反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

20 / 53
役割

四日目の朝。

 

 拠点の柱には、昨日作られた当番表が結び付けられていた。

 

「俺、今日は薪か」

 

 須藤が紙を眺める。

 

「水汲み……面倒だな」

 

 池が頭を掻く。

 

「俺は伝達?」

 

 山内が首を傾げた。

 

「何すればいいんだ?」

 

「必要になったら伝えるわ」

 

 堀北は手帳を閉じる。

 

「当番どおりに動いて」

 

 それだけ告げると、生徒たちはそれぞれ動き始めた。

 

    ◇

 

「須藤君」

 

 平田が薪置き場を指差す。

 

「午前中はお願いできる?」

 

「分かった」

 

 須藤は斧を肩へ担ぎ、そのまま森へ入っていく。

 

「池君」

 

「はいはい」

 

「水をお願い」

 

「了解」

 

 池は水筒を抱え、川へ向かった。

 

「山内君」

 

「俺?」

 

「幸村君たちに、昼までに戻るよう伝えてくれる?」

 

「任せろ」

 

 山内は返事をすると、軽い足取りで駆け出していく。

 

 平田は三人を見送ると、調理の準備へ戻った。

 

    ◇

 

 昼前。

 

 薪を抱えた須藤が拠点へ戻ってくる。

 

「こんなもんでいいか?」

 

「十分だよ」

 

 平田が笑って受け取る。

 

「じゃ、次は?」

 

 須藤が辺りを見回す。

 

 平田が答えるより先に、堀北が口を開いた。

 

「資材を運んでもらえる?」

 

「了解」

 

 須藤はそのまま荷物へ向かった。

 

 少し遅れて、池が水筒を抱えて戻ってくる。

 

「終わったぞ」

 

「ありがとう」

 

 軽井沢が受け取り、調理場へ運んでいく。

 

 山内も息を切らしながら戻ってきた。

 

「全員に伝えた」

 

「ご苦労様」

 

 堀北は小さく頷く。

 

 手帳へ視線を落としたまま、鉛筆を走らせた。

 

    ◇

 

 物資置き場。

 

 ルルーシュは保存食を数え、帳面へ数字を書き込んでいた。

 

 残量。

 

 消費量。

 

 残りポイント。

 

 一つ書き終えると、静かに頁をめくる。

 

 不意に足音が止まった。

 

「ランペルージ君」

 

 堀北だった。

 

「少しいいかしら」

 

 ルルーシュは手を止める。

 

「何だ」

 

「昨日より動きやすくはなったわ」

 

「ああ」

 

「でも、まだ上手く言えない違和感がある」

 

 ルルーシュは帳面を閉じた。

 

「君は歩き過ぎだ」

 

 堀北は眉をひそめる。

 

「……どういうこと?」

 

「全体を見る人間が、自分で動き回れば、その間は誰も全体を見ていない」

 

 短い沈黙が流れる。

 

 堀北は何も言わず、手帳へ目を落とした。

 

「平田は放っておいても動く」

 

 ルルーシュはそれだけ言うと、再び帳面を開く。

 

「それを利用するかどうかは、君が決めろ」

 

 堀北は返事をしない。

 

 しばらく当番表を見つめると、静かに鉛筆を走らせた。

 

 

 

 午後。

 

 堀北は手帳を閉じると、拠点を見渡した。

 

「須藤君」

 

「ん?」

 

「資材置き場をお願い」

 

「了解」

 

 須藤は返事をすると、縄を肩へ担ぎ歩き出す。

 

「池君」

 

「今度は?」

 

「魚を干すのを手伝って」

 

「はいよ」

 

 池は軽く手を挙げ、そのまま海岸へ向かった。

 

 堀北は山内の姿を探す。

 

 少し遅れて、森の奥から山内が駆け戻ってきた。

 

「山内君」

 

「何?」

 

「これを幸村君へ渡して」

 

 手帳から一枚の紙を抜き取る。

 

「また伝達?」

 

「お願い」

 

「分かった」

 

 山内は紙を受け取ると、再び森へ走っていった。

 

 その背中を見送り、堀北はゆっくり息を吐く。

 

    ◇

 

 午後の日差しが少しずつ傾き始める。

 

 須藤は黙々と資材を運び続けている。

 

「そこ置いとけばいいか?」

 

「うん、ありがとう」

 

 平田が笑顔で答えた。

 

 池は干し終えた魚を並べ、軽井沢へ声を掛ける。

 

「終わったぞ」

 

「ありがと」

 

 それだけのやり取りで済む。

 

 誰かを探して歩き回る姿は減っていた。

 

    ◇

 

 拠点の中央。

 

 堀北は手帳へ目を落とす。

 

 ふと顔を上げる。

 

 須藤は資材置き場。

 

 池は海岸。

 

 山内は森。

 

 平田は拠点を離れず、空いた仕事へ自然と手を伸ばしている。

 

「……」

 

 昨日なら、自分が呼びに行っていた。

 

 昨日なら、自分が運んでいた。

 

 鉛筆を握る手が止まる。

 

 視線だけが、拠点全体をゆっくり巡った。

 

    ◇

 

 物資置き場。

 

 ルルーシュは帳面へ数字を書き足していた。

 

 薪。

 

 水。

 

 保存食。

 

 どれも予定どおりだった。

 

 帳面を閉じる。

 

 少し離れた場所では、山内が幸村へ紙を渡している。

 

 須藤は運び終えた資材を整え、池は干し網を見上げていた。

 

 誰かが指示を待って立ち止まることはない。

 

 ルルーシュは一度だけ拠点へ目を向ける。

 

 堀北は歩いていなかった。

 

 その代わり、全体を見ている。

 

 ルルーシュは何も言わず、再び物資表を開いた。

 

 

 夕暮れ。

 

 森へ伸びていた影が、ゆっくりと拠点を包み始める。

 

「戻ったぞ」

 

 須藤が資材を降ろした。

 

「ありがとう」

 

 堀北は短く頷く。

 

 少し遅れて池が戻る。

 

「魚、干し終わった」

 

「ご苦労様」

 

 山内も森から姿を見せた。

 

「伝えてきた」

 

「ありがとう」

 

 堀北は手帳へ一つ印を書き加える。

 

    ◇

 

「食事の準備を始めるわ」

 

 その一言で、拠点が動き始めた。

 

 火を起こす者。

 

 野菜を切る者。

 

 皿を並べる者。

 

 それぞれが自分の持ち場へ向かう。

 

 平田は鍋へ火を掛ける。

 

「平田君」

 

 軽井沢が箱を差し出した。

 

「これお願い」

 

「うん」

 

 平田は受け取ると、そのまま食材の横へ運ぶ。

 

 堀北は拠点の中央に立ち、手帳へ目を落とした。

 

 鉛筆は止まらない。

 

 時折顔を上げ、拠点全体へ視線を巡らせる。

 

 再び手帳へ戻る。

 

    ◇

 

 食事を終え、焚き火に火が灯る。

 

「今日は昨日より楽だったな」

 

 須藤が大きく腕を伸ばした。

 

「俺もそう思う」

 

 池が笑う。

 

「走るだけなら俺でもできるし」

 

 山内が胸を張ると、周囲から笑いが漏れる。

 

 平田も穏やかに笑っていた。

 

 堀北は焚き火から少し離れた場所で、その様子を静かに見つめていた。

 

    ◇

 

 焚き火から離れた木陰。

 

 ルルーシュは物資表へ最後の数字を書き込む。

 

 今日の消費。

 

 残りの食料。

 

 残りポイント。

 

 帳面を閉じる。

 

 足音が近付いた。

 

「ランペルージ君」

 

 堀北だった。

 

「何だ」

 

「……今日は歩く時間が減ったわ」

 

 ルルーシュは答えない。

 

「その分、全体を見る時間が増えた」

 

 少しだけ沈黙が流れる。

 

「まだ試しているだけよ」

 

「ああ」

 

 それだけだった。

 

「おやすみなさい」

 

 堀北は踵を返し、焚き火の方へ歩いていく。

 

 ルルーシュは一人、揺れる炎へ目を向けた。

 

 薪が崩れ、小さな火の粉が夜空へ舞い上がる。

 

「……組織は、人ではなく役割で動く」

 

 静かな呟きは、焚き火の爆ぜる音に溶けて消えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。