反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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勝敗の決まった賭け

募集は、校内掲示板の目立たない場所に出ていた。

 

一年生限定。

 

少額のポイントから参加可能。

 

簡単なカードゲームで、勝てば賭け金が倍になる。

 

説明だけを見れば、条件は悪くない。

 

だからこそ、ルルーシュは疑った。

 

すぐには参加せず、数日かけて勝負の流れを調べる。

 

初めのうちは一年生が勝つ。

 

少額の勝ちを重ね、警戒が薄れた頃に高額勝負へ誘われる。

 

そして最後には、必ず負けていた。

 

「イカサマか」

 

商業施設の一角を眺めながら、スザクが言った。

 

二年生数人が机を囲み、その向かいには一年生が座っている。

 

「負け方が不自然すぎる」

 

ルルーシュは端末へ視線を落とした。

 

参加者。

 

勝敗。

 

送金されたポイント。

 

記録を並べると、一定額を超えた瞬間から一年生側の勝率が急激に下がっている。

 

役割も分かれていた。

 

参加者を誘う者。

 

カードを配る者。

 

周囲から合図を送る者。

 

髪に触れれば、次は一年生を負けさせる。

 

机の角へ指を置けば、一度だけ勝たせる。

 

「学校へ報告するのか?」

 

「それだけでは、こちらに利益がない」

 

スザクがルルーシュを見る。

 

「目的はポイントか」

 

「それだけではない」

 

ルルーシュは、二年生たちへ視線を向けた。

 

「上級生が持っている情報にも価値がある」

 

彼らは、この学校で一年以上を過ごしている。

 

制度のすべてを知らなくても、何が起きたかは知っている。

 

クラス順位がいつ動いたか。

 

どの時期にポイントが必要になったか。

 

学校が、何を生徒へ隠しているか。

 

「参加するのはお前だ」

 

ルルーシュが言った。

 

スザクは眉を寄せる。

 

「なぜ僕なんだ」

 

「賭け事に慣れていない。加えて、嘘が下手だ」

 

「君は本当に失礼だな」

 

「相手が警戒しないという意味では役に立つ」

 

スザクは二年生たちを見た。

 

「必要以上に追い詰めないなら、協力する」

 

「判断するのは俺だ」

 

「なら、止めるかどうかは僕が判断する」

 

ルルーシュは何も答えなかった。

 

翌日。

 

スザクは二年生たちの前へ座った。

 

最初の賭け金は五千ポイント。

 

ルールは単純だった。

 

伏せられた三枚のカードから一枚を選び、指定された数字に最も近ければ勝ち。

 

一度目は勝った。

 

二度目は負けた。

 

三度目は、また勝った。

 

「運がいいな、一年」

 

二年生の一人が笑う。

 

「たまたまです」

 

スザクはそのまま答えた。

 

演技ではない。

 

本当にそう思っているように見える。

 

その態度が、二年生の警戒を解いた。

 

何度か少額の勝敗を繰り返した後、二年生側から提案が出る。

 

「次は五万でどうだ?」

 

「五万?」

 

「勝てば十万だ。今なら勝ち分もあるだろ」

 

スザクは少し迷い、離れた場所にいるルルーシュを見る。

 

ルルーシュは視線を返さない。

 

端末を一度だけ伏せた。

 

合図だった。

 

「分かりました」

 

スザクが答える。

 

カードが配られる。

 

一人が髪へ触れた。

 

別の一人が机の角から手を離す。

 

負けさせる合図。

 

スザクがカードへ手を伸ばす。

 

その直前、ルルーシュが机の前へ立った。

 

「そこまでだ」

 

二年生たちが顔を上げる。

 

「何だ、お前」

 

「勝負の確認に来ただけだ」

 

ルルーシュは端末を机へ置いた。

 

映像が再生される。

 

カードを入れ替える指先。

 

勝敗を指示する合図。

 

過去の勝負でも、同じ動きが繰り返されている。

 

続いて表示されたのは、参加者ごとの勝敗と送金記録だった。

 

二年生たちの表情が変わる。

 

「盗撮かよ」

 

「校内の共有スペースで記録された映像だ」

 

実際には、過去に参加した一年生から集めたものだった。

 

自分が騙されたと認めたくない者も、映像の提供には応じた。

 

「これで何ができる」

 

一人が強気に言う。

 

「偶然だと言い張るつもりか」

 

「そうだと言ったら?」

 

「学校側が信じるなら、それでいい」

 

ルルーシュは端末へ指を置いた。

 

「選べ。この記録を学校へ提出するか、こちらの条件を受け入れるかだ」

 

「条件?」

 

「二十二万ポイント。それと、いくつか質問に答えろ」

 

「ふざけるな」

 

「お前たちにとって、十分に払える額だ」

 

ルルーシュは端末へ手を伸ばす。

 

「払えないと言うなら、交渉は終わりだ」

 

「待て」

 

その一言で、勝敗は決まった。

 

数分後。

 

ルルーシュとスザクの端末へ、合計二十二万ポイントが移された。

 

ルルーシュは送金を確認すると、二年生たちへ視線を戻す。

 

「次は質問だ」

 

「何が知りたい」

 

「お前たちが一年生だった時、クラスポイントが大きく変動した時期はあったか」

 

二年生の表情が、わずかに動く。

 

「日常生活以外でだ」

 

「……あった」

 

「いつだ」

 

「夏前。それと、夏休み中」

 

「学校行事か?」

 

「詳しくは言えない」

 

「言えないのか、知らないのか」

 

返事はなかった。

 

ルルーシュは質問を変える。

 

「クラス同士で競う機会は?」

 

「ある」

 

「事前に内容は知らされるか」

 

「ほとんど直前だ」

 

「クラスポイントは大きく動く?」

 

「ああ」

 

「プライベートポイントが必要になることも?」

 

二年生は少し迷ってから答えた。

 

「場合による。物や情報を手に入れるために使うことはある」

 

「虚偽が分かれば、交渉は無効だ」

 

ルルーシュは淡々と告げた。

 

二年生は舌打ちする。

 

それ以上の説明はなかった。

 

だが、十分だった。

 

日常生活の評価だけでは埋まらないクラス間の点差。

 

短期間で大きく動くクラスポイント。

 

クラス同士の競争。

 

直前まで伏せられるルール。

 

そこで使われるプライベートポイント。

 

通常の定期試験とは別に、クラス順位を大きく変動させる機会が存在する。

 

「もういい」

 

ルルーシュは端末を回収した。

 

「次に同じ手を使えば、今度は交渉しない」

 

二人はその場を離れた。

 

しばらく歩いた後、スザクが口を開く。

 

「随分取ったな」

 

「相手が払える額にした」

 

「それでも、あの方法が正しいとは思わない」

 

「正しさを決めるためにやったわけではない」

 

スザクは何か言いかけ、やめた。

 

「……情報は信用できるのか?」

 

「すべては信用しない」

 

「なら?」

 

「反応と事実が一致する部分だけ使う」

 

スザクは小さく息を吐いた。

 

「相変わらずだな」

 

「今さら何を言っている」

 

それ以上、二人は話さなかった。

 

その夜。

 

ルルーシュは寮の自室で、得た情報を整理していた。

 

一年Aクラス、九四〇ポイント。

 

Bクラス、六五〇ポイント。

 

Cクラス、四九〇ポイント。

 

Dクラス、ゼロ。

 

日常生活の改善だけで、この差を短期間に覆すことは難しい。

 

それでも学校が、Aクラスへの昇格を競争として成立させているのなら、順位を大きく動かす仕組みが必要になる。

 

二年生の証言とも一致する。

 

夏前と夏休み中。

 

クラス間の競争。

 

直前に告げられる内容。

 

大幅に変動するクラスポイント。

 

交渉や物資のために使われるプライベートポイント。

 

「間違いない」

 

ルルーシュは画面を閉じた。

 

「通常の試験とは別に、クラス同士を争わせる機会がある」

 

向かいに座っていたスザクが、端末に表示された残高を見る。

 

「だから、先にポイントを集めたのか」

 

「選択肢を失わないためだ」

 

情報を買う。

 

物資を確保する。

 

他者と交渉する。

 

不測の事態へ対応する。

 

この学校では、ポイントの有無が取れる手段の数を決める。

 

「学校は、試験が始まってからの行動だけを見ているわけじゃない」

 

ルルーシュは続けた。

 

「事前に情報を集めたか。資金を残したか。誰を信用し、何を疑ったか。準備の段階から競争は始まっている」

 

「それを、Dクラスにも話すのか?」

 

「まだ必要ない」

 

「理由は?」

 

「確定しているのは、何らかの競争があることだけだ。内容も時期も分からない情報を広めれば、混乱を増やす」

 

スザクは一度だけ頷いた。

 

ルルーシュは窓の外を見る。

 

表面上は、生徒へ自由と平等を与える学校。

 

だが内側では、情報を持つ者が持たない者を利用し、失敗した者から選択肢が失われていく。

 

学校は、それを止めない。

 

むしろ、生徒同士の差として利用している。

 

「まだ、何か隠している」

 

ルルーシュが呟く。

 

「楽しそうに見える」

 

スザクの声には、わずかな呆れが混じっていた。

 

「気のせいだ」

 

ルルーシュは薄く笑った。

 

「戦場の形が分かれば、備えるだけだ」

 

その頃。

 

商業施設の一角で、綾小路清隆は二年生たちの様子を見ていた。

 

以前まで一年生へ声をかけていた者たちは、今日は誰とも話していない。

 

一人は苛立ち、もう一人は何度も端末を確認している。

 

少し前に、ルルーシュとスザクがそこを離れたことも覚えている。

 

綾小路は、その事実だけを記憶した。

 

そして何事もなかったように、その場を通り過ぎた。

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