反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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観察される自由

入学から数日が過ぎた。

 

一年Dクラスの空気は、目に見えて緩み始めていた。

 

授業開始直前に駆け込む者。

 

教師が話している最中に端末を操作する者。

 

机へ伏せ、そのまま眠る者。

 

最初は周囲を気にしていた生徒たちも、教師が注意しないと分かると、次第に遠慮を失っていった。

 

「須藤。また遅刻か」

 

教室へ入ってきた須藤へ、平田が声をかける。

 

「間に合ってんだろ」

 

「もう少し余裕を持った方がいいと思うよ」

 

「教師が何も言ってねえんだから、問題ねえよ」

 

須藤はそう言って、自分の席へ向かった。

 

その近くにいたスザクが、一度だけ口を開く。

 

「でも、遅刻が続くのは良くないんじゃないか?」

 

須藤が振り返る。

 

「お前も説教かよ」

 

「……余計なことを言ったな」

 

スザクはそれ以上続けなかった。

 

教壇へ入ってきた茶柱佐枝は、そのやり取りを見ていたはずだった。

 

だが、何も言わない。

 

授業中に私語があっても、眠っている生徒がいても止めなかった。

 

ルルーシュは教科書を開きながら、教壇上の監視カメラへ視線を向ける。

 

教師は止めない。

 

カメラは見ている。

 

単なる放任とは考えにくかった。

 

休み時間。

 

スザクがルルーシュの席へ近づく。

 

「何を見ていたんだ?」

 

「監視カメラだ」

 

スザクも天井を見る。

 

「防犯用じゃないのか?」

 

「防犯だけなら、教室内の死角をここまで減らす必要はない」

 

ルルーシュは、騒いでいる生徒たちへ視線を向けた。

 

「教師が止めず、設備が記録する。生徒が自由に振る舞った結果を、後から評価する仕組みかもしれない」

 

「みんなに話す?」

 

「まだ推測にすぎない」

 

「でも、注意する理由にはなると思う」

 

「人は、正しい情報を与えれば正しく動くわけではない」

 

先ほどの須藤とのやり取りが、その証明だった。

 

スザクは納得していないようだったが、反論はしなかった。

 

少し離れた席では、綾小路清隆が教科書へ視線を落としている。

 

会話を聞いているようには見えない。

 

ルルーシュも、確かめようとはしなかった。

 

放課後。

 

ルルーシュとスザクは、生活用品を買うため商業施設へ向かった。

 

無料コーナーの前で、Dクラスの男子生徒が簡素な食品を手にしている。

 

その近くでは、池と山内が笑っていた。

 

「もうポイントなくなったのか?」

 

「無料のやつって、ちょっと貧乏くさくね?」

 

軽い冗談だった。

 

だが、男子生徒は顔を赤くし、商品を棚へ戻そうとする。

 

その隣にスザクが立った。

 

「僕もこれにするよ」

 

無料商品の一つを取り、自分のかごへ入れる。

 

池が意外そうな顔をした。

 

「枢木、ポイントあるだろ?」

 

「あるよ。でも、必要なものなら無料でも構わないだろ」

 

「気にならないのか?」

 

「僕は気にならない」

 

それだけ言って、スザクは通常の商品棚へ歩いていく。

 

男子生徒は少し迷った後、商品を棚へ戻さず、かごへ入れた。

 

ルルーシュは黙ってその様子を見ていた。

 

無料商品は、ポイントを失った生徒でも生活できるよう用意されている。

 

制度としては合理的だ。

 

だが、利用する者が侮蔑されるなら、救済は十分に機能しない。

 

助けを求めること自体が屈辱になれば、本当に必要な者ほど手を伸ばせなくなる。

 

ナナリーが望んだ世界は、そういうものではなかったはずだ。

 

その考えが浮かび、ルルーシュはわずかに目を細める。

 

まだ、この学校を判断するには早い。

 

一つの場面だけで制度全体を裁くつもりはなかった。

 

スザクが戻ってくる。

 

「珍しいな」

 

ルルーシュが言う。

 

「何が?」

 

「言葉ではなく、行動で黙らせた」

 

「別に、黙らせるつもりはなかった」

 

「お前らしい答えだ」

 

二人は最低限の商品だけを購入した。

 

商業施設の天井にも、監視カメラが設置されている。

 

購入履歴。

 

行動経路。

 

誰と何を買ったか。

 

学校側は、そのすべてを確認できる。

 

「ポイントは生活費だけじゃないな」

 

ルルーシュが言う。

 

「どういうこと?」

 

「何を選び、どれだけ使うか。生徒の判断を測る道具でもある」

 

スザクは天井を見上げた。

 

「自由にさせて、行動を見る?」

 

「その可能性は高い」

 

「悪い行動だけじゃなく、良い行動も見ていると思うか?」

 

「分からない」

 

ルルーシュは答えた。

 

「だが、悪い行動しか評価しないなら、人を育てる制度とは呼べない」

 

スザクが少し驚いたように見る。

 

「君もそう思うんだな」

 

「一般論だ」

 

ルルーシュは歩き出す。

 

スザクは何も言わず、その後へ続いた。

 

寮へ戻る途中、平田が数人の生徒へ生活態度を改めるよう穏やかに話していた。

 

少し離れた場所では、堀北鈴音が冷めた目でそれを見ている。

 

「無駄な努力ね」

 

堀北が言った。

 

ルルーシュは足を止めた。

 

「本人たちに変わる意思がないなら、周囲が何を言っても同じよ」

 

「合理的な考えだ」

 

「あなたもそう思うのね」

 

「ただし、それで集団が成立するならな」

 

堀北の目が細くなる。

 

「どういう意味?」

 

「個人だけを評価するなら、学校がクラス単位で生徒を分ける必要はない」

 

堀北は答えなかった。

 

ルルーシュも、それ以上は言わない。

 

平田は融和を選ぶ。

 

堀北は切り捨てを選ぶ。

 

スザクは、目の前で困っている者へ手を伸ばす。

 

どれも単独では、クラスを変えるには足りない。

 

人を動かすには、正論でも善意でもない。

 

従う理由と、動いた結果が必要になる。

 

その日の夜。

 

ルルーシュは端末へ、クラスメイトの行動を簡単に記録していた。

 

遅刻。

 

私語。

 

居眠り。

 

ポイントの消費。

 

平田の呼びかけ。

 

堀北の反応。

 

そして綾小路清隆。

 

彼だけは目立った浪費をせず、授業態度にも問題がない。

 

集団の中心へ入らない。

 

だが、完全に孤立もしない。

 

意図的に、自分の位置を曖昧にしているように見えた。

 

ルルーシュは一行だけ追加する。

 

綾小路清隆――観察継続。

 

端末を閉じる。

 

弱者を切り捨てれば、集団は軽くなる。

 

だが、助けを必要とする者が手を伸ばせない制度もまた、強いとは言えない。

 

答えは、まだ出ない。

 

今は見る。

 

学校が、生徒たちへ自由の代償を突きつける時まで。

 

そして数日後。

 

Dクラスの生徒たちは、その代償を知ることになる。

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