反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む 作:evejanjan
男子側の順位が掲示されてから、しばらく後。
男女全ての大グループについて、最終集計が終了した。
生徒たちは再び講堂へ集められる。
前方の画面には、男女それぞれ六つの大グループ順位と、各小グループへ適用される報酬と減点が並んでいた。
男子第一位。
堀北学の大グループ。
男子第二位。
南雲雅の大グループ。
男子第三位。
スザクが所属する大グループ。
先に知らされていた順位が、正式な結果として読み上げられる。
「第一位大グループの所属者には、基本報酬として一万プライベートポイントと三クラスポイントを付与します。第二位は五千プライベートポイントと一クラスポイント。第三位は三千プライベートポイントです」
教員が画面を切り替える。
「クラスポイントについては、小グループの構成クラス数、人数、責任者の所属に応じた倍率を適用します」
一年男子第一小グループ。
責任者、ルルーシュ・ランペルージ。
十二名、四クラス混合。
画面上に計算式が表示された。
一年Dクラスの構成員は四名。
一人あたり十一ポイント。
責任者と同じクラスであるため、最終加点は一人二十二ポイント。
合計、八十八ポイント。
「八十八……?」
池が数字を見上げる。
「俺たちだけで、そんなに入るのか?」
「倍率が重なった結果だ」
ルルーシュは答えた。
「第一位であること。四クラス混合であること。十二人であること。そして、俺と同じクラスの四人が報酬を受けること。その全てが加算されている」
次に、一年男子第二小グループの結果が出る。
責任者、幸村輝彦。
十四名、四クラス混合。
一年Dクラスの三名へ加わるクラスポイントは、合計二十四。
幸村は数字を確認した後、綾小路たちを見る。
「俺たちの小グループも、第二位の結果は残せた」
石崎が鼻を鳴らす。
「お前一人の結果みたいに言うんじゃねえぞ」
「言ってない。だから、俺たちと言った」
以前なら、そこで言い合いが続いていた。
今回は石崎も、それ以上は返さなかった。
男子側の一年Dクラスは、他の小グループの減点を含めて九十一ポイントの増加。
女子側では、上位小グループの加点と下位小グループの減点が合算され、二十二ポイントの減少。
最終増減は、六十九ポイント。
画面に更新後の数値が並ぶ。
一年Aクラス、九百七十九ポイント。
一年Bクラス、六百五十九ポイント。
龍園が所属する一年Cクラス、四百四十五ポイント。
堀北たちの一年Dクラス、四百四十六ポイント。
一ポイント。
それだけの差で、二つのクラスの順位が入れ替わった。
講堂の一年生席がざわめく。
「マジかよ……」
山内が何度も数字を見比べる。
「俺たち、Cクラスになるのか?」
「結果が正式に反映されれば、そうなる」
平田の声にも驚きが残っていた。
須藤は拳を握り、隣の生徒と短く笑う。
その一方で、龍園は騒がなかった。
四百四十五と四百四十六。
数字を一度見た後、興味を失ったように視線を外す。
石崎の方が、龍園よりも長く画面を睨んでいた。
ルルーシュは、八十八という数字だけを見なかった。
一年Dクラス男子全体の九十一。
女子側のマイナス二十二。
責任者を引き受けた者。
高得点を取った者。
下位グループで減点を抑えた者。
全てを合算した結果が、六十九だった。
自分たちの小グループだけで得た昇格ではない。
たった一ポイントの差は、一人の功績として扱える数字ではなかった。
◇
男子側の説明が終わり、女子側の順位へ移る。
第一位から順に、報酬と減点が読み上げられていく。
女子第六位大グループ。
前方の空気が変わった。
第六位に所属する各小グループは、通常の減点だけでなく、学校が設定したボーダーラインの確認を受ける。
一年女子小グループ。
基準以上。
二年女子小グループ。
基準以上。
三年女子小グループ。
画面の表示が、赤へ変わった。
基準未達。
「三年女子小グループ責任者、伊狩桃々香」
名前を呼ばれ、伊狩が立ち上がる。
前日までと変わらない表情だった。
教員は感情を挟まず、規則を読み上げる。
「責任者である伊狩桃々香を、退学対象とします」
講堂のざわめきが大きくなる。
伊狩は反論しなかった。
自分の小グループがボーダーラインを下回ったことも、責任者を引き受けたことも否定しない。
「責任者には、同じ小グループに所属し、公式な個人成績がボーダーラインを下回った生徒から一名を指定する権利があります」
道連れ。
開始前に説明されていた言葉が、初めて現実の名前を求めていた。
「指定を行いますか?」
教員が尋ねる。
伊狩は短く息を吸った。
視線を上げる。
「行います」
「対象者の名前を」
橘は、伊狩を見ていた。
驚いてはいない。
自分の記録がどのように積み上げられていたかを、最後まで確認していた。
だからといって、その名前が実際に選ばれる瞬間へ慣れていたわけではない。
「橘茜さんを指定します」
伊狩の声は震えなかった。
教員が端末を操作する。
橘の個人成績が照合される。
体力測定。
筆記課題。
生活態度。
集団への貢献評価。
補足欄と本人確認の署名。
全項目が画面へ公開されたわけではない。
学校が確認したのは、公式記録上、指定条件を満たしているかどうかだけだった。
「橘茜の公式個人成績は、指定条件を満たしています」
短い確認だった。
「よって、橘茜を退学対象へ追加します」
学が立ち上がる。
「評価資料の再確認を求める」
「すでに行っています」
「本人の補足説明は含まれているのか」
「含まれています。各記録には複数の確認者が存在し、本人の確認署名もあります。計算上の誤りはありません」
「評価の解釈に対する異議は」
「提出可能です。ただし、事実誤認または計算上の誤りが確認されない限り、今回の指定は停止されません」
学は橘を見る。
夕食で、橘が小さく報告した言葉。
多少の摩擦。
自分が合わせれば済む。
今はまだ、そこまでではない。
その全てが、結果の外側へ追いやられていた。
◇
ルルーシュは、教員の回答を聞きながら、これまでに見えていた点をつないだ。
橘の疲労。
三年女子との距離。
南雲が女子側へ向けた視線。
二年生女子との短い連絡。
そして、学校が正式な記録として受理した評価。
虚偽の発言が作られたわけではない。
存在しない失敗が追加されたわけでもない。
橘の説明も、補足としては残されている。
それでも、評価の中心へ置かれた事実だけが、同じ結論を向いていた。
工作を暴けば止められる形ではない。
誰かが南雲の指示を証言したとしても、橘の公式成績そのものが消えるわけではなかった。
制度の外から作った罠ではない。
制度が認める手順だけで、逃げ道を閉じている。
隣で、スザクの手が強く握られた。
「こんなものが、本人の結果だと言えるのか」
声は抑えられていた。
それでも、怒りは隠れていない。
「助けた側が自分の測定を落として、説明すれば命令だと書かれる。それを全部合わせて、本人の責任にするのか」
前へ出ようとはしない。
教員へ詰め寄りもしない。
ここで力を使っても、決定は変わらないと分かっていた。
「成立しているから厄介なんだ」
ルルーシュは前を見たまま答えた。
「不正な数字なら消せる。偽の証言なら崩せる。だが、選ばれた事実の積み重ねは、事実であることだけを理由に残る」
スザクは何も返さなかった。
納得したのではない。
怒りを、行動へ変える場所がまだ見えていなかった。
少し離れた席で、綾小路は南雲を見ていた。
男子側の得点勝負に敗れた時。
南雲は女子側の提出場所を見ていた。
第一位を奪うことが本当の目的なら、あの時点で計画は失敗していたはずだった。
だが、南雲は何も失っていない。
学へ勝つ方法を、得点差だけに限定していなかった。
南雲が見たかったのは、勝者となった学が、自分のクラスと橘のどちらを選ぶか。
その選択だった。
◇
教員が、退学救済措置について説明する。
「退学対象一名につき、二千万プライベートポイントと三百クラスポイントを支払うことで、退学処分を取り消すことができます」
講堂が再びざわめく。
二千万プライベートポイント。
それだけでも、一人や数人で準備できる額ではない。
さらに三百クラスポイント。
一人を残すために、クラス全体の未来を削る条件だった。
橘が学へ向き直る。
「使わないでください」
学は答えない。
「堀北君。三年Aクラスのポイントを、私一人のために使わないでください」
「まだ何も決めていない」
「なら、決める前に聞いてください」
橘は逃げずに学を見る。
「私は受け取りません」
三年Aクラスの生徒たちが息を呑む。
「二千万ポイントだけではありません。三百クラスポイントを失えば、クラス全員の卒業時の順位に影響します。私一人のために、皆の積み重ねを使うべきではありません」
「お前一人で決める問題でもない」
「私が残るための代価なら、私にも拒否する権利があります」
学はすぐに否定しなかった。
橘の意志を、感情的な自己犠牲として切り捨てることもしない。
教員へ向き直る。
「救済申請の期限は」
「退校手続きが開始されるまでです」
「二つの条件は、どちらも必須か」
「はい。二千万プライベートポイントと三百クラスポイントの両方が必要です」
「支払いは、対象者ごとに個別となるのか」
「個別です」
「申請後の撤回は」
「認められません」
学は一つずつ確認する。
橘を救うとも、救わないとも言わない。
決断の前に、失うものと残せるものを正確に把握しようとしていた。
その様子を、南雲は静かに見ていた。
「先輩」
呼びかけに、学が視線だけを向ける。
「得点勝負では、あなたの勝ちです」
「これは、その勝負とは別だ」
「ええ。もちろん」
南雲は否定しなかった。
だからこそ、笑っていた。
男子側で敗れても、学の前には別の選択が残る。
南雲自身は、二位になっただけだった。
退学対象ではない。
生徒会長の座も失っていない。
自分のクラスの未来を、今この場で差し出す必要もなかった。
◇
得点で勝った学が、未来を失う側へ立たされる。
得点で負けた南雲は、何も失っていない。