反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
四日目の朝。
拠点の柱には、昨日作られた当番表が結び付けられていた。
「俺、今日は薪か」
須藤が紙を眺める。
「水汲み……面倒だな」
池が頭を掻く。
「俺は伝達?」
山内が首を傾げた。
「何すればいいんだ?」
「必要になったら伝えるわ」
堀北は手帳を閉じる。
「当番どおりに動いて」
それだけ告げると、生徒たちはそれぞれ動き始めた。
◇
「須藤君」
平田が薪置き場を指差す。
「午前中はお願いできる?」
「分かった」
須藤は斧を肩へ担ぎ、そのまま森へ入っていく。
「池君」
「はいはい」
「水をお願い」
「了解」
池は水筒を抱え、川へ向かった。
「山内君」
「俺?」
「幸村君たちに、昼までに戻るよう伝えてくれる?」
「任せろ」
山内は返事をすると、軽い足取りで駆け出していく。
平田は三人を見送ると、調理の準備へ戻った。
◇
昼前。
薪を抱えた須藤が拠点へ戻ってくる。
「こんなもんでいいか?」
「十分だよ」
平田が笑って受け取る。
「じゃ、次は?」
須藤が辺りを見回す。
平田が答えるより先に、堀北が口を開いた。
「資材を運んでもらえる?」
「了解」
須藤はそのまま荷物へ向かった。
少し遅れて、池が水筒を抱えて戻ってくる。
「終わったぞ」
「ありがとう」
軽井沢が受け取り、調理場へ運んでいく。
山内も息を切らしながら戻ってきた。
「全員に伝えた」
「ご苦労様」
堀北は小さく頷く。
手帳へ視線を落としたまま、鉛筆を走らせた。
◇
物資置き場。
ルルーシュは保存食を数え、帳面へ数字を書き込んでいた。
残量。
消費量。
残りポイント。
一つ書き終えると、静かに頁をめくる。
不意に足音が止まった。
「ランペルージ君」
堀北だった。
「少しいいかしら」
ルルーシュは手を止める。
「何だ」
「昨日より動きやすくはなったわ」
「ああ」
「でも、まだ上手く言えない違和感がある」
ルルーシュは帳面を閉じた。
「君は歩き過ぎだ」
堀北は眉をひそめる。
「……どういうこと?」
「全体を見る人間が、自分で動き回れば、その間は誰も全体を見ていない」
短い沈黙が流れる。
堀北は何も言わず、手帳へ目を落とした。
「平田は放っておいても動く」
ルルーシュはそれだけ言うと、再び帳面を開く。
「それを利用するかどうかは、君が決めろ」
堀北は返事をしない。
しばらく当番表を見つめると、静かに鉛筆を走らせた。
午後。
堀北は手帳を閉じると、拠点を見渡した。
「須藤君」
「ん?」
「資材置き場をお願い」
「了解」
須藤は返事をすると、縄を肩へ担ぎ歩き出す。
「池君」
「今度は?」
「魚を干すのを手伝って」
「はいよ」
池は軽く手を挙げ、そのまま海岸へ向かった。
堀北は山内の姿を探す。
少し遅れて、森の奥から山内が駆け戻ってきた。
「山内君」
「何?」
「これを幸村君へ渡して」
手帳から一枚の紙を抜き取る。
「また伝達?」
「お願い」
「分かった」
山内は紙を受け取ると、再び森へ走っていった。
その背中を見送り、堀北はゆっくり息を吐く。
◇
午後の日差しが少しずつ傾き始める。
須藤は黙々と資材を運び続けている。
「そこ置いとけばいいか?」
「うん、ありがとう」
平田が笑顔で答えた。
池は干し終えた魚を並べ、軽井沢へ声を掛ける。
「終わったぞ」
「ありがと」
それだけのやり取りで済む。
誰かを探して歩き回る姿は減っていた。
◇
拠点の中央。
堀北は手帳へ目を落とす。
ふと顔を上げる。
須藤は資材置き場。
池は海岸。
山内は森。
平田は拠点を離れず、空いた仕事へ自然と手を伸ばしている。
「……」
昨日なら、自分が呼びに行っていた。
昨日なら、自分が運んでいた。
鉛筆を握る手が止まる。
視線だけが、拠点全体をゆっくり巡った。
◇
物資置き場。
ルルーシュは帳面へ数字を書き足していた。
薪。
水。
保存食。
どれも予定どおりだった。
帳面を閉じる。
少し離れた場所では、山内が幸村へ紙を渡している。
須藤は運び終えた資材を整え、池は干し網を見上げていた。
誰かが指示を待って立ち止まることはない。
ルルーシュは一度だけ拠点へ目を向ける。
堀北は歩いていなかった。
その代わり、全体を見ている。
ルルーシュは何も言わず、再び物資表を開いた。
夕暮れ。
森へ伸びていた影が、ゆっくりと拠点を包み始める。
「戻ったぞ」
須藤が資材を降ろした。
「ありがとう」
堀北は短く頷く。
少し遅れて池が戻る。
「魚、干し終わった」
「ご苦労様」
山内も森から姿を見せた。
「伝えてきた」
「ありがとう」
堀北は手帳へ一つ印を書き加える。
◇
「食事の準備を始めるわ」
その一言で、拠点が動き始めた。
火を起こす者。
野菜を切る者。
皿を並べる者。
それぞれが自分の持ち場へ向かう。
平田は鍋へ火を掛ける。
「平田君」
軽井沢が箱を差し出した。
「これお願い」
「うん」
平田は受け取ると、そのまま食材の横へ運ぶ。
堀北は拠点の中央に立ち、手帳へ目を落とした。
鉛筆は止まらない。
時折顔を上げ、拠点全体へ視線を巡らせる。
再び手帳へ戻る。
◇
食事を終え、焚き火に火が灯る。
「今日は昨日より楽だったな」
須藤が大きく腕を伸ばした。
「俺もそう思う」
池が笑う。
「走るだけなら俺でもできるし」
山内が胸を張ると、周囲から笑いが漏れる。
平田も穏やかに笑っていた。
堀北は焚き火から少し離れた場所で、その様子を静かに見つめていた。
◇
焚き火から離れた木陰。
ルルーシュは物資表へ最後の数字を書き込む。
今日の消費。
残りの食料。
残りポイント。
帳面を閉じる。
足音が近付いた。
「ランペルージ君」
堀北だった。
「何だ」
「……今日は歩く時間が減ったわ」
ルルーシュは答えない。
「その分、全体を見る時間が増えた」
少しだけ沈黙が流れる。
「まだ試しているだけよ」
「ああ」
それだけだった。
「おやすみなさい」
堀北は踵を返し、焚き火の方へ歩いていく。
ルルーシュは一人、揺れる炎へ目を向けた。
薪が崩れ、小さな火の粉が夜空へ舞い上がる。
「……組織は、人ではなく役割で動く」
静かな呟きは、焚き火の爆ぜる音に溶けて消えた。