反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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勝者たち

 最終解答の受付が終了してから、数分後。

 

 全生徒の端末へ、十二グループの結果が一斉に送信された。

 

 綾小路は客室へ戻る途中で画面を開いた。

 

 鼠――結果三。

 牛――結果四。

 虎――結果一。

 兎――結果四。

 龍――結果一。

 蛇――結果二。

 馬――結果三。

 羊――結果二。

 猿――結果三。

 鳥――結果三。

 犬――結果一。

 猪――結果三。

 

 続いて、クラスごとの増減が表示される。

 

 Aクラス、マイナス二百。

 

 Bクラス、増減なし。

 

 Cクラス、プラス百五十。

 

 Dクラス、プラス五十。

 

 最大の利益を得たのはCクラスだった。

 

 Aクラスは大きく後退し、Bクラスとの差を縮められている。

 

 Dクラスもポイントを増やしたが、それは一つの作戦によって得られた結果ではない。

 

 馬グループでは、Dクラスの優待者を見抜かれて五十ポイントを失った。

 

 兎グループでは、Aクラス生徒の誤答によって五十ポイントを得た。

 

 猿グループでは、高円寺がBクラスの優待者を正しく途中解答している。

 

 差し引き、プラス五十。

 

 虎グループでは、佐藤が名乗った会合で成立した合意が、最後まで維持された。

 

 優待者本人と同クラスの生徒を除く全員が、最終解答時間に佐藤麻耶の名前を送っている。

 

 龍園の正しい答えは、途中でCクラス生徒へ届いていた。

 

 それでも途中解答は行われなかった。

 

 結果一は、龍園より先に試験を終わらせたことで成立したのではない。

 

 正解を知ったあとも、現場の生徒が自分たちの選択を変えなかったことで成立していた。

 

「Cクラス、百五十だぞ」

 

 須藤が端末を睨む。

 

「無人島じゃ、俺たちが一番だったのによ」

 

「試験の形式が違うわ」

 

 堀北は結果から顔を上げなかった。

 

「今回は、一人の判断でクラス全体の得失が動く。単純に前回と比較できるものではない」

 

「でも、俺たちもプラスだろ?」

 

 池の言葉に、平田が頷く。

 

「うん。ただ、クラスのポイントとは別に、虎と犬では全員正解も成立している」

 

「一人五十万だっけ?」

 

「優待者は百万。それ以外の生徒は五十万よ」

 

 池の表情が明るくなる。

 

 堀北は喜ぶ池を止めなかった。

 

 だが、自分も同じように喜ぶことはない。

 

 結果表には、得たものと失ったものが同じ画面に並んでいる。

 

「猿グループの正解は、高円寺君だよね」

 

 平田が尋ねた。

 

 全員の視線が、高円寺へ集まる。

 

 高円寺は窓へ映った自分の髪を整えていた。

 

「結果がそう示しているのなら、そうなのだろうね」

 

「優待者が分かっていたなら、どうして僕たちへ教えなかったの?」

 

「僕が見つけた答えを、君たちへ配る理由があるのかい?」

 

 堀北が腕を組む。

 

「あなたも、学校が優待者を選んだ規則を見抜いたの?」

 

「規則?」

 

 高円寺は初めて堀北を見る。

 

「そんなものに興味はないよ」

 

「では、どうやって正解したの?」

 

「彼女を見ただけさ」

 

 高円寺は、面倒そうに息を吐いた。

 

「候補者の名前が出れば、普通の人間はその候補を見る。自分が疑われれば、疑った人間か、逃げ道を探す」

 

「その人は違った?」

 

「彼女が見ていたのは、自分を観察している人間の顔だ」

 

 誰が疑っているのか。

 

 誰が自分の反応を見ていたのか。

 

 優待者を探す側ではなく、秘密を守る側の視線だった。

 

「それだけで答えたの?」

 

「僕には、それで十分だった」

 

 平田が続けて聞く。

 

「他のグループの優待者も分かる?」

 

「僕は猿グループにしか所属していないよ」

 

 高円寺は再び窓へ視線を戻した。

 

「見る必要のない人間まで観察するほど、暇ではない」

 

 高円寺は優待者選定の規則を解いていない。

 

 猿グループにいた一人だけを見て、その一人だけを正しく選んだ。

 

 他のグループへ応用できる方法ではない。

 

 Dクラスへ共有可能な攻略法でもない。

 

 それでも、自分に与えられた一問については、試験の構造を理解することさえなく正解した。

 

 綾小路は、その事実だけを記憶した。

 

 必要な時に、説明のできない正解を持ってくる。

 

 高円寺六助は、そういう人間だった。

 

    ◇

 

 Dクラスの集まりを離れたあと、綾小路は軽井沢へ短いメッセージを送った。

 

> 明日からも、今までどおりに振る舞え。

> 必要な時はこちらから連絡する。

 

 しばらくして返信が届く。

 

> 分かった。

 

 試験は終わった。

 

 だが、軽井沢との関係はここから始まる。

 

 表では、これまでどおり女子生徒の中心に立つ。

 

 裏では、表から拾えない情報を綾小路へ渡す。

 

 綾小路は端末を閉じた。

 

 今回の試験では、結果表に現れないものを得た人間もいる。

 

 自分は、その一人だった。

 

    ◇

 

 船内の別区画で、龍園は十二グループの結果へ印をつけていた。

 

 正解したグループ。

 

 誤答が発生したグループ。

 

 途中からDクラス生徒の行動が変わったグループ。

 

 同じ印は使わない。

 

「Cが百五十。Aがマイナス二百」

 

 伊吹が壁へ背を預けたまま言う。

 

「圧勝じゃない」

 

「点だけならな」

 

 龍園はAクラスの欄へ指を置いた。

 

「葛城はこれで沈む」

 

「あの女が出てくる?」

 

「さあな」

 

 龍園は犬グループを飛ばし、Dクラス生徒の行動が変わった場所をなぞった。

 

 虎。

 

 犬。

 

 途中解答への警戒が、急に強まったグループ。

 

 その中心に置いた名前は、ルルーシュ・ランペルージ。

 

「こいつ?」

 

 伊吹が尋ねる。

 

「有力候補だ」

 

「断定しないんだ」

 

「見えすぎる」

 

 龍園の指が兎グループで止まった。

 

 他のグループと比べて、Dクラス生徒の行動記録が薄い。

 

 途中で結果四が成立したことを考慮しても、会合の外で何が起きたのかが見えなかった。

 

 ルルーシュの名前の横に、何も書かれていない空白を残す。

 

「一人で全部やったと決めりゃ、考えるのは楽だけどな」

 

 龍園は端末を閉じた。

 

「楽な答えは、つまらねえ」

 

    ◇

 

 結果発表後も、犬グループの小会議室には数人が残っていた。

 

 画面には、結果一と表示されている。

 

「全員、同じ名前だったんだね」

 

 平田の声から、ようやく緊張が抜けていた。

 

「ああ」

 

 ルルーシュは、最終会合でまとめた記録を閉じていない。

 

 猪グループの途中解答が成立した時点では、犬グループの候補は一人に決まっていなかった。

 

 変化が現れたのは、その後だ。

 

 Cクラス生徒へ連絡が届いた時。

 

 廊下を確認役と思われる生徒が通った時。

 

 猪グループの終了が伝えられた時。

 

 Bクラスの候補者の一人だけが、周囲の視線を確かめる順番を変えていた。

 

 自分が疑われたことへの反応ではない。

 

 周囲が、どの情報を信じたのかを確認する反応だった。

 

 ルルーシュは、最初の会合から変わった点だけを全員へ示した。

 

 答えだとは言わない。

 

 自分を信じろとも言わない。

 

 ただ、何が変化したのかを並べた。

 

「この人が優待者だと言いたいの?」

 

 Aクラスの生徒が尋ねた。

 

「可能性が最も高い」

 

「間違っていたら?」

 

「全員が利益を失う」

 

「責任を取れるのか?」

 

「取れない」

 

 ルルーシュは即答した。

 

 自分が責任を引き受けると言えば、相手は判断まで預ける。

 

 全員が同じ名前を送ったとしても、それは合意ではない。

 

 平田が一人ずつ意見を聞いた。

 

 まだ疑っている理由。

 

 その候補を選ぶ理由。

 

 他の候補を外す理由。

 

 発言の少なかった生徒にも判断を求める。

 

「ランペルージ君を信じるかどうかじゃないよ」

 

 平田は全員へ言った。

 

「今まで自分が見たものと、今の説明が合っているかを考えてほしい」

 

 最終解答の直前、全員が同じ名前へ到達した。

 

 命令されたからではない。

 

 各自が、自分の端末から同じ名前を送った。

 

「ランペルージ君が反応を整理してくれたからだよ」

 

 平田が言う。

 

「整理しただけだ」

 

「それがなかったら、最後まで候補は決まらなかった」

 

「お前が全員へ聞かなければ、同じ名前を知っていても結果一にはならなかった」

 

 平田は少し考える。

 

「どちらか一人では、駄目だったってことかな」

 

「ああ」

 

 ルルーシュは否定しなかった。

 

 犬グループは守った。

 

 全員正解にも届いた。

 

 しかし、猪グループは龍園に奪われている。

 

 犬の結果一と猪の結果三は、別々の行に並んでいた。

 

 片方の勝利で、片方の敗北は消えない。

 

「猪グループのこと、まだ考えてる?」

 

「考えない理由がない」

 

「両方を守れるだけの情報はなかったよ」

 

「分かっている」

 

「だったら――」

 

「負けた理由がなくなるわけじゃない」

 

 龍園は、犬が囮だと見抜かれないことへ賭けたのではない。

 

 囮だと疑われても、放置できない標的を作った。

 

 ルルーシュは合理的に犬を選び、その選択を読まれた。

 

 予定された損失ではない。

 

 情報を得るための代価でもない。

 

 負けたあとに、残った経路を拾っただけだ。

 

「次も同じことをされる?」

 

 平田が尋ねる。

 

「同じ形では通さない」

 

 平田はそれ以上、慰めようとはしなかった。

 

    ◇

 

 Aクラスの生徒たちは、結果発表後も集まったままだった。

 

 マイナス二百。

 

 葛城の周囲に残っている生徒は、試験前より少ない。

 

「終わったことを責めても、ポイントは戻りません」

 

 坂柳は、動揺している生徒たちへ声をかけていた。

 

「ですが、同じ方法を続ければ、次も同じように失うでしょう」

 

「葛城のやり方が間違っていたっていうのか?」

 

「一つの方法だけで、すべてへ対応することは難しいと申し上げているのです」

 

 葛城を直接責めてはいない。

 

 それでも、聞いていた生徒の何人かは、坂柳の周囲へ残った。

 

 敗北を批判するのではなく、次の選択肢を自分が持っていると示している。

 

 ルルーシュは、離れた場所からその変化を見ていた。

 

 無人島試験では動かなかった少女が、Aクラスの損失をきっかけに前へ出始めている。

 

 龍園が得点以外の理由で犬グループを残した可能性はある。

 

 ただし、今の情報だけで、その理由まで断定することはできない。

 

 坂柳が杖をつき、ルルーシュの方へ歩いてくる。

 

「最大の得点者ではないのに、複数の結果にあなたの影が見えますね」

 

「影だけで人を決めるのか」

 

「見えないからこそ、興味を持つこともあります」

 

 坂柳の視線が、ルルーシュの端末へ向く。

 

「犬グループでは結果一。猪グループでは龍園君が正解しています」

 

「結果表を読めば分かる」

 

「結果表からは、どこまでがあなたの働きか分かりません」

 

「なら、何を見た」

 

「Dクラスの生徒が、複数の場所で普段とは違う判断をした。その中心に、あなたがいたのではないかと推測しただけです」

 

 断定はしていない。

 

 だが、ルルーシュが見える場所で動いたことは事実だった。

 

「勝負を申し込みに来たのか?」

 

「いいえ」

 

 坂柳は穏やかに微笑んだ。

 

「今は、お名前と結果を結びつけに来ただけです」

 

「それで十分か?」

 

「最初は」

 

 坂柳はAクラスの生徒たちへ視線を戻す。

 

「私にも、先に済ませることがありますので」

 

 杖の音が遠ざかる。

 

 Aクラスの敗北を眺めるだけではない。

 

 敗北によって空いた場所へ、自分から進んでいる。

 

 龍園とは違う方法で、坂柳も次の盤面を作り始めていた。

 

    ◇

 

 スザクは、犬グループにいた生徒から話を聞いていた。

 

「ルルーシュは、何て言ったの?」

 

「枢木は自分の言葉を裏切らないって」

 

「それだけ?」

 

「最初はな。そのあと、途中解答の危険について説明された」

 

「ルルーシュが、Dクラス全体は途中解答しないと言った?」

 

「言ってない」

 

「僕が、そう保証していると言った?」

 

「そこまでも言ってない」

 

「それでも、Dクラスは先に裏切らないと思ったんだね」

 

「ああ」

 

 スザクは端末へ記録する。

 

 自分が言ったこと。

 

 自分が言っていないこと。

 

 ルルーシュが言ったこと。

 

 相手が、そこから信じたこと。

 

 四つを分ける。

 

 次に話を聞いた生徒は、別のグループに所属していた。

 

「枢木なら約束を破らないって聞いたから、途中解答を待った」

 

「誰から聞いたの?」

 

「Dクラスの生徒。最初に言ったのはランペルージだって」

 

「待った結果、どうしたの?」

 

「途中解答はしなかった。全員正解にはならなかったけどな」

 

 その生徒のグループは結果二だった。

 

 利益は得られていない。

 

 それでも、一人だけが他者を出し抜く結果にもならなかった。

 

 話を聞くたび、内容は少しずつ変わる。

 

 ルルーシュが直接保証したと思っている者。

 

 スザクがDクラス全体を代表していると考えた者。

 

 Dクラスは最後まで話し合う方針だと思った者。

 

 誰も、まったく同じ言葉を聞いてはいない。

 

 それでも、始まりには自分の名前があった。

 

 ルルーシュは、誤解が広がる可能性を知らなかったのか。

 

 途中で気づいたのか。

 

 知ったうえで訂正しなかったのか。

 

 そこだけは、本人に聞かなければ分からない。

 

 スザクは端末を開いた。

 

> 話がある。

 

 送信する。

 

    ◇

 

 スザクから届いた文章は、一言だけだった。

 

> 話がある。

 

 説明も、集合場所も書かれていない。

 

 それでも、どこへ向かうつもりなのかは分かった。

 

 人の少ない、船尾側の外部デッキ。

 

 ルルーシュは返信せず、端末を閉じる。

 

 今回の試験には、ただ一人の勝者はいなかった。

 

 龍園は最大のクラスポイントを得た。

 

 高円寺は、試験の規則を知らないまま一人の優待者を見抜いた。

 

 平田は、人間同士の合意を成立させた。

 

 綾小路は、結果表へ現れない協力者を得た。

 

 坂柳は、Aクラスの敗北を自分が前へ出る機会へ変えた。

 

 スザクは、正解へ届かないグループで、誰か一人が他者を裏切る結末を防いだ。

 

 そしてルルーシュは、犬グループを守りながら、猪グループでは龍園に敗れた。

 

 それぞれが、違うものを持ち帰っている。

 

 だからこそ、この試験には複数の勝者がいた。

 

 その勝利のために、何を使ったのか。

 

 その代価を、誰が支払ったのか。

 

 結果表には、そこまで書かれていない。

 

 ルルーシュは外部デッキへ向かった。

 

 自分が使ったものの中には、自分の情報だけではないものがある。

 

 スザクなら、約束を破らない。

 

 その信用を、本人へ確認せずに利用した。

 

 間違っていたとは思わない。

 

 被害を防ぐために必要だった。

 

 だが、必要だったことと、スザクが受け入れることは同じではない。

 

 廊下の反対側から、スザクが歩いてくる。

 

 普段なら、相手へ問いかける前に事情を考える。

 

 今のスザクは、すでに事情を調べ終えた顔をしていた。

 

 少し離れた場所で、綾小路は二人を見る。

 

 追う必要はない。

 

 これは特別試験の続きではない。

 

 試験によって見える形になった、二人の間の問題だった。

 

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