あの子だけ先生との距離感がおかしい!! 作:炊き込みご飯くん
名前
性別
男性(キヴォトス唯一の男子生徒)
年齢
16歳(高校1年生)
所属校
ミレニアムサイエンススクール
所属部
基本は無所属。
放課後は自由にシャーレへ足を運ぶ。
白峰ユウが男だと知っているのは、キヴォトスで多分、私一人だけだ。
少なくとも、今のところは。
どうしてそんなことになったのかと聞かれれば、こちらとしては非常に答えづらい。本人から打ち明けられたわけでも、何か深刻な秘密を託されたわけでもなく、単純に私が着替えを覗いてしまったからだ。
もちろん、故意ではない。
シャーレへ来て間もない頃、頼まれていた資料を届けるためにミレニアムサイエンススクールの空き教室を訪ねたところ、中に誰もいないと思って扉を開けてしまった。その時、ちょうど制服を着替えていたユウと目が合った。
あの瞬間のことは、今でもよく覚えている。
私の頭の中にあったのは、女子生徒の着替えを見てしまったという絶望だけだった。
「ごめん!!」
反射的に扉を閉め、廊下で頭を下げた。扉を挟んでいるので、頭を下げたところで本人には見えないのだが、そんなことを考える余裕もなかった。
「本当にごめん! 誰もいないと思って...いや、確認しなかった私が悪い! 今のは忘れるから!」
返事はなかった。
怒っているのかもしれない。当然だ。着任早々、生徒の着替えを覗く先生など信用できるはずがない。
このままでは連邦生徒会へ報告される。いや、報告されるべきだろう。辞表はどこへ出せばいいのだろうか。そもそも私は正式な職員という扱いなのか。そんな現実逃避に近いことを考えていると、少しして扉が開いた。
制服へ着替え終えたユウが、廊下で小さく首を傾げていた。
「先生、どうされたんですか?」
「どうされたって...今、着替えてた、よね?」
「はい」
「それを見てしまったんだけど」
「そうですね」
ユウは穏やかに頷いた。怒っている様子も、恥ずかしがっている様子もない。あまりにも普通の反応だったので、私の方が不安になった。
「本当にごめん。嫌だったよね?」
「いえ、別に」
「別に?」
「僕は男ですし、何の問題もないのではないですか?」
その言葉を理解するまで、しばらく時間がかかった。
聞き間違いだと思った。
疲れているのかもしれないとも思った。着任したばかりで仕事量も多く、あの頃から既に睡眠時間は足りていなかった。
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「僕は男です」
ユウは先ほどと変わらない口調で答えた。
「男?」
「はい」
「君が?」
「はい」
「白峰ユウが?」
「僕以外に誰かいますか?というか、僕のことご存じだったんですね」
目と耳を同時に疑った、目の前にいるのは、どう見ても女子生徒だった。
肩へ届く柔らかな髪に、長いまつ毛と整った顔立ち。声も高く、制服姿に違和感は一切ない。男だと教えられた後でも、こちらが冗談を言われているのではないかと疑ったほどだ。
確かに...確かに目を凝らしてみれば、少しだけそう思えなくもないかも、という程度だ。結局、教えられないままに見破ることは、不可能だろう。
本人の許可を得た上で記録を確認し、私はようやく事実を受け入れた。
キヴォトスには、一人だけ男子生徒がいる。
しかも、その男子生徒は誰が見ても女子にしか見えず、周囲も完全に女子だと思い込んでいるようだ。
そして本人は、特にそれを訂正していない。
「どうして言わないの?」
そう尋ねた私に、ユウは不思議そうな顔をした。
「聞かれたことがありませんので」
嘘をついているわけではない。隠そうとしているわけでもない。ただ誰も尋ねないので答えていない。
理屈としては分かるのだが、それでここまで誤解が広がるものだろうか。
それからしばらくして、私はもう一つ疑問を口にした。
「そういえば、どうして女装してるの?」
聞き方を間違えたかもしれないと思ったものの、ユウは気を悪くすることもなく、少しだけ考えてから答えた。
「好きだからですよ」
「好きだから?」
「可愛いものが好きなんです。見るのも好きですが、自分で身につけた方が、形や色の組み合わせをより深く楽しめますので」
あまりに真っ直ぐな答えだった。
「それに、僕は可愛いですから。可愛いものが好きな僕は、可愛い僕をもっと可愛くする。合理的ですね」
私は思わず笑ってしまった。そこに後ろめたさも、誰かへ媚びるような意図もなかった。ユウにとって服や化粧は、絵を描いたり楽器を演奏したりすることと変わらないのだろう。
その日から、私はユウの趣味について時々意見を求められるようになった。
最初は簡単なものだった。
どちらのリボンが似合うか。髪型は下ろした方がいいか、まとめた方がいいか。服の色に対して、小物の色が強すぎないか。
私に専門知識があったわけではないが、真剣に聞かれれば、こちらも真剣に考えるようになる。ユウは曖昧な褒め方より、具体的な感想を喜んだ。
そうしているうちに、いつの間にか新しい衣装が完成すると、最初にシャーレへ見せに来るようになっていた。
「先生」
書類の山へ視線を落としていた私は、聞き慣れた声に顔を上げた。
扉の前に立つユウは、いつもの制服姿だった。片手には大きめの紙袋を提げており、それを見ただけで用件が分かる。
「完成した!?」
「はい。お時間はありますか?」
「あるある」
本当はなかった。
机には今日中に確認しなければならない書類が積まれ、端末には未読の連絡が並んでいる。しかし数分程度なら問題ないだろう。恐らく。
「では、着替えてきます」
「楽しみにしてる」
ユウが隣室へ向かうのを見送り、私は机の上を片付け始めた。少なくとも、服の裾が書類へ引っかからない程度の空間は作っておきたい。
しばらくして、扉が静かに開いた。
「お待たせしました」
入ってきたユウを見た瞬間、思わず椅子から立ち上がった。
淡い桃色を基調にしたワンピースで、肩には白い布が重なり、胸元には大きなリボンが結ばれている。裾へ向かうにつれて色が少しずつ薄くなっており、歩くたびに重なった布が柔らかく揺れた。
「おぉ...!」
「今回は春を意識しました」
「いい! すごくいい!」
近くまで歩み寄り、私はユウの周りを一周した。通常、男子が女子の服装をここまで近くで観察することには抵抗があるのかもしれないが、ユウが相手ならば気にする必要はないだろう。
「後ろも凝ってるね。このリボン、前に使ってたやつ?」
「いいえ。似ていますが、生地を少し柔らかいものへ変えています」
「本当だ。前のより自然に垂れてる」
「気付いていただけましたか」
ユウの表情が、ほんの少しだけ明るくなる。
普段から穏やかなので変化は分かりにくいが、細部へ気付くと露骨に機嫌が良くなる。作品を褒められた職人のようなものなのだろう。
「髪も変えた?」
「毛先を少し巻きました。衣装が柔らかい印象なので、直線的な髪型では硬く見えるかと思いまして」
「似合ってるよ。すごく可愛い」
「ありがとうございます」
ユウは満足そうに頷いた後、少し離れた場所に立った。
「今回も、見せ方を考えてみましたよ」
「ほんとに!?」
「はい。やはり衣装は着るだけでは、魅力を十分に伝えられません。適切なポージングは、可愛さを爆発的に増大させます」
そう言ってユウは片足を後ろへ引き、腰へ手を添えた。顔は少し横へ向けつつ、視線だけはこちらへ戻す。
雑誌で見るような、完成された立ち方だった。
「こちらはいかがでしょう」
「いいね! 裾が綺麗に見える!」
「やはり、少し身体を斜めへ向けた方が良さそうですね」
「正面だとリボンが目立つけど、こっちは全体の形が分かりやすいな」
「では、こちらはどうでしょう」
今度は両手を背中側で組み、少しだけ前かがみになる。こちらを覗き込むような角度になり、長い髪が肩から流れた。
「可愛い!」
「先ほどよりもですか?」
「方向性が違う! さっきは衣装の可愛いさが際立ったけど、今のは仕草まで含めて可愛いね!」
「なるほど」
ユウは真剣な顔で頷き、元の姿勢へ戻った。
その時、胸元のリボンが少し傾いていることに気付いた。
「ちょっと待って。リボン曲がってる」
「本当ですか?」
「直すよ」
正面へ回り、リボンの端を軽く引く。結び目が中央へ来るよう整えている間も、ユウは動かなかった。
「これでいいかな」
「ありがとうございます」
「うん。やっぱりこっちの方が...」
背後で、何かが落ちる音がした。
振り返ると、シャーレの入り口にセリナが立っていた。床には救急箱が落ちており、蓋の隙間から包帯が少し飛び出している。
「セリナ?」
声をかけても返事がない。
普段と変わらない優しい笑顔を浮かべているはずなのに、なぜか部屋の温度が下がったような気がした。
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ」
セリナは静かに救急箱を拾い上げた。
「先生がここ数日、まともに眠っていないと伺いましたので、様子を見に来ただけです」
「そ、そうだっけ?」
「はい、顔色も悪いですし」
言葉へ妙な圧がある。
確かに眠ってはいないが、仕事はできている。今もユウの衣装について、かなり的確な意見を出せていたはずだ。
「大丈夫だよ。まだ元気だから」
「そうですか」
セリナの視線が、私からユウへ移った。
「そちらの方は?」
「白峰ユウです。初めまして」
ユウが丁寧に頭を下げると、セリナも笑顔のまま会釈を返した。
「初めまして。トリニティ総合学園、救護騎士団の鷲見セリナです」
「救護騎士団...」
ユウの目が、セリナの服へ向けられる。
その視線は胸元から袖、腰回り、スカートの裾へとゆっくり移動し、最後に救急箱の意匠へ止まった。
「なるほど」
小さく呟いたユウの横顔を見て、私は予感を覚えた。
この顔は、新しい着想を得た時の顔だ。
「どうしたの?」
「いえ、セリナさんの衣装を見ていました」
「私の?」
「はい。医療従事者としての実用性を保ちながら、清潔感と可愛らしさが両立されています。装飾も過剰ではありませんし、色の配分も綺麗ですね」
突然細かく褒められ、セリナがわずかに目を瞬かせた。
「ありがとうございます」
「実物を間近で見ると、参考になる部分が多いです」
ユウは顎へ指を添え、セリナの服をもう一度眺めた。
「これは、ありですね」
「あり?」
セリナと私の声が重なる。
「次はナース服を作ってみようかと思います」
「いいね!」
思わず声が大きくなった。
本職の服を参考にするなら、これまでより現実的なデザインになる。ユウが作る以上、ただ模倣するだけでは終わらないだろう。
「ユウなら絶対似合うよ!」
「ありがとうございます。先生は、どのような形がお好みですか?」
「そうだなぁ。セリナみたいな本格的な感じもいいけど、少し装飾が多い方がユウらしいかな」
「では、基本的な形は崩さず、袖や帽子へ少し手を加えてみます」
「スカートは?」
「動きやすさを考えるなら、膝丈が適切かと」
「でも見せるための衣装なら、もう少し短くてもいいんじゃない?」
「なるほど。用途を限定すれば問題ありませんね」
「絶対可愛い! 完成したら一番に見せて!」
「もちろんです」
そこでようやく、私たちはセリナが黙っていることに気付いた。
彼女は救急箱を両手で抱え、先ほどと同じ笑顔を浮かべていた。ただし、その目は全く笑っていない。
「先生」
「はい」
なぜか背筋が伸びた。
「少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「診察?」
「ええ。まずは先生の健康状態について、詳しくお話を伺いたいと思います」
「だから元気だって」
「満足に睡眠を取らず、女子生徒の衣装について、スカートの丈まで熱心に相談されている状態を、私は健康とは判断できません」
「いや、これはそういうんじゃなくて」
「そういう、とは?」
笑顔のまま聞き返され、私は口を閉じた。
何と説明すればいいのだろう。
ユウが男だから問題ないと言えば、本人の秘密を勝手に明かすことになる。いや、秘密にしているわけじゃないようだけど、とにかく本人の同意なしに話すべきじゃないだろう。
趣味の相談をしていただけだと言っても、目の前でリボンを直していた場面を見られている。
助けを求めてユウを見ると、本人は少し考えた後、穏やかに口を開いた。
「先生は、僕の衣装へ真剣に意見をくださっていただけですよ」
「毎回ですか?」
「新作が完成した時には可能な限り」
セリナの笑顔が、わずかに深くなった。
「新作が完成するたびに、一番最初に先生へ見せに来るんですか?」
「そうですね」
「先生も、それを楽しみにされていると」
「とても喜んでくださいます」
ユウ。
助け舟をありがとう。求めた手前申し訳ないけど、やっぱり今は黙っていてほしいかもしれない。
「先生」
セリナが一歩近付く。
「詳しいお話は、診察室で伺いましょう」
「し、シャーレに診察室はないよ?」
「今から用意します」
穏やかな声だった。意味が分からない。
それなのに、断ってはいけない気がした。
セリナは私の腕を取り、そのまま部屋の外へ連れていこうとする。
「ちょっと待って。まだ仕事が」
「先生の健康より大切な仕事はありません」
「ユウの感想もまだ途中で」
「白峰さん」
セリナが振り返る。
「衣装が完成しましたら、私にも見せていただけますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ。看護師として、医療を題材にした衣装が適切なものか、しっかり確認させていただきます」
「助かります」
ユウは素直に頭を下げた。
セリナは満足そうに頷くと、再び私の腕を引いた。
「それでは先生、参りましょう」
「どこへ?」
「先生が、普段どのように白峰さんの衣装を確認されているのか、落ち着いて伺える場所です」
背後で扉が閉まる直前、ユウの声が聞こえた。
「先生」
「何?」
「ナース服は、少し大胆な形にしてみますね」
セリナの指へ、僅かに力がこもった。
「先生」
「はい」
「診察項目を、いくつか追加しますね」
どうやら今日も、仕事には戻れそうになかった。
評価してくださること自体に多大なる感謝を伝えたいのは一旦置いておいてですね。
5未満の評価をつける人には、どこが悪かったのかを教えて欲しいなぁとは感じるんですね。
というわけで、評価の際にコメント出来るようにしてみました!
最初からしとけ!って感じですがね。
いやはや、やはり悪かった点がどこが分からないと、何をどう修正するべきかが判断出来ないと言いますか。
目指すべきは最大多数の最大幸福と言いますか。
もしこの作品はクソッ!と罵りたい方は好き放題書いちゃってください。参考にしますさせてください。
あぁただ、曇らせが嫌いだからという理由で低い評価をつけるのだとしたら、僕は爆散しますね。
曇らせについて
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肯定派
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否定派