反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
締切まで、残り十五分。
ルルーシュたちの卓に集まった人数は、十二名で止まっていた。
Aクラスから葛城と鬼頭。
Bクラスから神崎、柴田、米津と、男子生徒一名。
Cクラスから金田と小宮。
Dクラスからルルーシュ、平田、池、山内。
四クラス全てを含み、人数条件も満たしている。
教員が用紙を確認し、構成員欄の端へ印を押した。
「小グループの構成を確定する。次に責任者を一名決めろ」
残された空欄は一つだった。
責任者。
先ほどまで途切れなかった会話が止まる。
池が視線を落とした。
山内も、急に掲示板の方へ顔を向ける。
「こういうのは葛城でいいんじゃないか?」
池が言った。
「Aクラスだし、頭もいいだろ」
「それなら平田でもよくない?」
山内が続ける。
「人をまとめるのは慣れてるし」
推薦する名前だけが増える。
自分の名を挙げる者はいない。
葛城は責任者欄を見たまま答えた。
「能力だけを基準にするなら、候補は一人ではない」
「じゃあ葛城がやればいいじゃん」
「私が退学となれば、Aクラスは今後の試験で一つの判断役を失う」
葛城の口調に、自分を惜しむ響きはなかった。
損失を数字として扱っているだけだった。
「責任を避けたいという意味ではない。この合宿だけでなく、以後のクラス運営まで含めて判断する必要がある」
「それは俺も同じだ」
神崎が言う。
「Bクラスから責任者を出さないつもりはない。だが、他クラスとの調整を行う者と責任者を同一にすれば、失敗した時に両方を失う」
平田も用紙を見る。
「必要なら僕が引き受けるよ」
池が僅かに安堵した。
だが、平田が名前を書こうとする前に、ルルーシュが口を開く。
「それは最適ではない」
「理由を聞いてもいいかな」
「この小グループで、他クラスの不満を拾える人間は多くない。平田が責任者となれば、調整役と退学リスクが重なる」
「でも、責任者が決まらなければ始まらないよ」
「ああ。だから私が引き受ける」
池と山内が同時に顔を上げた。
葛城は驚かなかった。
神崎も、すぐには賛成しない。
「根拠は?」
葛城が尋ねる。
「責任者になる理由か。それとも、私で勝てる理由か」
「両方だ」
ルルーシュは卓上の用紙を自分の前へ引いた。
「まずクラスへの報酬だ。この組は十二名、四クラス混合。一位となった場合、人数とクラス数の倍率を適用すると、構成員一名につき所属クラスへ十一ポイントが加算される」
池が目を丸くする。
「一人につき十一ポイントも入るのか?」
「ああ。責任者と同じクラスの構成員については、その生徒分として加算されるクラスポイントが二倍になる」
ルルーシュは構成員をクラスごとに分けて指した。
「AクラスとCクラスが二名。BクラスとDクラスが四名。人数だけを見れば、責任者はBかDから選ぶのが最も効率的だ」
「なら、Bクラスの誰かでも条件は同じだろう」
神崎が確認する。
「同じだ。ただし、候補として現実的なのは君になる」
ルルーシュは神崎を見る。
「君を責任者へ置けば、Bクラスとの調整役と、他クラスへ意見を通す役を同時に危険へ置く。葛城も同様だ。平田には、Dクラスだけでなく、この場で意見を言いにくい人間の状態を確認してもらう必要がある」
「君には失って困る役割がないと?」
葛城の質問に、池と山内がルルーシュを見る。
「逆だ」
ルルーシュは答えた。
「役割を決め、誰へ何をさせるかを設計するのは私になる。その判断が失敗した時、別の誰かだけに退学責任を負わせる方が不合理だ」
声を強めることはなかった。
当然の計算として言っている。
「先に明らかにしておく。私の身体能力は高くない。長距離走では、この十二名の平均を下げる可能性がある。体力だけを基準にすれば、責任者に適した人間ではない」
「それを自分で言うのかよ」
小宮が聞いた。
「隠して編成を確定させる方が問題だ」
「責任者は競技の得点だけ取ればいいわけじゃない」
金田が口を挟む。
「記録、役割分担、他学年との交渉もある。そちらを含めれば、候補から外す理由にはならない」
「それでも、Dクラスだけが倍率の利益を得る」
神崎が言う。
反対ではない。
同意する前の確認だった。
「Bクラスも四名いる。Bから責任者を出せば、Bが同じ利益を得られる。こちらが譲る理由を聞きたい」
「Dクラスから責任者を出し、私が退学リスクを引き受ける。その代わり、Dクラス所属者四名分の加算には責任者同一クラス倍率が適用される」
ルルーシュは答えた。
「他の三クラスは通常の報酬を得る。Dクラスだけが安全なまま利益を取る構造ではない」
「一位を取れなければ、倍率の話そのものが消える」
葛城が続ける。
「第六位となり、この小グループが学校の定めるボーダーラインを下回れば、君が退学する」
「ああ」
「自己犠牲を理由にしているわけではないな?」
「違う」
ルルーシュは即答した。
「葛城、神崎、平田の三人を責任者から外し、各自の役割を残した方が、この組が第六位を避ける確率は上がる。私も退学するために責任者になるわけではない。生き残る確率を上げた上で、その計算を行った者が最後の責任を持つと言っている」
葛城は数秒、ルルーシュを見た。
「責任と利益を同じ場所へ置く、ということか」
「少なくとも、別の場所へ押しつけるよりは正しい」
神崎が腕を組む。
「Bクラスとして異論はない。ただし、試験中の判断をDクラスの利益だけで決めないことが条件だ」
「当然だ。全員の得点を最大化しなければ、Dクラスの倍率も成立しない」
「僕からも一ついいかな」
平田が全員を見る。
「ルルーシュ君が責任者になることだけじゃなく、今の説明を理解した上で同意できるかを、一人ずつ確認したい」
葛城が最初に頷いた。
神崎も続く。
鬼頭、柴田、米津、残るBクラスの生徒。
金田と小宮。
最後に、池と山内へ視線が向く。
「俺たち、足引っ張ったら切られたりしないよな?」
池が聞いた。
「構成員を確定した後で、能力が低いという理由だけで外すことはできない」
ルルーシュが答える。
「できないから聞いてるんじゃなくて、やらないかって聞いてんだよ」
池は珍しく言い直した。
ルルーシュは僅かに間を置く。
「やらない。改善できる範囲を決め、それでも不足する分は別の項目で補う」
「俺も?」
山内が聞く。
「当然だ。ただし、努力しなくても守られるという意味ではない」
「それなら……まあ、いい」
池が頷く。
山内も続いた。
平田が十二人分の同意を確認する。
責任者欄へ、ルルーシュが自分の名前を書いた。
◇
別の卓では、十四名の小グループが同じ空欄を囲んでいた。
Aクラスが六名。
Bクラスが三名。
Cクラスが二名。
Dクラスが三名。
「筆記と規則の理解なら、幸村が一番だろ」
石崎が言った。
「なら幸村でいいじゃねえか」
「簡単に決めるな」
幸村が反発する。
「責任者は筆記試験の代表じゃない。生活評価も、体力も、全員の結果も背負うことになる」
「だから頭のいい奴がやるんだろ」
「責任を負わない側が言うことじゃない」
幸村の声が強くなる。
石崎も立ち上がりかけた。
その前に橋本が間へ入る。
「喧嘩する時間はないって。幸村が不安に思うのは当然だよ」
「なら、お前がやるのか?」
「俺より幸村の方が、規則を崩さず進められる」
「結局、僕へ押しつけているだけじゃないか」
橋本は否定しなかった。
他の生徒も視線を逸らす。
高円寺は窓の外を見たまま、話し合いへ参加していない。
「僕は責任者という役割に興味がない」
問われる前にそう告げた。
石崎が舌打ちする。
綾小路は何も言わない。
幸村以外の名前が挙がらないまま、締切だけが近づいていた。
竹本が用紙へ手を置く。
「幸村が引き受けるなら、生活課題の時間管理は俺が補助する」
「俺も、他クラスとの話は手伝うよ」
橋本が続けた。
「全部を一人でやれとは言わない」
石崎は腕を組んだまま、幸村を見た。
「……決まったことなら、今は口を出さねえ」
積極的な賛成ではなかった。
責任者を避けた側が、幸村の就任を拒まなかっただけだった。
幸村は納得していなかった。
それでも、空欄のまま残すことはできない。
「分かった」
短く答え、自分の名を書いた。
選ばれたというより、他に引き受ける者がいなかった結果だった。
◇
スザクと須藤の小グループは、十五名で構成されていた。
Aクラス六名、Bクラス二名、Cクラス三名、Dクラス四名。
須藤は責任者欄を見るなり、スザクを指した。
「ここはスザクでいいだろ。体力なら一番だ」
「体力が高いことと、責任者に適していることは同じじゃない」
スザクが答える。
「でも勝つなら強い奴が上に立つべきだろ」
「僕が走る場面では走る。でも、記録の確認や全員の意見をまとめる力まで、僕が一番とは限らない」
「じゃあ誰にするんだよ」
Bクラスの濱口が、配布された確認用紙を手に取った。
「僕が引き受けようと思う」
須藤が濱口を見る。
「お前、スザクより強いのか?」
「強さの話なら、たぶん枢木君の方が上だよ」
濱口は笑って答えた。
「でもBクラスと他クラスの間で話すことには慣れている。記録や生活評価も含めて責任を持つなら、僕の方が向いていると思う」
「俺は濱口でいい」
三宅が言う。
「体力課題はスザクと須藤へ任せればいい。責任者まで同じ役割にする必要はないだろ」
スザクも頷いた。
「濱口が決めたことを、体力面から支える。それでいいと思う」
須藤は不満そうに眉を寄せた。
「一番強い奴が責任者じゃなくていいのかよ」
「責任者は、一番強い人を決める役じゃない」
スザクが言う。
「誰が何を引き受けるかを決めて、その結果を最後まで背負う役だ」
須藤は責任者欄とスザクを見比べた。
最後には何も言わず、濱口の名前が書かれるのを見ていた。
◇
締切が近づくほど、責任者欄は重くなった。
早い段階で責任者候補を含めて構成した小グループは、話し合いを終えている。
責任者になり得る生徒を別の卓へ送り続けた小グループでは、最後に残った一人へ役割が集中した。
Bクラスの生徒が十二名、Cクラスが二名となった組。
CクラスとDクラスの人数が大きく偏った組。
クラス混合の条件は満たしている。
人数も規則内だった。
だが、選択の結果が均等とは言えない。
「この偏りを、そのまま認めるんですか?」
教員の一人が真嶋へ尋ねた。
「規則違反ではない。だが、再調整する余地はある」
真嶋が完成した一覧を見直す。
「それでは、誰が選ぶことになるんです?」
南雲が会話へ入った。
「一年生が自分で作った小グループを、上級生か教員が公平のために組み直す。それは最初に認めた方法と違うでしょう」
「失敗した場合の責任も、一年生へ返すつもりか」
真嶋が尋ねる。
「自分で選ぶというのは、そういうことじゃないですか?」
真嶋は、完成した一覧へもう一度目を通した。
「規則に違反していない以上、今回は再調整を行わない」
学校側の決定が下された。
南雲は、偏りを是正するよう求めなかった。
責任者を避けた結果、同じクラスの人数が偏ったことも。
残り時間に追われ、望まない相手と組んだことも。
全て、一年生自身が選んだ結果として確定した。
ルルーシュは少し離れた卓から、そのやり取りを見ていた。
南雲は選択権を与えた。
だが、選択によって生まれた偏りを修正する責任までは引き受けない。
上級生や教員が手を加えれば、自由な選択を奪ったと批判できる。
手を加えなければ、どのような結果になっても一年生自身が選んだと処理できる。
選ばせることだけではない。
選んだ結果の責任を、選んだ側へ固定するところまでが南雲の方法だった。
◇
責任者を決めた後、ルルーシュたちの小グループは統合希望先を話し合った。
掲示板へ公開されているのは、責任者名、クラス構成、構成人数だけ。
だが、体育館へ戻ってきた上級生の位置を見れば、どの候補に誰が所属しているかはある程度分かる。
「南雲会長に近い二年生がいる候補は、希望が多い」
神崎が言う。
「支援を受けられると考えている一年生が多いんだろう」
「堀北学を含む候補も同じだ」
葛城が掲示板を見る。
「三年生の統率と、これまでの実績を重視するなら合理的な希望先になる」
「どちらがいいの?」
柴田が尋ねた。
「抽選になる可能性まで考えれば、空いている候補へ行く手もあるよね」
「空いていること自体が、能力の低さを意味するとは限らない」
金田が答える。
「情報がないから避けられているだけの可能性もある」
ルルーシュは六つの候補を順に確認した。
公開された情報だけでは、優劣を確定できない。
だが、上級生が戻ってきてからの動きには差があった。
南雲に近い候補では、二年生が他の小グループへ声をかけ、希望状況を確認している。
堀北学を含む候補では、三年生が自分たちの配置を整えた後、一年生の判断へ口を挟まず待っていた。
「堀北学を含む候補を選ぶ」
ルルーシュが言った。
「理由は?」
葛城が尋ねる。
「上級生側が、一年生の希望へ介入していない」
「何もしていない方を選ぶのか?」
鬼頭が聞く。
「何もしないことと、統率できないことは同じではない。あの候補は、指示を出さなくても三年生の配置が崩れていない」
ルルーシュは南雲側の候補へ視線を移す。
「もう一方は、希望を集める段階から動いている。支援を得られる可能性はあるが、こちらの判断が上級生側の都合へ組み込まれる可能性も高い」
「情報が少ない以上、安定性を取るということか」
神崎が確認する。
「ああ。この小グループには、上級生側の追加支援がなければ成立しない役割はない。なら、余計な条件を付けられにくい候補を選ぶ」
葛城と神崎が同意する。
平田が他の構成員へ確認し、反対は出なかった。
希望欄へ番号が記入される。
同じ候補を第一希望とした小グループもあったが、そちらは第二希望の候補にも空きがあった。葛城と神崎が条件を確認し、相手側が第二希望へ移ることで調整が成立した。
◇
一年生男子の全小グループで責任者と統合先が確定すると、名簿が壇上へ運ばれた。
真嶋が一枚ずつ確認する。
南雲も、その近くから一覧へ目を通していた。
前の話し合いで自分を見ていた一年生。
その名前を、南雲はまだ知らなかった。
男子第一小グループ。
十二名。
四クラス混合。
責任者欄に書かれた名を見て、南雲の指が一度だけ止まる。
責任者名簿には、その名が記録された。
ルルーシュ・ランペルージ。