反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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選ばせる者

 バスが山間学校へ到着した時、雪は降っていなかった。

 

 道路脇と校舎の屋根には、数日前のものらしい白い塊が残っている。

 

 生徒たちはクラスごとに降ろされ、荷物を持ったまま体育館へ誘導された。

 

 入口では教員が携帯端末を回収していた。

 

「合宿終了まで返却しない。緊急の連絡は教員を通せ」

 

 茶柱へ端末を渡した池が、不安そうに手元を見る。

 

「本当に八日間ずっと無しなのかよ」

 

「資料に書いてあっただろ」

 

 須藤が先へ進む。

 

「分かってても、実際に取られると違うんだよ」

 

「ゲームできないから?」

 

 山内が笑う。

 

「お前だって困るだろ」

 

「俺は女子と話せれば――」

 

「男女は別行動よ」

 

 後ろから堀北が言った。

 

 山内の足が止まりかける。

 

「夕食の時間以外、接触は禁止だそうよ」

 

「合宿の意味なくない?」

 

「あなたが期待している意味は、最初からないわ」

 

 体育館へ入ると、三学年の生徒が男女に分けられて並ばされていた。

 

 正面には教員用の机と、六枚の大きな掲示板。

 

 板にはまだ番号しか書かれていない。

 

 各学年からは、説明確認のため一名ずつ代表者が前方へ出されていた。一年生側に立っているのは葛城だった。

 

 ルルーシュはDクラスの列へ入りながら、他学年の位置を確認した。

 

 三年生の前方に堀北学。

 

 少し離れた二年生の中央に南雲雅。

 

 二人とも周囲から自然に空間を与えられている。

 

 同じ立ち方ではない。

 

 学の周囲は、指示を待つ者によって整っていた。

 

 南雲の周囲は、先に選ばれようとする者によって埋まっていた。

 

     ◇

 

「これより、小グループの編成を開始する」

 

 壇上に立った真嶋が告げた。

 

「男女は別会場へ移動し、学年ごとに六組を作る。人数は十名から十五名。二クラス以上の混合を必須とする。責任者の決定は、小グループの構成員が確定した後だ」

 

 体育館の空気が僅かに動く。

 

 誰と小グループを作るか。

 

 責任者を引き受けられる者を含めて構成するか。

 

 上位を狙える者だけで固まるか。

 

 失敗した場合に一つのクラスへ損失が集中しないよう分散するか。

 

 同じ説明を聞いても、選ぶ順番は一致しない。

 

「一年、二年、三年の小グループを一つずつ統合し、六つの大グループを作る。統合方法については――」

 

「一つ、提案してもいいですか?」

 

 南雲が手を上げた。

 

 真嶋が言葉を止める。

 

「内容による」

 

「大グループの統合先を、一年生自身に選ばせたいんです」

 

 ざわめきが広がった。

 

 南雲は立ち上がる。

 

 壇上へ向かうことはせず、二年生の列の中から全体を見渡した。

 

「二年と三年が先に組んで、後から一年生を奪い合えば、上級生の都合で配属先が決まる。強い一年生だけが求められて、残りは空いた場所へ押し込まれるかもしれない」

 

 反対の声は上がらない。

 

 南雲は続けた。

 

「それより、二年と三年の組み合わせを六つの候補として先に公開する。一年生の各小グループが、どこへ加わるかを選ぶ。同じ希望が重なれば一年生同士で調整し、決まらなければ抽選にする。その方が公平でしょう?」

 

 選ばれる側だった一年生へ、選択権を渡す。

 

 言葉だけを聞けば、不利益はなかった。

 

「候補として公開される情報は?」

 

 堀北学が尋ねた。

 

 南雲の視線が三年生の列へ向く。

 

「小グループの責任者、クラス構成、構成人数。全候補で同じ項目を公開すればいい」

 

「一年生は、上級生の実際の能力や関係を知らない」

 

 学の声は平坦だった。

 

「名前と数字が同じように公開されても、事前に接点を持つ者と持たない者では判断材料が違う。選ばせたという形式だけで公平にはならない」

 

「完全に同じ情報を持って選ぶ試験なんてありませんよ」

 

 南雲は笑みを消さない。

 

「誰を知っているか。誰から情報を得られるか。それもこの学校で身につけた能力でしょう。それとも、一年生には自分で相手を選ぶ力がないと?」

 

「能力の有無ではない。選択の結果を本人たちの責任と呼べる条件かを聞いている」

 

「なら、本人たちに聞きましょう」

 

 南雲は一年生の列へ身体を向けた。

 

「一年生側の代表として聞こう。上級生に配属先を決められるのと、自分たちで選ぶのは、どちらがいい?」

 

 葛城が、僅かに間を置く。

 

 振り返れば、待っているのは全一年生の視線だった。

 

「公開される条件が全小グループで統一されるなら、異論はありません」

 

 葛城は答えた。

 

 南雲は次に、他の一年生へ目を向ける。

 

「反対する人は?」

 

 すぐに手を上げる者はいなかった。

 

 自分で選べる権利を、始まる前から手放したい者は少ない。

 

 真嶋は他の教員と短く確認した。

 

「学校側で実施可能と判断する。二年と三年の統合候補を作成し、責任者名、クラス構成、構成人数を掲示する。一年生は小グループ確定後、希望先を提出しろ」

 

 決定へ至るまで、強制はなかった。

 

 南雲は提案した。

 

 葛城が同意した。

 

 一年生の大半が反対しなかった。

 

 教員が許可した。

 

 全て、本人たちが選んだ形になっていた。

 

 南雲の視線は、説明を受ける一年生ではなく、三年生の列にいる堀北学へ向けられていた。

 

 学はそれ以上、壇上で反論しなかった。

 

 意見を引いたわけではない。

 

 決定された条件の中で、次の手を考える顔だった。

 

 ルルーシュは二人を見る。

 

 制度への意見が違うだけなら、互いの反応をここまで確認する必要はない。

 

 だが、今ある材料だけで関係を決める必要もなかった。

 

     ◇

 

 説明を終えると、女子生徒は別棟へ移された。

 

 二年生と三年生の男子も、それぞれ指定された教室で小グループの編成を始める。

 

 一年生男子は体育館に残り、その間に自分たちの小グループ候補を話し合うよう指示された。

 

 しばらくして、二年生と三年生の小グループを組み合わせた六つの統合候補が、体育館の掲示板へ順に貼り出されていった。

 

 責任者名。

 

 クラス構成。

 

 構成人数。

 

 書かれている項目は同じだった。

 

 その名前が何を意味するかまで、同じではない。

 

「堀北先輩のところは絶対に強いだろ」

 

「でも、体力中心か筆記中心か分からないぞ」

 

「南雲会長の候補なら二年生が協力するんじゃないか?」

 

「三年の責任者、誰だよ。名前だけじゃ分かんねえ」

 

 掲示板の前で、質問だけが増えていく。

 

 Aクラスの生徒は、知っている上級生の名前を互いに確認していた。

 

 Bクラスでは、他学年との接点が多い生徒を中心に情報が共有されている。

 

 CクラスとDクラスでは、同じ名前を見ても反応できる者が少なかった。

 

 同じ掲示板を見ている。

 

 だが、そこから読める情報量は違っていた。

 

「まず、小グループの能力を均すべきだ」

 

 葛城がAクラスの生徒へ告げる。

 

「一組へ上位者を集中させれば、その組は上位を狙える。だが、残りの組が第五位以下へ沈む危険が増す」

 

「逆に、全員を均等に分けて一つも勝てなかったら意味がないけどね」

 

 橋本が横から言った。

 

「統合先も含めて考えた方がいい。強い上級生のところへ入れるなら、一年の小グループに多少の穴があっても補える」

 

「上級生が補うことを前提に組むべきではない」

 

「前提じゃない。使える条件を無視しないって話だよ」

 

 言い争いにはならない。

 

 しかし、Aクラスの生徒たちは同じ方向へ動かなかった。

 

 坂柳が不在のため、最後にどちらかへ決める者はいない。

 

 葛城の周囲へ集まる者。

 

 橋本から上級生の情報を聞く者。

 

 掲示板の希望状況を見て、空いている場所を探す者。

 

 Aクラスだけでも、判断は三つに分かれていた。

 

 Bクラスでは神崎と柴田が、集まりかけた生徒を別の卓へ動かしていた。

 

「Bクラスだけで固まることはできない。早めに他クラスへ声をかけた方がいい」

 

「でも、ばらけすぎたら話し合えなくならないか?」

 

「全員を同じ大グループへ入れる必要はないよ」

 

 柴田が答える。

 

「一之瀬さんも、女子側で一つのグループへ固めないよう動いてると思う。上位を取る組と、退学を避ける組を分けた方がいい」

 

 調整しようとする者がいる。

 

 それでも、全員が同じ判断に従うわけではない。

 

 南雲と同じ二年生クラスの責任者名を見つけ、その候補を希望する小グループを先に作ろうとする者もいた。

 

 知っている相手を選ぶことは、合理的だった。

 

 その知識を誰から得たかまで考えなければ。

 

     ◇

 

 Cクラスの周囲には、目に見えない空白ができていた。

 

 龍園の名を見て、声をかけかけた他クラスの生徒が足を止める。

 

 石崎やアルベルトが近くにいるだけで、別の卓へ移る者もいた。

 

「露骨すぎんだろ」

 

 石崎が舌打ちする。

 

「今までの結果だ」

 

 金田が答えた。

 

「こちらから条件を示すしかない」

 

「何を示すんだよ。龍園がもう何もしませんってか?」

 

 龍園は壁際に立ち、二人の会話へ入らなかった。

 

 以前なら、自分を避けた相手から先に選択肢を奪っていたかもしれない。

 

 今は、掲示板と一年生の動きだけを見ている。

 

 綾小路が近くを通る。

 

 石崎の声が止まった。

 

 アルベルトも僅かに身体を引く。

 

 変化は小さい。

 

 事情を知らない者には、たまたま道を空けただけに見える。

 

 橋本だけが、二人の反応を目で追っていた。

 

 綾小路は立ち止まらない。

 

 幸村と高円寺のいる卓へ向かった。

 

 ルルーシュも、その動きを遠くから見ただけだった。

 

 石崎とアルベルトが秘密を守る限り、ここで確かめる理由はない。

 

「ランペルージ君」

 

 平田が呼ぶ。

 

 振り返ると、池と山内がその後ろにいた。

 

「僕たちも動こう。上位だけを集めると、残った人たちへ負担が偏る」

 

「でも弱い奴ばっかり集まったら、責任者が退学だろ?」

 

 池が言う。

 

「だから、ただ均等に分ければいいわけじゃない。全ての組で最低点を避けた上で、その中に上位を狙える組も必要になる」

 

「スザクと須藤を同じところに入れれば、体力は余裕じゃね?」

 

 山内が男子生徒の集まりを指す。

 

 須藤はすでにスザクの肩を叩いていた。

 

「俺とお前で走る課題を取ればいい。責任者もお前なら文句ねえだろ」

 

「まだ責任者を決める段階じゃない」

 

 スザクが答える。

 

「それに、体力だけで順位は決まらない。須藤が別のグループへ入った方が全体の失点を減らせる可能性もある」

 

「別れる必要はねえだろ」

 

「一緒になるかどうかも、構成を見てから決めよう」

 

 スザクは須藤の提案を否定し切らなかった。

 

 だが、自分を中心に集まるよう求めることもしなかった。

 

 少し離れた場所では、幸村が筆記成績を基準に相手を探し、高円寺がその話し合いを聞かずに窓の外を見ていた。

 

 同じクラスの上位者が、同じ小グループへ集まる様子はない。

 

 Dクラスは、上位者だけで一組を作る余裕がなかった。

 

 複数の組へ能力を分けなければ、第五位と第六位の減点を受ける組が増える。

 

 平田が声をかけた先には、葛城と神崎がいた。

 

 その周囲には、鬼頭、柴田、金田、小宮もいる。

 

 四クラスの生徒が同じ卓へ集まり始めていた。

 

 まだ構成員は確定していない。

 

 責任者欄も空白だった。

 

「まず、条件を整理しよう」

 

 葛城が言う。

 

「人数とクラス比率。筆記、体力、集団行動の不足。希望する統合先は、その後だ」

 

「賛成だ」

 

 神崎が答える。

 

「上級生の評判だけで決めれば、こちらの弱点が残る」

 

 ルルーシュは卓上の用紙を見る。

 

 書き込まれた名前より先に、空欄の方を確認した。

 

 誰を加えるか。

 

 誰を別の組へ送るか。

 

 その判断によって、上位を狙える者と、残される者が生まれる。

 

 責任者を決めるのは、その後だった。

 

     ◇

 

 編成時間の途中、綾小路は教員から廊下へ呼び出された。

 

 案内された先にいたのは、堀北学と、二年生の桐山利秋だった。

 

 桐山は南雲と同じ学年だが、先ほど南雲を囲んでいた生徒たちの中にはいなかった。

 

「話は短くする」

 

 学が言う。

 

「南雲の提案をどう見た?」

 

「一年生の希望先を把握できます。どの上級生の名前に人が集まり、どのクラスが誰の情報を持っているかも」

 

 綾小路は答えた。

 

 桐山が腕を組む。

 

「選ばせるだけで、二年生全体への影響力を測れるということか」

 

「それだけではないと思います。希望が偏れば、調整する者が必要になる。その調整へ入れる立場なら、最終的な組み合わせにも触れられる」

 

「南雲は自分で割り振らない」

 

 学が言う。

 

「一年生が選び、話し合い、決めた形を残す」

 

「だから、結果への不満も一年生側へ返せる」

 

 綾小路の言葉に、学は頷いた。

 

「お前へ、表立って何かをしろとは言わない。南雲が得点以外に何を見ているか、それだけ確認してくれ」

 

「俺である必要がありますか?」

 

「お前なら、一年生側の変化を不自然に見せず確認できる」

 

 学はそれ以上を説明しなかった。

 

 綾小路も、引き受けるとは明言しない。

 

「見える範囲なら」

 

 それだけ答え、廊下を戻った。

 

 ルルーシュは、この接触を知らなかった。

 

     ◇

 

 締切まで残り二十分になると、確定した小グループから希望が提出され、掲示板の欄に偏りが現れた。

 

 堀北学を含む三年生の統合候補。

 

 南雲と近い二年生が責任者を務める候補。

 

 名前と実績を知る者が多い二つの欄へ、希望が集中している。

 

 別の候補にも、責任者名とクラス構成、構成人数は書かれている。

 

 だが、そこに判断へつながる見知った名前はなかった。

 

「こっちの三年って強いのか?」

 

「知らない」

 

「じゃあ、知ってる方でいいだろ」

 

 短いやり取りで希望先が決まる。

 

 情報を持つクラスは、複数の候補を比較していた。

 

 情報を持たないクラスは、知っている名前が一つあるだけでそこを選んだ。

 

 同じ選択権が、同じ選び方を生んではいなかった。

 

 小グループの形成も、時間とともに選択から処理へ変わっていく。

 

 早い段階で四クラスを揃えた組。

 

 同じクラスの人数を減らすため、知り合いを別の卓へ移した組。

 

 他クラスから拒まれ、Cクラスを中心にまとまった組。

 

 調整を続けた結果、Bクラスの生徒が多く残った組。

 

 締切が近づくほど、誰と組みたいかではなく、条件を満たすために誰を入れるかが優先された。

 

 南雲は体育館の端から、その変化を見ていた。

 

 声をかけない。

 

 希望の偏りを直さない。

 

 困っている一年生へ、正しい選択肢を教えることもしない。

 

 自分たちで選ぶと決めたのは一年生だった。

 

 時間内に決める責任も、一年生へある。

 

 ルルーシュが南雲へ視線を向ける。

 

 その時だけ、南雲もこちらを見た。

 

 目が合ったのは一瞬だった。

 

 南雲は僅かに笑い、別の掲示板へ視線を移す。

 

 ルルーシュの名前を知っている様子はない。

 

 ただ、自分を見ていた一年生がいたことだけを記憶したように見えた。

 

 南雲は、選ばせた。

 

 だが、選択の盤面は南雲が作っていた。

 

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