自の制度で管理する」
「それでも、二人とも合格してる」
スザクは二通の入学許可証を見る。
ルルーシュとスザクでは、能力の方向性がまるで違う。
それなのに、同じ年に、同じ特殊な学校へ選ばれている。
そこだけは、単なる社会的補完では説明しづらかった。
「学校へ行けば分かると思う?」
「分からない可能性の方が高い」
「じゃあ、どうするんだ」
「観察する」
ルルーシュは即答した。
「教師、生徒、規則、評価制度。必要な情報は、内部に入れば集められる」
スザクは苦笑する。
「普通の高校生活を送る気は?」
「状況次第だ」
「その答え、普通に送る気がない人の答えだよ」
入学までの数日間、二人は新しい身体の確認も行った。
ルルーシュの体力は、以前と大きく変わっていない。
年齢相応よりやや低く、長時間の運動には向かない。
一方、スザクは若返った身体にもすぐ適応した。
筋力は全盛期より落ちている。
だが、反射神経や身体操作、戦闘技術は残っていた。
軽く走らせただけでも、一般的な高校生の水準を大きく超えている。
「目立つなよ」
ルルーシュが言った。
「分かってる」
「お前の『分かっている』は信用できない」
「それは僕の台詞だ」
ギアスは、何度試しても発動しなかった。
左目に痛みも熱もない。
ルルーシュは、それ以上試すことをやめた。
使えない力を前提に策を組むほど愚かではない。
入学前夜。
二人は荷物をまとめ終えていた。
必要な衣類。
書類。
現金。
それ以外はほとんど持たない。
元の世界から持ち込めたものは、記憶だけだった。
スザクは窓の外を見ながら言う。
「ナナリーたちは、今どうしてるんだろう」
「分からない」
ルルーシュは荷物を閉じる。
「でも、ゼロレクイエムは成功した」
「そう信じるしかない?」
「違う。成功させるために、俺たちはすべてを尽くした」
その先を知ることはできない。
ならば、最後に見た世界と、残してきた者たちを信じるしかなかった。
翌朝。
二人は住居を出た。
春の空気は冷たく、街には新生活を始める学生の姿があった。
駅へ向かう道で、スザクが尋ねる。
「学校では、どういう関係にする?」
「記録通り、昔からの知り合いでいい」
「友達ではなく?」
ルルーシュは少し考える。
「お前がそう名乗りたいなら、勝手にしろ」
「相変わらず素直じゃないな」
「黙って歩け」
電車を乗り継ぎ、指定された集合場所へ向かう。
そこには、高度育成高等学校行きのバスが停まっていた。
同じ制服を着た新入生たちが、次々と乗り込んでいく。
ルルーシュはバスと生徒たちを静かに観察した。
緊張している者。
期待に胸を膨らませている者。
周囲を値踏みしている者。
まだ何も始まっていない。
それでも、すでに人間関係は動き始めていた。
「行こう、ルルーシュ」
スザクが先に乗り込む。
ルルーシュは一度だけ、背後の街を振り返った。
ここから先は、外部との接触が制限される。
何が待っているのかは分からない。
だが、少なくとも退屈はしないだろう。
ルルーシュはバスへ足をかけた。
高度育成高等学校。
新しい世界を知るための、最初の盤上が目前に迫っていた。