無差別の技師 〜魔獣に奪われた身体を造り直す〜 作:羊毛ローブ
「ルアンナ。まずは、今回の報酬じゃ」
《
ルアンナが手に取ると、中から硬貨の擦れ合う重い音が響く。
「焔龍騎士団から、確かに預かっておる。確認しておけ」
「ありがとう、ルピナス」
ルアンナが革袋の口を開き、中身を簡単に確認する。
指定依頼を受けたのはルアンナだ。
アンガードとクリスも依頼先へ同行したものの、正式な受領者として報酬を受け取るのは彼女だった。
「金額は合っているわ」
「ならば、その話は終わりじゃ」
そう言ったルピナスだったが、受付台から離れようとはしなかった。
金色の瞳が、ルアンナの身体を静かに見つめている。
「ところで、傷の具合はどうじゃ?」
「傷?」
「リュートに付けられた傷じゃ」
「ああ。もう大丈夫よ」
ルアンナは首に右手を当てる。
その仕草だけを見れば、戦闘の影響が残っているようには見えない。
「大した傷ではなかったし、動かすのにも問題はないわ」
「そういう話をしておるのではない」
ルピナスの声が、僅かに低くなった。
「おい、アンガード」
「婆様」
「お前も充分に――いや、痛いほど分かっておると思うが」
受付台へ片肘をつき、ルピナスは続けた。
「ルアンナは、MAPを装着してから弱くなっておる」
ルアンナの表情から、僅かに笑みが消える。
「正確には、十二年前のあの事件より前と比べれば、圧倒的に弱い。今で精々、全盛期の三割以下じゃ」
「……分かってる」
アンガードは否定しなかった。
否定できるはずもない。
ルアンナの失った四肢を造り、その動きを誰より近くで見続けてきたのは、ほかならぬアンガード自身なのだから。
「俺がMAP技師になった理由の一つも、それだからな」
「ならば聞くが、今回のことをどう見る?」
「今回?」
「リュートじゃ」
ルピナスの声には、隠しきれない苛立ちが混じっていた。
「あの小僧が以前より強くなっておったことは認める。剣の腕も、身体の使い方も、前に見た時とは比べ物にならん」
焔龍騎士団の次期エースとして期待されているという話も、決して大袈裟ではない。
実際、以前のリュートであれば、今のルアンナを傷つけることさえできなかっただろう。
「じゃが、いくら強くなったとはいえ、リュート程度の相手にルアンナが傷を付けられるなど、本来ならあり得ぬ」
「リュート程度というのは、少し言い過ぎじゃない?」
ルアンナが困ったように笑う。
「あの人は十分に強くなってた」
「リュートが強くなったことと、お前が傷を負ったことは別の話じゃ」
ルピナスは即座に切り返した。
「あやつの成長を否定しているわけではない。本来のお前ならば、あの程度の攻撃を受ける前に戦いを終わらせておったと言っておる」
ルアンナは何も答えなかった。
リュートは確かに強くなった。
それでも、本来のルアンナへ届くほどではない。
ルピナスが問題にしているのは、リュートの強さではなく、現在のルアンナの弱さだった。
「アンガード」
「ああ」
促される前から、アンガードには何を求められているのか分かっていた。
「出力が落ち始めている」
「どの程度じゃ?」
「外から見て分かるほどじゃない。普通に生活する分には問題ないし、戦うこともできる」
アンガードはルアンナの右手を取った。
手首を支え、指を一本ずつ動かしていく。
続いて肘を曲げ、肩を回し、動作に僅かな引っ掛かりがないかを確認する。
見た目には、生身の腕と何も変わらない。
指は滑らかに動き、皮膚の下にある構造を意識させるものもなかった。
「ただ、内部の消耗が想定より七倍は早い」
「七倍?」
クリスが聞き返した。
「ああ。本来なら、もっと長く保つように造った。だが、ルアンナが本気で動くたびに、骨格も筋繊維も接合部も、俺が想定した以上の負荷を受けてる」
「私の使い方に問題があるの?」
「違う」
ルアンナの言葉を、アンガードは即座に否定した。
「ルアンナが悪いんじゃない」
アンガードは右腕から手を離す。
「俺の技術が、ルアンナの身体能力についていけてない」
今のMAPは、失った手足の代わりとしては充分に機能している。
歩くことができる。
物を持つことができる。
並の冒険者では相手にならないほどの力で、戦うこともできる。
だが、それだけだった。
「ルアンナが本来の力を出そうとすれば、MAPの方が先に限界を迎える」
「それで、本人も気付かぬうちに力を抑えておるのか」
「ああ。身体がMAPを壊さないように、無意識に出力を落としてる」
「だから全盛期の三割以下、というわけか」
「恐らくな」
ルピナスは腕を組み、しばらくルアンナを見つめた。
「新しいものを造るつもりはあるのか?」
「アレとは別にって事で良いよな?」
「当然じゃ」
「なら、もう動いてる」
「いつの間に?」
ルアンナが驚いたようにアンガードを見る。
「ずっとだよ」
「私には何も言っていなかったでしょう?」
「材料も揃ってないのに言ってどうする」
「相談くらいはしてくれてもいいじゃない」
「造れるかどうかも分からないものを、先に期待させたくなかった」
ルアンナは何かを言い返そうとして、結局その言葉を飲み込んだ。
「それで、今はどこまで進んでおる?」
「新作の骨格に使う合金を、腕の立つ鍛冶師に頼んである。今日、それが狙いどおりに仕上がったか確認しに行く」
「自分では造らんのか?」
「造れないわけじゃない」
アンガードは答えた。
「ただ、あの合金は配合から仕上げまで付きっきりになる。その間、ほかのMAPの製作も整備も、ほとんどできなくなる」
「それで、代わりに任せられる鍛冶師を探しておったのか」
「ああ」
合金の知識も、それを形にする技術もアンガードにはある。
だが、一つの仕事へ時間を取られ、その間にほかの依頼や研究がすべて止まってしまうのでは効率が悪い。
だからこそ、自分の指定した配合を正確に再現できる鍛冶師を必要としていた。
「その鍛冶師に、心当たりができたということじゃな」
「ああ」
「合金が完成しておれば、新しいMAPを造れるのか?」
「まだ足りない」
アンガードは静かに答えた。
「合金が狙いどおりなら、残る条件はメタルライガーの牙と、後脚の筋繊維だ」
◯
ドゥーガの鍛冶場から、規則正しい金属音が響いていた。
赤熱した鉄へ槌が振り下ろされるたび、橙色の火花が薄暗い作業場を照らす。
長い鉄鋏を握っているのは、かつて魔獣に食い千切られたはずの左手だった。
五本の指で柄をしっかりと挟み、焼けた鉄を固定する。
右手に握った槌が、その中心を正確に打ち抜いた。
「随分と馴染んだな」
鍛冶場の入口に立ったアンガードが言うと、ドゥーガは振り下ろしかけていた槌を止めた。
「誰かと思えば、お前か」
「腕の確認も兼ねて来た」
「なら見て分からねぇか?」
ドゥーガは再び槌を振り下ろす。
打ち付けられた鉄から、激しく火花が散った。
「絶好調だ」
「自分で言うな。こっちで調べる」
「相変わらず愛想のねぇ奴だな」
口では不満を漏らしながらも、ドゥーガは作業を中断した。
熱した鉄を水へ入れると、白い蒸気が一気に立ち上る。
「前に会った時より、随分と自然に動かせるようになっているわね」
ルアンナが、ドゥーガの左腕を見ながら言った。
「ああ。もう前の時と同じか、それ以上に動けてるよ」
「痛みや痺れは?」
「ない」
「熱が籠もる感覚は」
「それもねぇ」
「指先の感覚は?」
「細い針金でも掴める。力加減を間違えて潰すこともなくなった」
アンガードはドゥーガの左腕へ触れ、関節と受容基部の状態を順番に確認した。
異常な熱はない。
接合部の腫れもなく、動作信号の遅れもほとんど感じられない。
装着当初に残っていた動作の硬さも、今では消えていた。
「問題ないな」
「だから言っただろ。絶好調だってな」
「調子がいいからって、無茶はするなよ」
「俺は鍛冶師だぞ。槌を振るなって言うつもりか?」
「壊すなって言ってる」
「壊れねぇ腕を造った奴が、それを言うのか?」
「壊れないように造っただけで、壊していいとは言ってない」
アンガードの返答に、ドゥーガは声を上げて笑った。
「安心しろ。大事に使ってる」
その言葉とは裏腹に、左の掌には煤や鉄粉がこびり付いている。
だが、ドゥーガにとっては、これこそが腕を大切に使っている証拠なのだろう。
飾って眺めるための腕ではない。
もう一度、槌を振るために造られた腕なのだから。
「仕事の方はいかがですか?」
クリスが尋ねる。
「悪くねぇよ。前より依頼は減ったが、食っていくには困らん」
「依頼が減ったのですか?」
「俺が断ってるからな」
ドゥーガは新しい左手を開き、その掌を眺めた。
「腕を失った時に俺を見限った連中から、また仕事を受けるつもりはねぇ」
「もう一度、依頼してきたの?」
ルアンナが尋ねた。
「ああ。腕がなくなった時には、もう剣は打てないだの、納期を守れない鍛冶師には任せられないだの、好き勝手言いやがった連中がな」
ドゥーガは鼻を鳴らす。
「こいつを付けて、また槌を振れるようになったと知った途端、以前と同じように依頼を受けてくれだとよ」
「それを、すべて断ったのですか?」
「当たり前だろ」
迷いのない返答だった。
「向こうが先に俺を切ったんだ。だったら俺がそいつらを見限ったところで、何も悪くねぇ」
怒りがないと言えば、嘘になるのだろう。
それでも、ドゥーガの表情には、以前のような行き場のない絶望は残っていなかった。
「別にいいだろ」
ドゥーガは左手を握り締める。
「こんな奇跡みてぇな腕を造ってもらって、また好きなだけ槌を振れるようになったんだ」
新しい拳を見つめながら、ドゥーガは笑った。
「今さら、俺を捨てた連中に仕事を回してもらう必要もねぇ。頼みたい奴だけが、俺のところへ来ればいい」
「奇跡じゃない」
アンガードが言った。
「造るために必要なものを集めて、必要な形に組み上げただけだ」
「それを奇跡って言うんじゃねぇのか?」
「言わない」
「そうかよ」
ドゥーガは楽しそうに笑う。
失った左腕を取り戻したことで、以前とまったく同じ生活へ戻ったわけではない。
仕事を失い、自分を見限った者たちがいたという事実も消えない。
それでもドゥーガは、もう見限られる側ではなかった。
今度は自分が、誰のために槌を振るうのかを選んでいる。
「それより、頼まれてたものは出来てるぞ」
ドゥーガは作業場の奥へ向かい、一本の金属塊を持って戻ってきた。
黒に近い、鈍い銀色。
表面に派手な光沢はないが、持ち上げる動作から、見た目以上の重さがあることが分かる。
アンガードは金属塊を受け取った。
指先で表面をなぞり、軽く叩いて返ってくる音を聞く。
端へ器具を当てて僅かに削り、剥がれた粉の状態を確かめた。
「どうだ?」
ドゥーガが尋ねる。
アンガードはしばらく金属塊を調べた後、短く答えた。
「完璧だ」
「誰に頼んだと思ってやがる」
ドゥーガは満足そうに胸を張った。
「強度を上げすぎれば、衝撃を受けた時に割れる。粘りを残しすぎれば、今度はルアンナの出力に耐えられない」
アンガードは金属塊を持ち上げる。
「この配合なら、強度を保ちながら衝撃も逃がせる。骨格と主要な接合部に使える」
「それが、新しい私の手足になるの?」
「ああ」
ルアンナが金属塊を覗き込んだ。
「これで造れるの?」
「まだ足りない」
アンガードは金属塊を布で包み、鞄へ収めた。
「残りは、メタルライガーの牙と後脚の筋繊維だ」
「牙と筋繊維?」
「牙を補強材として使えば、この合金を細くしても必要な強度を維持できる。後脚の筋繊維は、瞬間的な出力へ追従するために必要だ」
ブレイドライガーは、強靭な後脚で地面を蹴り、一瞬で獲物との距離を詰める。
その突然変異個体であるメタルライガーの筋繊維ならば、ルアンナの爆発的な踏み込みにも耐えられる可能性がある。
「その二つが揃えば、新しいMAPを造れるのですか?」
クリスの問いに、アンガードが答える。
「設計を完成させる条件は揃う」
素材が手に入ったからといって、すぐに完成するわけではない。
適合性を調べ、構造を決め、ルアンナの身体に合わせて何度も調整する必要がある。
それでも、今まで足りなかった最後の条件へ手が届く。
「だが、メタルライガーなんて都合よく見つかるのか?」
ドゥーガが腕を組む。
「だから、ここへ来た」
「俺の腕と合金の確認に来たんじゃねぇのか?」
「それも目的だ」
アンガードは鍛冶場の外へ目を向けた。
その先には、ブレイドライガーの生息する深い森が広がっている。
「メタルライガーは、ブレイドライガーから生まれる突然変異個体だ。この森にブレイドライガーがいることは、最初から知ってた」
「まさか、最初からこの森で探すつもりだったのか?」
「ああ」
アンガードは短く頷く。
「だから、合金もお前に頼んだ」
「俺に?」
「俺でも作れないわけじゃない。だが、配合から仕上げまで付きっきりになれば、ほかの作業がほとんど止まる」
MAPの製作。
装着者の経過確認。
既存のMAPの整備。
新たな素材や構造の研究。
一つの合金だけに時間を費やせば、そのすべてが滞ってしまう。
「指定した配合を任せられる腕の鍛冶師が必要だった。それに、お前の鍛冶場はブレイドライガーの生息地に近い」
「つまり、腕が良くて、森にも近い俺が都合良かったってことか?」
「そうだ」
「もう少し言い方があるだろうが」
「任せられる腕がなければ、最初から頼んでない」
アンガードが当然のように答える。
ドゥーガは一瞬黙り込み、それから僅かに口元を緩めた。
「……そうかよ」
メタルライガーが本当にこの森にいるという確証はない。
だが、闇雲に各地を探すより、元となるブレイドライガーが多数生息する場所を探す方が可能性は高い。
アンガードはドゥーガへ合金を依頼した時点から、完成品の確認と同時に、この森で最後の素材を探すつもりだった。
「とはいえ、あいつら一頭でも普通の人間には充分危険だぞ」
「分かってる」
「分かってる奴の返事じゃねぇな」
ドゥーガが呆れたように息を吐いた、その時だった。
「それなら、見たよ」
鍛冶場の中に、幼い声が響いた。
クリスが即座に振り返る。
「誰です?」
「私」
積み上げられた木箱の陰から、ミラが顔を覗かせた。
「あの子がミラですか?」
クリスが目を見開く。
「いつから、そこに?」
「ずっと」
「ずっと……?」
クリスは木箱の周囲へ視線を巡らせた。
鍛冶場へ入ってから、周囲の気配には注意を払っていた。
それにもかかわらず、すぐ近くに隠れていたミラの存在へ、まったく気づけなかった。
「さっきまで、かくれんぼをしてたの」
ミラは木箱の陰から出ると、服に付いた土を払った。
「みんなが帰った後も、まだ隠れてた」
「かくれんぼは、見つけてもらわなければ終わらないのでは?」
「最後まで見つからなかったから、ミラの勝ち」
「そういうものなのでしょうか……」
クリスは僅かに困惑しながら、ミラの足元を見た。
普通に歩いているだけなのに、ほとんど足音がしない。
気配を消そうと意識している様子もなかった。
「なるほど」
「やっぱり分かりましたか?」
「ええ。ですが、訓練だけで身につけられる隠れ方ではありませんね」
クリスがドゥーガへ目を向ける。
「ドゥーガ様は人族ですから、ミラ様のお母様が龍人族なのですか?」
「ああ。嫁は土龍族だ」
「土龍族……」
「土や岩へ馴染む性質が強い種族らしくてな。ミラの隠れるのが上手いのも、嫁から受け継いだもんだ」
ドゥーガはミラの頭へ左手を置いた。
「だから、しっかり伸ばしてやろうと思って教えたんだがな」
「その結果が、アンガード様たちへの尾行ですか」
「言うな」
クリスの指摘に、ドゥーガは苦い顔をした。
「ミラの隠密は、嫁から受け取った個性だからな。きちんと育ててやらねぇと、と思ってたらこの様だ」
「父さんが教えてくれたから、アンガードのところまで行けた」
「胸を張るな」
ドゥーガはミラの頭を軽く押さえた。
「ところで、お母様はどちらに?」
クリスの問いに、ミラが足元を指差す。
「土の中」
クリスは、ミラが指した床を見つめた。
「……土の中?」
「母さんは、土の中からミラを見守ってくれてるの」
ミラは何の疑いもなく、そう答えた。
クリスがしばらく沈黙した後、ゆっくりとドゥーガを見る。
「それは普通の人が聞けば、亡くなっていると勘違いしませんか?」
「実際、ミラも勘違いしてるぞ」
アンガードが答えた。
「しているのですか?」
「俺とルアンナも、それとなく違うって伝えようとしたんだがな。励まされてると思ったらしい」
「なぜ、はっきりと教えて差し上げないのです?」
「それは親父の仕事だろ」
「お前も余計なことを言うんじゃねぇ」
ドゥーガがアンガードを睨む。
「土龍族は一度子供を産むと、出産で失った力を取り戻すために、十年ほど土の中で眠るんだ」
「十年もですか?」
「ああ」
「ミラちゃんは、今年でおいくつに?」
「十歳」
クリスはすべてを察したように、小さく息を吐いた。
「……つまり、そろそろ奥様が目を覚ますので、その時に説明すればよいと」
「本人が土から出てくれば、嫌でも分かるだろ」
「問題を先延ばしにしているだけでは?」
「うるせぇな」
ドゥーガが顔を背ける。
ミラだけは会話の意味が分からず、不思議そうに三人を見比べていた。
「それより」
ミラがアンガードの服を引く。
「さっき言ってた、メタルライガーって、身体が銀色の大きいやつ?」
アンガードの表情が変わった。
「見たのか?」
「うん」
「どこで見た?」
「森の中」
「いつだ?」
「二日前位かなぁ」
「どんな姿だった?」
「いつものブレイドライガーより大きかったよ。毛が鉄みたいに光ってて、木の横を通った時に、剣を擦ったみたいな音がした」
アンガードはルアンナとクリスを見る。
通常より大きな体躯。
金属のように光る体毛。
木へ触れた際に響いた、刃物の擦れるような音。
それだけで断定はできない。
だが、メタルライガーである可能性は高かった。
「森のどの辺りだ?」
「大きな岩が、いっぱい重なってる場所の近く」
ミラは鍛冶場の外へ出ると、森の奥を指差した。
「あっち」
アンガードが鞄を持ち直す。
その様子を見て、ミラが言った。
「ミラが案内する」
「駄目だ」
ドゥーガが即座に却下した。
「どうして?」
「どうしても何もあるか。お前が見たのが本当にメタルライガーなら、子供が近づいていい相手じゃねぇ」
「でも、場所を知ってるのはミラだけだよ」
「口で教えろ」
「森の中は、似た木ばっかりだから説明だけじゃ分からないと思う」
「それでも駄目だ」
ドゥーガの声は強かった。
ミラは頬を膨らませる。
「隠れるのは上手だもん」
「見つからなければ安全ってわけじゃねぇんだぞ」
「大丈夫よ」
ルアンナが二人の会話へ入った。
「私たちが必ず守るわ」
「そういう問題じゃ――」
ドゥーガは言いかけて、ルアンナ、クリス、そしてアンガードを順番に見た。
《天狼の寝床》の二番手であるルアンナ。
そして、娘が助けを求めて辿り着き、失った自分の左腕を取り戻してくれた技師。
しばらく黙り込んだ後、ドゥーガは深く息を吐いた。
「……いや」
頭を掻きながら、ミラを見る。
「アンタ等が一緒なら、大丈夫か」
「父さん?」
「ただし、ミラが見た場所までだ。それより奥へは連れていくな」
「分かった」
「危険だと思ったら、すぐに戻せ。素材だか何だか知らねぇが、娘より優先するんじゃねぇぞ」
アンガードはドゥーガの目を見て、短く頷いた。
「ああ」
ドゥーガはもう一度ミラの頭へ左手を置いた。
その手で娘の髪を撫でてから、アンガードたちへ向き直る。
「娘のことを頼むぞ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
物語や登場人物について、印象に残った場面や気になった点などがありましたら、一言でも感想をいただけると嬉しいです。
今後の執筆や改善の参考にさせていただきます。