反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
中間試験まで、残り二週間。
茶柱佐枝が黒板へ書いた条件を見て、教室の空気が固まった。
「各科目で赤点を取った者は退学となる」
冗談だと思った者はいなかった。
クラスポイントを失ったばかりだ。
この学校が、生徒へ事前の猶予を与えないことは、すでに分かっている。
「赤点って何点ですか?」
櫛田が尋ねる。
「中間試験の平均点、その半分未満だ」
茶柱は生徒たちを見回した。
「自信のない者は、今のうちに対策しておけ」
授業が終わると、教室のあちこちで点数の話が始まった。
危険なのは、須藤、池、山内の三人だった。
「退学とか、ふざけてんだろ」
須藤が机を蹴るように足を動かす。
「でも先生、本気だったよ」
池の声にも余裕はない。
山内は端末で過去の成績を確認し、顔を引きつらせていた。
「俺、数学かなりまずいかも」
平田が三人へ歩み寄る。
「放課後、みんなで勉強しないか? 一人でやるよりいいと思う」
「私も手伝うよ」
櫛田もすぐに続いた。
そして堀北へ顔を向ける。
「堀北さん、勉強を教えてくれないかな?」
堀北は露骨に嫌そうな顔をした。
「どうして私が?」
「堀北さん、成績がいいから」
「本人たちにやる気があるなら構わないわ」
堀北の視線が三人へ向く。
「ただし、時間を無駄にするつもりはない」
須藤の眉が動いたが、退学という言葉が効いているのか、その場では何も言わなかった。
少し離れた席で、ルルーシュはやり取りを見ていた。
「参加しないのか」
スザクが尋ねる。
「俺が教える必要はない」
「三人とも危ないらしい」
「本人たちに残る意思があるなら、手を貸す者はいる」
「なかったら?」
「そこまでだ」
能力不足は補える。
だが、助ける側だけが努力し、本人に残る意思がないなら意味はない。
放課後。
図書室の一角に、堀北、櫛田、平田、須藤、池、山内が集まった。
スザクも同席している。
最初の三十分は、まだ静かだった。
だが、すぐに崩れた。
「だから、何でここでその式になるんだよ」
須藤が問題集を睨む。
「一つ前の公式を使えば分かるでしょう」
堀北は淡々と答えた。
「分からねえから聞いてんだよ」
「さっき説明したわ」
「その説明が分かんねえんだよ」
池は別のページを眺めながら欠伸をし、山内は問題より櫛田の方を見ていた。
平田が間に入り、櫛田も場を和らげようとする。
だが、堀北の説明は正確でも、三人の理解速度には合っていなかった。
「やる気がないなら帰りなさい」
堀北が言う。
須藤の顔つきが変わる。
「最初から馬鹿にしてる奴に教わりたくねえよ」
椅子を乱暴に引き、立ち上がった。
「須藤君」
櫛田が止めようとしたが、須藤はそのまま図書室を出た。
廊下へ出た須藤へ、スザクが追いつく。
「須藤」
「何だよ」
「退学するつもりなのか」
須藤が睨む。
「するわけねえだろ」
「なら、明日も来た方がいい」
「何でお前に言われなきゃならねえんだ」
「僕はそう思っただけだ。決めるのは君だ」
須藤は舌打ちし、そのまま歩き去った。
翌日の昼休み。
ルルーシュは校舎裏で須藤を見つけた。
ベンチに座り、問題集を開いている。
ほとんど進んでいない。
数式を書いては消し、同じページを何度も睨んでいる。
努力しているというより、分からないまま終わることが気に入らないらしい。
やがて須藤は問題集を閉じかけた。
だが、舌打ちして再び開いた。
ルルーシュは声をかけず、その場を通り過ぎた。
放課後。
図書室には池と山内がいた。
二人とも乗り気には見えないが、昨日のように櫛田へ連れてこられた様子ではない。
少し遅れて、須藤が入ってきた。
堀北と目が合う。
「今日だけだ」
須藤が言った。
「好きにしなさい」
「その言い方が気に入らねえんだよ」
「不満なら、帰ればいいわ」
「帰らねえよ」
スザクが空いている椅子を引いた。
須藤は一度そちらを睨んだ後、乱暴に腰を下ろした。
「別に、お前に言われたから来たんじゃねえからな」
「分かってる」
スザクはそれだけ答えた。
ルルーシュは図書室の入口から、その様子を見ていた。
能力は足りない。
集中力もない。
態度にも問題がある。
だが、残る意思までないわけではないらしい。
「入らないのか?」
隣にいた綾小路が尋ねた。
「お前は?」
「様子を見に来ただけだ」
「そうか」
ルルーシュは図書室へ入った。
机の上には、同じ問題集が並んでいる。
堀北は三人へ、同じ順番で同じ説明を繰り返していた。
須藤は理解できず苛立つ。
池は途中で集中が切れる。
山内は分からない問題を飛ばし、話を逸らそうとする。
全員へ同じ方法を使っている。
それでは続かない。
「何の用?」
堀北がルルーシュを見る。
「このままでは間に合わない」
「見ていただけの人に言われたくないわね」
「だから見ていた」
須藤が顔を上げる。
「何か文句あんのか」
「ある」
ルルーシュは机の問題集を一冊取った。
「全員へ同じ方法を使っている。理解できないのではなく、続けられないやり方を押しつけているだけだ」
堀北の目が細くなる。
「なら、あなたには方法があるの?」
ルルーシュは三人を見る。
須藤は苛立っている。
池は半分諦めている。
山内は隙があれば話を逸らそうとしている。
それでも、全員ここへ戻ってきた。
それで十分だった。
「やり方を変えるぞ」
ルルーシュは問題集を机へ置いた。