資格を手放した元先生の繰り返した世界線での願い 作:Thinker1714
拠点を大きくしてから四ヶ月ほどの月日が流れていた。
かつては小さかった事務所は、今や広大な廃倉庫を改装した『何でも屋』の新拠点——改め、正式な組織名を『ノイアンファング』へと変更していた。
「みんなが頑張って何でも屋を信頼ある組織にしてくれたのに、名前がないのでは寂しいと思い、ここで新しい名前を発表する! 名前は『ノイアンファング』。意味は、外の世界で新しい始まり、または再出発の意味がある。諸君が胸を張って生きていけるよう願った名前だ」
ユウの口から告げられたその名前に、集まった部下たちの間からどよめきと感嘆の声が上がった。
「ノイアンファング……! カッケー名前っすね!」
「新しい始まり、か……。アニキ、ウチらもう裏社会でコソコソしなくてもいいんだな!」
「これからは胸張ってこの名前背負って歩いてやろうぜ!」
元不良の少女たちは目を輝かせ、お互いに顔を見合わせて嬉しそうに笑い合う。あの後も青空教室から『ノイアンファング』に参加した元不良生徒たちのおかげで、総勢100人を超えた部下たちは、腕章を誇らしげに巻きながら西地区の巡回や清掃を完璧にこなしている。ブラックマーケットを牛耳る治安維持組織『マーケットガード』とも正式に不可侵・治安維持の協力体制を結び、この一帯は文字通り「ブラックマーケットのなかの安全地帯」としてすっかり定着していた。
もちろん、甘い汁を吸おうとする悪党やダミーの裏仕事を持ちかける輩もゼロではない。
俺は定期的に部下たちを集め、厳格なテストとリスク管理を叩き込んでいた。
「これまでの訓練や仕事への姿勢から、お前たちにもそれなりに大きな仕事を任せようと思っている。だが、『報酬が良すぎる怪しい依頼』や『裏社会の美味しい話』の裏には、大抵ろくな目的がない。うまい話に目がくらんで罠にかかったり、組織を売るような真似をしたら、俺が容赦なく叩き直すからそのつもりでいろ」
『『『はっ、はいっアニキ! 気を引き締めます!』』』
「今回はそのなかでも取り分け悪質なものの講義としよう。諸君、ここにとある製薬会社からの依頼として『新薬の護送依頼』がある。報酬は100万円だ。だが——これは受けるか? 受けないか?」
俺の問いかけに、広場に集まった少女たちの間で「100万……!? すごい額じゃん」「でもアニキがあんな言い方するってことは……」とざわめきが広がる。何人かの生徒が「受けるべきです!」「いや、待て、裏があるはず……」と意見を分かたせた。
「ほう、意見が割れたな。では、実際にどうなるか見せてやろう」
俺は懐から小さなケースを取り出し、中から実験用のマウスを一匹、手元のケージへと移した。さらに、この日のためにあらかじめ用意しておいた違法薬物を少量、そのマウスへと投与する。
数分後。薬の効力が切れた直後、マウスは凄まじい痙攣を起こし、狂ったように檻の柵に噛みつき始めた。みるみるうちにその小さな身体は衰弱し、凄まじい禁断症状の苦しみに悶え始める。
その生々しすぎる光景に、周囲の生徒たちは思わず息を呑み、顔を青ざめさせて後ずさった。
「……これが、君たちが護送する予定だった『薬』の正体だ。もしこれがブラックマーケットに流れたり、あまつさえ生徒たちの手に渡ったらどうなる? 想像するだけで吐き気がするだろ」
俺は静かにマウスの檻に布を被せ、鋭い視線を部下たちに向けた。
「しかも、万が一これで検挙でもされれば、依頼主は『知らぬ存ぜぬ』を貫き、下っ端である君たちにすべての罪をかぶせてトカゲの尻尾切りにする。……いいか、うまい話の裏には必ず毒がある。甘い言葉で近づいてくるヤツらを信用するな」
『『『……はいっ! アニキ、よく分かりました……!』』』
全員が冷や汗を流しながら、心の底から納得したように深く頷く。こうして、命と組織の安全を守るための実践的なリスク管理を叩き込み、組織はより一層強固な結束力を固めていったのだった。
——そんな緊張感と活気に満ちた拠点の一角では、仕事の合間にちょっとした息抜きの時間が流れていた。
——そんな賑やかすぎる日常の合間を縫い、俺はキヴォトス各地へ足を運び、様々なトラブルや「出会い」に直面していた。
例えば、ブラックマーケットの雑踏を歩いていたときのことだ。
ゲヘナ学園の窮屈な管理体制に耐えかねて背伸びをし、街に足を踏み入れてしまったのだろう。中等部の制服に身を包み、ショートヘアに眼鏡をかけたあどけない少女・陸八魔アルと、その傍らで面白そうにキョロキョロしている浅黄ムツキの二人が、悪質なロボット不良どもに絡まれていた。
「ちょっと、君たち。ここをどこだと思っているんだい?」
「ひっ……! な、なんなのあなたたちは! 私は、その、ただ者じゃないんだからねっ……!」
強がりながらも、アルの足はブルブルと震えている。
——だが、そこに割って入るのに、理由などいらなかった。
「……おい」
振り返ったロボット不良の顔面に、俺の鍛え上げられたローキックが叩き込まれる。凄まじい衝撃音と共にロボットは一瞬で気絶したのか、地面に崩れ落ちた。
「な、…なんだお前…!?」
「うちのシマで、一般の生徒——それもガキを脅かすバカに用はない。……二度とここでふざけた真似すんなよ」
冷徹にそう言い放ち、手元の銃器の安全装置をガチャリと鳴らすと、残った不良どもは恐怖のあまり泡を吹いて気絶した奴を抱えて逃げ出していった。
静まり返った路地裏。俺が振り返ると、そこにいたのは目を丸くしてポカンと口を開えているアルだった。
「あ、あなたはいったい……?」
「もうこんな危ねぇところに2人で来るな。ゲヘナの寮へ真っ直ぐ帰れ」
それだけ言い残して背を向けようとした俺の背中に、アルの震え混じりの、しかしやけに熱を帯びた声が飛んできた。
「か、かっこいい……っ!」
「は?」
「あ、なんでもないっ! その、助けてくれて、ありがとう……! 私は陸八魔アル! い、いつか私も、あんな風に……っ!」
「クフフ……おにーさん強いんだね。助かっちゃった私は浅黄ムツキよろしくね♪」
真っ赤になりながらも、どこか憧れの眼差しでこちらを見つめてくる眼鏡の少女と、いたずらっ子のような雰囲気をした小柄な少女。その姿に苦笑しつつ、俺はその場を後にしたのだった。あれが後の「ハードボイルドでアウトローを夢見るアル様」の原体験だとは、この時の俺は知る由もなかったが。
また別の日のこと。
部下のスケバンたちから「会わせたい人がいる」と言われ、事務所で待っていたところ現れたのは、後の『七囚人』——栗原アケミとの邂逅だった。彼女曰く、自分を慕ってくれているスケバンたちがブラックマーケットでヘルメット団と一緒になっていることに不安を覚え、そのまとめ役である俺に会いに来たのだという。
「最初はあの子たちが騙されているのではないかと心配していましたのよ……ですがここの空気や近隣の住民たちの反応……何より彼女たちが生き生きとしていることに安心しましたわ。感謝していますわ」
そう穏やかに微笑む彼女と言葉を交わし、今後も下手に敵対せず、いい関係を築けそうだと安堵した。余談だが、拠点の案内をしている最中にトレーニングルームを見せたらアケミが目を輝かせていたので、「ルールを守るならいつでも来ていい」と伝えておいた。
さらに、ミレニアムの広大な廃墟エリアで情報収集を行っていた最中、高いリスクを承知の上で、『デカグラマトン』の気配を纏った奇妙な自販機と邂逅した。
神の預言者、神の存在証明をし、自ら神になろうとするその在り方について、お互い一方的な言い合いのような対話を行う。元世界で「神の存在」を知っている身としては何とも言えない複雑な気持ちになったが、その危険な興味に惹かれるように「またちまちま会いに行こう」と内心で決意を固めたのだった。
そしてまた別の日、百鬼夜行連合学院を訪れた際にも、のちに『七囚人』となる狐坂ワカモと出会い、彼女の暴力衝動による被害を最小限に抑えるために奔走させられることになった。原作の時系列より前であるにもかかわらず、その実力は想像を遥かに超えており冷や汗をかいた。
去り際にワカモが残した「あなた様」という異様な響きの言葉が、今後自分にどう降り掛かってくるか考えると、正直に言って少し怖かった。
——そして、数々の刺激的な出来事を経て、現在の拠点にはさらなる「嬉しい来訪者」がやってきていた。
「ここが噂の『ノイアンファング』……本当に、以前とは見違えるほど綺麗ですね」
あの日の救出劇の縁もあり、トリニティ総合学園の要人である桐藤ナギサが、たくさんの護衛を引き連れて再びこの場所を訪れていた。その後ろでは、ピンク髪の少女——聖園ミカが「うわぁ、お菓子屋さんもある! ねぇナギちゃん、これ美味しそう!」と無邪気ににはしゃいでいる。
「命を救っていただいたお礼と、今後の情報交換を兼ねて……それと、お話ししたい件がありまして」
「この間と比べて随分と落ち着きが出たな?嬢ちゃん……」
「そ……それは言わないでください!!……コホン!話を戻させていただきます」
ナギサが切り出したのは、アビドス自治区と手を結んだ俺たちが進める**「アビドス特製ハーブティー」や「砂漠の濃厚ハチミツ」を、トリニティの学内マーケットで大々的に流通させるという正式な商業パートナーシップの提案**だった。
ユメを交えたその商談は驚くほどスムーズに進み、アビドス再建に向けた確実な経済的基盤が、このノイアンファングの地から着実に芽吹こうとしていた。
《数日後》
「今日も絶好調にハーブとハチミツが育ってるね、ユウ!」
「ああ。だがユメ、水やりの配分を勝手に変えるなと言っただろう。灌漑システムのロジックが狂う」
アビドスの栽培地で土いじりをするユメを宥めながら、俺はふと青空を見上げる。
アルやアケミ、ワカモといった面々との邂逅、デカグラマトンやトリニティとの新たな繋がり。この街で生きる少女たちの輪は、俺が思っていた以上に大きく、そして賑やかなものになっていた。
——組織を大きくし、守るべき場所を守り、アビドスに確かな未来の芽を植えた。
転生者である俺が選び取った「何でも屋(ノイアンファング)」としての歩みは、今やただのその日暮らしを超え、キヴォトスの裏と表の運命を少しずつ、しかし確実に動かし始めていた。
(……まあ、これから先も面倒事は絶えそうにないが、アビドスに防砂林や特産品を作って借金を減らしてるのもそうだし、原作でエデン条約まで接点なかったアビドスとトリニティの繋がりができた時点でなんともいえんか……)
本日何度目か分からない溜め息の代わりに、俺は少しだけ口元を緩め、元気に笑うユメの背中を見守りながら、心地よいアビドスの風を受け止めたのだった。
様々な出来事を起こしたり解決したりなどしているおかげか時間が経つのが存外早く、原作で言う判明してる過去編に近づいていた。
彼女の入学まで……後少し……
途中経過見てみましたけど、完全オリジナルの過去編を書いているのにそのままでもいいと言ってくれる方が多くて驚きです。一応短い期間ですが、今日中でアンケートは今日中で区切らせてもらいます。
プロローグの過去編はこのまま丁寧に作るかそれともさっさと原作に入るべきか
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丁寧に作ってもいいよ
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原作へ行こう