反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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ゼロポイント

五月一日。

 

朝から、一年Dクラスは騒がしかった。

 

「ポイントが入ってないんだけど」

 

池が端末を何度も更新する。

 

山内も自分の画面を確かめ、顔を引きつらせていた。

 

「俺もだ。十万ポイントは?」

 

先月の残高を使い切った者ほど、声が大きい。

 

ルルーシュの端末にも入金はなかった。

 

隣では、スザクが画面を確認している。

 

「君のところもか?」

 

「ああ」

 

ルルーシュは端末を伏せた。

 

教師の放任。

 

教室を監視するカメラ。

 

過剰な初期ポイントと、最低限の無料商品。

 

生徒の行動が何らかの評価へ反映される可能性は考えていた。

 

だが――。

 

「全額とはな」

 

教室の扉が開いた。

 

茶柱佐枝が教壇へ立つ。

 

「席につけ」

 

教室は静まらなかった。

 

池が待ちきれずに尋ねる。

 

「先生、今月のポイントが入ってないんですけど」

 

「それがどうした」

 

「どうしたって、毎月十万ポイント支給されるんじゃないんですか?」

 

「私は毎月同額が支給されるとは言っていない」

 

ざわめきが広がる。

 

茶柱は端末を操作し、教室前方の画面へ数字を表示した。

 

一年Aクラス――九四〇ポイント。

一年Bクラス――六五〇ポイント。

一年Cクラス――四九〇ポイント。

一年Dクラス――〇ポイント。

 

誰も、すぐには言葉を発しなかった。

 

「これが、現在の一年生各クラスのクラスポイントだ」

 

茶柱はDクラスの数字を指した。

 

「入学時、各クラスには一〇〇〇ポイントが与えられていた。毎月支給されるプライベートポイントは、所属クラスのクラスポイントに応じて決定される」

 

Dクラスはゼロ。

 

従って、今月の支給もゼロ。

 

「どうして、こんな……」

 

櫛田が呟く。

 

「自分たちの一か月を振り返れ」

 

茶柱は淡々と告げた。

 

遅刻。

 

私語。

 

居眠り。

 

授業への不参加。

 

教室内の視線が、該当する生徒たちへ向けられる。

 

「教師は何も言わなかったじゃないですか!」

 

池が叫んだ。

 

「注意されなければ、何をしても構わないのか?」

 

「でも、減点されるなんて聞いてません!」

 

「この学校では、生徒に広い自由が認められている。同時に、その結果も生徒自身が負う」

 

茶柱の言葉に、反論が止まる。

 

ルルーシュは画面を見つめた。

 

予想は当たっていた。

 

だが、重要なのはDクラスのゼロだけではない。

 

Aクラスは六十ポイントしか失っていない。

 

Bクラスは三百五十。

 

Cクラスは五百十。

 

同じ説明を受け、同じ十万ポイントを与えられながら、クラスによって結果が大きく異なっている。

 

個人の問題だけではない。

 

規律。

 

情報共有。

 

指揮する者の有無。

 

集団としての完成度まで評価されている。

 

「クラスポイントは、減るだけですか?」

 

平田が尋ねた。

 

「いい質問だ」

 

茶柱はわずかに口元を緩めた。

 

「学校生活や試験結果によって、加点される機会も存在する」

 

「何をすれば増えるんですか?」

 

「それを今、教える必要はない」

 

教室から不満の声が上がる。

 

茶柱は意に介さない。

 

「自分たちで考えろ。それも評価のうちだ」

 

ルルーシュは思考を進める。

 

日常生活の改善だけで、九百四十ポイントあるAクラスとの差を逆転するのは難しい。

 

仮にDクラスが今後一切減点されなくても、Aクラスが同じように維持すれば差は縮まらない。

 

それでも学校は、Aクラスへの昇格を競争として成立させている。

 

ならば、日常評価とは別に、順位を大きく動かす機会がある。

 

定期試験。

 

行事。

 

あるいは、クラス同士を直接争わせる特別な試験。

 

内容までは分からない。

 

だが、存在する可能性は高かった。

 

「なお、次の中間試験で赤点を取った者は退学となる」

 

茶柱が続けた。

 

教室の空気が、さらに凍りつく。

 

須藤、池、山内の顔色が変わった。

 

「退学って……本気ですか?」

 

「冗談を言うために教壇へ立っているわけではない」

 

茶柱は授業を始めた。

 

その日、居眠りする者はいなかった。

 

授業後。

 

平田を中心に、生徒たちが残りのポイントや今後の生活について話し始める。

 

「まずは無駄遣いを止めよう。残りが少ない人には、余裕のある人が少しずつ協力して――」

 

「必要ないわ」

 

堀北が言った。

 

「考えずに使った本人の責任でしょう」

 

「でも、生活できなくなる人もいる」

 

「無料の商品があるわ。最低限の生活はできる」

 

平田は困ったように黙る。

 

堀北の意見は冷たいが、間違いではない。

 

浪費の結果まで他人が負担すれば、本人は何も学ばない。

 

だが平田の方法にも意味はある。

 

集団を立て直すには、脱落者を放置するだけでは足りない。

 

問題は、どちらの方法でもポイントそのものは増えないことだった。

 

教室を出ると、スザクがルルーシュへ追いついた。

 

「残りがほとんどない生徒もいる」

 

「そうだな」

 

「僕たちのポイントを分ければ、少しは――」

 

「やめておけ」

 

ルルーシュは足を止めない。

 

「今月を凌いでも、来月の支給がなければ同じことになる」

 

「だからといって、何もしないのか?」

 

「誰がそんなことを言った」

 

スザクが横を見る。

 

ルルーシュは校舎を行き交う上級生へ視線を向けていた。

 

一年生ほど混乱していない。

 

彼らはこの学校の仕組みを知っている。

 

そして、知識は価値になる。

 

「ポイントを増やす」

 

「僕たちの?」

 

「ああ」

 

「Dクラスへ配るためじゃないのか」

 

「まだ、その価値を判断していない」

 

ルルーシュは即答した。

 

Dクラスを救う義理はない。

 

努力する意思のない者まで支えるつもりもない。

 

「クラスポイントを増やす機会は、学校側が握っている。こちらの都合では動かせない」

 

「でも、プライベートポイントは違う?」

 

「生徒間での譲渡が認められている。情報も、物品も、交渉も、すべてポイントで動く」

 

特別な試験が存在するなら、事前の情報が必要になる。

 

相手を動かす交渉材料も。

 

不測の事態へ対応する余力も。

 

「この学校では、ポイントのない人間から選択肢が消えていく」

 

ルルーシュは言った。

 

「ならば、先に確保しておく」

 

「どうやって?」

 

「それを今から調べる」

 

商業施設の無料コーナーには、多くの一年生が集まっていた。

 

昨日までは無料商品を笑っていた者まで、黙って棚へ手を伸ばしている。

 

学校は最低限の生活を保証している。

 

だが、それ以上を望むなら、自分で力を得なければならない。

 

「学ばせるために、先に失敗させるのか」

 

スザクが呟いた。

 

「失敗から学べない者は、切り捨てるつもりなのだろう」

 

「それを正しいと思うか?」

 

「合理的ではある」

 

「正しいかを聞いている」

 

ルルーシュは、無料商品を手にする生徒たちを見た。

 

弱者を生かす仕組みはある。

 

だが、弱者がそこから立ち上がるための手段は与えられていない。

 

それでは救済ではなく、管理にすぎない。

 

ナナリーが望んだ世界とも違う。

 

「正しいかどうかは、まだ決めない」

 

ルルーシュは歩き出した。

 

「だが、気に入らない」

 

その夜。

 

ルルーシュは過去の学校行事、上級生のクラス順位、生徒間取引について調べていた。

 

公開情報は少ない。

 

過去のクラスポイント推移も確認できない。

 

不自然なほど、情報が閉ざされている。

 

それ自体が、特別な評価機会の存在を示していた。

 

学校は、生徒同士の情報格差を意図的に作っている。

 

公式のアルバイト制度はない。

 

しかし、生徒間のポイント譲渡は禁止されていない。

 

情報の売買。

 

物品の取引。

 

勝負の賞金。

 

校則の隙間には、非公式な市場が存在していた。

 

その中に、一つの募集がある。

 

一年生限定。

 

少ない元手でポイントを増やせるゲーム。

 

主催は二年生。

 

参加者の感想は、どれも不自然なほど好意的だった。

 

「随分と親切な先輩だな」

 

ルルーシュは画面を保存する。

 

条件が良すぎる。

 

損をする可能性が、意図的に隠されている。

 

学校側が用意する加点機会を待つだけでは遅い。

 

まずは自分たちの手札を増やす。

 

それを誰に使うかは、その後で決めればいい。

 

ルルーシュの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。

 

何も知らない一年生から奪っているのなら。

 

次は、奪う側が支払う番だった。

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