反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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正解を持つ敵

 龍園が持っているのは、優待者の名前だけではない。

 

 学校が人を選んだ規則。

 

 同じ規則が十二のグループへ適用されているなら、一人の正解は次の正解へつながる。

 

 残された問題は、その答えをどう使うかだった。

 

 ルルーシュは、Dクラスへ届いた報告をグループ別の表示から外した。

 

 時刻だけを基準に並べる。

 

 Cクラスの生徒が席を離れた時刻。

 

 戻った時刻。

 

 端末を確認した時刻。

 

 発言が変わった時刻。

 

 途中解答が成立した時刻。

 

 最初の成功と二度目の成功では、動き方が違っていた。

 

 一度目は、複数のグループで質問が集中した。

 

 候補者の表情や発言を確かめ、最後に一人へ絞っている。

 

 二度目は違う。

 

 Cクラスの生徒は候補者への質問を早い段階で止めた。

 

 その後に確認したのは、グループの構成と生徒名だった。

 

 規則を試していた。

 

 そして正解した。

 

 龍園はもう、人間の反応を必要としていない。

 

 少なくとも、優待者を選ぶためには。

 

 ルルーシュは二つの成功の間に行われた連絡を抜き出した。

 

 一度目の解答後、最初に動いたグループ。

 

 次に連絡を受けたグループ。

 

 その後も会合を続けていたグループ。

 

 優待者候補の所属クラス。

 

 途中解答が成功した場合に動くクラスポイント。

 

 すべてのCクラス生徒へ、同時に指示を出しているわけではない。

 

 順番がある。

 

 ならば、龍園は正解を知った後も、答えを使う場所を選んでいる。

 

「優先順位がある」

 

 向かいに座る平田が顔を上げた。

 

「何の?」

 

「龍園が次に答えを使う順番だ」

 

 ルルーシュは整理した画面を平田へ向けた。

 

 優待者がCクラスなら、同じCクラスの生徒による途中解答は成立しない。

 

 それ以外のグループでCクラスの生徒が正解すれば、Cクラスは五十クラスポイントを得る。

 

 優待者の所属クラスは五十ポイントを失う。

 

 同時に、そのグループが全員正解へ届く可能性も消える。

 

 違うのは、途中解答によって起きることではない。

 

 どのクラスからポイントを奪うか。

 

 対象のグループが試験を終えるまで、どれだけ時間が残っているか。

 

 そこにいるCクラスの生徒が、指示を実行できる状態にあるか。

 

 そして、攻撃によって龍園の持つ情報がどこまで露見するか。

 

「攻撃できるグループ全部に、一度に指示することもできるんじゃないかな」

 

「できる」

 

 ルルーシュは即答した。

 

「だから、していない」

 

「どういうこと?」

 

「複数のグループで同時に正解すれば、偶然では説明できなくなる」

 

 龍園が人間の反応ではなく、学校の選定規則を解いたと疑われる。

 

 規則の存在を悟られれば、Cクラス側の優待者まで逆算される危険が増す。

 

 正解を持っていても、使い方を誤れば、その価値は短時間で失われる。

 

 龍園は答えを隠したまま、一つずつ利益へ変えている。

 

「ポイントだけで順番を決めてるわけじゃないんだね」

 

「ああ。成功させやすく、中央からの指示だと悟られにくい場所から動かしている」

 

 ルルーシュは一つの報告へ印をつけた。

 

 優待者候補は三人。

 

 そのうち二人がDクラス。

 

 候補者への追及は続いているが、結論には届いていない。

 

 一方で、Cクラスの生徒はすでに質問を減らし、会合の外で端末を確認する回数を増やしていた。

 

 候補を探している動きではない。

 

 答えを使う時刻を待っている動きに近い。

 

「ここが次だ」

 

「Dクラスの優待者がいるかもしれないグループ?」

 

「ああ」

 

 優待者がDクラスなら、Cクラスは五十ポイントを得て、Dクラスは五十ポイントを失う。

 

 二クラスの相対差は百ポイント動く。

 

 だが、それだけが理由ではない。

 

 連絡を受ける経路があり、実行する生徒の準備も進んでいる。

 

 何より、まだ会合内で候補を絞ったように見せる余地がある。

 

 龍園にとって、答えを持っていることを隠したまま成功させやすい。

 

「いつ動くと思う?」

 

「次の会合中だ」

 

「始まってすぐ?」

 

「いや」

 

 指示を受けた直後に解答すれば、中央から正解が送られてきたと示すことになる。

 

 候補者へいくつか質問する。

 

 反応を確かめたように振る舞う。

 

 自分で答えへ届いた形を作ってから送る。

 

 最初の二件でも、Cクラスの生徒は連絡を受けてから僅かに時間を置いていた。

 

「会合が始まってから、中盤まで」

 

 平田は印のついた報告を見た。

 

「この予想を送る?」

 

「ああ」

 

「優待者候補の名前も?」

 

「送らない」

 

 ルルーシュが持っているのは、Dクラスの優待者が含まれる可能性と、Cクラスが動く時刻の推測だけだ。

 

 龍園のように、規則から一人へ届いているわけではない。

 

 不確かな候補名を送れば、警戒ではなく新しい疑いを生む。

 

「伝えるのは、狙われる可能性と時刻だけだ」

 

「どうするかは?」

 

「現場で決めればいい」

 

 平田は頷いた。

 

「堀北さんに送るよ」

 

 ルルーシュは止めなかった。

 

 堀北が共有範囲を決める。

 

 平田が情報を届ける。

 

 そのグループにいるDクラス生徒が、目の前の状況から選ぶ。

 

 ルルーシュが渡せるのは、龍園が次に動く可能性だけだった。

 

 しばらくして、堀北から返信が届いた。

 

「対象のグループにだけ共有するって」

 

「それでいい」

 

「他のグループには?」

 

「今は必要ない」

 

 確度の足りない警告を複数のグループへ広げれば、会合を混乱させる。

 

 情報がCクラスへ漏れれば、龍園は実行順を変える。

 

 今、警告できるのは、報告の中で最も危険が具体化している一グループだけだった。

 

 平田が対象グループへ連絡する。

 

Cクラスが次の会合中に途中解答を行う可能性がある。

 

優待者候補の特定情報はない。

 

会合を続けるか、早く決着させるかは、現場の状況で判断してほしい。

 

 命令ではない。

 

 保証でもない。

 

 間違っている可能性を含んだ予測だった。

 

「これで間に合うかな」

 

 平田が端末を伏せる。

 

「分からない」

 

「そう言うんだね」

 

「正解を持っているのは龍園だ」

 

 ルルーシュは報告時刻へ視線を戻した。

 

「こちらが持っているのは、龍園がどう使うかという推測だけだ」

 

    ◇

 

 対象のグループでは、会合が始まっても優待者候補は三人のままだった。

 

 Dクラスの生徒は、平田から届いた連絡を一人で確認した。

 

 内容をそのまま全員へ見せることはしなかった。

 

 Cクラスが途中解答を狙っている。

 

 それを告げれば、優待者を早く見つけようとする圧力が強くなる。

 

 候補者へ端末を見せろと迫る者も出るかもしれない。

 

 だが、黙ったままなら間に合わない可能性がある。

 

「一つ、話しておきたい」

 

 Dクラスの生徒が口を開いた。

 

 会話が止まる。

 

「このグループは、次に途中解答を狙われるかもしれない」

 

 Aクラスの生徒が眉を寄せた。

 

「根拠は?」

 

「他のグループで起きたCクラスの動きを比べた結果だ」

 

「誰が言っている?」

 

「Dクラスで集めた情報だよ」

 

 名前は出さない。

 

 ルルーシュの予測であることも、堀北が共有を決めたことも。

 

 必要なのは権威ではなく、目の前の判断材料だった。

 

「つまり、お前たちは優待者を知っているのか?」

 

「知らない」

 

「なら、何をしろって言うんだ」

 

「それを決めたい」

 

 Dクラスの生徒は周囲を見る。

 

 このグループでは、これまで何度も非優待者の申告が行われていた。

 

 誰も完全には信用されていない。

 

 それでも、最初の会合より話せることは増えている。

 

 誰が途中解答を考えているか。

 

 誰が個人ポイントを優先するか。

 

 誰が全員正解を望んでいるか。

 

 互いの考え方は、少しずつ見えていた。

 

「このまま候補を探し続ければ、先に答えられるかもしれない」

 

「だから、優待者に名乗れって?」

 

「命令するつもりはない」

 

 Dクラスの生徒は答えた。

 

「ただ、今まで話したことを信じてくれるなら、選べることはある」

 

「何だ?」

 

「優待者が、自分から明かすことだ」

 

 室内の空気が固くなる。

 

 候補として疑われていた三人が、それぞれ別の反応を見せた。

 

 一人はすぐに否定した。

 

 一人は視線を伏せた。

 

 もう一人は何も言わない。

 

 Cクラスの生徒だけが、端末を机の下へ動かした。

 

 Dクラスの生徒はそれを見た。

 

 連絡を受けたのか。

 

 ただ確認しただけか。

 

 判別はできない。

 

「明かしたあと、誰かが途中解答したら終わりだ」

 

 候補の一人が言った。

 

「ああ」

 

「だったら言えるわけないだろ」

 

「そうだと思う」

 

 否定しない。

 

 優待者が名乗ることは、利益だけではなく危険を渡すことでもある。

 

 全員正解を望むと言いながら、名前を知った瞬間に途中解答する者がいるかもしれない。

 

 これまでの会話だけで、その可能性を消すことはできない。

 

「だから、今すぐ決める必要はない」

 

 Dクラスの生徒は続けた。

 

「でも、決められる時間が残っているとも限らない」

 

 Cクラスの生徒の端末が振動した。

 

 本人は画面を開かない。

 

 机の下で握ったまま、周囲を見ている。

 

 警告された時刻より早い。

 

 Dクラスの生徒は、自分の端末へ目を落とした。

 

 届いた予測では、会合中盤まで。

 

 まだ、そこまでは進んでいない。

 

 待てる。

 

 予測だけを信じるなら。

 

「私よ」

 

 声がした。

 

 視線を伏せていた生徒だった。

 

「私が優待者」

 

 誰もすぐには動かなかった。

 

「端末を見せて」

 

 Aクラスの生徒が言う。

 

「嫌」

 

 優待者は即座に拒んだ。

 

「だったら信用できない」

 

「見せたら、私の意思じゃなくなる」

 

 端末を奪われる。

 

 画面を撮られる。

 

 別の相手へ送られる。

 

 その危険を避けるための拒否だった。

 

 まだ確認できることはあった。

 

 端末を見せてもらう。

 

 残る候補者へ質問する。

 

 Cクラスの生徒が何を待っているのか確かめる。

 

 時間を使えば、申告が真実である可能性を上げられるかもしれない。

 

 だが、確認に使う時間は、Cクラスにも与えられる。

 

 すべてを確かめてから選べる状況ではなかった。

 

「信じる」

 

 Dクラスの生徒が言った。

 

「お前、本気か?」

 

「ここまで話して、嘘をつくなら仕方ない」

 

「仕方ないで済むポイントじゃないぞ」

 

「分かってる」

 

 優待者が顔を上げる。

 

「私を信じるの?」

 

「全員を信じるわけじゃない」

 

 Dクラスの生徒はCクラスの生徒を見る。

 

「でも、全員が裏切ると決める必要もない」

 

 Aクラスの生徒は納得していない。

 

 Bクラスの生徒は優待者を見ている。

 

 Cクラスの生徒は端末を握ったままだ。

 

 全員の合意を待てば遅れる。

 

 Dクラスの生徒は、平田から届いた連絡を全員へ見せた。

 

「途中解答が来る可能性がある。待つなら、その危険も含めて決めてほしい」

 

 誰も命令されていない。

 

 答えを保証されてもいない。

 

 それでも、情報だけは同じ場所へ置かれた。

 

 最初に端末から手を離したのは、Bクラスの生徒だった。

 

「私は、この人を優待者として答える」

 

 Aクラスの生徒が息を吐く。

 

「間違っていたら?」

 

「私も損をする」

 

「それだけか」

 

「それ以上の保証はできないよ」

 

 Aクラスの生徒は優待者を見る。

 

「本当に、お前なんだな」

 

「そう言ってる」

 

「途中で変えるなよ」

 

「変えない」

 

 解答権を持つ生徒たちが、それぞれ端末を開いた。

 

 優待者本人と、彼女と同じクラスの生徒は答える必要がない。

 

 だが、通常解答を送信できる最終解答の時間には、まだ早かった。

 

 最後に残ったのは、Cクラスの生徒だった。

 

「俺が途中解答すると思ってるのか?」

 

 誰も否定しなかった。

 

 Cクラスの生徒は笑う。

 

「信用されてねえな」

 

 端末を開く。

 

 途中解答の画面には、まだ誰の名前も入力されていない。

 

 龍園から優待者の名前も届いていなかった。

 

 今、途中解答を行うなら、目の前で名乗った生徒を信じるしかない。

 

 正解なら、Cクラスはクラスポイントを得る。

 

 自分にも個人ポイントが入る。

 

 間違っていれば、逆にCクラスが失う。

 

 最終解答まで待てば、このグループ全体が利益を得る可能性が残る。

 

 Cクラスの生徒は周囲を見た。

 

 疑っている者。

 

 信じようとしている者。

 

 そして、自分が何を選ぶかを待っている者。

 

「決めよう」

 

 Dクラスの生徒が言った。

 

「ここでは誰も途中解答しない。最終解答では、全員が佐藤を選ぶ」

 

「全員が約束を守る保証は?」

 

 Cクラスの生徒が聞く。

 

「ない」

 

 Dクラスの生徒は即答した。

 

「だから、お前にも信じろとは言わない。ただ、俺は途中で変えない」

 

 Bクラスの生徒も続く。

 

「私も変えない」

 

 Aクラスの生徒はしばらく黙っていた。

 

 やがて、端末を机へ置く。

 

「……俺もだ」

 

 Cクラスの生徒だけが、途中解答の画面を開いたまま残った。

 

 結果一が成立すれば、グループの生徒は五十万プライベートポイントを得る。

 

 優待者には、その倍となる百万ポイントが入る。

 

 違うのは、Cクラスへ五十クラスポイントを持ち帰れるかどうか。

 

 龍園から命令を受けているなら、迷う理由はない。

 

 だが、まだ答えも指示も届いていない。

 

「俺は、お前らを信じたわけじゃねえ」

 

 Cクラスの生徒が言った。

 

「誰か一人でも話を変えたら、その時は俺も好きにする」

 

「分かった」

 

「それまでは待ってやる」

 

 途中解答の画面が閉じられた。

 

 虎グループの試験は、まだ終わっていない。

 

 ただし、最終解答まで協力するという意思だけは、この場で揃った。

 

 直後、Cクラスの生徒の端末が振動した。

 

 新しいメッセージが届いている。

 

 画面に記されていたのは、一人の名前だけだった。

 

 佐藤麻耶。

 

 目の前で優待者だと名乗った生徒と、同じ名前だった。

 

 龍園は正解へ到達している。

 

 Cクラスの生徒は、もう一度途中解答の画面を開くことができた。

 

 佐藤の名前を送れば、Cクラスは五十クラスポイントを得る。

 

 だが、届いたのは名前だけだった。

 

 今すぐ答えろという命令はない。

 

 結果一でも結果三でも、自分へ直接入るポイントは変わらない。

 

 Cクラスへ五十クラスポイントを持ち帰る利益はある。だが、龍園から届いたのは優待者名の共有だけで、途中解答を行えという指示ではなかった。

 

 明確な命令もないまま、先ほど自分で口にした約束を翻してまで得られる個人報酬はなかった。

 

 Cクラスの生徒はメッセージを閉じた。

 

「誰からだった?」

 

 Aクラスの生徒が聞く。

 

「友達だよ」

 

「内容は?」

 

「見せる義務はねえ」

 

 端末を伏せる。

 

「俺は待つと言った。それだけだ」

 

 龍園の答えは正しかった。

 

 だが、正解を知ることと、それを途中解答へ変えることは同じではなかった。

 

 

    ◇

 

  報告を受け取った時、ルルーシュは予測時刻を確認した。

 

 早い。

 

 龍園が動くと読んだ時刻より前に、虎グループの方針は固まっている。

 

「途中解答はされなかったって」

 

 平田の声に、僅かな安堵が混じった。

 

「警告を共有したあと、優待者本人が名乗ったらしい」

 

「端末の確認は?」

 

「していないって」

 

「それで信じたのか」

 

「うん。全員が、最終解答では佐藤さんを選ぶことにしたみたいだ」

 

 ルルーシュは報告を読み直す。

 

 優待者は自分の意思で名乗った。

 

 Dクラスの生徒は、本人の申告を信じると決めた。

 

 他クラスの生徒も、それぞれ同じ名前を選ぶ意思を示した。

 

「Cクラスの生徒は?」

 

「最初は途中解答の画面を開いていた。でも、最後には閉じたらしい」

 

「龍園からの連絡は?」

 

「合意した直後に届いたって」

 

「内容は?」

 

「画面までは見えていない。ただ、確認したあとも途中解答はしなかった」

 

 ルルーシュは、虎グループの合意が成立した時刻と、Cクラス生徒へ連絡が届いた時刻を並べた。

 

 連絡が届いたのは、全員が最終解答まで待つと決めた後だ。

 

 龍園の指示だった可能性はある。

 

 だが、確定ではない。

 

 少なくとも、Cクラスの生徒へ何らかの情報が届いた後も、途中解答は行われていない。

 

「龍園の答えが間違っていたのかな」

 

 平田が尋ねる。

 

「いや」

 

 ルルーシュは否定した。

 

 連絡の時刻に無駄がない。

 

 虎グループのCクラス生徒が、それまで見せていた動きとも一致している。

 

 龍園が送ったのは、優待者の名前だった可能性が高い。

 

 そして、現場のCクラス生徒は、その名前が正しいと理解したうえで途中解答を行わなかった。

 

 ルルーシュが渡したのは、龍園が狙う可能性と時刻の予測だけだ。

 

 優待者を明かせとは言っていない。

 

 申告を信じろとも言っていない。

 

 最終解答まで協力しろとも言っていない。

 

 自分なら、もう少し確認した。

 

 Cクラス生徒へ届いた連絡の内容。

 

 残る候補者の反応。

 

 偽の申告である可能性。

 

 龍園が情報を得た経路。

 

 確認すべきものは残っていた。

 

 それでも、現場の生徒たちは決めた。

 

 自分の選択ではない。

 

 正しかったかどうかも、最終結果が出るまでは確定しない。

 

 それでも、龍園による途中解答を防げる形にはなった。

 

「予測が当たったね」

 

 平田が言う。

 

「違う」

 

「違う?」

 

「俺が予測したのは、龍園が答えを送る時刻だけだ」

 

 ルルーシュは二つの時刻を並べた。

 

 警告がなければ、優待者が名乗る決断は遅れていたかもしれない。

 

 だが、名乗ることを決めたのは佐藤自身だ。

 

 その申告を信じると決めたのも、現場にいた生徒たちだった。

 

 そしてCクラスの生徒は、龍園から答えを受け取った後も、途中解答を選ばなかった。

 

「でも、ランペルージ君の情報がなかったら、間に合わなかったかもしれない」

 

「情報だけでは結果にならない」

 

 平田は少し笑った。

 

「そうだね」

 

 ルルーシュは虎グループを記録から外さなかった。

 

 試験はまだ終了していない。

 

 誰か一人が最終解答で別の名前を選べば、結果一にはならない。

 

 それでも、途中解答によって試験を終わらされる危険は、一度遠ざかった。

 

 龍園の正解を消したわけではない。

 

 優待者選定の規則を解いた可能性も変わらない。

 

 龍園は正しい名前を持っていた。

 

 それでも、現場の人間が何を選ぶかまでは完全に支配できなかった。

 

 虎グループが得たのは、まだ結果ではない。

 

 最終解答まで、同じ選択を維持するための合意だった。

 

 ルルーシュの指示に従って生まれた合意ではない。

 

 自分たちで決めたものだった。

 

    ◇

 

 スザクのグループでは、Cクラスが二つ目の途中解答を成功させたという話が広がっていた。

 

 次に誰が狙われるのか。

 

 龍園はすべての優待者を知っているのか。

 

 待っている間に、試験を終わらされるのではないか。

 

 前の会合で端末を閉じた生徒は、何度も画面を確認していた。

 

「また答えるつもり?」

 

 スザクが尋ねる。

 

「分からない」

 

 相手は端末から目を離さない。

 

「でも、今度は待ってたら、本当に何も残らないかもしれない」

 

「個人ポイントが必要なんだよね」

 

「それだけじゃない」

 

 声が少し強くなる。

 

「俺だけが待って、他の奴が先に答えたら馬鹿みたいだろ」

 

「そうだね」

 

 スザクは否定しなかった。

 

 相手が顔を上げる。

 

「止めないのか?」

 

「止めるつもりはない」

 

「前は止めただろ」

 

「止めてないよ」

 

 スザクは静かに答えた。

 

「君が考える時間を作りたかっただけだ」

 

「今は?」

 

「今も同じだよ」

 

 相手は端末を握り直す。

 

「だったら、何を考えろっていうんだ」

 

「解答するなら」

 

 スザクは周囲を見た。

 

 全員がこちらを見ている。

 

「君が得るものだけじゃなく、ここにいる全員が失うものも見てほしい」

 

「俺に全員分の責任を負えって?」

 

「違う」

 

「同じだろ」

 

「君一人で、全部を背負う必要はない」

 

 スザクは言った。

 

「でも、君の選択で失う人がいることを、見ないまま決めてほしくない」

 

 利益を得ることが悪いわけではない。

 

 個人ポイントを必要とする事情もある。

 

 クラスのために途中解答することも、規則で認められた選択だ。

 

 それでも、その結果として誰が何を失うのかは消えない。

 

「僕は、解答するなとは言わない」

 

「じゃあ、答えてもいいんだな」

 

「それを僕が決めることじゃない」

 

 相手の表情が歪む。

 

「ずるいな」

 

「そうかもしれない」

 

「止めもしない。認めもしない。自分だけ責任を負わないつもりか?」

 

 スザクは一度、目を伏せた。

 

「僕が決めたら、君の選択じゃなくなる」

 

「だから、俺に決めさせるのか」

 

「うん」

 

「それなら、お前は何をするんだ」

 

「君が決めるまで、話をやめない」

 

「そんなの、何の役にも立たない」

 

「それでも、黙って見ているよりはいい」

 

 正しい答えはない。

 

 全員正解へ届く保証もない。

 

 待った結果、Cクラスに先を越されるかもしれない。

 

 それでもスザクは、相手の端末を取り上げなかった。

 

 解答を止めるための嘘もつかなかった。

 

「君が途中解答すれば、個人ポイントを得られるかもしれない」

 

 スザクは言った。

 

「クラスにも利益が出るかもしれない」

 

「ああ」

 

「でも、間違えれば逆の結果になる」

 

「分かってる」

 

「正解しても、このグループで全員が得られる可能性はなくなる」

 

「それも分かってる」

 

「なら、あとは君が決めていい」

 

 相手は画面を開いた。

 

 優待者候補の名前が入力されている。

 

 送信ボタンへ指を置く。

 

 誰も声を出さなかった。

 

 時間だけが過ぎる。

 

 やがて、相手は指を離した。

 

 入力した名前を消す。

 

 端末の画面を閉じた。

 

「正しかったとは思ってない」

 

「うん」

 

「次にCクラスが成功したら、今度こそ答えるかもしれない」

 

「その時に、また考えればいい」

 

「また同じことを言うのか?」

 

「たぶんね」

 

 相手は呆れたように息を吐いた。

 

 全員正解には届いていない。

 

 優待者は名乗っていない。

 

 互いを信用したわけでもない。

 

 ただ、一人だけが利益を持って去る結果も、まだ選ばれていなかった。

 

 会合が終わる。

 

 生徒たちは一人ずつ部屋を出ていく。

 

 先ほどまで端末を握っていた生徒は、最後まで残った。

 

「枢木」

 

「何?」

 

「お前、誰が優待者か分かってるのか?」

 

「分からないよ」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

「それなのに、最後まで話すつもりなのか」

 

 スザクは扉の近くで立ち止まった。

 

「分からないから、話すんだと思う」

 

 相手は何も返さなかった。

 

 それでも、次の会合へ来ないとは言わなかった。

 

    ◇

 

 廊下へ出たあと、スザクは端末を開いた。

 

 ルルーシュへの入力欄に、短く打ち込む。

 

こちらは、最後まで話せそうだ。

 

 返事はすぐに届いた。

 

そのままでいい。

 

 スザクは画面を見た。

 

 誰が途中解答を考えていたのか。

 

 なぜ端末を閉じたのか。

 

 どんな言葉を交わしたのか。

 

 ルルーシュは何も聞かなかった。

 

 話し合いが残ったことだけを知れば、それで足りるような返事だった。

 

 そのままでいい。

 

 以前なら、説明を必要としない信頼に思えた。

 

 今は、自分たちの状況ではなく、得られた結果だけを確かめられたように感じた。

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