反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
八日目の朝。
島全体へ、放送が響いた。
『無人島特別試験を終了します。各クラスは荷物をまとめ、指定された海岸へ移動してください』
Dクラスの拠点に、遅れて歓声が上がる。
「終わった!」
池が両腕を上げた。
「やっと船に戻れる!」
「まだ片付けが残ってるだろ」
須藤が外した支柱を地面へ置く。
「分かってるって」
山内はテントの周りを歩き、忘れ物を拾い集めている。
スザクは一度全体を見回すと、人手の足りていない場所へ向かった。
高円寺に続き、堀北もいない。
それでも、撤収作業は止まらなかった。
平田が全体を見る。
須藤が力仕事を進める。
池と山内が物と人を確認し、必要な場所へ伝える。
スザクは遅れている作業へ入り、体調の悪そうな生徒がいれば荷物を代わった。
誰かが全員へ細かく指示を出しているわけではない。
それぞれが、自分の仕事を進めていた。
ルルーシュは物資置き場の最後の帳面を確認する。
残量。
使用量。
持ち帰る物。
島へ残す物。
「ランペルージ」
池が空になった袋を持ち上げる。
「これ、捨てていいか?」
ルルーシュは袋を見た。
次に、平田へ視線を向ける。
「平田に聞け」
「また平田かよ」
「撤収を見ているのはあいつだ」
「分かったよ」
池はそのまま平田の方へ走っていく。
ルルーシュは帳面を閉じた。
拠点は片付いていく。
自分が一つずつ決めなくても。
◇
海岸へ向かう途中、列は何度か速度を落とした。
荷物を落とす者がいる。
疲労で歩調が遅れる者もいる。
そのたびに平田が全体を止め、須藤とスザクが荷物を受け取った。
池と山内が人数を確認する。
列はすぐに動き出す。
海岸へ着くと、すでに他クラスの生徒たちも集まり始めていた。
Bクラスは一之瀬を中心にまとまっている。
Aクラスでは葛城の周囲に人が集まっていた。
Cクラスで海岸に残っているのは、龍園だけだった。
龍園は砂浜に腰を下ろし、戻ってくる生徒たちを眺めている。
Dクラスが指定された場所へ荷物を置いたところで、茶柱が歩いてきた。
「先に伝えておく」
須藤とスザクが同時に顔を上げる。
「堀北なら意識は戻っている。大事には至っていない」
「ほんとか?」
「ああ」
須藤の肩から僅かに力が抜けた。
茶柱は続ける。
「発見から学校側へ引き渡されるまでが早かった。それも幸いしたそうだ」
スザクが小さく息を吐く。
「連絡、搬送、必要な物の準備。余計な混乱を起こさず動けたことは無駄ではなかった、ということだ」
平田が静かに頷いた。
「ただし、勘違いするな。無理をした事実が消えるわけではない。本人には後で私から話す」
茶柱はそこで話を切った。
その視線が綾小路へ向く。
「綾小路。提出はまだだな」
「はい」
「締め切る。決めたなら来い」
綾小路は茶柱の後を追った。
◇
教師用の簡易机の上に、回答用紙が置かれていた。
綾小路は二つの欄へ名前を書く。
Aクラス。
戸塚弥彦。
Cクラス。
龍園翔。
Bクラスの欄には何も書かない。
茶柱が用紙を見る。
「Bは空欄か」
「材料が足りません」
「そうか」
それ以上は聞かなかった。
「これで提出する」
「お願いします」
綾小路は机から離れる。
Aクラス。
戸塚が葛城のそばから消えた時間。
占有地側から一人で戻った動き。
八時間ごとの更新周期。
Cクラス。
伊吹。
金田。
無線。
他クラスへ置かれた複数の目。
どちらも絶対ではない。
だが、選ぶならこの二人だった。
◇
Dクラスの場所へ戻る途中。
「よう」
龍園の声がした。
龍園はDクラスの列を眺め、それから堀北のいない場所へ視線を向けた。
「ずいぶん静かじゃねえか」
「そっちは随分少ないな」
平田ではなく、須藤が返す。
龍園は鼻で笑った。
「別に困らねえよ。欲しいもんは取った」
龍園の視線がDクラスの面々をなぞる。
「最後まで隠したつもりだったみてえだが、無駄だったな」
「何の話だよ」
池が眉を寄せる。
「お前らのリーダーだ」
龍園は迷いなく言った。
「堀北鈴音」
一瞬だけ、空気が止まる。
須藤が何か言いかける。
平田が先に口を開いた。
「もうすぐ結果発表だよ」
「そうだな」
龍園は笑った。
「そこで分かる」
自信は崩れていない。
当然だった。
伊吹は本物のキーカードを盗み、その名前まで自分の目で確認している。
その時点で、堀北鈴音は間違いなくDクラスのリーダーだった。
龍園が疑う理由はなかった。
◇
やがて、一年生全員が海岸の集合場所へ集められた。
前方に教師たちが並ぶ。
ざわめきが広がる中、真嶋が用紙を開いた。
「これより、無人島特別試験の結果を発表する」
声が静まる。
「第四位。一年Cクラス。獲得ポイント、ゼロ」
龍園は何も言わなかった。
「第三位。一年Aクラス。獲得ポイント、百二十」
Aクラス側にもざわめきが走る。
「第二位。一年Bクラス。獲得ポイント、百四十」
最後まで、Dクラスの名前は呼ばれない。
池がゆっくり山内を見る。
「え」
「まさか……」
真嶋が次の行へ視線を落とした。
「第一位。一年Dクラス。獲得ポイント、二百四十五」
一瞬。
誰も声を出さなかった。
「……一位?」
須藤が呟く。
「Dクラスが?」
次の瞬間、歓声が弾けた。
「マジかよ!」
「やった!」
「一位だ!」
池と山内が立ち上がる。
須藤は強く拳を握った。
平田も驚いたまま笑っている。
スザクは大きく息を吐き、それから表情を緩めた。
ルルーシュは騒ぎの少し外で結果を見ていた。
前方の表示が更新される。
一年Aクラス――一〇〇四から一一二四。
一年Bクラス――六六三から八〇三。
一年Cクラス――四九二から四九二。
一年Dクラス――八二から三二七。
試験単体では一位。
それでも累計順位まで覆ったわけではない。
綾小路は前方の表示を見た。
戸塚弥彦。
龍園翔。
提出した二つの名前は、どちらも外れていなかった。
龍園の笑みが消えていた。
伊吹が確認した情報は間違っていない。
堀北鈴音。
あの時点では、それが正解だった。
なら、変わった。
堀北が消えた後に。
誰かが、情報を取られた後で盤面を変えた。
やがて、龍園の口元がもう一度僅かに上がる。
視線がDクラスの中をゆっくり動く。
堀北はいない。
平田。
須藤。
スザク。
ルルーシュ。
綾小路。
だが、一人のところでは止まらなかった。
「面白ぇ」
龍園は小さく笑った。
次に探すべきものができた。
それだけで十分だった。
◇
結果発表が終わっても、Dクラスの興奮は収まらなかった。
「二百四十五って、かなり高くないか?」
池が結果表示を見上げる。
幸村が少し考える。
「占有地も取っていた。物資の消費も抑えられた。いくつかの要素が重なった結果だろう」
「じゃあ、やっぱランペルージのおかげじゃね?」
山内が言った。
「最初に色々決めてたし、ポイントも見てただろ」
ルルーシュは山内を見る。
「俺一人で残せる数字ではない」
「でも、お前がいなかったらもっと使ってたんじゃね?」
「それは否定しない」
あっさり返す。
平田が少し笑った。
「うん。ランペルージ君が最初に形を作ってくれたことは大きかったと思う」
ルルーシュが平田を見る。
「物資やポイントを見てくれてたし、僕たちが迷った時も必要なことを教えてくれた」
そこで平田は周囲へ視線を向けた。
「でも、それだけじゃないよ」
須藤を見る。
「須藤君が重い物を運んでくれた」
「まあな」
「池君が水や必要な物を回してくれた」
「何往復したと思ってんだよ」
「山内君がみんなの状況を伝えてくれた」
「お、分かってんじゃん」
「スザク君は足りない場所へずっと入ってくれた」
スザクが首を横へ振る。
「僕だけじゃないよ」
「うん。それに堀北さんも、最後まで試験に必要な判断を引き受けてた」
須藤の表情が少しだけ真面目になる。
「平田もだろ」
「え?」
「お前、ずっと全体見てたじゃねえか」
平田は少し困ったように笑った。
「僕も、できることをしただけだよ」
そして、全員を見る。
「だから、みんながいたから取れた一位だと思う」
須藤が鼻を鳴らした。
「じゃあ、全員で取った一位ってことだろ」
「そうだね」
「俺も入ってるよな?」
山内が念を押す。
「今名前出ただろ」
池が呆れる。
「確認だよ!」
笑い声が上がった。
誰か一人の名前だけが、繰り返されることはなかった。
◇
乗船が始まる。
Dクラスも荷物を持ち、列へ加わった。
「ランペルージ」
池が振り返る。
「これ、どこ持ってけばいい?」
「平田に聞け」
「またかよ」
「列を見ているのはあいつだ」
「はいはい」
池が前へ走る。
「平田ー!」
「聞こえてるよ。そこに置いて」
すぐに答えが返った。
ルルーシュは列の端へ移る。
遅れている生徒はいない。
荷物も残っていない。
それだけを確認した。
「ルルーシュ」
スザクが隣へ並ぶ。
「何だ」
「嬉しくないのか?」
「何がだ」
「一位」
「結果としては悪くない」
「それだけ?」
「それ以上何を言えと?」
スザクは少し笑った。
「いや。別に」
ルルーシュが眉を寄せる。
その前では、池と山内がまだ自分の貢献度について言い争っていた。
平田が笑いながら止める。
須藤が余計な一言を入れる。
人の流れはそのまま船へ続いていく。
◇
少し離れた場所から、綾小路はその集団を見ていた。
Dクラスが一位になった理由を、一つだけ選ぶことはできない。
百ポイントを生んだリーダー予想だけでもない。
島で抑えた損失だけでもない。
クラスの中も同じだった。
誰か一人の名前へまとめることはできない。
ルルーシュは先頭にはいない。
細かい命令も出していない。
それでも、誰かが迷えば自然と視線が向く。
そしてあいつは、答えを抱え込まない。
平田へ返す。
堀北へ返す。
役割を持つ人間へ返す。
支配とは、少し違う。
「綾小路君」
平田が振り返る。
「置いていくよ」
「ああ」
綾小路は歩き出した。
前では、スザクがルルーシュの肩へ腕を回そうとしている。
ルルーシュが半歩横へずれた。
「避けるなよ」
「暑い」
「船の中じゃないだろ、まだ」
「だから暑いと言っている」
須藤が笑う。
その周囲をDクラスの生徒たちが歩いていく。
ルルーシュは、自分がどう見られているのかを知らない。
誰の前にも立っていない。
それでも人の流れは、自然にその近くへ集まっていた。
試験は終わった。
答え合わせも終わった。
Dクラスは、一位だった。