資格を手放した元先生の繰り返した世界線での願い 作:Thinker1714
なんとかネームドのエミュできてるか心配ですが何卒ご容赦を
ユメ先輩と出会った、あの衝撃的な日から早1ヶ月が過ぎていた。
あのあとも週に一度はアビドスへ顔を見せに行っているが——
「もっと頻度を増やして! それに同い年なんだから呼び捨てでいいんだよ? ついでにアビドスへ編入して生徒会副会長になってくれたらもっと嬉しいな!」とユメ先輩……いや、ユメに拝み倒されている現状は、悲しいかな当面変わりそうにない。(会うたびに編入契約書を差し出してくる彼女を宥めるのも、もはや日常茶飯事となっていた)
なんとかブラックマーケットの一角に小さな拠点を手に入れ、生きるための糧を得るべく『何でも屋』を開業した……のだが。正直に言って、仕事は思っていたよりもずっと上手くいっていなかった。
まあ、それも当然だろう。
所属も身元も不明な根無し草。おまけにキヴォトスでは見慣れない重厚な戦闘服に身を包んだ男子生徒が、「どんな仕事でも請け負います」と看板を掲げているのだ。怪しんで遠巻きに見る者が大半で、最初は冷やかしや警戒の視線ばかりが向けられていた。
だが、俺は焦らなかった。
「……失くした鍵の捜索と、傾いた小屋の補強か。了解した。すぐ取りかかろう」
依頼されるのは、誰もやりたがらないような小さな雑用や裏路地の力仕事ばかり。
それでも俺は、それらの仕事に対して一切の手抜きをしなかった。
広大な砂漠やガレキの山から遺失物を探すとなれば、体内のナノマシンによる高精度の生体・金属反応スキャンをフル稼働させてものの数分で探し出し、建物の修理となれば思考加速で構造計算を行い、ナノマシンで精密加工した補強パーツを組み込んで元よりも頑丈に直してみせた。
さらに仕事の合間には、放置された膨大なガレキの山から使えそうなジャンクパーツや有用な金属素材を拾い集め、ナノマシンで再精錬・加工。壊れにくい工具や使い勝手の良い日用品に仕立て直して安く売ることも始めた。
『おいおい……あのガラクタの山から、本当に指輪を見つけてきやがったぞ……』
『うちの家屋、銃撃戦が起きてもビクともしねえ! 一体どんな手品使ったんだ……?』
『あいつのところで買ったレンチとナイフ、滅多なことじゃ刃こぼれも歪みもしねえんだ。大助かりだよ』
どんな些細な仕事であっても全力投球し、手作りの道具一つ取っても確かな品質で依頼人の期待を遥かに上回る成果を叩き出し続ける。
そんな愚直なまでの仕事振りを積み重ねていくうちに、最初は冷たかった周囲の住民たちの目も、次第に柔らかいものへと変わり始めていた。
「よお、ユウ! 今日も暑いな。冷えたジュース、余ってるから持ってきな!」
「助かります、おじさん。また何か困りごとがあったら、いつでも声をかけてくれ」
気付けばすっかり顔馴染みも増え、この街の住民たちとはそれなりに打ち解け合えるようになっていた。
——だが、光あるところに影ができるのは、世の常というやつだ。
新参者の『何でも屋』が順調に実績を上げ、街に馴染んでいくことを面白く思わない連中も、当然のように湧き出てくる。
「おいおい、余所者のガキが調子乗ってんじゃねえぞ。俺たちのシマで勝手に商売してタダで済むと思ってんのか?」
些細な難癖をつけて突っかかってくるのは、近隣のしがない業者や、ブラックマーケットを徘徊するロボットのチンピラどもだ。
もっとも、大人(ロボット)相手なら容赦はいらない。ナノマシンによる圧倒的な身体能力で軽くひねり潰すか、あるいは拠点周りに配置しているナノマシン製の自立型ガードメカをけしかけて追い払えば済む話だった。
本当の意味で面倒なのは——そういった大人たちではない。
「ハッ! 何が『何でも屋』だ! 男のくせにヘイローもねぇ癖に気取りやがって!」
「おいそこのアンタ! 稼いだ金をここに置いていきな! 断ったら弾の雨をお見舞いしてやんよ!」
一番の頭痛の種は、どこからか流れてくるスケバンやヘルメット団といった、ならず者の生徒たちだった。
このキヴォトスにおいて、銃を持たずに歩くのは裸で街をうろつくようなものだと俺も重々承知はしている。だが、だからといって威嚇や誇示のために銃を見せびらかしながら歩くのは、どうにも肌に合わなかった。
そして——目の前の彼女たちといえど、キヴォトスの生徒だ。どれほど粗暴で生意気であろうと、命に関わるような大ケガをさせるわけにはいかない。そのため、俺は戦闘のたびにナノマシンの出力を極限まで抑え、非殺傷のスタンロッドや最小限の打撃で「無力化」することに専念していたのだが……。
「なっ……! 攻撃を軽々避けておいて手加減してんじゃねえよ! ナメてんのかテメェッ!?」
「キーッ! 痛くもないパンチでいなしてんじゃねぇよ! ちゃんと本気で戦いやがれッ!」
「……はぁ」
身にまとっている雰囲気が丸腰に見えるのも災いしているのか、手加減して穏便に済ませようとすればするほど、「ナメられた」と勘違いした彼女たちが逆上し、余計に意地になって襲いかかってくるのだ。
傷つけないように、けれど退散させる程度には痛い目を見せる。
その絶妙な力加減(加減の手間)に、俺は日々胃を痛めそうになりながら溜め息をついていた。
そんな荒っぽい日常を送りつつも、俺はこの1ヶ月で着実に成果を上げていた。
『何でも屋』の仕事の合間を縫い、キヴォトス各地の学園自治区へ密かに足を運び、情勢を探っていたのだ。
特に注視しているのは主要学園の動向だが、どこへ行くにも相応の警戒が必要だった。
たとえば——最先端の科学技術を誇るミレニアムサイエンススクールの自治区だ。
あそこは街中に高精度の観測センサーや通信網が張り巡らされている。万が一にもナノマシンによる広域スキャンや光学迷彩を派手に使えば、異常なデータとして検知され、セミナーや今も存在しているか分からないがホワイトハッカー集団『ヴェリタス』に見つかるリスクが高い。
だからこそミレニアム領域では、ナノマシンの使用を体内の最小限に留め、あえて自分の『目』と『足』だけで歩いて調査を行っていた。
かつて巨大都市だった面影を残す巨大な廃墟群——そして、その一角にポツンと佇む、デカグラマトンの本体たる自動販売機の存在など、肉眼で直接確かめなければ得られない不気味な違和感もいくつか収穫できた。
一方で、宗教的で優雅な佇まいを見せるトリニティ総合学園の自治区。
あそこはあそこで、表向きのお淑やかさとは裏腹に政治色が極めて強く、派閥間の牽制や陰湿な水面下の探り合いが日常茶飯事だ。何より、ヘイローを持たない『男』だとバレれば、どんな余計な邪推や嫌がらせを受けるか分かったものではない。
そのためトリニティでは、深くフードを被って男であることを隠し、一人の物静かな通行人として街に溶け込みながら観察に専念した。
そして——一番の警戒対象であるゲヘナ学園。
今のゲヘナは、生徒会長である『雷帝』による恐怖政治の真っ只中にある。本来なら「自由と混沌」を信条とするゲヘナの生徒たちが、彼女の絶対的な権力と暴力によって意味もなく抑圧されている異様な状態だ。下手に足を踏み入れれば、何が引き金となってその過激な統治網に巻き込まれるか分かったものではない。
(あの『雷帝』が統治している以上、今のゲヘナは爆発寸前の圧力鍋だ。変に刺激して目を付けられるのは得策じゃない……)
ミレニアムでは科学的検知を警戒し、トリニティでは陰湿な政治的嫌がらせを避け、ゲヘナでは過激な統治網を警戒する。どちらにせよ深入りは厳禁だ。俺はゲヘナも自治区の境界線付近から遠目に見守り、情勢の変化を探るにとどめていた。
……と、こうして外の世界で警戒を怠らない俺だったが、最近は身近なところにもう一つ、胃の痛い『悩み』を抱えていた。
「ねぇねぇ、いいでしょ〜? 一度でいいからユウの拠点に行ってみたいな!」
(いつの間にか呼び捨てになってる……まぁいいけどさ……)
アビドスへ顔を出すたび、ユメがそうやって目をキラキラさせながらおねだりしてくるのだ。
「ダメだ。あそこは治安が悪すぎる」
「えぇ〜! 私だってアビドス生徒会会長だよ? 自分の身くらい守れるもん! それに、ユウがどんなところで生活してるのか気になっちゃって……」
「ダメなものはダメだ」
治安の悪さはもちろんだが、ブラックマーケットの拠点にはナノマシンで構築した自立型ガードメカや、キヴォトスの常識から外れた設備・資材が山ほど配置してある。見られたらどう言い訳しようにも、一人の男子生徒がたった1ヶ月で揃えられる量ではない。なにより大切な彼女をブラックマーケットという泥沼に近づけたくはなかった。
毎回必死に理由をつけては宥めて逃げているが、ユメの追及は日に日に増すばかりで、地味に精神力を削られる日々が続いている。
……まあ、そんな平和(?)な悩みは置いといて。
今日も今日とて、俺の事務所の前にはしつこく突っかかってくるスケバンやヘルメット団の姿があった。
「おいコラ『何でも屋』! 今日こそその澄ましたツラ拝めなくしてやるからな!」
「はぁ……また来たのか。お前たちも本当に懲りないな」
いくら返り討ちにしても意地になって襲いかかってくる彼女たちを見下ろし、俺はふと思いついて口を開いた。
「よし……なら、少し面白い賭けをしないか?」
「あぁ……? 賭けだぁ?」
「簡単なルールだ。お前たちが全員でかかってきて俺に勝てたら、俺の持っている金も物資も全部やる。何ならこの拠点ごと渡してもいい」
その提案に、スケバンやヘルメット団たちの目がギラリと光った。
「マジかよテメェ……後悔すんなよ!?」
「ただし——お前たちが負けたら、今日から俺の言うことを何でも聞いてもらう。いいな?」
「ハッ! 乗ったぜ! アタシたちが負けるわけねぇだろッ! 殺れぇぇッ!」
威勢よく銃を構えて飛びかかってくる少女たち。
だが——結果は、いうまでもなかった。
銃を綺麗にはじき飛ばされ、スタンロッドの電流で脚をガクガクさせながら、地面にへたり込むスケバンやヘルメット団たちの姿があった。
「うぐぐ……なんで、勝てねぇんだよぉ……」
「て……手も足も出なかった……」
「さて、賭けは俺の勝ちだ。約束通り、今日からお前たちは俺の部下になってもらう」
そう告げると、彼女たちは「何をさせられるんだ」と青ざめて身をすくめた。裏社会の『何でも言うことを聞け』という言葉に、ロクでもない想像をしたのだろう。
だが、俺が命じたのは拍子抜けするようなことだった。
「まずは……街の清掃と、依頼の荷物の運搬手伝いだ。それと、お前たちのそのガタが来ている銃のメンテナンス方法を教える。全員座れ」
「え……? 掃除……? 銃のお手入れ……?」
ぽかんとする彼女たちを前に、俺はホワイトボード代わりの鉄板を立てかけ、青空の下で『講義』を開始した。
銃の正しい扱い方や手入れ、弾薬の節約術、応急手当、そして街で生きる上での最低限のマナー。
「……たく、そんな撃ち方をしていたら暴発して怪我をするぞ。ほら、ここを持て」
「う、うん……あ、なんか撃ちやすくなった……?」
「教えた通りにできたら、冷たいジュースでも奢ってやる。ほら、次」
最初は困惑していたスケバンやヘルメット団たちだったが、日が経っても親身になって手ほどきをし、成果を上げれば素直に褒めて小遣いや飯をくれる俺に対し、次第に目を輝かせ始めていた。
『おい……あの『何でも屋』のアニキ、めちゃくちゃ教え方うまいぞ……』
『っていうか、アタシたちのことすげぇ親身に見てくれてね……?』
気付けば彼女たちは「何でも屋の部下」として、自発的に拠点の周辺警備や雑用をこなすようになっていた。
かつての教え子たちへ向けていた指導の感覚が少しだけ蘇り、俺は小さく苦笑いを浮かべる。
(……まさかブラックマーケットで、こんな『青空教室』を開くことになるとはな。先生をやめても今までのクセが出ているのか……だが、このまま居場所がない彼女たちが、いつか俺の元を離れたとしても真っ当に生きていけるようにしてやらなくてはな)
荒くれ者たちの頼れる『アニキ』として少しずつ影響力を広げながら、俺のブラックマーケットでの基盤は、より一層強固なものへと組み上がっていったのだった。
Tips 死騎ユウの今までのキヴォトスでも不良生徒たちに紳士になって面倒を見ています。
今後設定でこういったものをまとめて書こうと思っています。