資格を手放した元先生の繰り返した世界線での願い 作:Thinker1714
だからこそ話を練るのにすごい時間がかかった……
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暗く静まり返った旧時代の水路を進むことしばらく。流れの先に見えてきた出口の光を目指して浮上すると、そこは殺風景で荒れ果てたアリウスの郊外だった。
周囲に警戒しつつ水面から上がろうとしたその時、水辺の近くで、何やら重たそうな容器を抱えてひっそりと水を汲みに来ていた一人の少女――眩いほどの白に近い銀髪に純白の翼、藤紫色の目が特徴的な白州アズサの姿が目に入り、俺たちは互いに足を止めるのだった。
「――っ!? 誰だ……!?」
反射的に銃口を向けられ、緊張感が張り詰める。
だが、俺は慌てず騒がず、両手を軽く挙げて無害であることをアピールしながら、水中用リグのマスクを外した。
「驚かせて申し訳ない、銃を下ろしてくれ。敵意はないさ。見ての通り、ただの通りすがりの者だ」
「……こんな旧時代の排水路から……? あり得ない、お前は何者だ。トリニティの回し者か?」
疑念を隠さないアズサの視線を受け流しつつ、俺は周囲の様子をさりげなく観察する。
あからさまに警戒されている以上、深追いするつもりはない。今回の目的はあくまで「様子見」と「地理の把握」だ。
俺は思考の端で、用意していた微小なナノマシンを空気中にそっと霧散させた。肉眼では捉えられないナノの群れが風に乗り、アリウス郊外の廃墟群、複雑に入り組んだ地下構造、そして周囲の動線を瞬く間にスキャンし、頭部の端末へと立体マップとして描き出していく。
(ふむ……インフラの崩壊具合も、防衛網の穴もだいたい把握できたな。ベアトリーチェの息がかかっているとはいえ、管理体制がガバガバというより、生徒たちを捨て駒としか見ていないからか……全体的な栄養不足が見て取れるな)
一瞬で地域のデータと生徒たちの健康状態などを脳内に焼き付けた俺は、ふと、アズサが抱えている水瓶や、その痛々しいほど張り詰めた雰囲気、何よりその細すぎる身体に目を留めた。
物資が乏しく、常に過酷なサバイバルを強いられている彼女たちの現状が痛いほど伝わってくる。
「……長居するつもりはない。ただの挨拶がわりだ」
俺は防水のバックパックから、念のために持ってきていた保存用の缶詰やレーションなどの実用的な物資を取り出すと、彼女の足元へとぽんと放り投げる。
「なっ……何をする気だ?」
「安心しろ、毒なんて入っちゃいない。そっちは色々大変そうだしな、ほんの気まぐれな差し入れだ」
「……こんなもの、いらない……」
戸惑いながらも、どこか切なそうに缶詰を見つめるアズサを尻目に、俺は再び水中用マスクを装着する。
「それじゃ、お互い面倒事はごめんだ。また気が向いたら、別のルートから顔を出すかもしれないがな……あぁ、そうだ。その缶詰とかは、少しラベルを汚したり傷つけたりしてから持ち帰った方がいい。あまりに綺麗なままだと、周囲に余計な詮索をされるだろうからな」
言い残すと、俺は冷たい水面へと身を滑らせ、来た道を戻るように潜っていく。
背後でアズサが何か言いかけたような気がしたが、振り返ることはしない。
それから数日が過ぎた。
トリニティ自治区での支部開設に向けた手続きを順調に進めつつ、俺は再び、トリニティの大きな湖の底へと潜っていた。
前回持ち帰ったナノマシンによるスキャンデータを元に構築した完全な地下水路のマップがあれば、移動は手慣れたものだった。クモの巣状に複雑に入り組んではいるものの、今使っているのは比較的大きな幹線水路のため前回よりもスムーズに水脈を駆け抜け、俺は再びアリウス郊外の水辺へと浮上する。
周囲に人気がないことを確認して水面から這い上がり、水中用装備の簡易的な排水処理や、装備の分解収納を行っていると、前と同じように、ひとりで水汲みに来ていたアズサの姿が視界に入った。
彼女もまた、俺の姿に気づいて足を止める。前回の警戒心は残っているものの、どこか「またお前か」と言いたげな、呆れと戸惑いが入り混じった目をしていた。
「……お前、また来たのか。あそこの水路が安全だと分かったからって、何度も通っていい場所じゃないぞ。ここはアリウスだ」
「悪いな。近くに用事があったついでに、少し空気の吸い直しさ。……にしても、相変わらず顔色が悪いな。ちゃんと食えてるのか?」
俺が率直に尋ねると、アズサはわずかに眉をひそめ、持っていた容器を強く握りしめる。
「……大きなお世話だ。私たちのことなんてどうでもいいはずだろ。お前は一体、何が目的なんだ。トリニティの人間でもなさそうだし……。お前は何者だ」
「俺か? 組織の名前は『ノイアンファング』。キヴォトスの裏表を繋ぐ、しがない何でも屋の経営者ってところだ。お前みたいに行き場をなくした連中の相手も、商売のうちに含まれてるのさ」
冗談めかして笑う俺に、アズサは小さく息を吐き、どこか諦めたような、それでいて冷めた視線を足元の地面に向ける。
「……何でも屋、ね。そんなものがこの腐った世界に何の役に立つ。ここでは誰も救われない。すべては空虚で、意味のないことだ」
彼女の口から零れ落ちた言葉に、俺はわずかに目を細めた。
(この時の彼女は、ほかのアリウスの子たちと同じ呪縛に囚われているのか……)
その思考の底に張り付いている、歪んだ教育と絶対的な絶望の気配。それを察知した俺が何か言い返すより早く、アズサは自嘲気味に呟く。
「――『|Vanitas vanitatum, et omnia vanitas《ウァニタス・ウァニタートゥム・エト・オムニア・ウァニタス》』。すべては虚無、何の意味もない……それが、私たちの生きる世界の真理だ」
そのラテン語のフレーズが響いた瞬間。
――ピクリ、と周囲の空気が凍りついた。
「待て」
冷徹で、微塵の隙もない硬質な声が、背後から響く。
反射的に身構えた俺の視界の端を、凄まじい速度の銃弾がかすめ、足元の地面を抉り取った。
「動くな、不法侵入者」
水辺を囲むように、幾つもの影が音もなく現れる。
先頭に立っていたのは、不気味なほどの戦闘センスと冷徹な目を宿した、黒髪に青のインナーカラーが入った長髪の少女――将来アリウススクワッドのリーダーとなるサオリだった。
その背後には、同じく銃を構えた部隊員たちが、殺気を隠すこともなくこちらを標的として捉えている。
「サオリ……!」
アズサが驚いて息を呑み、サオリたちの方へと一歩踏み出す。
だが、サオリの冷たい視線はアズサではなく、まっすぐに俺へと向けられていた。彼女の銃口は微動だにせず、俺の急所を正確に捉えている。
「アズサ、下がれ。そいつが何者か、私たちのエリアで何を嗅ぎ回っているのか、ここでハッキリさせてもらう」
サオリは低く警告するように言い放つと、フードを深く被った少女――その隙間からちらりと覗く赤い瞳の主、アツコへとアイコンタクトを送る。
察知したアツコが素早くアズサの腕を掴み、強引に俺から引き離して背後へと下がらせた。
「待て、サオリ! こいつはただの――」
「黙っていろ、アズサ。お前が誰と何を話していたか、後でゆっくり聞き取りをする」
アズサの弁明を冷たく遮ったサオリは、ゆっくりと俺に銃口を向けながら、さらに一歩間合いを詰めてくる。
圧倒的な殺気と、死線をくぐり抜けてきた者にしか出せない張り詰めたプレッシャー。
アリウススクワッドの警戒態勢は完璧だった。
(やれやれ……これ以上長居すると、面倒な全面戦争になりかねないな)
俺は両手を軽く上げ、あえて敵意がないことを示すように薄笑いを浮かべる。
「っ……何がおかしい」
俺の不敵な笑みに反応し、サオリがさらに強く銃を握りしめる。
銃口の先にあるのは一触即発の地雷原。しかし、ここで素手や重火器を持ち出すのは得策ではない。「様子見」の範疇はもう十分に越えた。
「おっと、そんなに殺気立つなよ。ただの世間話の続きをしていただけだ。……まあ、これ以上長居する気もない。お邪魔したな、お嬢さんたち」
俺は足元に仕込んでいた煙幕用の小型ナノマシンカプセルを床に叩きつける。
一瞬にして立ち込めた濃密な煙が周囲の視界を完全に遮断し、サオリたちの放つ銃弾が煙を切り裂く。
「最後に教えておこうか。アズサと言ったな――『|Vanitas vanitatum, et omnia vanitas《ウァニタス・ウァニタートゥム・エト・オムニア・ウァニタス》』。その言葉には続きがある」
どこからともなく響いてきた俺の声に、サオリたちが警戒を高め、音の先を睨みつける。
「――『|Quid habet amplius homo de universo labore suo, quo laborat sub sole?《クィド・ハベト・アンプリウス・ホモ・デ・ウニウエルソ・ラボーレ・スオ・クォ・ラボラト・スブ・ソーレ》』。意味はこうだ。人が日の下でいくら苦労しても、そのすべての労苦は、一時的に得る利益のほかに何の益があるだろうか、とな」
煙の向こうから響く低く静かな声に、アズサがハッとしたように目を見開く。
「それはな、先の『すべては虚無である』という言葉と組み合わせることで、『人間が自分の力だけで何かを成し遂げようと執着することは、風を捕まえようとするくらい虚しい』という意味になる。だからこそ、人間は自分の限界を知り、今目の前にある『食べて、飲んで、自分の仕事を楽しむこと』という、神から与えられたささやかな日常を大切に生きるべきだ、とな……」
自分たちが教え込まれてきた世界の真理を根底から揺さぶるような言葉に、アズサやサオリたちがわずかに動揺の色を滲ませる。その真意を問いただそうと言葉を探す彼女たちを他所に、俺の声は静かに遠ざかっていく。
「……君たちの聞かされた言葉がどんな意味なのか、少しは自分で考えてみるんだな」
どこからともなく響いてきた声の主を追おうとするも、濃い煙が完全に晴れたとき、そこに俺の姿はすでに無く、ただ冷たい水面の波紋が小さく揺れているだけだった――。
アリウスでの一幕から数日後。
トリニティ自治区での地盤固めと並行し、俺は『ノイアンファング』の拠点で次なる手立てを模索していた。水面下で蠢くキヴォトスの闇を相手にする以上、一歩の踏み間違えが致命傷になりかねない。
そんな緊密な静寂が支配する事務所に、しかし、厳重な外構セキュリティを無視するかのような、部下たちの制止する声と荒々しくも切羽詰まった足音が近づいてくる。
――ガァンッ! と、重厚な装飾の施された木の扉が乱暴に蹴破られるように押し開かれた。
反射的に眉をひそめた俺の視界に飛び込んできたのは、冷や汗を拭いながらも必死に威厳を作ろうと胸を張る、白髪で背が高く、切れ長の目と特徴的な4本の角を持つ羽沼マコトと、その背後で影のように立ち、周囲の全てを射抜くような冷徹な眼光を向ける――マコトと同じ白に近い銀髪と特徴的な小柄な身体をした、情報部時代の空崎ヒナの姿だった。
(この時期のヒナは、原作と違って髪型がショートなのか……)
心底どうでもいいような細部を脳の隅で流しながら様子をうかがっていると、耐えかねたようにマコトが声を張り上げた。
「ふん……! ここが噂の、裏社会の何でも屋『ノイアンファング』の隠れ家か!」
偉そうな態度を取り繕っているが、その額に滲む冷や汗が、今の彼女たちが置かれている状況の異常さを雄弁に物語っていた。
一方のヒナは一言も発せず、ただスッと目を細め、この部屋の構造、俺の立ち位置、そしていつでも銃を抜けるための死角を瞬時に計算している。その肌を刺すような殺気は、情報部という部署の枠を超え、数々の修羅場をくぐり抜けてきた者にしか出せない本物の気配だった。
「おや、ゲヘナの『万魔殿』の候補生と、その情報部のルーキーじゃないか。アポなしの来訪とは、うちも随分と舐められたもんだな」
俺が椅子に深く腰掛けたまま皮肉を返すと、マコトは気まずそうに一度咳払いをした。
「キキキ……それは済まない。だが、用件を聞けば貴様も腰を抜かすはずだ! 単刀直入に言おう……我々は、今のゲヘナを支配する『雷帝』の恐怖政治を終わらせる。そのためのクーデターを起こす計画だ。そして、その外部協力者として実力の高い貴様たちを指名しに来た!」
――『雷帝』
その名前が出た瞬間、室内の空気が一段と重く凍りついた。
ゲヘナを恐怖で支配し、常軌を逸した超兵器の数々でキヴォトス全体を混沌に陥れようとしている絶対的な狂気。その首を取るために、まだ権力基盤も固まっていない彼女たちが、外部の組織にすがりに来たというわけだ。
だが、俺はすぐに頷くことはしなかった。いや、絶対に頷けない理由があった。
(雷帝……。あの規格外の狂気と、いつ暴発するか分からない『遺産』の規模が完全に測れない。もし迂闊に手を貸せば、我が組織のスケバンたちやヘルメット団の部下たちに直接的な危害が及ぶリスクがある。それだけじゃない……下手に刺激すれば、報復の矛先がブラックマーケット全体、いや、つい先日支部の設立に動き出したトリニティ、そしてアビドスにまで飛び火しかねない)
裏社会の組織の命運を背負う経営者である以上、少女たちの焦燥感に同情して軽率な首を突っ込むわけにはいかない。
俺は冷徹に息を吐き、机の上で組んでいた指を解いた。
「『雷帝』の首を狙う、か……。大きく出たな。だが、お前たちのその依頼、今の条件では到底受けられないな」
「なっ……!? 我々の計画を断るというのか! 報酬なら幾らでも――」
「金の問題じゃない」
マコトの言葉を遮ったのは、背後に控えていたヒナだった。
彼女は鋭い視線を俺に固定したまま、一歩前に出る。その声音には、無駄な感情の一切が削ぎ落とされていた。
「……死騎ユウ。キヴォトスでもヘイローを持たず銃を抜く相手は基本的に大人相手……私たち生徒に対しては近接武器による戦闘をする特機戦力の一人。あんたは分かってるんだ。雷帝の脅威が、このゲヘナの枠にとどまらないってことを。……私たちの背負っているリスクの大きさを、その目で測っているのね」
「流石は情報部だな。話が早い」
俺は椅子から立ち上がり、二人の正面へと歩み寄る。
一触即発の緊張感の中、キヴォトスの裏表を揺るがす巨大な歯車が、音を立てて噛み合い始めていた――。
Tips 主人公のである死騎ユウはブルアカをプレイしていた経験からか一次期神話などや聖書などを読み漁っていたためアリウスの言葉に返すことができた。
主人公の戦闘能力がヒナちゃんに把握されてるのはゲヘナ近郊で戦闘していたこともあったため。これは他の学園でも周知されつつある。
今の文章量で良いのか読み足りないのかわからないので皆さんの意見を参考にします
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今の4千〜5千字くらいの目処
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5千〜1万字くらいの目処
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1万以上を目処