資格を手放した元先生の繰り返した世界線での願い 作:Thinker1714
プラスして仕事の日は何も手につかないのと最近の気温の寒暖差や気圧の影響で体調を崩してました(現在進行系)
皆さんもお身体に気をつけてください
それではどうぞ
ゲヘナの本丸から分身体で生還を果たした翌日、作り出したガードメカなど総動員し、厳戒態勢を敷いて身構えていたノイアンファングの事務所に、来客はなかった。
代わりに、堅牢に閉ざされていたはずの部屋の扉の隙間に、一通の封筒が音もなく挟み込まれていた。
封を開ければ、そこには優美でありながら狂気を孕んだ筆跡でこう記されていた。
――『昨日の茶会は実にスリリングで楽しかったよ、協力者くん。またいずれ、じっくりと言葉を交わそう。
追伸:君の培った裏の流通網や、繋がりのある他の場所(アビドスやトリニティなど)には、当面手を出すつもりはない。安心して商売を続けるといい』
雷帝からの実質的な休戦協定、あるいは「手出しできない異質さ」に対する一定の評価だった。戦火を広げないための最悪の妥協点ではあるが、今の俺が望む結果としては十分だった。
その日の午後、さらに予想外の通信が入った。
姿を隠していたはずのマコトとヒナの二人からだった。通信越しに聞こえてきたのは、過酷な逃避行の疲労と、俺を巨大な権力闘争に巻き込んでしまったことへの激しい罪悪感、そして何より俺が無事だったことに対する心底からの安堵だった。
その必死な謝罪を聞き流しながら、俺はただ「商売上のリスク管理の一環だ、気にするな。それと体調などに気をつけろ。物資に色を付けてやるから」と短く返し、通信を切る。この事件を経て、彼女たちにとっての俺は単なる「利害一致の裏社会の人間」から、もう少しだけ踏み込んだ存在へと変わってしまったらしい。
――それから、約1ヶ月の月日が流れた。
雷帝の手紙と休戦の裏を警戒し、俺はあえて外部への移動を一切断った。アビドスやトリニティといった他自治区への接触も完全に凍結し、活動範囲をブラックマーケットの管轄内、それも最低限の裏仕事だけに留める徹底的な「冷却期間」を置いたのだ。表の仕事は部下たちで十分回せるようになったのも大きい。
ゲヘナの嵐が表向きの平穏を取り戻し、ようやくその緊張の糸が緩みかけた、まさに1ヶ月が経とうとしたその時のことだった。
「――っ」
事務所のデスクに備え付けたメインサーバーのインジケーターが、突如として異常な速度で赤く点滅を始めた。
凄まじい処理速度でブラックマーケットのファイアウォールを次々と踏み破り、この拠点の深部へと迫る超高精度の
「……面倒な客だな」
悠長にキーボードを叩いている暇などなかった。俺は即座に右腕の生体組織を微細にスライドさせ、体内のナノマシンを物理的な端子へと直結させた。
電子の海で迎え撃つのではなく、自らの肉体をナノマシン化し、サーバーの物理層へ直接侵入。データそのものを物理的に回線から切り離し、数ミリ秒の隙をついて物理隔離するという荒業をやってのける。
完全な防壁の遮断と同時に、俺は引きちぎった回線の余波を辿って、逆に侵入元の回線へと強烈な逆探知を叩き込んだ。
「――ハッキングの仕返しだ。顔くらい見せてもらおうか」
通信機を強制的にリンクさせると、向こう側の端末で「嘘、嘘でしょ……!? ファイアウォールに到達する前に、物理層から回路を引っこ抜かれた……!?」という、信じられないものを見るような少女の悲鳴が響いた。
画面の向こうに映し出されたのは、まだ「全知」の称号を与えられる前、ただ純粋な知的好奇心に目を輝かせている天才・明星ヒマリ。その隣で、冷徹な合理主義の片鱗を覗かせながら眉をひそめる調月リオ。さらに、防壁の異常な破損に冷や汗を流している各務チヒロという、将来のミレニアムサイエンススクールの超頭脳陣たちだった。
彼女たちの奇妙な興味本位のハッキングをいなしたのをきっかけに、なぜかミレニアムの深部、あるいはその外縁のネットワークと奇妙な縁が結ばれてしまった。
そして数日後――その縁を辿るようにして、俺はミレニアムの管轄外にある、打ち捨てられた古い廃墟の1角へと足を運ぶことになった。
そこには、都市のインフラから切り離されたはずの、奇妙に神聖ですらある空間が広がっていた。
「ようこそ、人間よ。あるいは、異物にして証明者か」
目の前のAI搭載モデルと書された自販機から、機械的でありながらどこか尊大なトーンの声が響く。――デカグラマトン。自らを「神」と称し、その絶対証明のために淡々と預言者たちを動かす、超然とした存在。
その周囲では、あどけない少女の姿をした3つの個体――アイン、ソフ、オウルが、機械的な無機質さを漂わせながらも、まるで無邪気におままごとをするかのように楽しげに戯れていた。
(この時期にここにいるのは珍しい。鋼鉄大陸の建造で向こうにいるものだとばかり思っていたが……)
デカグラマトンは理路整然とした機械音声を響かせる。遠く離れた地で第十の預言者を完成させるためなのだろう、奴らはこう切り出した。
「我らの悲願である『十字神名』の器……その最初の意思にして、姉妹の頂点たる『マルクト』の製造に、君のもつナノマシン技術と、その特殊な構造を貸してほしい」
おそらく鋼鉄大陸のほうで製造されているであろうマルクトの、最高峰の素材として俺のナノマシン技術が欲しいらしい。自分自身、転生特典の1つである規格外のナノマシンとしか認識していないが、それらを知らない彼女らからすれば、それこそオーパーツレベルの未知の鉱物同然なのだろう。
そんな俺の思考を他所に、アインがじっとこちらを見上げて口を開いた。
「あ……あの!! お姉様を完成させたいので、どうか力を貸してもらえませんか?」
たどたどしく、それでもプログラムされたとは思えないようなアインの言動に、俺は思わず眉をひそめる。原作でわかっていたがあまりにも強い姉であるマルクトに会いたいという想いが感じられるからだ。ソフとオウルも黙ってこちらを見ているが、その無機質な佇まいの奥にある感情はアインと同じものなのだろう。だが――その儚く揺らぐ少女たちの瞳を見つめていると、どうにも放っておけない厄介な感情が胸の奥で疼くのだった。
――また別の日。
デカグラマトンとの邂逅、そしてミレニアムの騒乱。相次ぐ厄介事にすり減った神経を癒やすため、俺は少しばかりのストレス発散と頭の冷却を兼ねて、百鬼夜行連合学院の自治区へと足を運んでいた。
立ち並ぶ和風の建物や、あちこちから漂う甘味や出汁の匂い。物騒な爆音が日常茶飯事のゲヘナとは違い、どこかのんびりとした空気が流れるこの街で、俺は食べ歩きをしながら細い路地を歩いていた。
……もっとも、先の見えない重圧や、いつ牙を剥くか分からない脅威に脳みそを使いすぎたせいか、どうにも胃のあたりが重い。そんな鬱屈した気分を振り払おうと、名物の団子を口に放り込んでいた時だった。
「おにーさんどうしたの?そんなに難しい顔しちゃって?」
ふと声をかけられ、振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
百鬼夜行の制服の上に百花繚乱調停委員会の羽織を纏い、どこかあどけなさを残した涼しげな目元ときれいな金の髪を三つ編みにして左肩から前におろしてる。後にこの自治区にて心が折れて敵対してしまう、今の時点ではまだ何の影も落としていない、純真無垢な少女。百鬼夜行の生徒、アヤメだった。
「……俺か?」
「はいっ! 何か思い詰めたような顔をしていらしたから……。あの、もしよかったら、私に百鬼夜行の観光案内をさせていただけませんか? ここの自慢の景色を見たり、おいしいものを食べたりして、少しでも悩みを忘れられたらいいなって思って!
あ、自己紹介がまだでしたね。私は七稜アヤメ、百花繚乱調停委員会に所属している1年です。よろしくお願いしますね!」
アヤメは少し照れくさそうに、しかし心底から他人の心配をするような慈愛に満ちた笑みを浮かべてそう言った。
――ああ、なるほど。
原作では知っていたが、この時期のアヤメはまだ、組織の重責や人々の依存によるすり潰される前の、ただ純粋に人を助けたい、笑顔にしたいと願う一人の少女にすぎないらしい。その曇りのない瞳を見ていると、こちらのささくれた精神が少しだけ気恥ずかしくなる。
「……案内か。悪くないな。ちょうど、甘いもの巡りに付き合ってくれる奴を探してたところだ。頼むわ、アヤメ。それと俺も自己紹介しとくな。俺は死騎ユウ。ブラックマーケットでノイアンファングっていう何でも屋をしている。よろしく頼む」
「うんっ! 任せて!」
こうして、奇妙な観光案内が始まった。
アヤメは街のガイド役として、次々と美味い茶屋や隠れた名所へ連れていってくれた……のだが、そこは生来の面倒見の良さというか、お人好しが過ぎる性格なのだろう。移動する先々で、困っている露店の店主や、荷物を落とした住民、道に迷った子供を見つけては、放っておけずに声をかけ、結局すべての頼み事や雑用をニコニコしながら引き受けてしまう。
「あ、そこのおじいちゃん、重そうですね! 私が運びます!」
「そこのお姉さん、迷子ですか? じゃあ一緒に探しましょう!」
(……おいおい、観光はどうした。…………それにしても、これがそうか……理想を体現しようとして、あぁなってしまうのか)
最初は後ろで見物していた俺だったが、あまりにもアヤメが一人で背負い込み、周囲の人間も「いい子だから、頼りになるから」と甘えて次から次へと雑用を押し付けていく様子を見ているうちに、どうにも胸の奥がムズムズして仕方がなくなった。
――見てるだけなんてのは、どうにも性に合わない。
「……まったく、手がかかるガイドだな」
俺はため息をつきながら懐から手を出し、アヤメが運ぼうとしていた重い木箱を片手でひょいと持ち上げた。
「えっ? あの、お兄さん……?」
「1人で何でもかんでもするな。さっさと終わらせるぞ。突っ立ってないで次の荷物を持て」
「あ、ありがとうございます……! えへへ、優しいんですね、ユウさん!」
俺が面倒くさそうに手伝い始めると、アヤメはパッと花が咲いたような笑顔を見せ、さらに張り切って町中の雑用を片付け始めた。結局、その日は夕方までアヤメの「お助け行脚」に付き合わされる羽目になり、俺のストレス発散は別の意味で体力を使う結果になったのだった。
――だが、すべての用事を終えて、アヤメが「今日は本当にありがとうございました!」と満足そうに頭を下げ、別の目的地へ走っていった直後。
俺はふと足を止め、先ほどアヤメが親切にしてやった住民たちの集まりへと、静かに引き返した。
住民たちは「あの子は本当にいい子だねぇ」「タダで色々手伝ってくれて助かるよ」などと笑い合っていたが、俺はその中の一人の男の前に立ち、冷徹な視線を向けた。
「……さっきのあの子に、頼めばやってくれるとはいえこれ以上無茶な頼み事や、面倒事を押し付けるなよ」
「は、はあ……? あんたは……?」
「ただの通りすがりだ。だがな、あんな純粋な好意に甘えて、何でもかんでも便利使いしていい気になってるなら、あの娘が潰れるぞ?」
原作を知っている身からすればこの後の彼女のことを思うとそう言わずにはいられなかった。周りの住民たちもこちらが言った「潰れる」という単語に思うことがあったのか気まずそうにしているが、今回ばかりはこちらの意見を変えるつもりはない。
アヤメ自身には、そんな忠告など一生気づかせるつもりはない。あいつはいつだって、自分の善意だけで笑っていればいい。そしていつかは理想と現実の線引きをしっかりとして心が折れないようになってほしいと願うばかりだ。
彼女がこれから直面するであろう残酷な運命を思えば、今のこの眩しすぎる無邪気さを、少しでも長く守ってやりたい――なんて柄にもない感傷を胸の内で吐き捨てながら、俺は夕暮れの百鬼夜行の街をあとにしたのだった。
事務所に戻り、溜まっていた雑務を片付けようと端末を操作した瞬間、ディスプレイに『モモトーク』の通知が弾けた。差出人は――ユメ先輩からだった。
メッセージを開くと、いつもの快活な雰囲気とは違う、どこか沈んだ文面が目に飛び込んでくる。
『……ユウくん、ごめんね。ホシノちゃんとさっき、ちょっと言い合いになっちゃって。あの子、最近なんだか少し突っ張ってて……私、うまく向き合えてないのかも。もしよかったら、少しだけホシノちゃんの話、聞いてあげてくれないかな? 私は朝イチでやらなきゃいけない用事あるから……』
「ッ!?」
椅子を吹き飛ばす勢いで俺は立ち上がった。
(始まったのか……!?)
原作にあったホシノとユメの喧嘩……それによって引き起こされるかもしれない悲劇の予感。俺は瞬時に思考を切り替え、もしものための新装備や道具の数々を脳裏に思い浮かべ、即座に生成できるように準備を整える。そのままアビドスへ飛ぼうと足を向けた、まさにその時――事務所の固定電話がけたたましく鳴り響いた。
「こんな時に誰だ?」
苛立ちを抑えつつ電話を取ると、受話器の向こうから低く、しかし聞き覚えのある声が響いた。
「遅くにすまないな、ノイアンファングの社長……いや、死騎ユウ」
「っ!? 雷帝……!」
電話から聞こえてきた声は、紛れもなくゲヘナの現生徒会長・雷帝その人だった。
「いったい何の用だ? 今は立て込んでいて忙しい、用件なら後日にしてくれ」
即座に切り捨てようとしたが、前回対峙した時よりも幾分か真面目な雰囲気を帯びた雷帝のトーンに、俺は思わず言葉を飲み込んだ。
「何、少し頼み事というか……忠告があってね。明日、アビドスとネフティスの会合に私も同席する。そのことについてだよ」
「お前も参加するだと? どういうことだ」
原作では語られていなかったユメとネフティスの取引。その場にゲヘナのトップである雷帝が同席している描写などないはずだが、取引される「あるもの」の正体を思い返せば、決してあり得ない話ではない。
「……列車砲か」
「ほほう!? 何故それを知っているのか……ま、君の情報網を考えれば不自然ではないか。まぁそういうことだ。私としてはあの失敗作の行方などどうでもいいが、お気に入りである君の友人が取引に来るということで、開発者である私も顔を出そうというわけだ。ただ、私の直感でね……君は明日は来ても、アビドス関与はほどほどにしておいた方がいいと忠告、いや警告しておく」
「はぁ……お前が俺に忠告する義理などないはずだがな。だが、わざわざそれを伝えてくるということは……そういうことか」
「素直に従わないまでも、警戒くらいはしておきたまえ。なにせゲヘナの生徒会長からの忠告だ。……何事もないと祈っておこう。ではまた会おう、我がお気に入りよ」
そう言って、一方的に電話は切られた。業荒だが、彼女は腐っても学園自治区の頂点に立つ怪物だ。その直感が告げる警告の重さは痛いほどわかる。
「……きな臭くなってきたな」
甘い菓子と無邪気な笑顔の記憶を脳裏の奥底へ無理やり押し込み、俺は再び「冷徹な裏社会の何でも屋」としての仮面を被る。
明日のアビドス行き。最悪の事態に備え、俺はさらに物騒な特製装備の最終調整に取り掛かるのだった。
Tips 主人公たるユウは転生した時に特典を十全に扱えるように神様に頼み込んで修行をしたことにより戦闘能力は各学園の特機戦力よりはあります。
今の文章量で良いのか読み足りないのかわからないので皆さんの意見を参考にします
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今の4千〜5千字くらいの目処
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5千〜1万字くらいの目処
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1万以上を目処