反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
試験開始から、まだ長い時間が過ぎたわけではない。
それでも、十二のグループはすでに同じ速さでは動いていなかった。
話し合いを続けているグループ。
互いの発言を疑い、会話が止まったグループ。
途中解答を恐れ、優待者へ名乗るよう迫り始めたグループ。
そして、Cクラスの生徒だけが、別の目的を持って動いているように見えるグループ。
ルルーシュはラウンジの隅で、平田から届いた報告を時刻順に並べていた。
内容だけでは足りない。
誰が発言したか。
誰へ伝わったか。
その前後に、どの生徒が端末を確認したか。
会合を離れた者がいたか。
戻った後に、発言がどう変わったか。
同じ言葉でも、発せられた時刻が違えば意味も変わる。
端末の画面には、複数のグループから届いた報告が並んでいる。
優待者候補。
候補とした理由。
申告順。
通知を確認した直後の反応。
他クラスから届いた情報。
そのどれにも、確定と呼べるものはなかった。
一人の生徒が通知後に口数を減らした。
別の生徒は、優待者ではないと答えるまでに間があった。
誰かが質問を避けた。
誰かが途中解答へ反対した。
反応だけを追えば、候補はいくらでも生まれる。
だが、人間の反応は一つの理由だけでは決まらない。
優待者だから黙る者もいる。
疑われることを恐れて黙る者もいる。
単に他クラスと話すのが苦手な者もいる。
ルルーシュは候補の一つへ印をつけた。
確率は高い。
だが、送信するには足りない。
正解すれば利益を得る。
外せば、相手へ利益を渡す。
推測と決断の間には、五十クラスポイント分の距離があった。
平田がトレーを手に戻ってきた。
飲み物を二つ置き、向かい側へ座る。
「増えた?」
「ああ」
「何人くらいまで絞れそう?」
「グループによる」
ルルーシュは画面を平田へ向けた。
「一つは二人まで絞れる。もう一つは三人。残りは候補と呼べる段階にもない」
「二人なら、かなり近いんじゃないかな」
「二分の一でクラスポイントを賭けるつもりか?」
「それは……できないけど」
「なら、まだ近くない」
平田は反論せず、報告へ目を通した。
「本人たちに、もう少し詳しく聞いてもらう?」
「聞き方を変えれば、反応も変わる」
「でも、今のままだと確定できないよね」
「ああ」
必要なのは、別の角度からの情報だった。
人間の反応だけではない。
優待者の通知を受けた者だけが持つ、共通の痕跡。
しかし、通知内容は同じ文章で送られている。
端末の表示時刻も同時だ。
生徒の席順やクラス構成に、分かりやすい共通点はない。
少なくとも、Dクラスへ集まった情報だけでは見えない。
平田の端末が振動した。
新しい報告を確認し、表情を変える。
「また、Cクラスの連絡が増えてる」
「どこだ」
「三つのグループ。同じくらいの時刻に、一度会合を止めてる」
ルルーシュは報告を受け取った。
一つ目。
Cクラス生徒が端末を確認した後、優待者候補についての質問をやめた。
二つ目。
それまで特定の生徒を疑っていたCクラス生徒が、候補者への追及を突然打ち切った。
三つ目。
Cクラス生徒が、所属クラスではなく、グループ内の並び順と生徒名を確認し始めた。
前回とは違う。
最初の途中解答では、複数のグループから集めた反応が一人の候補へ向けられていた。
今は、人間への質問そのものが減っている。
「候補を見つけたのかな」
平田が尋ねる。
「逆だ」
「逆?」
「候補を探す必要がなくなった」
ルルーシュは、過去の報告を開いた。
Cクラスが最初に確認していたもの。
生徒の反応。
通知後の行動。
申告の順番。
だが、最初の成功以降、質問の種類が変わっている。
誰が怪しいかではない。
誰が、どのグループに属しているか。
各グループに、どのクラスの生徒が何人いるか。
生徒名の並び。
学校から指定された集合先。
Cクラスの生徒たちは、人間を見なくなったわけではない。
それより優先するものを見つけた。
「優待者を読んでいるんじゃない」
平田が顔を上げる。
「何を読んでるの?」
「学校が、どう選んだかを読んでいる」
十二のグループ。
各グループに一人の優待者。
学校側が完全な無作為で選んでいるなら、比較に意味はない。
だが、試験説明では選定に規則があると示されている。
一つのグループだけを見る必要はない。
複数の優待者情報を並べれば、学校が使った共通条件を探せる。
人間の嘘を見抜くのではない。
学校が作った配列を解く。
龍園は、最初からそれを目的に情報を集めていたのか。
あるいは、一人目を当てた後に切り替えたのか。
そこまでは分からない。
だが、現在のCクラスが探しているものは明らかだった。
「規則が分かれば、反応を見る必要がないってこと?」
「規則だけで全員を特定できるとは限らない」
「でも、候補をかなり減らせる」
「ああ」
人間の反応は曖昧だ。
固定された規則は変わらない。
同じ情報量を持つなら、規則を解いた側が先に届く。
ルルーシュはDクラスへ届いた優待者関連の情報を開いた。
優待者本人の申告はない。
だが、候補として挙がった生徒の名前。
各グループの構成。
所属クラス。
会合での位置。
学校からの案内順。
断片はある。
並べ直す。
一つ目の仮説。
成立しない。
二つ目。
特定のグループでは一致するが、別の報告と矛盾する。
三つ目。
不足している情報が多すぎる。
どの仮説も、全十二グループへ適用できるか確かめられない。
平田が画面を見ながら言う。
「優待者の人たちに、直接確認すれば早いのかな」
「そうだな」
「でも、それは……」
平田の言葉が止まる。
Dクラスの中にも優待者はいる。
誰がそうなのか、平田は知らない。
堀北が不用意な共有を止めている。
優待者本人が申告しない限り、端末を見せるよう求めてもいない。
「全員に端末を提出させる」
ルルーシュが言った。
「優待者へ申告を命じる。報告しなかった者を、クラス利益へ反する者として扱う」
平田が僅かに表情を硬くした。
「それはしたくない」
「ああ」
「ランペルージ君は?」
「必要なら、情報は揃う」
「答えになってないよ」
平田は静かに言った。
ルルーシュは端末へ目を戻す。
命令すれば、Dクラス内の情報は増える。
誰が優待者か。
通知内容。
学校が割り当てた規則。
少なくとも、現在よりは正解へ近づける。
だが、Dクラスだけで全十二グループの確定情報を得られるとは限らない。
他クラスの優待者まで強制できるわけではない。
クラス内の信頼を壊し、不完全な情報しか得られない可能性もある。
「堀北さんにも確認する」
平田が言った。
端末から短い連絡を送る。
返事はすぐに届かなかった。
その間にも、新しい報告が入る。
Cクラス生徒が、会合終了後に特定の相手へ連絡。
別グループのCクラス生徒が、ほぼ同時に候補者を変更。
さらに別のグループでは、優待者候補への質問が完全に止まった。
反応を見る段階は終わった。
計算に必要な情報だけを確かめている。
ルルーシュは、自分が立てた仮説を一つずつ消した。
情報が足りない。
違う。
正確には、情報を持っている者が明かすことを選んでいない。
Dクラスの仕組みは、それを許している。
最終判断を各グループへ返す。
優待者情報を不用意に共有しない。
確定と推測を分ける。
それは、個人の意思を残すために選んだ方法だ。
そして今、その方法が速度の差になっている。
平田の端末が振動した。
「堀北さんから」
「何と言っている?」
「強制提出はしない。優待者の申告も命令しない。各グループで必要な情報を集めることは止めないけど、端末の確認は本人の同意を取る、って」
予想どおりだった。
堀北は勝利を望んでいる。
だが、根拠のない強制でDクラス全体を壊すつもりはない。
平田も同じだ。
二人の判断は遅いのではない。
守るものがある。
「ランペルージ君はどうする?」
平田が聞いた。
ルルーシュは答えなかった。
命令すればいい。
情報を出さない者がいれば、クラスの損失を示して従わせる。
それでも拒むなら、その人物を疑いの中心へ置けばいい。
方法はいくらでもある。
かつてなら、それを必要な犠牲と呼んだ。
だが、この学校で同じことをするつもりはない。
少なくとも、答えへ届く保証さえない段階では。
「命令はしない」
ルルーシュは言った。
平田の肩から、僅かに力が抜ける。
その反応を見ても、ルルーシュは何も言わなかった。
◇
その日の会合で、ルルーシュは優待者候補を二人まで絞った。
根拠は、通知直後の反応だけではない。
発言の変化。
他クラスから質問された時の間。
途中解答の話題が出た時、端末へ触れなかったこと。
優待者なら、自分の名前が送られることを恐れる。
だが、恐れを隠そうとすれば、逆に動きが減ることもある。
二人のうち、どちらか。
確率だけなら、一人を上に置ける。
しかし、確定には届かない。
ルルーシュは解答を送らなかった。
会合が終わる。
他の生徒たちが部屋を出た後、平田が残った。
「まだ決めないんだね」
「外す可能性がある」
「Cクラスは、もう途中解答するかもしれない」
「だからといって、こちらが誤答していい理由にはならない」
ルルーシュは候補者の記録を閉じた。
人間を読むだけなら、時間が必要だ。
比較する材料が増えれば、精度も上がる。
だが、龍園は同じ時間を待たない。
固定規則があるなら、一度解けば終わる。
次からは迷う必要がない。
平田の端末に通知が入った。
続けて、ルルーシュの端末も振動する。
Dクラスの報告用グループ。
別グループからの短い連絡だった。
Cクラス生徒が途中解答。
正解。
試験終了。
平田が画面を見たまま動かない。
「二つ目……」
「ああ」
優待者がどのクラスだったのか。
解答者が誰だったのか。
詳しい報告はまだ届いていない。
それでも、必要なことは分かった。
一度目は、人間の反応を集めた結果かもしれなかった。
二度目まで短時間で成功した。
偶然と見る理由はない。
龍園は、学校が定めた選定規則へ到達した。
ルルーシュは、自分が並べた候補を見た。
二人。
どちらかまでは読めた。
だが、龍園は一人を選んだ。
情報量の差。
収集方法の差。
守るものの差。
どれを理由にしても、結果は変わらない。
「龍園は規則を解いた」
平田がルルーシュを見る。
「断定できるの?」
「二つ目の成功までが早すぎる。反応だけを追っているなら、この速度では届かない」
「俺たちも規則を探す?」
「こちらには、同じ答えへ届く情報がない」
言い訳ではない。
Dクラスには、全十二グループの確定した優待者情報がない。
強制的に集めることも選ばなかった。
その結果、龍園より遅れた。
ただそれだけだった。
「今から集めれば――」
「間に合わない」
「でも、このまま龍園君だけが答えを持っていたら」
「だから、答えを追う必要はない」
平田が言葉を止める。
ルルーシュは端末を操作し、優待者候補の一覧を閉じた。
学校の選定規則。
誰が優待者か。
それを解く競争では、すでに龍園が先へ出た。
同じ情報を集め直し、同じ答えへ遅れて届いても意味は薄い。
龍園が正解を持っているなら、見るべきものは正解そのものではない。
どのグループを狙うか。
いつ途中解答するか。
どの生徒へ実行させるか。
何を得るために、どの順番で使うか。
正解を持っていても、すべてのグループへ同時には手を伸ばせない。
解答できるのは、そのグループにいるCクラスの生徒だけだ。
連絡には時間が必要になる。
誰を優先するかには、龍園の目的が現れる。
「規則を解くんじゃなくて、龍園君を見るの?」
「人間の反応は曖昧だ」
ルルーシュは、これまで集めた報告を開く。
Cクラスの生徒が席を外した時刻。
端末を確認した順番。
発言が変わった時刻。
途中解答が成立した時刻。
「だが、選択には順番がある」
誰を先に攻撃したか。
どの利益を選んだか。
どの危険を後回しにしたか。
そこには、学校の規則ではなく、龍園自身が現れる。
ルルーシュは報告の並びをすべて崩した。
グループ別ではない。
発言内容別でもない。
時刻だけで並べ直す。
一つ目の連絡。
次のグループへの指示。
Cクラス生徒の退席。
候補者への追及停止。
途中解答。
二つ目の連絡。
別グループでの発言変更。
そして二度目の成功。
正解へ至る規則は見えない。
だが、正解を使う経路なら痕跡が残る。
ルルーシュは新しい記録欄を作った。
平田が画面を覗き込む。
「何を分けてるの?」
「龍園の答えと、龍園の選択だ」
学校の答えは、龍園が先に得た。
ならば、次に読むべきものは一つしかない。
「次は、使う側を読む」