少しずつながら書いてみようと思いました。
―――立華高校、この学校についてはとにかくマーチングで国際的にも超有名な高校ということしか知らない。偶然ネットの動画を観てこの学校を知った。まだ4月に入ったばかりだが強豪校なら春休みの朝でも練習してるだろうと思いジャージ姿で走って来た。とりあえず吹奏楽部がマーチングの練習やってそうな場所を探した。グラウンド…陸上部、サッカー部。体育館…バレー部とバスケ部。だがどこからか女子たちの大声が聞こえてくる。音源を探りながら走った。ここは…校舎裏…でいいのだろうか。先輩らしき女子の指導の下、ジャージ姿の女子たちがひたすら行進練習している。駆け寄る。先輩らしき女子も俺の存在に気付いたようで驚くような仕草を見せる。
「おはようございます。お邪魔して申し訳ございません。吹奏楽部の方でお間違いないでしょうか。」
「あ、うん。君は…新入生?」
「はい、まだ入学もしていませんが吹奏楽部に入りたいのですが許可をいただけませんか?」
「ちょっと待ってて。部長に報告するから。1年生は練習続けて!」
「「「「「はい‼」」」」」
しばらく待つことになりそうだ。端に寄って準備体操と柔軟体操をこなす。黙々とやっていると部長らしき人が先程の先輩と一緒にやってきた。立ち上がる。お辞儀する。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「私は立華高校吹奏楽部36代目部長、森岡翔子です。貴方は経験者?」
「初心者のド素人です。」
「物凄い体格してるけどバレー部やサッカー部に入ろうと思わなかったの? どうして吹奏楽部に?」
「インターネットで観た動画で立華高校のマーチングを拝見して興味を持ちました。後は…好きな曲を思いっきり吹きたいという想いです。運動部は考えつきもしませんでした。」
「……ちなみに身長と体重は?」
「197㎝、109㎏です。」
「……本当に吹奏楽部でいいの?」
「はい。」
「それじゃあ後ろのみんなと一緒に歩幅を覚えることから始めて。」
「わかりました。」
「じゃ、後はよろしく。杏奈。」
「はい! じゃあ説明するね。」
先輩についていく。
「この白線と白線に爪先が揃うように歩いて。1歩62.5㎝、8歩で5m、通称ゴメハね。両手を合わせて口元まで上げて…背筋は…そう、真っすぐに。目線は常に真っすぐ、視線も手も下げないように。一番後ろからついていって。はい、スタート!」
延々と繰り返した。歩幅など今まで気にしたことも無かったので合わせるのに苦労した。ようやく慣れるころには日が沈みかけていた。
「君、飲みこみ早いし凄い運動量だね⁉全然疲れてないように見えるけど中学は何やってたの⁉」
「帰宅部です。でも学校から帰ってから着替えて外に出て運動しまくる日々を過ごしました。」
「運動ってどんなの?」
「そうですね…川の土手の端から端まで全力で息が上がるまで走ってもう限界だってくらい息が上がるまで走りまくってから、スクワット3000回、腹筋運動500回、コンクリートの上で拳立て500回、指立伏せ100回やってました。でも最近は成長したようなのでスクワット4000回、腹筋運動1000回、拳立て1000回、指立伏せ200回にしました。」
「そ、そうなんだ…⁉ パンツ1枚姿を見たいって頼んだら見せてくれる?」
「はい。」
ジャージもTシャツも脱いでパンツ1枚姿になる。
「「「「「おー⁉」」」」」
先輩も含めて1年生らしき皆さんから歓声が起きる。
「凄い⁉ 凄すぎる⁉ そして美しい⁉」
「両腕も凄い…⁉ 私の首より太いよ…⁉」
「太ももも丸太みたいに太い…⁉」
「素手で人殺せるよ絶対…⁉」
といった言葉をいただいた。何だか恥ずかしくなってきた。
「あの…これって傷跡…? 上半身にいっぱいあるけど…? 背中にもいっぱい…。」
「まあ…ちょっとありまして。」
「そう…。君さえ良ければ明日も来てくれるかな? 時間は朝8時から。」
「わかりました。参加させていただきます。よろしくお願いします。」
「うん! よろしく! それじゃあ今日は終わり! 解散!」
「「「「「ありがとうございました‼」」」」」
「ありがとうございました。失礼します。」
一礼して走り去る。走り去ったはいいものの迷ってしまった。どうにかグラウンド前には辿り着いた。方向に自信がない。周囲を見渡していると
「おーい! 待って!」
背後から女子の声が聞こえる。振り向く。ドキッとした。彼女以上にポニーテールが似合う女子がいるのかっていうくらいの可愛らしい女子だった。見惚れてしまった。俺はポニテ美人に弱い。胸の主張が激しい。お尻はどうなのか気になったがジロジロ見るのも変質者だと誤解されかねないので考えるは止めた。
「君…走るの早いね⁉ あっという間にいなくなっちゃったからビックリしたよ⁉」
「恥ずかしい話ですが、正門はどちらですか? 迷ってしまいました。」
「こっちだよ! 行こう!」
彼女のペースに合わせて走った。正門までついた。
「ありがとうございました。それではまた明日。」
走り去ろうとした。
「えっ⁉ ちょっと待って⁉ もしかして走ってここまで来たの⁉ 家はどこ⁉」
「そうですね…電車で何駅か過ぎたところにあるボロアパートです。」
「独り暮らし?」
「はい。」
「どこからか引っ越してきたの?」
「横浜から来ました。」
「どうして立華に来たの?」
「ネットで動画観て興味持ったのと心機一転を図ってですね。後、家追い出されたので。」
「えっ⁉ 何で⁉」
「うーん…あまり話したくないというか思い出したくないというか…まあそんな感じです。」
「そうなんだ…体中の傷と関係あるの?」
「関係あるような…そうでもないような…まあそんな感じです。もういいですか?」
「うん…。」
「それではまた明日。」
一礼して今度こそ走り去った。帰り道も迷ったがどうにか着いた。飲む物飲んで部屋を出る。フラフラになるまで体を追い込んだ。後始末諸々を終えて布団に入った。ポニーテールの女子を思い浮かべた。すぐに眠れた。
早朝、目が覚める。髪をバリカンで刈って髭と眉を剃って気合いを入れる。洗髪と歯磨き洗顔を済ませて飲む物飲んでジャージに着替えて部屋を出る。学校についたが早く来すぎた。体育館を覗く。まだ誰もいない。倉庫に入る。バーベルを見つけた。テンションが上がった。体を解して試す。軽すぎる。床に置いてあるプレートを片っ端から嵌める。バーも含めて100㎏以上にはなっただろうか。試す。まだ物足りない。見渡すがもうどこにもプレートはない。体育館内から声がする。聞いてみることにした。
「おはようございます。すみません、バーベルのプレートは倉庫内にあるもので全部ですか?」
「そうだと思うけど…えっ⁉ もしかして全部付けちゃったの⁉ それでも足りない⁉」
「はい。」
「ちょっとやって見せてもらっていい⁉」
「はい。」
倉庫に戻る。ベンチプレスを黙々とやる。50回くらいやっただろうか。ついでにスクワットもやった。こちらも50回くらいやった。元に戻す。
「スゲー…⁉ 全部乗せでやってるの初めて見た…⁉ しかも50回…⁉」
「君、新入生だよね⁉ バレー部に入らない⁉」
「すみません、昨日、吹奏楽部に入りました。申し訳ございません。」
「そっかぁ…それなら仕方ないか…。」
「それでは失礼いたします。」
「ああ、うん。それじゃあね。」
体育館を出る。ポケットから時計を取り出し時間を見る。まだ早い。念入りに柔軟体操することにした。視界に見覚えのある顔。
「あっ⁉ 君は昨日の⁉ 早いね。ずっと柔軟体操してるの?」
「早く来すぎたので体育館のバーベルお借りして筋トレしてました。」
「えっ⁉ バーベルってあの重いのだよね⁉ そんなに動いて大丈夫なの⁉」
「練習のことも考えて控えめにしておきました。大丈夫です。」
「ちょっと体育館行ってくる⁉」
朝っぱらから元気な娘だなぁと思いながら体を解した。開脚して正面にべったりと体を倒す。股関節と両脚の裏を解しまくる。走ってくる足音が聞こえる。
「合計110㎏のバーベルを…ベンチプレスっていうの…⁉ あれとスクワットを50回やったって聞いたんだけど⁉」
「はい、そうですね。」
「でもまだ余裕なんだよね⁉」
「はい。」
「バレー部の先輩に誘われなかった⁉」
「誘われましたけど昨日吹奏楽部に入りましたと断りました。」
「そうなんだ…。」
「おはよう。」
聞き覚えのある声。立ち上がってお辞儀した。
「「おはようございます!」」
「盛り上がってるようだけどどうしたの?」
「それがですね…。」
「えっ⁉ マジ⁉」
「はい。」
「無理しないでね…。」
「中学時代はあのような筋トレ器具はなかったのでテンション上がって限界までやりたかったですが練習もありますので余力を残しておきました。ですので大丈夫です。」
「えっまだ余裕なの⁉ 本当に無理しないでね…。」
「大丈夫です。本当に無理するのは練習が終わってからです。」
「「「「「おはようございます‼」」」」」
「おはよう! それじゃ準備運動からね!」
「「「「「はい‼」」」」」
「あの…すみません、俺は先に終わらせたので行進の練習してもよろしいでしょうか。」
「いいよ!」
皆さんが準備運動や柔軟体操する中、黙々と行進練習をした。背筋を伸ばして視線を正面に両手を口元に意識して繰り返した。
「凄いね! もうゴメハ出来てるよ!」
「でも楽器を持って演奏しながらだと元に戻ってしまうかもしれません。楽譜も読めませんし。」
「そうだね、そういえば希望の楽器はあるの?」
「アルトサックスというのがいいです。音域が豊富らしいので。」
「確かにそうだね。後で確認してみる。」
「ありがとうございます。」
一礼して練習に戻る。黙々と行進練習を行った。昼の休憩が挟まれた。バッグからサプリメントと痛み止めを口に放り込み近くの水道で流し込んだ。ポニーテール美女の女子に話しかけられた。
「……今飲んだの何?」
「サプリメントと痛み止めです。」
「もしかしてお昼それだけ?」
「はい。」
「痛み止めは何のため?」
「稀に脳ミソを針で刺されるような激痛に襲われるので予防薬として飲んでいます。おかげで激痛はやってきません。」
「病院で精密検査でもしてもらった方がいいんじゃない?」
「生憎、独り暮らしの貧乏学生なので金がかかることはなるべくしたくありません。」
「食欲ないの?」
「はい。ですので体育館で筋トレしてきます。」
「朝も食べてないの?」
「正確に言うと昼と同じようにサプリメントと痛み止めと水飲んでますね。」
「これ、食べかけだけどあげるよ⁉」
「…⁉ すみません。吐き気がしてきます。お気持ちだけ受け取らせていただきます。ありがとうございます。では行ってきます。」
一礼して立ち去った。
「……。」
失礼しますとお声掛けしてから倉庫に入った。バスケ部の皆さんがくつろいでいた。
「すみません、バーベルお借りしてもよろしいでしょうか。」
「ああ、うん。いいよ。」
バーベルは俺がやった時と同じになっていた。視線が集中している気がしたが無視した。朝と同じようにベンチプレスを50回やる。続けてスクワットも50回やる。ひと息ついて元に戻した。
「……疲れてないの?」
「はい。これからも練習がありますので体力に余裕は残しておきました。それでは失礼いたします。」
「あれが噂の『超新星』…⁉」
「いいなぁ…吹奏楽部…。」
「本当っすね…。面構えもヤクザ顔負けっすよ…。」
「おかえり!」
「ただいま戻りました。」
参った。女子との会話に慣れていないので何を話していいのかわからない。よく見ればこの場にいる全員が女子だ。吹奏楽部というものはいかに女子の比率が大きいものだと痛感した。だが忌々しい過去と決別するためにもこういう経験も必要なのかなぁと前向きに考えることにした。
「そういえば名前を名乗っていませんでしたね。俺の名は佐々木梓咲(あずさ)と申します。」
「えっ⁉ 君も佐々木あずさっていうの⁉ 私もなんだけど⁉ どういう字を書くの⁉」
書く物を借りてこうです、と書いた。私はこう…と書かれた。『佐々木梓』俺の名から『咲』の字を削っただけだ。
梓咲「佐々木さんとお呼びすればよろしいでしょうか。」
梓「……出来れば梓って呼んでほしいな。」
一瞬表情が歪んだ気がするが見ないフリをした。
梓咲「ええと…では…梓さん、これでよろしいでしょうか。」
梓「どうして敬語なの?同級生の仲間になるのに。」
梓咲「男子にも敬語使ってますよ。それに…女子と会話するのに慣れていなくて…すみません。」
梓「まあいいや、これからもよろしくね! 梓咲くん!」
笑顔が眩しい、この子はモテるだろうなぁと思った。
梓咲「よろしくお願いします! 梓さん!」
一礼した。こうして春休みを過ごして入学式を迎えた。昇降口でクラス割りを確認してから教室へ行き席にバッグを置いて体育館へ向かった。いつもの習慣で早く来すぎた。倉庫で筋トレして時間を潰すことにした。ベンチプレスを終えてふと扉に目を向ける。隙間から誰かが覗いていた。見覚えのあるような気がした。
梓咲「梓さんですか?」
梓「お、おはよう…。奇遇だね。一緒のクラスで席も隣だよ!」
梓咲「えっそうなんですか? 奇遇ですね。嬉しいです。」
梓「私も嬉しい! それで…良かったら筋トレしてるところ見学してもいいかな?」
梓咲「いいですよ。」
担いでスクワットした。50回数えて元に戻した。
梓「本当にこんなに重いの50回もやっちゃった…⁉ 凄いよ…⁉」
梓咲「恐縮です。あ、そろそろ時間見たいですね。座りますか。」
梓「うん!」
退屈な入学式を抜け出して筋トレに励みたい衝動に駆られたが何とか我慢した。やっと終わって梓さんと一緒に教室へ戻る。担任の先生のクソ長いホームルームを経てようやく解放された。
梓咲「音楽室へ行ってみます?」
梓「そうだね。梓咲くんは入部手続きしたの?」
梓咲「部長さんに挨拶はしましたが…どうなんですかね。後で聞いてみます。」
一緒に音楽室へ向かった。既に新入生らしき人だかりが出来ていた。 俺を見て人が左右に割れる。遠慮なく音楽室の扉を開けた。「失礼します。」とお声掛けしてから入った。椅子が並べてある。適当に座った。梓さんも隣に座る。その隣に小柄な女子が座り彼女に話しかける。話が断片的に聞こえてくる。どうやら同じクラスらしく吹奏楽初心者らしい。その後も話は続くが適当に聞き流した。やがて見覚えのある顔を含めた3人がやってくる。部長、副部長、ドラムメジャーの順に自己紹介されミーティングを終えて部長に顧問の先生の名を聞いた。『熊田祥江』というらしい。職員室へ向かった。近くにいた先生に「熊田祥江先生はどちらにいらっしゃいますか?」と聞いた。中年の女性の方へ指を刺されて向かった。自己紹介と吹奏楽部に入ったことを伝えた。そして俺の事情を伝えた。承諾していただいた。「無理しないでね。」と言われたので「お気遣いいただきありがとうございます。」と返答して職員室を出た。梓さんと隣にいた女子が廊下で待っていた。
梓「何の用だったの?」
梓咲「俺の事情を説明して承諾していただきました。早速ですが明日は早退するので先輩方に聞かれたら伝えておいてもらえますか?」
梓「え⁉ どうして⁉」
梓咲「持病のようなものがあって病院に行かないといけません。基本、午前診療で予約制なので。まあ…そういうわけでよろしくお願いします。」
梓「何の病気なの?」
梓咲「その内話しますよ。楽しみに待っていてください。」
「あ、あの⁉ 私、名瀬あみかといいます⁉ よろしくお願いします⁉」
梓咲「名瀬あみかさんですね、覚えました。俺の名は佐々木梓咲と申します。よろしくお願いします。」
あみか「は、はい⁉ よろしく⁉」
そのまま3人で学校の外まで出た。
梓咲「それではまた明日。さようなら。」
一礼して走って帰った。
あみか「佐々木くんの病気って何なんだろうね…?」
梓「あんなに健康そのものなガタイしてるのに…。あ、そういえば朝と昼はサプリメントと痛み止めと水だけ飲んでたんだった。晩御飯にまとめて食べてるのかな?」
あみか「え⁉ っていうことは実質1日1食⁉ あの体格で⁉」
梓「本人は言いたがらなかったから私も聞かなかったけど心配だよ…。」
翌日、朝練に参加して余った時間で筋トレして教室へ戻る。1時限目が終わり早退の準備をする。
梓咲「それでは失礼します。梓さん。」
梓「あ、うん。いってらっしゃい。」
名瀬さんにも挨拶して学校を出て病院へ向かい薬をもらって走ってボロアパートへ向かった。飲む物飲んで着替えて運動しまくった。フラフラになるまで追い込んで後始末諸々を済ませて薬飲んで寝た。梓さんの姿を思い浮かべる。すぐに眠れた。
翌日、朝練と筋トレを終えて授業を受けて着替えて飲む物口に放り込んで水道の水で流し込んだ。それから昼錬に向かった。ゴメハの練習をしていると
「佐々木。男子の方、ついてきて。」
としかめっ面で腕組みで仁王立ちしている副部長…だったか、彼女に呼び出しを食らった。早速かと内心ため息をつきたくなった。