ありえんごちゃまぜ現代超能力モノ   作:K-popfly

1 / 1
超能力モノ本編
能力者が差別される世界は非常に良いとされています


(……広いですね)

 

 青木舞は思わず、そう口にしそうになった。

 しかし、流石に品が無いと思い、音にしなかった。

 立派過ぎる門構えに、手入れの行き届いた庭園。

 日本有数の財閥である、炎慈財閥の本拠に相応しい豪邸だった。

 

「お待たせいたしました」

 

 中から、使用人と思わしき女性が出迎えてくる。その言葉から、感情は読み取れない。

 流石はプロだ、と青木は感心した。

 多少なりとも不信感や警戒心のようなものは見えていてもおかしくはないのに、その類のものが一切ない。

 かと言って機械的ではなく、歓迎するような声色でもあった。

 

「こちらへどうぞ」

 

 通されたのは、応接室。

 見るからに高そうなツボに、掛け軸などの品々が飾られていた。

 そこに居たのは、炎慈財閥の主要人物。

 当主に、妻に、その娘。

 

「どうぞ、お座り下さい」

 

 当主の声を合図に、青木は席に座る。

 今から始まるのは、今後を左右する大事な交渉だ。

 

「……青木さんでしたね」

「はい」

「頂いたお手紙には、能力者が差別されず、共存する社会を作るための組織を設立した……とありましたが」

「その通りでございます」

 

 青木は悠然とした態度で答える。

 緊張は、している。

 何せ日本有数の財閥の一族相手だ、緊張しない方がおかしい。

 しかし、それを表に出せば、不利に働いてしまうかもしれない。

 故に、ポーカーフェイスを貫いていた。

 

「炎慈財閥に、何を求めているのですか?」

「資金援助です」

 

 あまりにも正直な回答に、面食らったような顔をする三人。

 

「資金援助……ですか」

「はい。設備の維持、装備品の開発、隊員の報酬……それらには全て、金が必要です。理想を並べただけで、組織は成り立ちません」

 

 若いのに、現実を見ている。

 当主はそう感心したが、表情は崩さない。

 まだ、青木の言葉が信用に値するか値踏みしている段階だ。

 

「では、炎慈財閥の資金目当てと?」

「そうなりますね」

 

 またしても正直過ぎた返答に、部屋の空気が止まった。

 

「……随分と正直ですのね」

「嘘をついても意味の無い場面ですので」

 

 妻は、驚いた様子を隠しきれない。

 だが、悪い反応ではないように見えた。

 

「では、我が財閥以外でも良かったのでは? 何故我々に?」

「炎慈財閥は、能力者を差別的に見ていないからです」

「ほう、その根拠は?」

 

 当主が、興味深そうに相槌を打つ。

 

「響生さん」

 

 その名前が呼ばれた瞬間、三人がピクリと動いた。

 

「響生さんは、先天性の能力者ですね?」

「……何故、それを」

「私の能力です。本質を見抜く能力で、能力の有無も見分けられます」

 

 なるほど、この人もまた、能力者なのかと当主は思った。

 

「ですが響生さんは、迫害を受けていない。むしろ、深い愛情を受けて育ってきた」

「……大切な娘ですから」

「ええ。そんな炎慈財閥だからこそ、協力を要請したのです」

 

 能力者の見られ方は、厳しい。

 現に、今の社会では、能力者だと発覚した子供を捨てる親が少なからず存在する。

 その度に、受容派である組織や団体が子供たちを保護しているのだ。

 

「私は、能力者が差別されるこの社会を変えたいと思っています。悪意を向けられることが、普通になって欲しくはないのです」

「……随分と熱く語るのですね」

「…………申し訳ありません、私事でした」

 

 青木は、後天性の能力者。

 能力が目覚めた頃に暴発し、周囲の人間が能力者に対する対して差別的な感情を持っていることを感じ取ってしまった。

 それが原因で軽度の人間不信にも陥った。

 その経験から、それが当たり前である今の社会を変えたいと──強く思っている。

 

「では、具体的な活動内容は?」

「能力を用いた犯罪への対応、能力者の保護に、将来的には、能力者に対する法整備への働きかけも行いたいと考えております」

「随分と大きな目標ですね」

「はい。それを果たすためには、やはり金が必要になります」

 

 ふふ、と笑う声が響いた。

 笑い声をあげたのは、炎慈だった。

 

「わたくし、このお方のこと、好きかもしれません」

「響生」

「人として、です」

 

 楽しそうに笑ってから、青木に尋ねる。

 

「それで。わたくしには、何を求めていらっしゃるのですか?」

「何も」

「…………はい?」

 

 炎慈の笑みが、止まった。

 

「今回、私が求めているのは炎慈財閥からの資金援助です」

「……では、わたくしは?」

「響生さんは、何もする必要はありません」

 

 青木は、当然のように答える。

 

「能力者であることは承知していますが、戦闘経験は無い。危険な場所に出す理由がありません」

「…………」

「資金援助を受けられるのであれば、響生さんの安全は可能な限り保証します」

 

 その言葉に炎慈の両親は、僅かに安堵したようだった。

 だが。

 炎慈だけは、違った。

 

「……それは」

 

 炎慈は、ゆっくりと口を開く。

 

「わたくしは、護られていれば良いということですか?」

 

 青木は、炎慈を見やる。

 

「はい」

 

 あまりにも迷いのない、言葉だった。

 だがそれは炎慈にとって、気持ちの良い言葉ではなかった。

 

「何故ですか?」

「何故、と言われましても」

「わたくしも、能力者です」

「存じています」

「他者の身体能力を向上させることも、出来ます」

「それも」

「でしたら」

 

 炎慈の声に、熱がこもった。

 

「わたくしにも出来ることが、あると思うのですが」

「響生」

 

 当主の声が、低くなる。

 鋭い目つきだった。

 

「危険なことをする必要は無い」

「お父様、ですが」

「お前は、炎慈財閥を継ぐ者だ」

「だからこそです」

 

 炎慈は父親を真正面から見据え、続けた。

 

「わたくしだけが安全な場所にいて、お金だけを出して。それで能力者の未来が良くなった時、わたくしは胸を張れるのでしょうか」

「…………」

「自分も能力者なのに。自分は何もせず、守られていただけなのに」

 

 炎慈は、自分の手を見つめる。

 

「わたくしは、それは嫌です」

 

 青木は、黙って炎慈を見ていた。

 先程までの優雅な笑みは、もう無い。

 そこにいるのは。

 一人の、若い能力者だった。

 

「青木さん」

「はい」

「貴女は、能力者の地位を向上させたいのでしょう?」

「はい」

「でしたら、わたくしも当事者です」

 

 真っ直ぐな瞳だった。

 

「わたくしも、組織に入れてください」

「響生!」

 

 両親の声が、重なる。

 青木は静かに炎慈を見つめていた。

 

「……今の貴女では、仲間に引き入れることは出来ません」

「理由をお聞きしても?」

「言葉を選ばずに言うと、弱いからです」

「青木さん!」

 

 母親が、思わず声をあげる。

 だが響生がそれを手で制した。

 

「続きを」

「響生さんには、戦闘経験が無い。能力を戦闘に使用した経験も無い。身体能力を向上させられると言っても、元の身体が鍛えられていなければ限界があります」

 

 青木は、淡々と続ける。

 

「今の響生さんを戦場に出しても、守られる側が一人増えるだけです」

「…………」

 

 炎慈は、俯いた。

 両親は何も言わない。

 しばしの沈黙。

 そして。

 

「では」

 

 炎慈が、顔を上げた。

 

「強くなれば、よろしいのですね?」

 

 青木が、僅かに目を見開いた。

 

「今のわたくしが弱いから駄目なのであれば、鍛えて強くなればいいだけの話です」

 

 でしたら、鍛えます。

 炎慈響生は、そう言い切った。

 

「……その表情は、どのように捉えれば良いのでしょうか?」

「……いえ、てっきりすんなり諦めてくださるものだとばかり」

「わたくし、欲しいものを簡単に諦められる性分ではないのですよ」

 

 悪戯っぽく微笑む彼女は、青木が想像していた《炎慈財閥の跡取り娘》の姿とは違っていた。

 

「……分かりました」

 

 青木が、静かに言う。

 

「響生さん」

「はい」

「一定期間、私の考案したトレーニングを受けてください」

 

 炎慈の瞳が、希望で輝く。

 

「戦場に立てるだけの力を身に付けたと私が判断した場合、守護陣営の一員として迎え入れます」

「本当ですか?」

「ただし」

 

 青木は、炎慈の両親を見る。

 

「ご両親の許可が得られれば、です」

「…………」

 

 炎慈が、恐る恐る両親を見る。

 二人は、難しい顔をしていた。

 当然だった。

 蝶よ花よと育ててきた一人娘が、戦場に立ちたいと言い始めたのだから。

 

「……青木さん」

 

 炎慈の父親が、口を開く。

 

「娘の安全を、保証できますか」

「絶対に、とは言えません」

 

 即答だった。

 

「戦場という場所に立つ以上、絶対はありません」

「…………」

「ですが」

 

 青木は、炎慈を見る。

 

「私が出来る全てを使って、護ります」

 

 静かな、だが確かな声だった。

 

「戦況を読み、無謀な指示は出さない。装備を整え、訓練を行う。危険だと判断すれば、本人が望んでも戦場には出しません」

 

 炎慈の父親は、青木の目を見つめる。

 

「それが、私に出来る保証です」

「……もう一つ」

「はい」

「能力者が、将来」

 

 炎慈の父親は、娘を見る。

 

「この子が、自分の力を隠さず生きられる社会を作ると。約束できますか」

 

 青木は、すぐには答えなかった。

 出来るかどうか。

 そんなことは、分からない。

 自分はまだ、何も成し遂げていない。

 それでも。

 

「そのために」

 

 青木は、静かに答えた。

 

「私は、この組織を作りました」

 

 炎慈の父親は、目を閉じる。

 長い沈黙の後。

 

「……分かりました」

「お父様」

「炎慈財閥は、守護陣営への資金援助を行います」

 

 炎慈が、息を呑む。

 

「活動拠点、装備、医療設備。その他、必要なものがあれば相談してください」

「ありがとうございます」

「ただし」

 

 父親は、青木を見る。

 

「娘を、よろしくお願いします」

 

 青木は、今度は深く頭を下げた。

 

「はい」

 

 そして。

 

「響生」

 

 母親が、娘を見る。

 

「本当に、やるのね?」

「はい」

「今までの習い事とは、違うのよ」

「分かっています」

「痛い思いもするかもしれない」

「それも、承知の上です」

 

 真っ直ぐな瞳で受け答えをする炎慈を見て、母親は観念したように一つの息を吐く。

 

「……本当に、やると決めたことには真っ直ぐな子ね」

「うふふ、それがわたくしですもの」

 

 その日。

 青木舞は、炎慈財閥からの全面的な資金援助を取り付けた。

 それは、守護陣営として──組織として、大きく前進した日だった。

 だが。

 後に青木は、この日のことを振り返って、こう語る。

 資金を求めて炎慈家を訪ねた。

 そこで得た最大のものは、金ではなかった、と。

 

「青木さん」

 

 帰ろうとする青木を、炎慈が呼び止める。

 

「どうされましたか?」

「トレーニングは、いつから始めるのですか?」

「明日からでも構いませんが」

「では、明日からお願いします」

「……大学は?」

「両立します」

 

 迷いの無い、即答であった。

 

「習い事は?」

「両立します」

「財閥の跡取りとしての勉強は?」

「両立します」

「…………」

「何ですか?」

「いえ」

 

 青木は、僅かに笑った。

 

「頼もしい人が入ってくれたと思いまして」

 

 炎慈は、一瞬だけ目を丸くする。

 そして、嬉しそうに笑った。

 

「まだ入っていませんよ」

「そうでしたね」

「ですが」

 

 炎慈は胸を張る。

 

「すぐに、認めさせてみせます」

 

 後に、守護陣営の活動資金を支え。

 味方の力を引き上げ。

 美しい回し蹴りで敵を沈め。

 密かに“バトルジャンキーお嬢様”と呼ばれることになる女性。

 炎慈響生。

 守護陣営最初期の一人が生まれたのは。

 青木舞が、資金を借りに行った日のことであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。