佐々木梓にひと目惚れした同級生の話   作:日向陰陽

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第2話 「孤独にDance in vain」

―――副部長…で合ってると思う。彼女に黙ってついていった。お互い無言だった。どうやら相当ご機嫌斜めらしい。俺としては「(もっと速く歩けこの野郎)」と蹴りのひとつでも背中に叩き込みたい気分だったが我慢した。

 

行き先は…音楽室だろうか。そんなことを考えながら歩いていると本当に音楽室に着いた。副部長が黙って入る。俺は「失礼します。」と声をかけてから入った。部長とドラムメジャー…だったか副部長と同じくしかめっ面で腕組みして仁王立ちしていた。

 

翔子「何で呼ばれたか―――。」

 

梓咲「ご用件は何ですか?」

 

翔子「何で呼ばれた―――。」

 

梓咲「ご用件は何ですか?」

 

部長の隣に立っているドラムメジャーが俺を睨む。睨み返す。

 

「そんなに反抗的ならクビにしてもいいんだよ。」

 

梓咲「それは困りますね。それで…ご用件は何ですか?」

 

「昨日、病院へ行ったんだってね。何で報告しなかったの? 部長が言ったこと忘れた? ホウレンソウ、報告、連絡、相談をちゃんと先輩にすることって。」

 

梓咲「覚えてますよ。でも相談して解決する問題とそうでないものがあります。昨日の件は後者です。」

 

「何で決めつけるの?」

 

梓咲「誰かに話して解決するならとっくの昔に治ってますよ。そうじゃないから薬漬けの生活送ってるんですよ。理解しましたか?」

 

「何の病気なの?」

 

この会話の間ずっと睨み合っていた。段々怒りが湧いてきた。舐められてる。そう思った。

 

梓咲「ひとつ…質問させていただいてもよろしいでしょうか。」

 

翔子「どうぞ。」

 

梓咲「聞いてどうなさるんですか?」

 

「まず聞いてみないとわからないよ。」

 

梓咲「聞いてどうにもならなかったらどうなさるんですか? こうしてる間もどんどんストレス溜まって怒りも湧いてきて俺の理性も限界があるんですよ?」

 

「さっき言ったのもう忘れたの? クビにしてもいいんだよ。」

 

目を瞑って深呼吸する。何度も。頭に上った血を何とか引かせようとする。

 

翔子「落ち着いた?」

 

梓咲「鬱病と不眠症です。毎月精神科に予約とって通って薬貰って飲んでます。抗うつ薬と睡眠薬です。おかげで眠れるようになりました。」

 

「原因は?」

 

梓咲「……きっかけは……中学3年の時に不良気取りの6人が学校でコソコソ弱いものイジメしてカツアゲしてたの見たからですね。普段から授業妨害してたんで鬱陶しくて丁度いい機会だったのと頭に来たんで1匹残らずブチのめしました。それから何日も経たずに深夜に暴走族がうろつくようになって我慢の限界だったんで家飛び出してブチのめしまくりました。20人くらいですかね。包丁やナイフや草刈り鎌で刺されたり切られたりしましたが。警察に補導されましたが普段から警察上等気取ってる暴走族が警察に泣きつくのもカッコ悪いと思ったらしくてすぐに家に帰されました。暴走族の解散を条件に俺も警察沙汰にしないということで話はまとまりました。それで校長室に呼ばれて停学1か月の処分が下されました。聞き間違いかと思ってもう1回聞きましたが処分は変わりませんでした。刃物で約20人に襲われたと弁解しましたが俺は軽傷で相手は全治1~2ヶ月の重傷から半年以上の重傷者までいるから俺だけ処分されました。『じゃあ俺が殺されりゃあ良かったのかよ⁉』って叫んで殺意が湧いてきたんで両手で校長の首絞めて殺そうとしましたが体育教師たちが雪崩れ込んで来て無理やり引き剥がされて阻止されました。廊下で体育教師たちはブチのめしましたが。それで家に帰ってみりゃクソ親父は「俺に恥かかせやがって⁉」って荒れて俺に怒鳴りつけるし無視決め込んでたら頭蹴られるわ馬乗りになって殴られるわで俺も頭に来て思いっきりブン殴りました。食器類投げつけてくるクソババアもついでにブン殴りました。家にいたくなかったので朝起きたら着替えて外に出て運動しまくってフラフラになるまで追い込んで夜になったら帰ろうとしましたが玄関に鍵かけられて入れなかったので通路に寝転んで眠ろうとしましたが怒りで眠れませんでした。それが1週間くらい続くと全く眠くなくなった上に自殺を考える程の生き地獄みたいな苦痛に襲われて夢中で窓ガラス割ってクソババアの財布奪って病院に駆け込んで睡眠薬を要求しました。でもそこで貰った薬は効き目が弱くて1か月分を1週間足らずで使い果たしてまた貰いに行ったら病院の先生に怒られて「これ以上強いのが欲しかったら精神科行け⁉」って言われて出禁になったので精神科行って診断受けたら鬱病と不眠症と言われました。それで1か月ずつ薬の調整してもらって今に至ります。クソ両親には家を出ることを条件に高校進学を認められました。ここに来たのは以前部長に話した通りです。以上です。話が長くなり申し訳ございませんでした。」

 

一礼した後、深呼吸する。何度も。話疲れた。目を瞑って蹲る。

 

翔子「さっき『自殺を考える程の生き地獄みたいな苦痛に襲われて』って言ってたけど具体的には?」

 

梓咲「実際に体験したのは重度の頭痛、眩暈、吐き気、過呼吸、聴覚過敏、重度の眼精疲労、全身の関節痛及び筋肉の硬直、呂律が回らなくなって会話も難しくなって指先が痙攣して自分の名前を書くのも難しくなる。無意識に歯を食いしばって顎がガタガタになる…といった症状に一気に襲われます。」

 

再び音楽室が静まり返る。ウンザリだった。

 

梓咲「改めて聞きますが、それで…どうなさるんですか?」

 

「「「……。」」」

 

梓咲「クビにしてくださって結構ですよ。さっさと学校辞めて働くだけです。もうどうでもよくなりました。」

 

「「「……。」」」

 

梓咲「聞いてます?」

 

「「「……。」」」

 

梓咲「聞   い   て   ん   の   か  ‼  答    え    ろ  ‼」

 

3人がビクッと体を震わせる。ドラムメジャーを睨む。目を伏せる。ため息をつく。

 

梓咲「時間の無駄だったな。じゃあな幹部サマ。時間返せ馬鹿野郎。」

 

床に唾を吐いて思いっきり扉を閉めて立ち去った。窓ガラスにヒビが入るが無視した。体育館倉庫へ向かう。ひたすら筋トレに励んだ。頭が冷えるまで黙々と続けた。おかげで授業に遅刻したが「筋トレしてました。」とだけ伝えて席に着いた。

 

梓「副部長に呼ばれてどうなったの?」

 

小声で話しかけられた。

 

梓咲「昨日早退した件について説明を求められたので俺の事情を説明しました。詳しいことは部長さんか副部長さんかドラムメジャーさんに聞いてください。俺は話疲れました。」

 

梓「そう…。」

 

それ以上言葉は交わさなかった。部活の時間になる。音楽室へ行く。人だかりが出来ている。扉の前で幹部3人が立っていた。

 

翔子「佐々木くん、入って。他の皆は自主練してて。」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

音楽室に入る。思いっきり扉を閉める。ヒビが増えた。無視した。

 

梓咲「ご用件は何ですか?」

 

部長、副部長、ドラムメジャーの順に睨む。どいつも目を逸らす。

 

梓咲「言いたくないこと散々言わせてダンマリ決め込んでまた呼び出して何の用だって聞いてんだよ。」

 

「「「……聞いてるわよ。」」」

 

梓咲「だ    っ    た    ら    何    か    言    え  ‼」

 

3人がビクッと体を震わせる。心底くだらなかった。

 

梓咲「ハナから期待してねえけど何も出来ねえくせに出しゃばってくんじゃねえよ。幹部ってのがそんなに偉ぇのかよ、なあおい? クビにされる前に俺から辞めてやる。じゃあな。」

 

「「「待って⁉」」」

 

梓咲「何だよしつけえんだよ。言いたいことがあんならさっさと言え。ねえなら出てくぞ。早くしろ。俺だって暇じゃねえんだよ。眠るために必死に運動してんだよ。」

 

翔子「『眠るために必死に運動』ってどのくらい…?」

 

梓咲「川の土手の端から端まで全力で息が上がるまで走ってもう限界だってくらい息が上がるまで約2時間くらい走りまくってから、スクワット4000回、腹筋運動1000回、コンクリートの上で拳立て1000回、指立伏せ200回、以上。」

 

翔子「そんなに…⁉」

 

副部長とドラムメジャーが唾液を飲みこむ音が聞こえてきた。

 

梓咲「しょうがねえだろう、毎日毎日眠れるか不安で不安でしょうがねえんだからよ。だからフラフラになるまで体追い込んでんだよ。話は終わりか? じゃあ短い間ですけどお世話になりました。サヨウナラ。」

 

翔子「待って…⁉ 待って⁉ 私たちが教えられること全部教えるから…⁉ 一緒に全国金賞目指そう…⁉」

 

梓咲「全国金賞獲れば、部屋に居続けると何もやる気が起きない恐怖も不眠も綺麗サッパリ無くなるってか? んな都合のいい話があるわけねえだろう⁉ ふざけんじゃねえぞ⁉」

 

黒板を思いっきり殴る。ヒビが入り砕けて破片が落ちる。

 

「そうかもしれないけど…⁉ それでも私たちに付いて来てほしい…⁉ 絶対に損はしない経験はするはずだから…⁉ アンタみたいな努力を努力と思わない人材なら絶対に得するはずだから⁉」

 

副部長が立ちはだかる。

 

「そうだよ⁉ 運動部の間で噂になってるよ⁉ 『超新星が吹奏楽部に入った』って⁉ アンタのことだよね⁉ 毎日体育館で信じられない程の筋トレやってるのも聞いた⁉ 絶対に損はしない⁉」

 

ドラムメジャーも立ちはだかる。面倒臭くなってきた。座って座禅を組んで目を瞑り深呼吸する。何度も何度も。

 

梓咲「さっきからアンタアンタうるせえよ。俺には佐々木梓咲って名前があんだよ。」

 

「「ごめん…。」」

 

梓咲「ま、ここは幹部サマの言う通りにするとしようか。よろしくお願いいたします。」

 

正座して両手と額を床につける。いわゆる土下座だ。

 

「そこまでしなくても…。」

 

梓咲「入学して1週間も経ってない1年如きに好き放題言われたんですからこうでもしないと恰好がつかないでしょう。先輩が後輩に舐められたらおしまいですよ。そうは思いませんか?今まで御無礼を働き誠に申し訳ございませんでした。」

 

副部長、ドラムメジャー、部長へ向き直っては額を頭につけた。部長に頭を下げ続ける。

 

翔子「こっちこそごめん。頭を上げて。」

 

頭を上げる。

 

翔子「佐々木くんがこんなに深刻な悩みを抱えてるなんて想像もしなかった。軽い気持ちで君の個人的事情に踏み込んだことに関しては本当にごめんなさい。」

 

部長が頭を下げる。

 

「私も…ごめん…。」

 

「私も…ごめん…。」

 

副部長とドラムメジャーも頭を下げる。

 

梓咲「いえ、こちらこそ…。」

 

3人の中間くらいの位置に向き直り、俺も床に勢いよく額をつける。ゴッと鈍い音がした。

 

翔子「もう…! それはいいって! 頭を上げて! 佐々木くんは何も悪くない!」

 

頭を上げる。

 

翔子「とにかく! 佐々木くんは初心者のド素人って言ってたよね! で、希望楽器はアルトサックス!…で合ってる?」

 

梓咲「はい。」

 

翔子「それじゃ楽器室へ行こう!」

 

部長が意気揚々と音楽室から出る。俺も後に続く。左右に副部長とドラムメジャーが並ぶ形になる。

 

梓咲「あの…ひとつ窺ってもよろしいでしょうか。」

 

「「なに?」」

 

梓咲「副部長とドラムメジャーのお名前を聞かせていただけませんか?」

 

「ぷっ⁉ くくく…⁉ 佐々木って物覚えはいいのに変なとこで忘れるんだね⁉」

 

「ふふっ⁉ 初心者のド素人がもうゴメハ身につけたって聞いて驚いたのに意外と抜けてるんだね⁉ 天然って言われない⁉」

 

梓咲「たまに言われます。」

 

「やっぱり⁉ あーおかしい⁉ 私は副部長の小山桃花、よろしくね!」

 

「私はドラムメジャーの神田南。よろしく!」

 

手を差し出された。両手で軽く握って握手しながらお辞儀した。

 

梓咲「よろしくお願いいたします。小山先輩、神田先輩。」

 

桃花「うーん…何か違うなぁ…桃花先輩って呼んで!」

 

南「私も! 南先輩って呼んでほしい。」

 

梓咲「えっ⁉ よろしいのですか⁉」

 

「「いいよいいよ‼」」

 

梓咲「では…参ります。ええ…桃花先輩、南先輩。」

 

南「あははは⁉ 『では…参ります』って⁉ お腹痛い⁉ はぁ~苦しい⁉」

 

桃花「本当⁉ 佐々木って天然だってわからされたよ⁉ 本物の天然だ⁉」

 

梓咲「すみません、今までロクに女子との接点を持たなかったので女子の先輩を名前呼びするのに緊張してしまいました…。」

 

南「いいのいいの⁉ 佐々木はそのままでいい⁉」

 

桃花「そうそう⁉ 佐々木はそのままがいいよ⁉」

 

梓咲「恐縮です。」

 

翔子「ちょっと! 何3人で盛り上がってるのよ! はい! アルトサックスあったよ!」

 

梓咲「ありがとうございます。では、拝見させていただきます。」

 

楽器ケースを開ける。金色の光沢が眩しい。これが我が相棒…胸が高鳴った。

 

梓咲「少し吹いてもよろしいでしょうか。」

 

翔子「いいよ。」

 

軽く息を吹き込みながら穴を塞ぐ。どこを押さえればどんな音が出るか確かめる。ド、レ、ミ、ファソ、ラ、シ、ド、と吹く。ネットで観た演奏の仕方を真似る。大体把握した。脳内でイメージする。音を合わせる。一致した。

 

梓咲「吹奏楽に全く関係ない曲ですけど吹いてもよろしいでしょうか。」

 

翔子「いいよ。」

 

記憶にある曲と今吹く音をどうにか一致させ繋ぎ合わせる。楽譜を部屋に置きっ放しにしてあるのを後悔したが必死に記憶を手繰り寄せて音を合わせる。吹き切った。

 

梓咲「ご清聴ありがとうございました。」

 

一礼する。

 

桃花「えっ⁉ えっ⁉ 初心者のド素人だよね⁉ 今の曲は何⁉ 何て曲⁉」

 

梓咲「B'zというユニットをご存じですか?」

 

翔子「あ、知ってる⁉」

 

南「私も知ってる⁉」

 

梓咲「そのユニットの『Easy Come, Easy Go!』という曲です。楽譜は部屋に置きっ放しなのでテンポとか音程とか外れてると思いますが。」

 

桃花「ちょっと待って⁉ 『Easy Come, Easy Go!』っと…。えっ⁉ 何これ…⁉ 佐々木が吹いたのと大体合ってるよ⁉ 間奏のエレキギターパートもボーカルパートも…⁉ 凄い⁉」

 

南「本当に初心者のド素人なの…⁉」

 

梓咲「はい。ネットの動画で吹き方は視聴したので真似してみました。もっと高音が出るように勉強します。原曲に近づきたいです。」

 

桃花「いや…マジモンの『超新星』が吹部に入ったんじゃないの⁉」

 

梓咲「恐縮です。南先輩、アルトサックスはどのくらいの角度でゴメハを維持すればよろしいでしょうか。」

 

南「まずはしゃがんで、ストラップを首に巻いて…サックスの後ろの縦の線が体と平行になるように持って…そう、その体勢を維持して吹くように。」

 

梓咲「はい、ありがとうございました。もっと勉強したいです。サックスパートの先輩に教えを乞うてもよろしいでしょうか。」

 

翔子「いいよ! 案内するから付いて来て。」

 

梓咲「はい、よろしくお願いします。」

 

一礼してついていく。

 

 

桃花「凄いのが入って来たね…。怒ってる時は怖かったけどそれ以外は礼儀正しすぎる程礼儀正しいし。」

 

南「演奏してる時もまるで別人だった…。 本当の佐々木ってどんなんだろうね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サックスパートの練習場所に連れていかれた。全員先輩だ。自己紹介から始めた。

 

梓咲「佐々木梓咲と申します。初心者のド素人です。よろしくお願いします。」

 

翔子「…と言ってるけどさっき吹いたのみんなに聴かせてあげて。」

 

『Easy Come, Easy Go!』を吹いた。さっきのと上手く再現出来た…と思う。

 

「えっ⁉ えっ⁉ 本当に初心者のド素人なの⁉ どこが⁉ 指使いも滑らかだったけど⁉」

 

梓咲「インターネットの初心者向けの動画観て勉強しました。もっと高音が出せるように勉強したいです。」

 

翔子「そういうことで教え甲斐はたっぷりあると思うからよろしく!」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

それからたっぷりと教えられた。楽譜の読み方、緩急をつけた息の吹き方、舌…タンギングの仕方

高音の吹き方、指の使い方、ゴメハを想定して正しい姿勢を意識しながら立ったまま練習した。

 

「大丈夫? 疲れてない?」

 

梓咲「大丈夫です、どんどん仕込んでください。」

 

初心者向けの曲を吹いたがあっさりクリアした。改めて『Easy Come, Easy Go!』を吹いた。

 

「凄いよ⁉ さっきより上手くなってる⁉」

 

梓咲「先輩方のご指導のお陰です。ありがとうございます。」

 

あっという間に部活の時間は終わった。居残り練習を志願した。先輩方にお礼を伝えてお別れの挨拶をした。記憶にある曲の再現に努めた。吹きまくった。扉が開く音がした気がするが無視した。声を掛けられた気がするが無視した。トントンと背中を叩かれる。振り向く。南先輩だった。

 

梓咲「あ、気づかず申し訳ございません。そろそろ帰った方がよろしいでしょうか。」

 

南「まだ大丈夫だよ。その時はまた声かけるから。それよりもどんどん上手くなってるね。驚いたよ。いい曲だったよ。今のは何ていう曲?」

 

梓咲「『LOVE PHANTOM』という曲だったと思います。」

 

南「それに…良い姿勢で…構えも立ち方もしっかりしてる。ゴメハは大丈夫そう?」

 

梓咲「演奏に集中して視線が下がってしまうのでまだまだこれからですね。練習しないといけません。」

 

南「そう…。焦らないでね。まだ入部して3日しか経ってないんだから。」

 

梓咲「はい、お気遣いいただきありがとうございます。」

 

一礼する。

 

南「お邪魔しちゃったね。それじゃ、好きなだけ吹きまくってね。」

 

梓咲「はい、そうさせていただきます。」

 

南先輩が手を振って教室を出ていく。一礼して分かれた。その後も記憶にある限りのB'zの曲の再現に努めた。再びやってきた南先輩と桃花先輩に褒められて嬉しかった。今日の練習はお開きとなった。楽器室にアルトサックスを仕舞って昇降口へ向かう。先輩たちと一緒に。

 

桃花「佐々木は…彼女とかいないの?」

 

梓咲「えっ⁉ いませんよ⁉ 女子の友人すらいない根性無しですよ⁉」

 

南「根性無しが刃物持った20人の暴走族相手に喧嘩なんて出来ないよ…。」

 

梓咲「あの時は…『弱いくせに人数集めて囲めば俺に勝てる』と舐められてる気がして頭に来ただけで先の事なんて考えてませんでした。そのせいで家追い出されちゃいましたし。」

 

桃花「後悔してるの?」

 

梓咲「いいえ。」

 

南「そうだよ。佐々木は正しいことをしたんだよ。もっと自信を持っていいんだよ。」

 

梓咲「自信…ですか…。難しいですね…。」

 

桃花「いつも誰にでも礼儀正しいのは自信がないせいなの?」

 

梓咲「いつも誰にでも礼儀正しいかは不安ですが、自信はないです。感情で突っ走って悪い方向へ行って症状も患って自業自得ですよ。ですからいつも軽率な行動はしないように考えています。」

 

南「今日の事なら佐々木がこれ以上気にする必要はないからね。だから話題にするのも禁止! わかった?」

 

桃花「そうよ! 佐々木の事だから絶対謝るつもりだったでしょ⁉ そんなことする必要はない⁉ わかった⁉」

 

梓咲「……よくお気づきになりましたね。」

 

南「やっぱり…! そんなに他人に気を遣わなくていいの! わかった⁉」

 

桃花「もっと自分の事を大事にして⁉ いきなり言われて困るだろうけど先輩命令よ⁉」

 

梓咲「はい、かしこまりました。」

 

正門を過ぎる。

 

梓咲「それでは…俺はここで失礼させていただきます。お疲れさまでした。」

 

南「また明日!」

 

桃花「また明日ね!」

 

梓咲「はい! また明日お会いしましょう! 失礼します!」

 

一礼して走り去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃花「物凄い勢いで走って行ったね…。でもあれは運動の内に入らないんだろうね…。」

 

南「『川の土手の端から端まで全力で息が上がるまで走ってもう限界だってくらい息が上がるまで約2時間くらい走りまくってから、スクワット4000回、腹筋運動1000回、コンクリートの上で拳立て1000回、指立伏せ200回』だっけ。聞いた時はビックリしたけど握手した時実感したよ。物凄いゴツイ手だった…。指も太くて…それに黒板殴って砕くし…。暴走族ひとりで解散に追い込んだっていうのも納得した。私は吹奏楽部が佐々木にとって安心できる場所になってほしい…⁉」

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