佐々木梓にひと目惚れした同級生の話   作:日向陰陽

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第8話 「Heaven Knows」

―――期末テストが終わり終業式も済ませ夏休みに入った。課題曲[『吹奏楽のためのマーチ』、自由曲『宇宙の音楽』に決まって楽譜をいただいて課題箇所も含めて通しで吹きまくった。その内楽譜を読まずとも吹けるようになった。宿題を早々に片付けて全日本吹奏楽コンクールA部門のメンバー55人を決めるオーディションを含めた2泊3日の校内合宿当日を迎えた。早朝に起きてバリカンで髪を刈って髭と眉を剃る。その後に洗髪、歯磨き洗顔を済ませ大き目のバッグにタオルや洗面用具やら入浴グッズや着替えやらを詰め込み最後に薬類、サプリメント、痛み止めなどの飲む物を細かく確認してバッグに突っ込んだ。運動着に着替えて部屋を出る。走って学校へ向かった。集合場所である音楽室に着いたが早く来すぎた。だが幹部の御三方は既に来ていた。

 

梓咲「おはようございます。翔子部長、桃花先輩、南先輩。」

 

「「「おはよう。」」」

 

梓咲「集合時間にはまだ早いので体育館で筋トレしてもよろしいでしょうか。」

 

「「「いいよ。」」」

 

桃花「私も行きたい⁉ 佐々木が筋トレしてるところ見たい⁉」

 

南「私も見たい。」

 

梓咲「見ていて楽しいものでもないと思いますが…それでもよろしいでしょうか。」

 

「「いいよ。」」

 

走って行きたいところだが、体育館へ向かう途中おふたりと手を繋ぎながら歩いた。倉庫に入る。プレートが全て嵌まっているのを確認してから念入りに準備体操した。それから黙々とベンチプレスをした。ふたりの視線が気になるが無視した。やり終えて起き上がる。

 

桃花「え⁉ え⁉ 今何回やったの⁉ 物凄い数じゃなかった⁉」

 

梓咲「丁度100回です。体が慣れてきたようですね。」

 

南「……その割にはまだ余裕そうだね。」

 

梓咲「練習があるので余力は残しておきました。」

 

桃花「え⁉ まだ出来るの⁉ こんなに重いのを…信じられない…⁉」

 

梓咲「次はスクワットやります。ご覧ください。」

 

担いで黙々とやる。100回やって元に戻した。

 

南「凄い…⁉ 本当に100回やっちゃった…⁉ 大丈夫なの…⁉」

 

梓咲「もう習慣みたいなものなのでまだまだやれますよ。」

 

まだ時間があるのでついでに腹筋運動1000回、体育館内ががら空きなので数十回程全力で走って往復した。息が上がるまで走り続けたかったが集合時間が迫っていたので切り上げた。

 

南「あれだけ運動したのに大して汗かいてないね。」

 

梓咲「汗まみれになると周囲の皆さんにご迷惑かと思いまして程々にしました。」

 

南「汗拭いてあげるからパンツ1枚姿になって。」

 

梓咲「え、よろしいのですか?」

 

「「いいよ。」」

 

照れ臭いが先輩命令に従った。お言葉に甘えて持参したタオルで全身隈なく拭いていただいた。やはり恥ずかしかった。運動着を着直す。

 

梓咲「ありがとうございました。」

 

「「いえいえ。」」

 

戻る時もおふたりと手を繋いで歩いて戻った。音楽室へ入る。最後列、梓さんの隣が空いていた。「すみません、通ります。」と声をかけながらそこに座った。

 

梓「どこ行ってたの?」

 

梓咲「早く来すぎたので体育館で筋トレしてました。」

 

梓「……相変わらずだね。無理しないように!」

 

梓咲「かしこまりました。」

 

それから熊田先生によるミーティング、合奏練習を終えて個人練習に入った。適当に空いている教室を見つけそこでやることにした。楽譜をペラペラとめくり楽譜に見落としがないか確認する。それが終わったら通しでひたすら吹きまくった。何度も何度も。教室の扉が開く音が聞こえた気がする。無視した。俺の名を呼ぶ声が聞こえた気がする。無視した。抱き着かれる。目を向ける。南先輩だった。

 

南「もう夕ご飯の時間だよ。 一緒に食べよう。」

 

時計を見る。午後6時を過ぎていた。

 

梓咲「もうこんな時間ですか…。しかし…きちんと食べられますかね?」

 

南「どうして?」

 

梓咲「運動しまくってシャワー浴びてから大体夜10時過ぎに晩御飯食べてますのでいつもより早すぎます。大してお腹も空いてませんので。」

 

南「……そう。無理して食べなくてもいいんだよ。」

 

梓咲「でも明日空腹に苦しんで水道の水ガブ飲みするのは目に見えているのでどんなに時間をかけてでも食べないといけません。あ、少々失礼します。」

 

バッグを漁り薬を取り出す。

 

南「それが病院からもらってる薬?」

 

梓咲「はい。」

 

南「見せて。」

 

渡した。

 

南「こんなにたくさん…⁉ 色もバラバラで…⁉ 副作用とか大丈夫なの…?」

 

梓咲「放っておくとどんどん太ります。ですのでそれの防止のためにも運動しまくっています。後は…寝起きに頭痛と倦怠感があるくらいです。」

 

南「きちんと眠れそう?」

 

梓咲「不安です。症状を患ってから初めての集団生活で妙に緊張しますし、薬の効き目が遅れるかもしれません。」

 

南「私に出来ることはない?」

 

言葉にするのも恥ずかしいが眠れるための手段は何でも取りたかった。

 

梓咲「俺が落ち着くまで抱きしめて頭撫でてほしいです。」

 

南「マーチングの会議で遅くなるかもしれないけど待てる?」

 

梓咲「体育館へ通じる廊下でお待ちしております。もしかしたら薬が効いてそのまま廊下で眠る可能性もありますがその場合は放っておいてください。勝手な話で申し訳―――。」

 

南先輩の人差し指が俺の唇に触れる。

 

南「ストップ。佐々木が謝る必要なんて全然ない。わかった?」

 

梓咲「かしこまりました。」

 

南「それじゃあご飯食べに行こう。」

 

薬をズボンのポケットに入れて南先輩についていった。食堂のような部屋に入る。こんな場所があるとは知らなかった。配膳係の先輩からトレイに夕ご飯を次々に乗せられる。見ているだけで吐き気がこみ上げてくる。南先輩についていく。促されるまま座る。正面に南先輩、左斜め前に翔子部長、左隣に桃花先輩、右隣、右斜め前は名前もうろ覚えの先輩方、1年生の俺だけポツンと座っている。考えるのは止めた。目の前の夕ご飯に目を向ける。吐き気は止まらない。限界だった。椅子を引いて身を屈めた。えづいた。思いっきりえづいた。涙と鼻水が出てくる。

 

「「「「「大丈夫⁉」」」」」

 

梓咲「大丈夫…⁉ 大丈夫です…⁉ ご迷惑をお掛けして申し訳―――。」

 

「「「「「ストップ‼」」」」」

 

幹部の御三方だけでなく右方向の先輩方、後ろに座っている先輩方にまで止めが入った。

 

翔子「佐々木くんはすぐ謝るから見つけたらストップかけるように皆に言っておいたから。」

 

梓咲「……ありがとうございます。では…いただきます。」

 

思いっきりえづいた影響か少しは食欲が出てきた。よく噛んで飲みこんだ。黙々と同じ作業を繰り返す。どうにか完食した。トレイを戻して薬を飲むために水の入ったコップを持って廊下に出る。ポケットに手を突っ込む。ない。薬を入れたはずのポケットが空だ。立ち上がってあらゆるポケットを探るが…ない。どこかで落としてしまったのだろうか。食堂から空き教室まで床をしっかり確認しながら戻ろうとしたところに

 

「探し物はこれ?」

 

聞き慣れた声。振り向く。桃花先輩がしかめっ面で食後用と寝る前用の薬を持っていた。

 

梓咲「はい、そうです。拾っていただいてありがとうございました。」

 

桃花「お礼を言われる程のことはしてないわよ。それよりもこんなに飲んで平気なの?」

 

梓咲「健康に異常はないので大丈夫です。」

 

桃花「ならいいけど…他に私に出来ることはない?」

 

南先輩にお願いしたことを話そうか 黙っておくか迷ったが内緒にしておくのもフェアじゃない気がしたので同じことを桃花先輩にも話した。

 

桃花「なるほどねぇ…。私に黙って佐々木とそんなことしようなんて南もいい度胸してるわね…⁉」

 

梓咲「どうか南先輩を許してあげてください。偶然夕ご飯の呼び出しに来ていただいたのが南先輩だったんです…⁉」

 

桃花「まあいいわ…。佐々木は約束通り消灯時間前に廊下で待機⁉ わかった⁉」

 

梓咲「かしこまりました。もし眠っていたらそのまま放っといてください。」

 

桃花「わかった。あ、そうだった。はい、これ。」

 

薬を受け取る。封を切って中身を口内にまとめて放り込む。コップの水で流し込む。

 

桃花「落ち着いた?」

 

梓咲「はい、ありがとうございました。」

 

それから体育館で筋トレして時間を潰して入浴時間になり、数少ない男子部員の方々と他愛のない会話をしながら少しはリラックスできた。体育館の隅に布団を敷き待機中だ。

 

花音「梓咲くんって女子から告白されたことある⁉」

 

梓咲「ないですね。誰も俺に関わろうとしませんでしたから。」

 

美音「じゃあ好きな人はいるの⁉」

 

梓咲「人を好きになるっていう感情が未だによくわかりませんが気になる方はいます。」

 

花音「誰⁉ 誰⁉」

 

梓咲「桃花先輩と南先輩と…すみません後は恥ずかしくてここでは言えません。」

 

梓「へぇー誰なんだろうね…。」

 

「(あんたやあんた)」とツッコミを入れたかったが我慢した。今俺は1年生の女子の皆さんに囲まれて恋バナという奴をして時間を潰している。

 

梓咲「梓さんはどうなんですか?」

 

梓「告白されたことは何回かあるけど…恋愛ってよくわからないから全部断っちゃった。」

 

「消灯時間です。各自布団に戻ってください。」

 

何のパートか忘れたが先輩であることは間違いない女子部員に従って布団に戻る。体育館全体が暗くなる。起き上がって壁沿いに歩き扉を開く。廊下の端に寄って念入りに柔軟体操する。ゆっくり呼吸しながら体を解しまくる。十数分も経っただろうか、扉が開く。見慣れた人影。静かに歩み寄ってくる。

 

「お待たせ佐々木。」

 

耳元で囁かれる。ドキドキする。そのまま抱きしめられる。頭を撫でられる。

 

桃花「ゆっくり息を吸って…吐いて…リラックスして…そう…楽にして…。」

 

いい匂いがする。心が落ち着く。いつまでもこうしてもらいたかった。

 

「桃花…? 佐々木…⁉ 何してるの⁉」

 

桃花「何ってこれから南がすることと同じことしただけだよ。ねえ、佐々木?」

 

梓咲「はい…。」

 

南「ふーん、桃花は気が済んだ?」

 

桃花「大満足! それじゃあふたりともおやすみ!」

 

梓咲「おやすみなさい。」

 

桃花先輩と入れ替わるように南先輩が俺を抱きしめ頭を撫でる。

 

南「よしよし…何も心配はない…心配しないで…きちんと眠れるよ…。」

 

意識が鈍くなってきた。名残惜しいがここらが潮時だろう。

 

梓咲「頭がボーっとしてきました…。ありがとうございました…。もう大丈夫です…。」

 

南「ゆっくり眠って…。おやすみ…。」

 

梓咲「はい…おやすみなさい…。」

 

壁沿いを伝って歩く。そっと布団に横になる。そのまま意識が遠くなる…気がした。

 

目が覚める。時計を見る。朝6時前。無事に眠れたことにホッとした。そっと布団を畳んで洗面用具を取り出して外の水飲み場へ向かう。いつも通りの習慣で歯磨き洗顔をして髭と眉を剃る。また洗顔する。

 

「おはよう。早いね。」

 

梓咲「おはようございます。梓さん。」

 

梓「まだ早いけど、どうするの?」

 

梓咲「楽器吹くのも迷惑でしょうし倉庫に籠って筋トレすることにします。」

 

梓「オーディション前なのに大丈夫?」

 

梓咲「毎日の習慣みたいなものですからやらないと調子狂っちゃいますね。」

 

梓「そう…無理しないでね。」

 

倉庫に入り念入りに準備体操と柔軟体操をして体を解す。昨日と同じく黙々とベンチプレスを100回程やった。外が騒がしい。扉に目を向ける。無数の先輩方…だと思う…が覗いていた。起き上がってベンチに座って向き直りお辞儀する。

 

梓咲「おはようございます。」

 

「「「「「おはよう‼」」」」」

 

梓咲「あの…俺に何かご用件ですか?」

 

「見てるだけだから気にしないで⁉」

 

「そうそう⁉ 見てるだけだから⁉」

 

「遠慮しないで続けて⁉」

 

梓咲「はい、では続けさせていただきます。」

 

担いでスクワットに移る。

 

「「「「「おー⁉」」」」」

 

という歓声が起きる。何だか恥ずかしくなってきた。手早く済ませようと思った。何も考えずにスクワットを100回やった。元に戻す。

 

「「「「「おー⁉」」」」」

 

考えるのは止めて腹筋運動1000回とダンベルを使って肩と背筋を鍛えた。

 

「え⁉ え⁉ 今腹筋何回やったの⁉」

 

「たぶん1000回くらい…⁉」

 

「1000⁉ 本当に高校1年生なの…⁉」

 

その内見物していた先輩方がいなくなる。倉庫を出る。布団が綺麗に片付けられていた。思いっきり走り込みをした。何往復したか数えていない。息が上がるまでやった。汗をかいたので無人なのを確認して全身の汗を拭く。もう1度確認してから汗まみれのパンツも履き替えて制汗スプレーを全身に振りかけた。替えの軽装に着替えて飲む物を口に放り込んで水飲み場で流し込んだ。楽譜と楽器ケースからアルトサックスを取り出し手入れをして軽く息を吹き込む。その後、食堂にいるサックスパートの先輩からパート練習場所を聞きだして先に練習させていただいた。やがて先輩方や同級生も集まり始めて一緒に練習した。もうオーディションは始まっているはずだ。木管楽器からだというのですぐに呼ばれるだろう…と思っていたら

 

「フルート終わりました。3年生の方から順に、家庭科室へ来てください。」

 

早速来た。最後列に並び後を付いて行った。5つほど並べられた椅子に3年生の先輩方が座る。俺は一番端の床に座って座禅を組んで瞑想した。ただ静かに待った。次々と退室していく先輩方や同級生に「お疲れ様でした。」と声を掛けついに俺の番になった。「失礼します。」と挨拶して家庭科室に入った。広い空間に椅子と譜面台が置かれていた。「どうぞ。」と促され「失礼します。」と椅子に座る。

 

熊田「名前は?」

 

梓咲「佐々木梓咲と申します。」

 

熊田「はい、どうも。」

 

それから課題箇所、それ以外の箇所も延々と吹き続けた。

 

熊田「はい、ありがとう。次は…オーボエ、ファゴットの子たち呼んできてくれる?」

 

梓咲「かしこまりました。」

 

オーボエ、ファゴットの待機場所を先生から聞いて走って向かった。ノックして扉を開ける。

 

梓咲「サックスパート終わりました。3年生の方から順に、家庭科室へ来てください。」

 

待機している部員たちに見覚えのある後ろ姿。振り向く。美音さんと桃花先輩だった。笑顔を俺に向ける。心が和む。美音さんが駆け寄って俺に抱き着く。

 

美音「どうだった⁉ オーディション⁉」

 

梓咲「まあ…可もなく不可もなく…と言ったところでしょうか。先生の反応からは何も読み取れませんでした。それより…頑張ってください。」

 

美音「うん、頑張る! じゃあ行ってくる!」

 

教室の扉が開く。しかめっ面の桃花先輩がいた。

 

桃花「あの子、佐々木の事好きなの?」

 

梓咲「好意のようなものは感じますが俺はそれに応えられませんでした。」

 

桃花「ふーん、まあいいけど。じゃあ行ってくる。」

 

梓咲「いってらっしゃいませ。」

 

手を振って見送る。それから昼食を挟んで徹底的に走り込みと筋トレに励んだ。グラウンドも体育館も他の部で埋まっているので後者の外をグルリと回るように走りまくった。水で濡らした2枚のタオルを頭と首に巻いても喉が渇く。何とか走り込みを終えて水飲み場で頭から水を被り口内に流し込む。バッグを漁り飲む物を口に放り込んで水ごと飲みこむ。渇きは癒えた。日陰で黙々と筋トレをやった。いつも通りのノルマを終えて汗まみれの衣類を脱ぎ捨てて制汗スプレーを全身に振りまき着替えた。ようやく食欲が出てきた。夕食と入浴をさっさと済ませて薬を飲む。布団を敷いて寝転がる。どこからともなく「あ、翔子部長だ。」という声が聞こえた。急いで走り整列する。これから熊田先生がオーディション結果を発表するので先生が来るまで待機すようにと言った傍から先生が来た。次々と合格者の名が呼ばれる。

 

熊田「次、サックスパート。ファースト、佐々木梓咲。」

 

梓咲「はい!」

 

周囲がどよめく。残りは全員3年生の先輩で埋まったと思う。フルートパートで花音さんが呼ばれた。トロンボーンパートで梓さんが呼ばれた。内心ガッツポーズした。後に呼ばれたのは大体3年生か2年生だろう。

 

熊田「ではAメンバーは15分後から音楽室でミーティングやります。それが終わったら就寝タイムなので、みんな最後だと思って気合い入れるように。では解散。」

 

先生がパン!と両手を鳴らした後、静まり返った体育館内の雰囲気が賑やかになる。花音さんが梓さんの手を取って俺の下へ駆け寄ってくる。

 

花音「凄いね佐々木くん⁉ 初心者のド素人から始めて3~4ヶ月でA編成なんて⁉」

 

梓咲「練習しまくった甲斐がありました。」

 

梓「お互いAだったね! 頑張ろう!」

 

花音「ね、そろそろ音楽室行こう。先輩ばかりで多分私らアウェイだよ。」

 

花音さんが俺の手首を掴んで前へ進む。空いた手の指に梓さんの指が触れる。指が絡む。手を繋ぐ。温かい。安心する。ずっとこのままでいたかった。音楽室に着く。パッと手が離れる。中に入ると緊張感が増す。それぞれ各パートに分かれる。隣に座っている3年生の先輩に挨拶する。

 

梓咲「よろしくお願いいたします。先輩。」

 

「あ、うん。よろしく…。」

 

そう言って目を伏せる。「(言いたいことがあんならハッキリ言えや。)」と言いたい衝動に駆られたが我慢した。やがて熊田先生が入ってくる。

 

熊田「えー、忘れないでいてほしいことはここにいる55人は104人の中から選ばれたということ。君たち以外にも出たいと思っている部員はたくさんいる。彼女たちが君たちの演奏を聴いて、きちんと納得できるようにしないといけない。腑抜けた音楽を聴かせてどうしてあいつらがって思わせないように、全力でやること。わかった?」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

そう伝えて部員たちを見渡す。満足そうに笑みを浮かべた。

 

「「佐々木。」」

 

桃花先輩と南先輩に呼び止められた。

 

桃花「肩身が狭いとは思うけど我慢してね。その内慣れるから。」

 

梓咲「別にそういう思いはしてないですよ。ただ3年生の先輩方には言いたいことがあんならハッキリ言えや、とは思いましたが。」

 

おふたりの唾液を飲みこむ音が聞こえた。

 

南「……まあ演奏に集中して。それより今日はどうする?」

 

梓咲「きちんと運動のノルマもこなして薬も効いて既に頭がボーっとしています。もう大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます。」

 

南「お礼を言われるようなことはしてないよ。それなら今日はゆっくり休んで。」

 

梓咲「はい、ではおやすみなさい。」

 

「「おやすみ。」」

 

真っすぐ体育館に戻った。扉の前に見慣れた人影。梓さんだった。

 

梓「今日はきちんと眠れそう?」

 

先輩には断ったが欲が出た。

 

梓咲「お恥ずかしい話ですが、俺を抱きしめて頭を撫でていただけませんか?」

 

梓「いいよ。」

 

しゃがんだ。抱きしめられる。頭を撫でられる。いい匂いがする。

 

梓「私がついてるからね。安心して。」

 

梓咲「はい…。気分が落ち着いてきました。もう大丈夫です。ありがとうございました。」

 

梓「どういたしまして!」

 

梓咲「おやすみなさい…。」

 

梓「うん、おやすみ。」

 

壁沿いに歩く。布団の上に寝転がる。

 

こうして合宿2日目を無事に終えた。

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